101話 進化と級友
魔族グラムの討伐時に、アルのギフトに異変が起こった。
まず、「ギフト無効」というグラムの持つギフトがアルのギフト欄に追加された。
その時に仮説として思いついたのが、「魔族を討伐すればそのギフトが得られる」というものだ。これは、最近メビウスとの一件でほとんど立証された。
しかし、ここにも少し疑問がある。
それは、どちらもアルが直接的に手にかけたものではないという点と、ギフトがアルにしか付加されていないという点だ。
グラムの討伐に関しては、ベルの放った「獄炎」にアルの持つ聖属性を加えた攻撃が決定打だった。そうならば、実際にグラムの命を絶ったのはベルとアルの二人の攻撃という事になる。
しかし、ベルのギフト欄には「ギフト無効」という文字はなかった。
そして、メビウスの件もそうだ。
メビウスの死因は「自殺」。そして、その近くにいたアルにギフトが付加された。しかし、その場にいたのはアルだけではなく、クロムウェル伯爵もいた。
しかし、彼にはギフトが追加されることはなかった。
つまり、ギフトが追加される条件は実際に手に掛けた者でもなく、近くにいた者でもないという事になる。そして、上記の2人に無くてアルにだけ存在しているもの。そうなると、自ずと予想が付く。
そして、アルのギフトである「鑑定眼」のレベルが上がった。
ギフトにレベルがあるという事に少し驚いたアルだったが、内心気にしてもいた。
それは、シャナのギフトである「従順」の効果にある「野心」と「忠誠度」というアルには見えないステータスがあったからだ。
そして、レベルが上昇したことでその二つが見えるようになった。
また、新たに「罪状」「状態異常」「種族値」も追加されている。「罪状」「状態異常」については何となく分かるが、「種族値」とは何だろう。
アル達は講堂の前を通って、剣術エリアと呼ばれる剣術科の敷地に向かっていた。
学園内には大きな建物が幾つかある。
敷地の中心部には講堂と大きな校舎があり、その東西に一つずつ校舎のような建物が建っている。どちらかというと西側の校舎の方が大きく見える。ここにも格差が。
「ここが剣術科の校舎です」
アルたちは東に立っている比較的小さな校舎の前に辿り着いた。
小さな校舎といっても、3階建てではあるので、発展途上のこの時代からすれば大きな建物にはなるだろう。
「私達のクラスがあるのは一階の最奥です。私は先に行きますから、貴方は教官室に行ってください。場所は2階で、階段を上がってすぐ右隣りの部屋です」
「はい、案内ありがとうございました」
物言いはかなり刺々しいが、面倒見は良いらしい。彼女とは仲良くできそうだ。
アルは徐々に小さくなっていく彼女の背中を見ながらそう思った。そして、彼女の背を追うように歩みを進める。
校舎に入ると、すぐに上に向かう階段が見える。前世の学校のイメージと同じで、階段の途中に踊り場があり、そこから方向が変わるタイプだ。その階段を上り右側を見る。
「ここが教官室か」
アルは教官室の扉をノックする。すると、中から複数人が「はい!」と返事をする声が聞こえる。アルはゆっくりと扉を開く。
「おぉ、君がアルフォート君だな?」
アルが名乗るよりも前に、一人の男性がアルの方に駆け寄ってくる。「デイビット・プラム」。それが彼の名前だ。
「話は聞いているよ。災難だったね」
「いえ、私が勝手にやったことなので」
どうやら既に事情は聞いているらしい。
誰から聞いたのかは分からないけれど、おそらく断片的な情報なのだろう。
「実は君の事は以前から知っていてな。ほら、お兄さんたちが有名人だから」
デイビット教官は、昔を懐かしむような表情を見せる。
年齢が31歳という事で、ガンマより一つ上になる。おそらく学園時代から何かしらの交流があるのだろう。
「君も試験を受ければ魔術科に入れただろうに」
「いえ、僕は剣術科志望だったので。何の問題もありません」
デイビットが憐みの視線を送って来たので、アルは早々に否定する。
確かに、Eクラスになるつもりはなかったが、もとより魔術科に進むつもりもなかったからだ。
アルの顔を怪訝そうに見つめるデイビット。そして、見栄を張っているわけでは無いと確信する。
「……変わっているな。まぁ、一年経てばクラスの変動もあるからな。是非上を目指して頑張ってほしい」
デイビットの言葉に首を縦に振って答えるアル。
別にEクラスだからと言ってどうという事でもないのだが、聞くところによると冒険者になった時に学園でのクラスも多少影響が出るらしいので、卒業までにはAクラスを目指すべきだろう。
アルの返答を受けて、少し満足げな表情を浮かべるデイビット教官。
「うん。では、教室で会おう」
そう言って、白い歯を見せて笑う。アルは一礼して、教官室を出た。
「結構、熱い人だったな。……でも、良い人そうで良かった」
教官室を出て、さっき登ってきた階段を下っていく。クリスから教えてもらった通りに、校舎の奥の方を目指して歩いていく。
廊下を歩いていくと、「1A」「1B」「1C」と奥に行けば行くほどクラスが下がっていく。そして校舎の最奥、廊下の突き当りに「1E」の教室があった。
アルは、一度教室の周囲を確認して、ドアノブをまわして教室に入る。
「――!?」
教室に入るや否や、いきなりの襲撃を受ける。
アルは腰に下げていた剣でその攻撃を受け止めた。
攻撃の主はアルよりも幾分か小さな少年で、大きな瞳が特徴的だった。そして、攻撃を受け止められるとは思っていなかったのか、その大きな瞳をさらに見開いてアルの方を見ている。
「おぉ、お前すげえな!」
その少年は、快活に笑ってそう言う。周りの生徒たちも彼のまさかの行動に面食らっており、誰一人として声を上げられないでいた。しかし、彼の近くにいた少年がようやく声を上げる。
「おい、ソーマ! その人は……」
そこまで言って、徐々に声が小さくなっていく。
ソーマという快活な少年は、自分が襲った相手が誰なのか分かっていないらしく、きょとんとした顔でその少年の方を見つめる。
「熱烈な歓迎だね」
アルは、ソーマに近づいていく。
ソーマ少年も周りの雰囲気から徐々に状況が分かって来たらしく、少し身構え始める。
アルはそんな少年の動きを見つめつつ、剣を握っている手に力を籠める。
「……でもね、コレ、危ないよ?」
「え?」
それは刹那の出来事だった。
アルの剣先が彼の首もとで止まっている。周りの者たちは、もはや何が起こっているのかすら把握できないでいた。
素っ頓狂な声を上げるソーマ少年にアルはにっこり笑って見せる。
「ね? だから、止めようか」
アルはそう言うと、剣を鞘に納める。
そして、教卓の前を通って教室の最後尾へと移動していく。そこには見覚えのある顔がある。
「さっきぶりですね。クリスさん」
アルは放心状態で自分の顔を見つめるクリスに挨拶する。
すると、彼女はようやく我に返ったように目が動き始めた。そして、眉間に皺を作りながら再度アルの方に視線を戻す。
「貴方、何者?」
真剣な眼差しでそう尋ねるクリス。
アルは、彼女の隣の席に荷物を置いて椅子に座ると、彼女に笑いかける。
「ただの一般生徒ですよ。皆さんと同じ、ね」
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
学園編、長くなりそうです……。いや~、クロムウェル伯爵の一件はさらっと書くつもりだったのですが、思いのほか筆が進んでしまい。章を区切った方がいいのかなって考えております。
あと、誤字報告まことにありがとうございます。花咲き荘は誤字が多いことで有名なので、皆様にも助けてもらいたいです。これからもどうかよろしくお願いします<(_ _)>




