99話 別れと新生活
アルは現在学園の学生寮に荷物を運び入れるために、馬車で学園へ向かっていた。
学園は王都の最東部分にある。
王都の立地状況を簡単に説明すると、まず大門と呼ばれる王都の入り口があり、その付近に検問所が設置されている。そして、大門から王城まで一直線に「セントラルロード」と呼ばれる大きな道が引かれている。
王都の中心には、ベルが決闘を行った大広場があり、そこから北側には王城含む貴族の屋敷が建ち並ぶ「貴族エリア」があり、大広場の南側が商店やギルドなどが建ち並ぶ城下町や平民の居住地などの「平民エリア」となっている。
基本的には、貴族エリアに平民が進行することは出来ないようになっており、貴族エリアに進むには大広場から進む以外に道はない。
学園は大広場から真東に伸びている道を進むとその突き当りにある。
一応貴族エリアに入ってはいるが、丁度平民エリアとの境界線にあるのが特徴だ。ちなみに、アルが洗礼を受けた王都の教会は学園の反対側、最西部分の境界線にある。
学園の前に到着する。
学園の敷地面積はかなり大きい。日本の大学位の敷地面積はありそうで、大体500~600m四方くらいはありそうだ。
学園の正門をくぐると、馬車はまっすぐ進み少し開けた場所に到達する。そこには大きな噴水があり、四方向に道が分かれる分岐点になっていた。前には大きな講堂のような建物があり、右方向には立派な建物があった。
「あの建物は何ですか?」
「あれは大図書館です。大図書館は一般にも利用できるようになっています」
アル達の目的地である学生寮は、その噴水広場を左に曲がったところにあった。
学生寮は3棟の建物で構成されている。
基本的には年が近い「8~11歳」「12~14歳」「15~18歳」の三つに分けられて各棟に振り分けているらしい。ちなみに、アルが入るのは「12~14歳」なので、真ん中の「2棟」と書かれた建物だ。
3階建ての建物で、意外としっかりとした造りをしている。どうやら、学生寮を利用できるのは原則貴族だけであるという決まりがあるためらしい。
アルたちが学生寮の前に馬車を止めると、寮の中から一人の女性が出てきた。40代後半くらいに見える。
「アルフォート・グランセルです。これからお世話になります」
アルは腰を折って礼をする。まさかこんな丁寧な礼をされるとは思っていなかったその女性は、ひどく驚いた表情を浮かべる。
「……これはご丁寧に。私は学生寮の寮母をしております、クローディアで御座います」
学生寮の寮母をしているクローディアは、アルにつられて丁寧な口調で挨拶を返す。普段はもう少し砕けた口調なのだが。
「そんな固くならなくても良いですよ。僕は三男でいずれは貴族ではなくなる身ですしね」
アルは笑顔でそう言う。クローディアはアルの顔をまじまじと見つめる。
少し自虐的な言葉なのに、アルからは一切の邪気を感じない。自分の立場を理解しながら、それでいて自分の立場を誇示しようとはしない。そして、三男であるという不遇さについても一切の不満が無いように見える。
クローディアは気持ちを切り替えるように、一瞬目をつぶる。
「……分かりました。では、グランセル君と呼びましょう。部屋は3階の右奥です。夕飯は――」
「あ、夕飯は屋敷で済ませてきました」
夕飯の話が出たので、アルは屋敷で食事を済ませてきた旨を伝える。
既に時刻は18時になっていたので、流石に悪いと思い、食事は屋敷で済ませてきたのだ。
「――そうですか。この寮では朝は7時、夜は19時にご用意させてもらいます。お昼は基本的には学生食堂で取ってください」
「分かりました」
アルはクローディアに連れられて寮の中に入っていく。
寮の中もかなり綺麗に作られており、貴族の屋敷の様だった。まぁ、貴族の令息の為の学生寮だから当然と言えば当然だったが。
クローディアは寮の食堂にアルを連れていき、食堂で作業をしていた主婦にお茶を用意するように伝える。そして、アルの表情を逐一確認しながら説明を進めていく。
一応、寮生活でのルールなどの説明も受けた。基本的には男女で行動範囲を分けているそうだ。一階は男女共同エリアになっており、2階が女子、3階が男子の振り分けらしい。
3、4学年が一緒で部屋は足りるのかと思ったが、どうやら学生寮に入る令息は少ないらしい。王都に屋敷を持っている貴族はその屋敷から登校してくるのが一般的であり、学生寮に入るのは基本的には王都に屋敷を持たないような下級貴族の令息なのだとか。
「何か困ったことがあったら、1階の寮母室に来てください」
「分かりました」
一通りの説明を終え、アルはクローディアに礼を言って荷馬車の方へ向かう。
アルが説明を受けている間に、既に荷運びは進んでおり、もうそろそろすべての荷物が運び終わりそうになっていた。
「みなさん、ありがとうございました!」
アルは、学園の寮までアルの荷物を運んでくれた屋敷の使用人たちに礼を言う。
といっても、日本にいた時の様に家具などの移動がない分楽ではあるのだが、貴族という事もあり、衣服類はかなりの量になっていた。
あと、アルの趣味である本がかなりの量あったため、それなりに大荷物になってしまっていた。
アルの礼に、使用人たちは恐縮する。
貴族が使用人を使うのは普通の感覚なのだが、前世の記憶をもつアルにとってはそうではないため、そこに少しのギャップが生じていた。
しかし、そのようなアルの気遣いは、使用人たちにとっては新鮮に映り、かなりの好感を抱かせる。
アルが使用人たちに礼を言っていると、寮からクランが出てきた。おそらく、荷物の確認をしてくれていたのだろう。
「アルフォート様、では私も屋敷に戻ります。学園生活を楽しんでくださいね」
「クランさん……。一年間、本当にありがとうございました。父上とガンマ兄様の為に、これからもよろしくお願いしますね」
クランには本当に世話になった。ベルの領地について来て1年間、あれほどの事業を起こせたのはクランがいたからだ。
アルはクランに対して本当に感謝していた。次は、その能力を父や兄のために使ってほしい。
「私の方こそ、たくさん勉強させてもらいました。……では、グランセル領でお待ちしております」
クランはアルからの感謝の言葉に少し目を潤ませる。
そして、そう言い残して足早に荷馬車に向かった。大の大人が12歳の少年の前で涙を見せたくないという、クランのプライドのためだった。
ただ、一生の別れというわけではない。会おうと思えば会えるのだから。
アルは大きく手を振りながら彼らを見送った。隣では、これからアルの世話をすることになるシャナが控える。
「今日からは私がお仕えします! 精一杯頑張りますので、何でも仰せつかってください」
「はい、よろしくお願いしますね」
アルはこれからの生活を想像しながら、満面の笑みでそう答えたのだった。
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本当にありがとうございます……。作者がおそらく一番驚いております。
これからもマイペースに投稿していきますので、どうぞよろしくお願いします<(_ _)>




