96話 魔族
11/8 ステータスを少し弄りました<(_ _)>
アルは今、クロムウェル伯爵の屋敷の中にいた。
理由は、街の外れにある人身売買組織の長と思われる人物が、伯爵に呼びだされたという情報を調査隊が入手したためだ。
報告をくれたゴドリックがどのような意図でアルに情報を与えたのかは謎だが、何か起こる可能性があるのも確かだった。
ゴドリックもおそらくそう考えているのだろう。後から合流してきた調査隊の数人を宿屋に残して、今は屋敷の周辺に控えている。
アルは隠密スキルを行使しながら、屋敷内を移動する。まだ日は落ちてはいないが、あと1、2時間で暗くなるだろう。
アルは何の迷いも無く階段を上っていく。
今回、人身売買組織の長を呼び出しているのはクルーンではなく、クロムウェル伯爵本人だ。そのため、執務室か応接室に通されているだろうと予想したからだ。
「……ビンゴ!」
アルは音もなく応接室の扉を開くと、そこにはクロムウェル伯爵と組織の長らしき人物がいた。
組織の長らしき人物は扉に背を向けた状態でいる為、扉が開いた事に気が付いていない。そして、クロムウェル伯爵は……。
「――うぐっ!!」
アルが入ってきたと同時に胸のあたりを押さえながら蹲っていく。
アルは突然の事に驚くが、すぐに「鑑定眼」を行使する。すると、何故クロムウェル伯爵が胸を押さえているのかという原因に辿り着いた。
魔族・グラムとの戦いの時にはそこまでの鑑定は出来なかったが、今のアルなら造作もなかった。
ついでに、伯爵を見下ろしている組織の長も鑑定する。
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メビウス(866)
種族:魔族
称号:魔族軍調査部隊 ゴブリン
HP:3000/3000
MP:1000/1000
魔法適性:闇
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レベル:40(知+0,他+10)
攻撃力:490
防御力:490
知力:100
俊敏力:490
スキル:片手剣(1) 策略(2) 突撃(1) 付与(2)
事務(2) 調査(1) 対毒(4)
ギフト:毒の使い手(対毒スキルが伸びやすく、任意で毒を生成)
加護:なし
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魔族!?
メビウス。それが彼の名前だ。おそらく、ホークスハイム侯爵家の長男・ジンクスと同じように、体を乗っとられたのだろう。
しかし、ステータスを見てもグラムほどの脅威さは感じない。
ゴーレンの体を得たメビウスは、いくつか言葉を伯爵に掛けながら体を後方に移動させ始める。おそらく、この屋敷から出ていくつもりだろう。
しかし、そうはいかない。
アルは、彼のユニーク魔法である「幻影魔法」を自分に掛ける。
髪は純白、体も少し大きめにする。そして、顔を見せないための仮面も作り出した。何となく頭に浮かんだ神の雰囲気を体に纏わせる。
「どこに行くのかな?」
アルの言葉に、組織の長は体を翻してこちらを見る。視線からアルの全身を観察していることが分かる。
「……目を光らせておいて正解でしたね。ゴーレンさん、いや、魔族のメビウスさん?」
前半部分はアル自身にしか聞こえないほどの小さな呟きだったが、後半部分は目の前の魔族に向けてはなった言葉だった。まさか自分の正体に気付かれるとは思っていなかったのか、驚いているのが手に取るように分かった。
魔族の男はこちらを睨みながらようやく口を開く。
「……お前は誰だ?」
単純な質問だった。しかし、アルは今の自分に名などつけていなかった。そのため、少し考えを巡らせる。
「私は……そうですね、『神の使い』とでも名乗りましょうか」
アルは、少し口調も変えながらそう言う。床に伏している伯爵は、もうすでに意識は無いように見えるが、万が一に備えてだ。
――神の使い。
まぁ、嘘ではない。実際、神様・アルバスにも会ったし、神の加護も受けている。姿もアルバスを意識して投影しているし、彼から見ればそのように見えるだろうという考えだった。
しかし、アルの予想よりも目の前の男は大きな反応を見せる。目からは驚愕と絶望の色が見える。
「神の使い!? ……そんな情報、あの方からは聞いてねぇぞ」
あの方?
アルは、彼の口から出た「あの方」という言葉を聞き逃さなかった。彼の様子から見て、どうも裏で交錯している存在が見て取れる。そもそも、魔族というのはもはや伝説上の存在とまでされており、2年も経たずに相まみえるなどあり得ないことなのだ。
しかし、現に目の前にその現象が起きている。これに対して作為的な何かを感じざるを得ない。
「その、『あの方』とは一体誰なのでしょう?」
「お前が知る必要はねぇよ」
アルの質問に対して、メビウスは一言で切り捨てる。もはや、言う必要などないとでも考えているようだった。
彼からは一切の戦闘意欲を感じない。
「逃げるつもりか?」
アルはそう尋ねる。いや、どちらかというと挑発に近かった。しかし、メビウスは少し自嘲気味に笑ってアルの方を見る。
「逃げねぇよ。……どうせ逃げられねぇしな」
そう言うと、即座に手を自分の口に入れる。しかし、そこで動きを止める。
「……なぜだ。なぜ発動しねぇ!!」
メビウスは焦ったようにそう発狂する。おそらく、自分の特異体質『ギフト:毒の使い手』を使用して命を絶とうとしたのだろう。
しかし、その特異体質が発動しなかった。アルは、そっと口を開く。
「残念ながら、私にはソレを無効化できる特異体質がありますから」
「くそ! グラムと同じ能力を持ってやがったか!」
やはり、グラムとも知り合いのようだ。
ここまで会話してみて、メビウスは知能的にグラムよりも低いと思われる。口が軽く、思慮に欠ける印象だ。
自分の奥の手が行使できないことに、メビウスは狼狽している。
彼からなら色々と聞けそうだ。
「――ッ!!」
アルはそう考えて距離を詰めようとするが、前方から思わぬ攻撃がアルを襲う。
攻撃といってもメビウスからのものではない。アルの前方にある窓を突き破っての魔法攻撃だ。
アルは咄嗟に右後方へ避けながら魔法を回避する。
闇の中魔法「闇の槍」だ。確実にアルの頭をめがけて飛んできた魔法はアルの後方にある扉に突き刺さる。
扉の破損具合を見る限り、当たっても死にはしなかったかもしれないが、場所が場所だけに動きを止めることは出来ただろう。
アルが臨戦態勢に入り、屋敷の外に意識を向ける。しかし、それがまずかった。
「魔王軍、万歳!!」
メビウスが隠し持っていたダガーが彼の心臓を貫く。そう、自害したのだ。
アルは目の前の行動を見て、すぐさま上級回復魔法「ハイヒール」を施す。しかし、メビウスには効果を発揮しない。おそらく、彼が魔族ということが関係しているのだろう。
そして、彼のHPが0になる。彼の体から黒い煙が立ち上がりはじめる。グラムの時と同じように。
「……なんだ、これ」
アルは目の前に転がる「黒い塊」を見つける。
鑑定していると「魔核」というらしい。グラムの時には見なかった物だが、どうやら魔族の心臓が結晶化した物のようだ。
「……命を粗末にするなんて」
アルはその「魔核」を拾い上げながら、そう呟く。
さっきまで外に感じていた敵の気配も綺麗に消え去っており、その場にアルだけが立ち尽くしていた。
目の前に転がるのは「ゴーレン」という男の死体。その死体は、少し微笑んでいるように見えた。解放されて満足といったように。
アルは、両手を合わせて祈る。彼がどのような人生を歩んできたのかは分からないし、もしかしたら犯罪者であったのかもしれない。しかし、根はやさしい人だったのではないかと思えて仕方がなかった。
「……それにしても、『あの方』か」
アルは、メビウスが言っていた「あの方」という言葉を頭の中で反駁させる。
彼の最後の言葉は「魔王軍、万歳」。おそらく、彼のいっていた「あの方」というのは……。
アルはそんな事を考えながら自分のステータスを確認する。
「……やっぱり、増えてる。」
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アルフォート・グランセル(12)
種族:人間(種族値S)
称号:グランセル公爵家三男 神童 神の使い
HP:3,000/3,000
MP:50,000/50,000
魔法適性:火・風・水・地・闇・光
罪状:なし
状態異常:なし
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野心:4 忠誠度:ーー
レベル:15(各+100/毎)
攻撃力;1,500
防御力:1,500
知力:1,500
俊敏力:1,500
スキル:片手剣(5) 魔法効率(4) 融合魔法(3) 礼節(3)
菜園(2) 教育(3) 体術(3) 事務(3) 調査(3)
ギフト:鑑定眼(2) 魔眼 ギフト無効 毒の使い手
加護:創造神の加護
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アルは自分のステータス欄に増えた、新たなギフトを見ながらそう呟く。
そこには、さっきまでメビウスが有していたギフト「毒の使い手」という文字が表示されていた。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク登録、評価ポイント本当にありがとうございます!伸び方が過去一に早くて、驚いております。感想を送ってくれる方も本当にありがとうございます。やっぱり、皆さんがどのように感じているのかが聞けると嬉しいですね。頑張ろう!と素直に思えます。
これからもマイペースに更新していきますので、もうしばらくお付き合い頂けると嬉しいです!!




