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94話 変化と神童

今回は視点が切り替わります。




 ノリスの街では、様々な策略が渦巻いていた。

 


「おい、コレとコレはすぐに廃棄しろ。あと、あの首輪も地下室にもってけ」


「あい」



 いつになく真剣な表情で部下に指示を出すゴーレンの姿を見て、アジトの部下たちは皆気を引き締める。

 この組織の核になっているのはゴーレンであり、みなが彼を慕っていた。


 この組織に名前などはない。

 敢えて名前を付けるとすれば、「ゴーレンの組織」であろう。


 この組織の人間は、みなゴーレンに恩がある者ばかりで、彼の指示なら死をも恐れぬ者たちばかりだ。


 ただ、いつからかゴーレンは変わってしまった。

 あれほど人情に厚い人間だったのに、事もあろうか人攫いをして他領に「奴隷」として売りさばいて金を得る。そんな、「人でなし」になり果ててしまった。


 数人の古参たちは、彼のやり方に苦言を呈した。「なぜこのような方法で金もうけをするのか!」と。



 しかし、彼は何も語ることはなかった。


 今いるメンバーは道を違えた残りだ。



「ほんと、どうしちまったんだろうな」



 指示を受けた下っ端は、険しい顔で他の者たちにも指示を与えているゴーレンを見てそう呟く。


 人は変わってしまう。

 そんな当然の事が、ひどく悲しく思えた。









「……と、部下から報告がありました」



 真夜中、とある宿屋にて3人の人間が密会をしている。

 一人は大きな体にいかつい顔をした大男、そしてその大男は上座に座るいまだ幼さの残る少年に頭を下げた状態でいる。



「やっぱり今日動き出すと思いました。囚えられている人たちは助かりそうですか?」



 綺麗な金髪の少年は、さも当然のようにそう言い放つ。

 すべてが自分の思い通りに進んでいるとでも思っているような自信が顔に浮かんでいるが、なぜか相手に不快感を与えるような雰囲気ではない。

 上手から常に見下されているような感覚。神々しさとでもいえばいいのか。



「……王都には『隷属の首輪』を無効化できるアイテムを常時保管しております。数もそれなりにあるでしょうから、王都まで護送すれば可能でしょう」



 大男は少年の質問にそう答える。


 今回のような人身売買事件は過去にもいくつか例がある。

 そのため、王都には隷属の首輪を無効化できるアイテムである「開錠の鍵」が安置されている。そこまで高価な品というわけでは無いのだが、需要が少ないため市場に流れる数は少ない。だが、何かあった時のために王城や騎士団の詰め所に沢山ストックしてある。


 捉えられている者がどれだけいるのかによって必要数は変わるが、おそらく全員の首輪を開錠できるだけの数は用意できるはずだ。



「そうですか。それで、クロムウェル伯爵の方はどうですか?」



 首輪の件が解決できそうだと考えた少年は、次にその黒幕である貴族の名前を上げる。今回、調査部隊である大男に派遣要請がきたのはそのためだ。


 大男はじっと少年の顔色を伺いながら口を開く。



「そちらは明日から取り掛かるつもりです」


「そうですか。……でしたらビアンカさんという屋敷の使用人を頼るといいでしょう。彼女は私たちと志を同じくする方なので」



 思わぬ情報に、大男は一瞬眉間に力が入る。少年は何食わぬ顔でいる。



「……承知しました」


「あ、あとこれを」



 報告が終わったことで部屋を出ようとする大男だったが、少年の言葉で動きを止める。再度少年の方を見ると、手には数冊に渡る書類の束が。


 男は「失礼します」と一言声をかけて、その内容に目を通す。



「――!?」



 大男は驚く。

 その書類はクロムウェル伯爵が日々つけていたであろう帳簿だった。そして、もう一冊にはアジトにあった帳簿。

 この二つの帳簿を照らし合わせると、色々と重なる点が見えてくる。



「どうやって入手したのかについては聞かないでおきましょう。この資料は有効に活用させてもらいます」


「はい。では、あとは頼みます」



 大男は少年にそう伝える。

 「深く追求することはしないが、無茶はしないように」という男からのメッセージだったが、少年は変わらぬ笑顔でこちらを見ているだけだ。

 こちらの意図が伝わっているのかは疑問が残るが、おそらくリスクについては理解しているのだろう。



 男は一つ礼をして部屋を出る。同じ宿屋に部屋を取っているので、自室に戻るのは一瞬だ。


 ベッドに横たわり、男は今日の少年の動きを振り返った。 



「……使用人の懐柔といい、資料の入手といい、まさに『神童』だな。宰相殿が気にかけるだけはある」



 正直、ここまでの傑物だとは思いもよらなかった。

 確かに、道中の使用人の信頼度からも伝わってはきたが、まさかここまで規格外な存在とは。



「……さて、この『切り札』をどう切るべきか」



 男は自分の手にある資料に視線を送る。

 その資料は、実際よりも重たく感じる。それほどに致命的で、決定的なものだったのだ。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


最近寒いので、体調の変化には多分に気を付けて過ごしましょう。乾燥する季節でもありますから、手指のケアもしっかりと。

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