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90話 動く




 ノリスの街は以前来た時と何一つ変わった様子がなく、住人たちの顔には黒い影が落ちていた。


 クランたち調査隊一行は、商人として街の中に入る。



「ぼさっとすんな! きびきび働け!!」


「「おぅ!」」



 ゴドリックさんの掛け声とともに、調査隊員が大きな声で返答する。

 行きの場所の中ではそこまで不自然だとは思わなかったクランだったが、この街に入ると少しその元気さが浮いているようにも感じた。


 そんなことを考えながら、クランはゴドリックに近づいていく。



「ゴドリックさん、先に宿舎を取っておきますね。……あと、『お得意様』に挨拶に」


「――了解しやした、旦那」



 ゴドリックは気持ちのいい笑顔でクランを送り出す。

 クランは、深く礼をしたかったが、この場では控えておく。せっかくこうして「演技」をしてくれているのだから。


 クランは心の中で大きな恩を感じながら、歩を進めた。







 その頃、屋敷では優雅にお茶を飲むクルーンの姿があった。



 昨日の件の事後処理をゴーレンに押し付け、自分はこうして暇を持て余しているわけだが、かけらも悪いとは感じておらず、「当然の権利」だとさえ考えていた。



 彼の頭の中には、「女」と「金」そして「権力欲」のみが巣くっており、「慈悲」や「思いやり」など最初から存在していない。



「坊ちゃま、お手紙が届いております」



 ドアがノックされると、ドアの向こう側からそんな声が聞こえる。


 クルーンは「入れ」と一言だけ返事をする。すると、屋敷の使用人が入ってくる。



 クルーンはその使用人に対して、一目見ただけで興味を失う。本来なら女ざかりである年頃の使用人だが、クルーンの趣向からは外れていたからだ。



「……王都の第2騎士団からのお手紙です」


「――何?」



 使用人の口から出てきた言葉に、クルーンは否が応でも反応せざるを得なかった。


 その使用人は、クルーンの座する前に置かれたテーブルに手紙を置く。その手紙は綺麗な封がなされ、印は間違いなく王都騎士団のものだ。



 その使用人は、手紙をテーブルに置くとすぐに部屋を出ていく。そして、部屋に1人きりになったクルーンは手紙の封を切る。



「――!?」



 クルーンは手紙に目を通すと、すぐに座っていた椅子から立ち上がった。



「これは……、どうなっている!」



 綺麗にセットされた髪型が崩れていくのも気にせず、クルーンは屋敷を飛び出していったのだった。







「お手紙、お渡ししてきました」


「ありがとうございます」



 先の使用人は、普段使われていない空き部屋の中に入ると、誰もいないはずの場所に向かって報告をする。すると、その場から一人の男の子が姿を現し、使用人に向かって礼を言った。



「……ふふっ、あれほどまでに急いで出ていくなんて。一体何を書かれたのですか?」



 その使用人は砕けた雰囲気で質問する。



「それは――」







 クルーンは大きな音をたてて街の外れにあるアジトの門を開いた。突然の訪問に、中にいた者たちは狼狽する。



()()()()を呼べ!!」



 クルーンは目の前にいた男にそう叫ぶ。

 男は、クルーンの形相に何も言えず、ただ首を縦に振って走り出す。他の者たちは不機嫌なクルーンの怒りが爆発しないよう、細心の注意を払いながら応接室まで連れていく。



「若様、何かありやしたか?」



 突然呼び出された()()()()は、鬼のような形相で待っているクルーンと対峙する。

 もはや、尋ねなくても何かあったことは分かる。しかし、昨日の今日で自分たちに何か不備があったとは考えづらかった。



「さっきコレが届いた」



 クルーンはそう言って無造作に手紙をゴーレンの前に突き出す。

 ゴーレンは突きつけられた手紙の内容に目を通すと、体を強張らせる。



「これはどういう事だ!!」


「……」



 クルーンは大声で詰め寄る。しかし、ゴーレンは何も言えない。



「……もう一度だけ問うぞ、コレはどういう事だ?」



 クルーンは尚も詰め寄っていく。彼の顔には、昨晩の様な冷たさと怒りに身を振るわせる熱さが共存していた。


 ゴーレンは意を決して口を開く。



「……心当たりはありやせん」


「では何故、第2騎士団が軍事遠征のために、このノリスへ来るというのだ! 説明しろ!!」



 クルーンの問いかけに、ゴーレンは何の回答も出来ない。



 王国には、正式な騎士団が3隊存在している。


 まずは、最強の盾と称される「第1騎士団」。

 基本的には王都の警備や王室の警護を主としている。


 最強の矛と称されているのが「第3騎士団」だ。戦が起きた時には、この第3騎士団が矢面に立って対処する。外的攻撃力の要と言える存在だ。


 そして、2つの騎士団をつないでいるのが「第2騎士団」。仕事内容は多岐にわたり、問題が起きた時に真っ先に投入される騎士団だった。調査部隊もこの「第2騎士団」に属している。



 その第2騎士団が軍事遠征をするなど、聞いたこともなかった。


 つまり、これは第2騎士団からの宣戦布告であり、最後の通告であるのだ。



「……時間はあと2日ありやす。重要なものは今日中にこっちで処理しときやす」



 ゴーレンは手紙を睨みつける。

 幸い時間は2日ある。全てを隠し通すことは出来ないかもしれないが、重要な書類だけでも処理することは可能だろう。


 ゴーレンはそう考えたのだ。


 クルーンは、少し考えるそぶりを見せてゴーレンの方を見る。



「――もし裏切れば、分かっているだろうな」



 酷く冷たい声でそう言い放つ。ゴーレンは、昨日のあの光景がフラッシュバックする。


 「裏切れば、命はない」と、暗に言っているのだ。



 クルーンはその表情を見て、部屋を出ていった。そして、ゴーレンはすぐに動き始めるのだった。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


前書きにも書いたように、本日22:00に「ユリウス冒険譚(9)」を投稿します!ちなみに内容は「剣聖編」となっています。まとめて投稿しなおすというところで、どうしようかと悩みましたが、一応今まで通り投稿していきます。ただ、まだご意見お待ちしておりますので、何かあれば是非、感想欄にて教えていただけると嬉しいです。

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