87話 希望的観測
明朝、調査隊はすぐに王都を出発した。
調査隊といっても完全装備をした騎士というわけではない。外見からすれば商人の様にも見える。
人数も1集団ごとに5名ほど。各集団が2時間ほど時間をずらしながら王都を出発する手はずになっているらしい。
ちなみに、クランは第一陣に同行できるようにレオナルドが手配してくれている。
「アンタがクランだな?」
調査隊の一人がクランに声をかける。
クランは調査隊のメンバーというわけでは無いので、特に仕事を振られるわけでも無く暇を持て余していた。
「そうですが」
「俺は今回の件を任されているゴドリックだ。
一応、アンタを客人扱いするように言われているが、ここからは言葉遣いにも気を付けてくれ。上下関係を悟られると色々と面倒なんでな」
ゴドリックはいかつい顔でそう忠告する。
別にクランは貴族でも何でもないため敬語など使用する必要はないのだが、さっきまでは皆がクランに敬語を使用していた。
貴族の出の者が多いと聞いていたが、思っていたよりも平民への偏見などは無いようで、和気あいあいとした雰囲気でここまで進行していた。
しかし、クロムウェル伯爵領にが近づいてきたこともあってか、彼らが纏っていた空気は一変する。
「おい、お前ら! きびきび働けよ!!」
「「おぅ!!!」」
ゴドリックの大きな掛け声に皆が反応する。
はたから見れば行商人の下請けそのものだった。彼らはさっきまでとは纏っている雰囲気まで一転させて、荷物の仕分けなどの仕事をしていく。
クランはそんな彼らを見ながら、あの屋敷の地下牢にいるであろう人物に思いをはせる。
「……アルフォート様、どうかご無事で」
クランと別れてから3回目の朝を迎える。
アルは地下牢に置かれてあった非常食をかじりながら、現状を振り返っていた。
アルがこの屋敷に侵入したのを「a日」だとすると、今は「a+3日」になる。
ムンナの言っていた「3日後」が「a日」から見て「3日後」ならば、今日クロムウェル伯爵家の長男・クルーンが帰ってくることになる。
順調にクランが進んでいれば「a+2日」には到着し、翌日の「a+3日」、つまり今日の朝には調査隊が王都を出発しているだろう。
そして、その調査隊が到着するのは今日から2日後の「a+5日」。つまり、アルは2日間の時間をやり過ごさなければならないのだ。
普通に考えれば絶望的な数字と言える。
もし、ムンナが言っていた「3日後」が「a日」を含まない場合、クルーンが帰ってくるのは「a+4日」となる。
また、クランが2日かけずに王都に辿り着いていた場合も、調査隊の到着の時間が早まり、「a+4日」に辿り着く。
この展開が一番望ましいのだが、おそらくムンナの言っていた「3日後」は「a+3日」、つまり今日の事を指していたのだろう。
アルは頭の中に浮かんでいた「希望的観測」を振り払いながら、最悪の状況を想定して自分がなすべき行動を考える。
「この3日で屋敷の情報は取り終えた。後は……」
アルは今日起こすべき行動を頭の中に思い浮かべて地下牢を出ていった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。




