プロローグ
──道端に咲いている花に命はあるのだろうか。
僕のこの胸のなかには、血液をあらゆる器官へ送り出すポンプのようなものが存在していて、その送り出される血液が、体外から取り込んだ空気を体全体に届けているそうだ。
そしてこのサイクルが破綻すると、人間はそう長くない時間で生命活動を停止するらしい。
──道端に咲いている花に命はあるのだろうか?
おそらくあるのだろう。
でも僕たちは、趣味やプレゼント、祝事や別れの席のために、道端に確かに存在している命を簡単に摘み取ってしまうのだ。
自らの糧とするために動物を殺し、自らの住処を得るために木々を伐採して、僕たちは今の生活を維持している。
現代に住む僕たちにとって、これらの犠牲の上に成り立つ社会はごく当たり前に存在するものであり、自らはどのような礎の上に成り立っているのかなんて、一切考えもしないのだ。
かくいう僕もそのなかの一人であり、今しがた目の前の惨状から現実逃避している。
目の前には大量の死体らしき物と彼らを刺殺した男が立っている。
彼は、まるで僕を親の仇であるかのような恨みに満ちた目でにらみつける。
彼とは面識などないはずだ。目の前に転がっている人たちも、おそらくそうなのだろう。
──彼にとって、僕たちは道端に咲いている花なのだ。
男は、何やら叫びながら凶器を持って走ってくる。おそらく僕はここで殺されてしまうだろう。
僕は目を瞑り、最後の瞬間を迎えるのだった。