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激情に駆られる

翌日の早朝、丈一とアノンは互いに口を交わすこともなく、とある廃劇場の前に立っていた。


「…お前はここで待ってろ。最悪、感染源がそのまま置いてあるかもしれん。」

「……撮らなくていいの?」

「ああ……撮らないでいてくれ。」



丈一はこれから起こりうる最悪な事態を記録に残したくはなかった。アノンを残し意を決したように劇場の中へ足を踏み入れて行く。

劇場の壁にもたれかかったアノンは昨夜拾った手帳を静かに手に取った。


__この手帳を見つけてくれたあなたへ


薄暗い劇場の中を丈一はゆっくりと歩いて行く。やがて丈一の改造人間としての感覚がとある部屋の前でゾンビの反応を示した。

丈一は一度目を閉じ、何かを願う素振りを見せながらそのドアを開けた。


「やっぱり、来たんだ。丈一。」


「瑠李ちゃん…。」


そこに立っていたのは石田崎瑠李だった。


部屋の中は異様な色で塗りたくられ、スクリーンにはモザイクのような色の配列が1秒置きに入れ替わっていく謎の映像が映し出されていた。おそらくこの要素の一つ一つが人をゾンビに変える思想ウイルスの情報であることを丈一は直感した。


「あの手帳、昨日カバンの中から無くなってたことに気づいた時は心底肝が冷えたよ。でも相手はアノンちゃんだし、パスワードもかかってるし、明日になったら戻ってくるんじゃないかなーって思ったんだけど…念のためここに来てみて正解だった。」

「あんなわかりやすいパスワードしてたら総当たりですぐ解けるだろうが。」

メモのパスワードは“004”__スカルファイヤーが警察に追われる時につけられた“未確認怪人第4号”のコードネームからつけられたものだった。

「そっかぁ、その発想、なぜか出てこなかったな。その手帳、今の私には何が書いてあるかわからないし燃やそうと思ったけど不燃性だし、なんやかんやでいつか処分しようと思ってたらまさかこんなことになるなんてね。丈一、その手帳…何が書いてあったの?」

「本物の瑠李ちゃんが山木に捕まった子供達の行方を書いていたんだ。自分がゾンビになった時のために。」

「…そっか、そんなこと書いてあったんだ。ゾンビになると一週間前後の記憶消えちゃうから思い出せなかった。」

「…認めるんだな、自分がゾンビだってこと。」

「だって状況証拠多すぎるでしょ。これじゃ認めざるおえないよ。」

「子供達は…ガキどもは何処にやった?」

「言えないよ。私ゾンビだよ?」

「…そうだよな。そりゃそうだ。」

「ねぇ、丈一。丈一もこっちに来てよ。頭の中、非道(たのし)いことでいっぱいにできるよ。辛いことなんて全部消えるよ。」


「瑠李ちゃん。」


「何?」


「すまなかった。助けられなくて。」


《boom boom Hello!WanTube!!》


「そっか…やるんだね。いいよ、丈一は特別だから残酷(きれい)に終わらせてあげる。」


「変身!」


「変身。」


丈一と瑠璃が同時に同じ言葉を発する。


《HERO Channel♪Ready Go♪》


その音と共に丈一はチャンネラーに変身した。

瑠李の身体も黒く染まり変形していく。頭蓋から二つの車輪のようなものが突き出し、その頭部は“映写機”の姿をとった。衣服はスクリーンマスクでできたドレスのようなものに変質し、その隙間からおびただしい量のフィルムが垂れている。か細い腕はそのままの形で6本に増え、上半身はさながら蟲のような姿に変貌した。

蜘蛛のゾンビ、“スパイダーゾンビ”である。


「あ…丈一には、もっとふさわしい姿があるよね。ちょっと待ってて。」


《theatre!!》


何処からともなく発せられた声と共に映画館の天井からスパイダーゾンビの周囲に複数の映写機がフィルムに釣られながら落ちてくる。映写機は強烈な光でスパイダーゾンビの身体を照らし始めた。


映写機の光を浴びたスパイダーゾンビに四方八方から複数の人型の光が重なり合わさる。完全に光が重なり終わった時スパイダーゾンビの姿は更なる変貌を遂げていた。


黒い仮面に赤い瞳とボディ、そして風にたなびくようなマフラー、その姿はスカルファイヤーそのものだった。


__この手帳をあなたが読んでいる時私はゾンビになっているでしょう。ひょっとして、もう倒されちゃったかな?


その手帳は紛れもなくゾンビになる前の瑠李が書いたものだった。


__この街で起きている連続子供失踪事件、警察ではまともに捜査させてくれないので、私独自にやることにしました。

__捜査の結果、最初の子供の失踪と同時期に仕事を辞めた元バスの運転手、山木日光という男が怪しいとふんだ私はその男を尾行しついに廃劇場…網子シアターという場所に子供を連れて行くところを押さえました。

__以下に現場の見取り図と子供達の居場所、そして山木の情報を記します。

そのメモの箇所には精巧な見取り図と山木の行動パターンなどが書かれていた。


__と、ここまで詳細に記しましたけど、お察しの通り私はこの中に一人で潜入し、そしてこのメモを書いています。山木には既に見つかり、劇場の一室に立てこもってはいますがもう長くは持ちそうにありません。おそらく私はゾンビにされるでしょう。だから、ここからはゾンビになった私を倒すであろうABチャンネラーさん……ていうかたぶん丈一に向けてメッセージを残したいと思います。

__まず、一言。私がゾンビになったのは私の責任です。もし湿った顔で謝ろうものなら“ファイヤーきりもみシュート”をお見舞いしてやります。


高速で間合いに入ったファイヤーに体を掴まれたチャンネラーは真上に投げられる。

空中に打ち上げられたチャンネラーをファイヤーはその強大な脚力でキャッチし、回転しながらパイルドライバーのように地面に打ちつけた。


『ぐぁっ!!』


衝撃でチャンネラーはその場に昏倒する。


『もう終わり?』

『馬鹿いうんじゃねえ…!食らってやっただけだ…!!うおおおお!!』


すぐに起き上がったチャンネラーは間髪入れずファイヤーに殴りかかった。


__ドス!!

『…軽いよ、丈一。』


ファイヤーは全く動じずチャンネラーの胴を手刀で抉る。


『がっ…はっ…!!うおらああ!!』


慟哭のような丈一の雄叫びが劇場に響き渡った。


__出会った頃から、あなたは嫌なやつで……本当に嫌〜〜なやつで、それはそれとしてからかい甲斐のある男でした。


『はぁ…はぁっ…!!』


__それでも、そんなあなたの作り出すヒーローに私は憧れました。たとえそれが売れるためになりふり構ってられなかったその場凌ぎの虚像だったとしても、私はいつかあなたみたいになりたいと思ってたくさんの人の笑顔を守れるこの警察を目指しました。


『うおらあああ!!』


__その結果、子供たちは助けきれず肝心なところはあなたに押し付けること、あなたにまた余計な重荷を背負わせることになってしまって本当にすみません。あなたが仮面の下でどんな顔をして戦っているか少しはわかっているつもりなのに。


『はぁっ…おりゃあああ!!』


__でも、丈一ならきっと最後はしっかり決めてくれるよね?うん、これが最後なんだから思いっきりわがままを言わせてもらいます。


チャンネラーの拳が空を切る。

『もう…ダメだね。見てらんないよ。終わりにしよう、丈一。』

『がっ…!!』

ファイヤーの一撃がチャンネラーを遠くへ吹き飛ばした。


__丈一、私のヒーローへ


ファイヤーはそのまま腰を深く落とし、炎を帯びた脚で助走を始めた。

突き飛ばされたチャンネラーはうずくまったままベルトのダイアルを回す。

《HERO Channel♪Every Day♪》


__これから何があっても…どうか、絶対に絶対に


ファイヤーが助走の勢いで高く飛び上がり、炎を纏いながら足を矢のように突き出した。

スカルファイヤーの必殺技、“SFキック”である。


__負けないで


『くっ…!!』

《prululululululu…syupa!!”Transition Kick“……yhaaaaaaa!!!》


そのベルトの音声と同時にチャンネラーが立ち上がった。

SFキックがチャンネラーを貫こうとした瞬間、チャンネラーの前後に光の穴が現れ、その中を通過したファイヤーがチャンネラーの真後ろに着地する。

その着地点に向けて、赤い稲妻を帯びたチャンネラーの回し蹴りが炸裂した。

“カウンターSFキック”__スカルファイヤーが劇中一度だけ使用した、高速で移動するワームグロッカーにむけて放ったカウンターのSFキックである。


《todays,Channeler’s points…trulululullulu…syupa!!100(ワンハンドレッド)‼︎yhaaaaaaa!!!》


その一撃でファイヤーへの変身が解けたスパイダーゾンビがその場に倒れようとする。チャンネラーはその身体を両手で受け止めた。

「ひどいな、丈一…私への攻撃、全部躊躇してたの“演技”だったんだ…。」

『…俺は“ヒーロー”じゃない“役者”だぜ。』

「…だったら、なんで抱きしめてくれるの?」

『ただのファンサービスだ。俺の最初のファンのために。』

「そっか…うふふ。体、もう動かないや。もうこんなことしないで済むんだね。ありがとう、丈一。あと、アノンちゃんにもよろしくね。これはお節介だけど丈一はもっとアノンちゃんと話をしてあげるべきだと思う。」

『話?なんの話だ?』

「…そういうとこだよ、丈一。でも…もっとわがままを言えば、本当は……私も…丈一と一緒に戦いたかったな………。」

『瑠李……瑠李ちゃん!!』


瑠璃が伸ばす手を丈一が掴む。

その瞬間、大きな爆風が劇場を揺らした。


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