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序章、石田崎瑠李の独白

__スカルファイヤー壱郷空介は改造戦士である。彼を改造したグロッカーは世界征服を企む闇の古代民族である。スカルファイヤーは人間の自由と笑顔のためにグロッカーと戦うのだ!

《スカルファイヤー》、十年前…世界がこんな風になる前に放送された日本の特撮ヒーロー番組である。

私、石田崎瑠李は警察官だ。

小さい頃から祖父の撮ったスカルファイヤーに憧れて正義を守るこの仕事を目指していた。…もっとも、あの頃はまさか世界がこんな風になるとは思っていなかったけれど。

世界中で蔓延した“思想ウイルス”。感染した人間は一見普段と全く変わらない行動や反応を起こすがその自我は完全に食い潰され、代わりに世界を破滅させることを目的とした破壊的思念に統合される。その破滅思想は瞬く間に伝染しすでに世界からは5つの国が滅んだ。

このウイルスのもっとも恐ろしい性質、それは()()によって感染するということ。“色”、“音”、“触覚“、要因は様々、思考が()()に及んだ瞬間、人は意思を失った”ゾンビ“となる。この性質をもってして思想ウイルスは国境を飛び越え同時多発的に感染を拡大させた。

そんな事態に日本がとった政略は“鎖国”だった。国土を壁で覆い人や物の行き来の制限はもちろん、徹底した情報統制により“感染源”を隔離させることをまるでこの事態を予測していたかの如く迅速にやってのけた。今やその情報統制は国内外のやりとりに留まらず、都道府県、果ては隣町同士の連絡も制限されている。

そんな鎖国社会の中、前時代からもたらされてきた当たり前の自由を失った人々の中で新たな表現の場所が生まれた。


__動画配信サービスWanTube


全てのインターネットが制限されているこの状況で何故かこのWanTubeだけは何の制約もかけられることなく…いや、正確には我々警察による如何なる方法でも制約をかけることができずに野放しにされてきた。

さらにWanTubeでは動画に広告をつけることで動画の視聴回数に応じた収益が動画の投稿者に付与されるシステムが存在する。さらにはその収益によって生活するWanTuberなる人々が数多く現れた。

…そして、私はそのとあるWanTuberの動画を目にすることとなった。


動画の始めに映し出されたのは全身が昆虫類の頭部で構成された化け物の姿だった。

スマホで撮られたらしきその動画はブレが激しく画質も荒めだが、撮影者は今にもその化け物に襲われそうになっているのはわかった。

化け物はクワガタムシの頭部のような右腕を開きながら撮影者ににじり寄る。

今にもそのクワガタの手で切り裂かれそうになったその瞬間、電子音のような異様な音声がそこに響き渡った。


《boom boom Hello!WanTube!!》


謎の音声と共にボイスパーカッションのような独特なメロディーが絶えず流れ続ける。


「変身!!」


《HERO Channel♪Ready Go♪》


仰々しい金属音と共に画面外から一つの赤い人型の影が化け物の首を目掛けて飛びかかり、その場に倒れ込みながら組み伏せた。

赤い影の全貌はハッキリと見えないがその顔の上半分は電光掲示板のような黒塗りで目に当たる部分が“AB”の形に赤く発光している。そして何より頭頂部より伸びる一本のアンテナのような角が特徴的だった。

その一連を撮影していたカメラの持ち主は振り返って一目散に逃げる……かと思いきやちょうどいい距離でその化け物と怪人アンテナ男の組み合う様子を引き続き撮り始めた。

アンテナ男の方が化け物に振り落とされ地面に叩きつけられた。背中を痛そうにさすりながらもがくアンテナ男に化け物は間髪入れずに南国産のカブトの角のような左手を振り下ろしとどめを刺そうとする。

しかし、その一撃を待っていたかのようにアンテナ男は体を捻らせてそれを躱し、地面にめり込んだ左腕に飛び乗って回し蹴りを喰らわせた。

化け物の額にあったカブトの角がその蹴りに攫われると同時に緑の血が噴き出す。その後もアンテナ男は化け物の攻撃を誘いながら当たったフリをして寸前で避け強烈なカウンターをお見舞いし全身の角をへし折っていった。

満身創痍となった化け物の前にアンテナ男は悠然と立つ。しかし、その隙を見た化け物は自らの右腕でその左腕を切り離しアンテナ男に向けて射出した。アンテナ男は間一髪で飛来したカブトの頭を受け止めるが、化け物の方は広げた羽を振動させてすでに上昇を始めていた。

追いかけようとして一瞬何かを思いついたように踏みとどまったアンテナ男は腰に付いているラジオのような物体のダイアルを何度か回し始める。


《HERO Channel♪Every Day♪》


メロディーが鳴るのを確認したアンテナ男はベルトのバックル部分に付いている頭部のものと同形状のアンテナを前に倒した。するとバックルが二つに割れ中から回転する光が現れる。


《prululululululu…syupa!!”Transition Kick“……yhaaaaaaa!!!》


ベルトから鳴る謎の子供の歓声と共にアンテナ男と空中の化け物の正面に黒く光る輪が出現した。それと同時にアンテナ男もその輪の中に向かって猛烈にダッシュする。アンテナ男はその輪に飛び込むと同時に姿を消した。


《todays,Channeler’s points…trulululullulu…syupa!!97(ナイティセブン)‼︎yhaaaaaaa!!!》


またしても鳴った歓声と共に化け物の側の輪からアンテナ男が弾丸のように飛び出し、飛んでる化け物の体を地面まで蹴りつけた。派手に吹っ飛ばされた化け物は悶えながら立ち上がり、次の瞬間断末魔をあげながら爆発四散した。


《nbyyyye…》


その音声と共にアンテナ男は光に包まれ、動画は終了した。


…普通に考えればこの動画はCGの出来がいい個人撮影の特撮ヒーローショーだろう。

ただ警察官として見過ごせない点が幾つも存在する。その最たるものがこの撮影現場に人間の死体が発見されたことである。それもただの死体ではない。検査の結果ゾンビとなった人間の死体であることが明かされた。

そして、このチャンネルは他にも7本の動画を投稿しているがいずれもその撮影場所ではゾンビの死体が確認された。

はたして、これらの動画は実際に撮られた物だったのか。映像の中の化け物たちは本当にゾンビの成れの果てだったのか。

そして、アンテナ男とその撮影者、彼らが一体何者だったのか知る由もない。

…けれど、それは普通の警察側の人間だったらって話。


アンテナ男の動き、そして一度だけ発された声。どちらも私に覚えがあるものだった。


“彼”は祖父、石田崎浩三郎が何処かから見つけてきた役者の卵だった。

性格は最悪。おまけに子供嫌い。そのくせ外面だけは綺麗に見せようといつも躍起になっていた。

一見するとヒーローになんかとは対極に位置する人間…けれど一度壱郷空介を演じればスーツアクターもスタントも全部自分でこなす超人的な役者と化す。

そして何よりその演技は幼い子供に正義の存在を信じさせるには充分なものだった。

スカルファイヤーの打ち切りと共に彼は何処かへ去り、祖父もそのすぐ亡くなった。その行方は今の今まで知らなかった。けれど、この動画のアンテナ男の闘い方、当たったように見せかけてスレスレで避けるこのやり方は一年間スカルファイヤーの中に入っていた彼のものだ。

どんなに経ってもその動きは色褪せてない。…特にあのSF(スカルファイヤー)キックのフォームなんかはね。

何があったかは知らないけれどあんなに嫌がってたヒーローの仕事をまたやってるなんて相当のっぴきならない事情があるのでしょう。


怪人アンテナ男__戦うWanTuber・ABチャンネラー


きっとアンテナ男の正体が彼なら私は安心して託すことができる。あとは彼が私を見つけてくれるのをただ待つだけだ。


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