87.沖縄
香織達を乗せた飛行機は、順調に沖縄への道のりを進んで行った。
「何か、天気悪い?」
「そうね。この前より、雲が多い気がするわ」
今回も香織は外の景色を楽しんでいたのだが、沖縄の近く、大体九州くらいの場所に来ると、いきなり周りが雲に覆われてしまった。
「一応、パイロットの人には、地図を貸してるけど大丈夫かな?」
「そこは、任せるしかないわね。それにしても、少し黒い雲ね。雷雲かしら?」
「うげっ……危なそう……」
「普段、雷を操ってる香織が言う?」
「自分で作るのと、自然に出来上がってるのは、違うもん。危ないから、晴らした方がいいかな?」
香織は、この前の大雪山国立公園で、自然発生、あるいは誰かが作り出した雲を完全に散らす方法を会得している。
「簡単にできるものなのか?」
ちょうど話が聞こえてきた玲二が、香織に訊く。
「出来るよ。やる?」
「頼めるか?」
「分かった」
香織は、飛行機を覆ってくる雲を散らしていく。すると、地上の様子が分かるようになった。
「あの雲って、噴火雲だったんだ……」
香織達の視線の先には、噴煙を撒き散らしている火山があった。
「何だっけ? 桜島?」
「地図的には、そんな感じがするわね。ただ、世界の変異で変わっている可能性もあるわ。得に、九州には火山が多かったはずだもの」
「そうだったっけ? じゃあ、九州に住むのは、厳しいのかな?」
香織が考えているのは、何度も噴火し続けていたら、住む場所が無くなるのでないかということだった。
「どうかしらね。噴火の度合いによると思うわよ。昔も、桜島は何度も噴火していたんだから」
「それもそうか」
「それにしても、噴煙の中に突っ込んでいるのに、この飛行機はよく無事でいられるわね?」
「ふふふ……」
咲が疑問に思っていると、おもむろに香織が胸を張って笑い出した。
「そこの問題も、もちろん解決済みなのさ! 最初の設計図の段階でね!」
「そういえば、生産職の皆が、刻印の時に鬼気迫っていたな」
「細かいからね! 魔力を使った濾材みたいなのが張られてね。火山灰だとか、細かい粒子を完全にシャットアウトするんだ。それでね。シャットアウトした粒子は、一定時間毎に取り除く機構も取り入れたの。これはね。風属性の魔法で、表面をこそぐ感じなんだ。他にもね……」
香織は、飛行機に備わっている機能を、咲に説明し始めた。自身が設計したものなので、基本的な機能は把握していた。咲は、香織の話をきちんと聞く。玲二は、苦笑いしつつ、その場から去って行った。
咲が、香織の生産話を聞いているうちに、沖縄の上空にまで来た。
「空港があった場所に近づいて来たぞ」
「本当?」
香織は、話を中断して、窓の外を見る。視線の先には、新千歳空港と同じような感じの空港があった。
「あっ、また、私が先に降りて、空港を直すよ」
「そんなにまずそうか?」
「うん。新千歳空港と同じくらいだと思う」
「そうなのか。すまん、頼んだ」
「いいよ」
香織は、咲を連れて出入口に向かう。
「じゃあ、咲、よろしくね」
「分かったわ」
香織は、北海道の時と同じように飛行機から飛び降りた。
「わぁぁ……」
思わず、香織の口から感嘆が漏れてくる。香織の視界には、一面透き通った海の姿があった。
「すごい……向こうと全然違う……」
ずっと見ているわけにもいかないので、香織は、体勢を立て直して、靴に魔力を集中させ、空中を歩いていく。
「早く、直さないと」
香織は、空港に着地して、空港全体を自身の支配下におく。そして、滑走路を平面に直していく。
「よし、オッケー。空港全体を支配下にしたけど、あまり、魔力の消費しなかったなぁ。取りあえず、端っこの方によって待ってよ」
香織は、即席で椅子を作って待つことにした。香織が空港を直して十分後に、飛行機が着陸した。
「今回は、めっちゃ早く着陸したなぁ。慣れてきたのかな?」
素早く降りてきた咲が、香織に駆け寄る。
「大丈夫だった?」
「大丈夫だよ」
今回は現地の人達からの襲撃はなかった。周りに住んでいないのかもしれない。
「それにしても、かなりボロボロね」
「そうだよね。羽田や新千歳と比べたら、かなりヤバいよね」
空から見ると、あまり分からないけど、地面の抉れ方や建物の崩壊具合が、今までの空港と比べものにならない。
「これ……自然に壊れたわけじゃないよね?」
「そうね。どちらかというと、攻撃を受けたという方が正しく思えるわね」
香織達が、空港を見回していると、玲二達も降りてきた。
「どうなってるんだ?」
「分からない。でも、異常なのは確かだよ」
そこに、パイロットの冒険者が慌てて降りてきた。
「す、すみません! これを見て下さい!」
パイロットの冒険者、金崎護は、香織から借りた地図を広げた。
「ん? 沖縄の地図だよね?」
「そうだな。これがどうかしたのか?」
「沖縄の形が少し変なんです」
香織と咲、玲二は、地図をよく見てみた。すると、自分達の記憶しているものと若干違うことに気が付く。しかし、土地の形が変わるのは、世界が変異したときに起きる事の一つだ。少し形が違うくらいなら、何の不思議もない。
「よくある事じゃないか?」
「いや、違うよ。世界の変異で、形が変わる事は多いけど、こんなに、奇妙な事にはならないと思うよ」
香織は、地図のある部分を指さす。そこは、一直線に溝が出来上がって、水が流れ込んでいる場所があった。
「これ、もしかしたら、リヴァイアサンかもしれない……」
「でも、この前戦ったときは、こんな威力なかったと思うわよ?」
「これが、本来の一撃なのかもしれないよ。あの時は、海が遠かったから」
「それじゃあ、海を侵犯したから、襲われたかもしれないということ?」
「可能性的にはね」
「まずは、人の捜索だな。少人数で、捜しに向かうぞ。まだ、リヴァイアサンの仕業と決まったわけではないからな」
玲二は、集まっている冒険者達の元に向かい、班分けをしていっている。
「香織は、どう思っているの?」
「リヴァイアサンがやったかどうかってこと?」
「ええ」
「どうだろう。正直、リヴァイアサンが、態々暴れるのかなって思うんだ」
「?」
咲は、香織の言っている事が分からず、首を傾げる。
「だって、私達と眼が合っても何もしなかったんだよ? 海を侵犯したからといって、地上にまで攻撃してくるのかなって」
「地上に、攻撃をする理由があったということ?」
「うん。私は、赤龍じゃないかと思ってる」
「赤龍……なるほど、ここには、米軍基地もある。そこから飛び立とうとすれば、赤龍が黙っていない。そして、自分の攻撃範囲に入ってきた赤龍をリヴァイアサンは、見逃さなかったということね」
「あくまでも予想だけどね」
香織の考えは、何の根拠もない。これからの探索で何かしらを見つけなければならない。
「香織達は、香織達で行動するで良いか?」
「うん。大丈夫。一回一回、空港に戻ってくる?」
「いや、期間を決めての探索にした。一週間で戻ってきてくれ。それとは別に、人を見つけたら、出来れば空港まで連れてきてくれ。強制はしなくていい」
「分かった。じゃあ、先に行ってるね。焔、星空、行くよ」
「はい」
「うん」
香織達は、四人で空港の外に出て、沖縄の街の中に足を踏み入れた。
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