86.久しぶりの我が家
北海道での戦いを経て、香織達は、神奈川にある自分達の家に戻ってきた。
「ひっさしぶりの家だ!!」
香織は、テンション高く家の扉を開けた。久しぶりに帰ってきたので、懐かしい気持ちが溢れているのだろう。
「さてと、一週間は、ゆっくり出来るし、店は明後日からでいいかな」
「そうね。あまり休まるような旅行ではなかったし、明日は、ゆっくりとしましょう」
「分かりました。では、夕飯を作ってしまいますね」
「手伝う」
焔は台所に、星空は食糧を採りに庭に向かった。香織と咲は、リビングのテーブルに隣同士で座る。
「昨日の討伐報告の話、どう思う?」
咲は、座るなりそう口にした。咲の言っているのは、昨日の朱雀討伐報告の話だ。
「う~ん、私達の神の領域についての説明だと思うけど、問題は、ステータスに表記されていたよりも、遙かに強い力を手にしていることかな?」
「そうね。恐らく、氷雪龍と戦ったときに得たんだと思うけど、今まで以上の力ということは、ほとんどのモンスターは相手にならないかもしれないわよ?」
「そうだよね。あれだけ苦戦した赤龍、悪魔、黒龍、リヴァイアサン、酒呑童子がステータス表記されていたということは、あれ以上の強さだってことだもんね」
「問題は他にもあるわよ。今までのモンスターは、この領域に至っていないけど、これからそういったモンスターと戦う事になるかもしれないわ」
香織達が戦った相手は、全員ステータス表記があった。そして、香織達が、会った人達もステータス表記がある。つまり、香織達からしたら、ステータスを凌駕した存在は、今のところ自分達だけなのだ。
「今思えば、黒龍の成長って、この領域に至るためのものだったのかな?」
「そうね。黒龍が何で、幼体からだったのか分からないけど、成長する目的に、この領域があったのかもしれないわね」
「後は、日本が異常に楽な可能性もあるよね。他の国……というかエリアかな? は、もっと強い相手がいるとか」
「その可能性もあるわね。今のところ解放されたのは、どの地域だったかしら?」
「えっと……日本は全部。アメリカは空、ヨーロッパも空で、アジア・中東も空だね」
香織は、今までにあった討伐報告を思い出しながら、そう言った。
「基本的に空の解放が多いわね。見つけやすいからかしら?」
「後は、空に侵攻しようとすれば、すぐに襲い掛かってくるからじゃない?」
「赤龍の時もそうだったわね」
「じゃあ、次に倒されるのは、海の権利所有モンスターかな?」
今までの事を考えれば、空と並んで海もおびき寄せやすいと言える。
「でも、私達の場合、リヴァイアサンが地上に侵攻してくれたから、倒せたんだよね」
「そうね。そんな運の良いことが、早々あるとも思えないものね」
リヴァイアサンが地上に上がってきたことは、本当に運の良いことだった。だが、実際は、香織達がいなければ、かなり危ない状況だったとも言える。
「沖縄の後に、いよいよアメリカか。アメリカの統治権持ちモンスターが、何かしてくるとかあるかな?」
「……どうかしらね。私が乗っている時点で、アメリカの領空権持ちの飛行機になるだろうから、襲い掛かってくる可能性は高くなりそうよね」
「領空権を自分のものにするために?」
「ええ、それで言ったら、香織の統治権が一番狙われそうだけど」
「確かに……」
権利所有モンスターは、他の権利を取ろうとしてくる。その習性でいえば、香織も咲も狙われる可能性を秘めている。
「防御手段を用意しておこうか」
「そうね。アメリカに行く前に、用意しておいた方が良さそうだわ」
ここで、焔と星空が料理を運んできた。
「簡単なものになりますが」
「どうぞ」
今回の夜ご飯は、炒飯だった。
「ううん、作ってくれて、嬉しいよ。ありがとう」
「じゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
香織達は、夜ご飯を食べる。そして、洗い物を香織達がやっている間に、焔と星空がお風呂に入った。そして、洗い物が全て終わった段階で、焔と星空が出てきた。
「お先に頂きました」
「気持ちよかった」
「はぁい。それじゃ、私達も入って来ちゃうね。先に寝ちゃってもいいからね」
「「はい」」
香織と咲もお風呂に入りに向かった。
「ふひぃ~~」
身体を洗った後、香織は湯船に浸かりながら、柔らかくなっていた。咲は、今、身体を洗っている。
「どうしたの?」
咲が、身体を洗ってる間、香織は、咲の事をジッと見ていた。
「う~ん、最近成長してないよね?」
「そりゃあ、不老不死を手に入れたからね」
香織は、咲の身体を見てから、自分の身体を見下ろした。自分の申し訳程度の凹凸しかない身体と、適度に成長した咲の身体。スキルのせいとはいえ、一切成長しないのは、少し悲しいものがあったのだった。
「そこまで気にするような事じゃないと思うけど」
「それは、持っている者の余裕だよ! うぅ……せめて、もう少し欲しかった……」
「そんなもの? 正直、大きかったら、戦闘に邪魔よ?」
「うっ……確かに……」
香織は、咲の言うことも尤もだと思い、うなだれた。その間に、身体を洗い終わった咲が湯船に入る。
「ふぅ~、やっぱり湯船だと落ち着くわね」
咲も湯船でゆったりとしていた。香織は、咲をジッと見てから、背中を向けて咲に寄りかかった。
「何してるの?」
「スキンシップ」
寄りかかってきた香織に咲は腕を回して抱きしめる。
「香織の甘えん坊は、いつになったら抜けるのかしらね?」
「これが甘えん坊って言われるなら、ずっと甘えん坊でいいよ」
「精神的には、成長して欲しいわね」
「や~だよ」
咲は、そう言いつつも慈しむように香織の頭を撫でていた。そんな中、咲の胸中にある事が思い浮かんだ。
「私と香織の関係、おばさん達にも言わなきゃいけないわよね……?」
「ん? そうだね。でも、それがどうかしたの?」
「受け入れてくれるかしら? 今、意識したら、少し不安になったわ……」
咲が不安に感じているのは、香織の両親が、自分と香織の関係の事を受け入れてくれるかどうかということだ。明確に、恋人としての関係になったのは、つい最近なので、あまり意識していなかったのだ。
「大丈夫だよ。お母さん達は、そういうの気にしないから。むしろ、お母さんなんか、娘が増えたって喜ぶと思うよ」
「そうかしら? そうだと良いのだけど……」
「私を信用してよ」
香織は、優しく微笑みながらそう言う。
「しているわよ。しないわけないじゃない」
咲は、そう言いながら首に軽くキスをした。すると、香織は、身体を捻って咲の方に向ける。そして、黙って眼を閉じる。香織の言いたいことを察した咲は、香織の唇に自分の唇を重ねる。
その十分後に、二人は揃ってお風呂を出た。
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それから一週間が経った。その一週間の間、香織達は、一時的に店を開いた。すると、冒険者達が、こぞって回復薬を買いに来た。他の場所でも買えるが、香織のところが一番効果が高いので、買えるのなら買いたいのだった。
そして、今、香織達の姿は、羽田空港にある飛行機の中にあった。
「いつの間にか、もう一機作ってたんだね」
「そうね。まぁ、一機だけじゃ、運用に問題があるものね」
香織達の視線の先には、今、香織達が乗っている飛行機とは、別の飛行機があった。これから空路での移動を想定して、一機だけでは足りないと判断した結果、もう一機の製造に移ったのだ。ただ、一つだけ問題があった。それが、パイロットの問題だ。操縦をしたことがある人がほぼいないので、そこの訓練から始める必要があるのだ。
「まぁ、気長にやるしかないよね」
「そうね」
香織達が話していると、玲二が飛行機の中に入ってくる。
「全員いるな? 出発するぞ」
香織達は、次の目的地、沖縄へと向かう。
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