84.頂上へ
香織達が氷雪龍と戦っている時、焔達は、真っ直ぐに頂上を目指していた。
「さっきよりも吹雪が酷くなってない!?」
「まーちゃんの言うとおりだよ。さっきよりも吹雪が強くなってる。一旦、やり過ごした方がいいよ!」
万里と恵里がそう言った。
「焔、どうする?」
「万里と恵里の言うとおりだね。でも、テントを張ることは出来ないし、かまくらも今から作ったんじゃ時間が掛かる。適当な場所に洞窟があれば……」
香織のような生産職と違い、焔達はすぐにかまくらを用意する事が出来ない。
「えっと……あっ!! あっちに洞穴があるよ!」
周りを見回していた万里が指を指す。そこには、少し深めの洞穴が開いていた。
「運が良いね。あそこに避難しよう」
焔達は、近くにあった洞穴に逃げ込んだ。洞穴の奥は、雪風があまり入ってこないから、すぐに凍えるという事はない。
「取りあえず、焚き火を熾して、身体を冷やしすぎないようにしよう。星空、薪を並べて」
「分かった」
星空は、マジックバッグから薪を取り出して、組み上げていく。そこに、焔が火を点ける。本当なら、火種を作らないといけないところだが、焔の火力で一気に火を点けた。
「これからどうする?」
焚き火で暖まりながら、万里がそう訊いた。
「今の現在地が、中腹よりも少し上。流されたところよりも上に来ることが出来たから、吹雪が弱まるのを待って、先を目指そう」
焔は、地図を見ながらそう言った。その意見に、星空、万里、恵里は、揃って頷く。
焔達は、若者ならではの体力と行動力で、一気に山を登っていた。脚を取られる雪を焔が常に蒸発させて道を作っていたのが大きい。そして、もう一つ……
「そういえば、ここまでモンスターに襲われずに来られたね」
恵里の言うとおり、この場所に来るまで、一度もモンスターの襲撃を受けていない。
「吹雪のせいで、モンスターも身動きが取れないということだと思う」
「つまり、吹雪が止めば、モンスターが復活するって事?」
「うん。吹雪の原因は、あの龍のはず。マスターと咲様が、龍を討伐すれば、吹雪も止むと思う」
氷雪龍が現れてから、急に吹雪が吹き始めた。ということは、この原因は氷雪龍にある。焔はそう考えたのだ。
「じゃあ、香織さん達が倒してくれるまで待たないといけないってこと?」
「そういうこと。本当は、もう少し上に行けると思っていたけど、予想以上に吹雪の勢いが強くなったから」
「じゃあ、今は、このまま待つしかないね。軽い食事を作っちゃうね」
恵里は、テキパキと食事の準備を進めていく。その間に、焔は洞穴の入口の方に向かう。
「まだ、吹雪いている……でも、これで、入口が塞がるようなことはなさそう
かな」
雪が積もってはいるが、洞穴の入口を塞ぐ程、積もりそうにはなかった。ここで、入口が塞がってしまうと、命に関わるので、定期的に確認しないといけない。
そこから、しばらくの間、恵里が作ったスープを飲みながら、吹雪が弱まるのを待っていた。
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一方で、玲二達も吹雪に対する対策を取っていた。
「生産職は、急いでかまくらを作れ! 戦闘職は、周辺警戒をしながら、手伝えるところを手伝え! 俺達が凍え死ぬかどうかが掛かっている! 時間との闘いだ! 急ぐぞ!!」
『『おう!!』』
冒険者達はテキパキと動いて、かまくらを作っていく。それは、玲二も例外ではない。
「お前、代表者なのに、こんな雑用もこなすんだな」
「当たり前だろ。上に立てば、何もしなくて良いなんてことない。むしろ、率先して動いて見本にならないといけないんだ。俺は、あいつらのトップに立ってるんだ。自分から動かなきゃだろ」
玲二はそう言いながら、手を動かし続ける。大紀は少しだけ手が止まったが、すぐに動き出した。冒険者達が、全力で頑張った結果、全員死ぬ前にかまくらを作る事が出来た。
「これからどうするんだ?」
「吹雪が止む、あるいは弱まるまで待機だ。この状況で動いても遭難して死ぬのが目に見えている」
「そうか」
玲二と大紀は、二人で同じかまくらに入っている。
(切り出すなら今か……)
そう考えた玲二は、意を決して口を開いた。
「大紀、昨日はすまなかった。お前の仲間を貶してしまった」
玲二がそう言うと、大紀は驚いて眼を剥いた。突然、そんな話をされるとは思っていなかったのだ。
「いや、お前の話を聞いて、俺も考え直した。確かに、俺は、全てをあいつらがやれば良いんじゃないかと考えていた。だが、それは、思考停止だったと思い知った。全部を押しつければ、楽になる。だが、その分、自分達で生きる方法を失うことに繋がる。それに、まだ若い二人に、この世界は重すぎる」
大紀は、玲二と揉めてから、ずっと考え続けていた。最初は、あそこまでの力があるのなら、香織達が全部やれば良いんじゃないかと考えた。これは、香織達の強さを目の当たりにしたほとんどの人が、思う事だ。
それは、香織と咲に世界の命運を全て預けるに等しい。そんな事をされたところで、香織達が世界のために動くとは限らないが……
だが、大紀は、玲二の言葉を受けて、考えを改めた。自分達が押しつけようとしている先が、まだ若い人だということに気が付いたのだ。
自分達の弱さに甘えていたのが恥ずかしくなった。いや、香織達の強さに甘えていたという方が正しい。まだ、知り合って間もないというのに……
「俺達も改心しないとな。あいつらに甘えていられない。俺達は俺達で、北海道をまとめ上げてみせよう」
大紀は、自分の決意を玲二に伝えた。
「そうか。そうしてくれると、助かる」
玲二と大紀は、改めて固い握手を交わす。そこから、関東と北海道を繋ぐための仮の話し合いをしていった。
大分、時間が経つと、吹雪が弱まってきた。
「これなら、いけそうだな。出発するぞ!!」
『『おう!!』』
玲二達は、頂上に向けて歩き出した。
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洞穴の中にいた焔達も同じように、吹雪が弱まったのを確認して、出発した。先頭は、焔が務め、足元の雪を蒸発させながら歩いていく。
「もう、そろそろ頂上だよね?」
「このまま進んで行けば、十分くらいで着くと思う。星空、モンスターはいる?」
「いないよ。姿も気配もない」
吹雪の影響が長引いているのか、未だにモンスターの姿がない。
「モンスターがいない内に登り切ろう。少しペースを上げるよ」
「分かった」
焔達はペースを上げて頂上に急ぐ。その結果、五分程で頂上に着くことが出来た。頂上には、焔達以外誰もいない。他の面々は、まだ到着していないみたいだ。
「香織さんのコンパスによると、ここら辺なんだよね?」
恵里が、皆に確認を取る。
「二つの線を結んだ場所が、大体ここら辺というだけだから、確実とは言えないかもね」
「じゃあ、手分けして探そう」
焔達は、それぞれ分かれて、ダンジョンの核を捜す。
「えっちゃん、あった?」
「ううん。焔ちゃんは?」
「ないよ。星空?」
「ない」
しかし、頂上には、それらしきものを発見することが出来なかった。焔達が唸っていると、空から香織と咲が降ってくる。
「四人とも無事だったみたいだね」
「安心したわ」
頂上に降り立った香織と咲は、四人に近づいていく。
「マスター、咲様、ご無事で何よりです」
「無事だったよ」
焔と星空は、それぞれそう言った。香織は、二人の頭を撫でてあげる。
「香織さん、ここに核がないけど、本当にここにあるの?」
「頂上は、隅々まで探しました」
万里と恵里が、香織に質問した。
「ちょっと、待ってね」
香織は、コンパスを取り出して、頂上をうろうろと歩いていく。
「う~ん……針は、頂上を指しているけど、何も見当たらない。空でもないとなると、地中かな?」
「じゃあ、頂上を吹き飛ばす必要があるわね」
「うん。坂本さん達を待ってから、どうするか決めよう」
香織達は、頂上に簡易的な椅子などを作って、玲二達を待つことに決めた。
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