77.北海道のスタンピード
香織達がテントで眠りについていると、外から空港にも響き渡るようなサイレンが鳴り始めた。それは、香織達が本州で使用しているスタンピードを知らせるものに酷似していた。
「咲!」
「分かってるわ!」
香織と咲は、手早く準備をしてテントを出る。香織達のテントの周りには、明かりを確保するために魔力で光るランタンを並べてある。
「ここ以外に明るい場所とかある?」
「見る限り、明かりは見えないわ。これじゃあ、街の場所は分からないわね。それに、本当にスタンピードが起こっているとは限らないわよ?」
「じゃあ……」
香織は、コンパスを取り出して近くの街の方向を探る。
「街は向こうにある。じゃあ、スタンピードの発生現場は……向こう。街とは違う方向だけど、スタンピードが発生しているのは間違いなさそうだね」
「戦闘音が聞こえてこないということは、かなり先か、まだ交戦していないかのどちらかということね」
「香織! 咲!」
香織達から一、二分遅れて玲二がテントから出てきた。武器と防具を装備しているので、音を聞いて準備をしたのだろう。
「スタンピードか!?」
「うん。正確な位置までは分からないけど、方角は向こうだよ」
「手伝いに向かいますか?」
咲の問いに、玲二はすぐ答えない。
「いや、待機だ。俺達をあそこまで警戒していたんだ。今、俺達が加勢に行っても、より警戒させるだけになるかもしれない。それに、香織達の異常なまでの力は、知らない奴からすれば脅威以外の何物でもないからな」
「まぁ、確かに、いきなり空から雷を降らせたら驚くよね」
香織達の事を間接的にも知っている冒険者の皆は、香織達が無双しても、あまり驚かない。驚いたとしても、すぐに香織達かとなる。さらに言えば、香織達に追いつこうと奮起し出す。上昇志向の塊とも言える者ばかりだった。
だが、香織達を知らない人達から見れば、圧倒的な力を持つ香織と咲は、恐怖の対象になりかねない。玲二が考慮しているのはそこだ。無双するにしても、香織達の事を知ってもらうのが先だと考えている。
「でも、下手すれば、全滅するんじゃない?」
「それは、さすがにないだろう。二年間の間に、何度もスタンピードは起こってる。ここでも同じはずだ。なら、協力して倒しきれないなんて事はないだろう」
「ダンジョンによってはエグいことになるよ? この前の京都は、本当にヤバかったから」
京都では、酒呑童子の号令によって、京都中の妖怪達が一斉に動き出すことになった。その数は、今までのスタンピードよりも、かなり多かった。同じような事が起こる可能性は、かなり低いが、万が一ということは残る。
「それもあるだろうが、どうしても動けないぞ。特に、香織、咲、焔、星空の四人はな」
「分かった。じゃあ、ここで待ってる。向こうから、救援要請があれば動いて良いよね」
「…………いや、その時も香織達は、ここにいてもらう。救援には、俺達が行く」
「徹底する必要ある?」
「ある。なるべく、向こうの反発を抑えたいんだ。お前達の武力は、反発を生む可能性がある」
ほとんど同じようなやり取りだが、その分だけ玲二の真剣さが現れている。香織達の強さで、現地の人達に警戒心を生ませるわけにはいかない。
「分かった。でも、本当にヤバそうだったら、行くよ」
「それでいい。いつまでも香織達に頼りきりには出来ないからな」
香織は、玲二の案を受け入れることに決めた。状況が動くまでは何も出来ないので、テントの傍にベンチを置いて、腰を降ろす。その横に咲も座った。
「大丈夫かな?」
「分からないわ。でも、私も坂本さんの言うとおりだと思う。私達の力は、無自覚に振っちゃいけないのよ」
「誰かを巻き込む事になるからでしょ?」
「それもそうだけど、力を恐れて、所持者を殺そうと考える人もいるわ。他にも、力を利用しようと考える人もいる」
「私の発電機を奪おうとしてみたいに?」
「そうね。香織の錬金術も力の一種と考えて良いと思うわ。それを私利私欲のために使おうと考える人がいたでしょ? そういうことよ」
咲の言葉に、香織は少し納得する。
「多分これからも力の使い方について、ごちゃごちゃ言ってくる人は沢山いるわ。『そんな力を持っているんだから、他人のために使え』とかね。でも、そんなもの気にしなくて良いと思うわよ。私達の力の使い道は、私達自身で考えればいい。でも、関係の無い誰かを直接傷つけることだけは、ダメよ」
「……分かってるよ」
香織は、そう言って、咲の肩に頭を預ける。
「だから、私は、家族のために使うことに決めたんだ。だから、家族に仇をなす奴は、絶対に許さない」
香織の声は、冷え切っている。この言葉が、本気だということは、誰もが理解出来るくらいには。
「香織の家族愛は分かるけど、香織がそこまでする必要なんて無いのよ」
「するよ。あの時から、決めたことだもん」
「…………」
咲は、香織が何のことを言っているのかを察して、香織の頭を軽く撫でる。しばしの間、二人だけの時間が続いた。テントから出ようとした焔達も、二人の雰囲気を察して、テントの中に戻ったくらいだ。
そんな中、香織達が野営している空港に、一人の男が走ってきた。
「本当にいた。すまないんだが、スタンピードの鎮圧を手伝って欲しい! 頼む!」
その男は、さっきまでいた人達とは別の人だった。その人達から、香織達の事を聞いて走ってきたのだろう。
「分かった。お前達! 聞いての通りだ! すぐに装備を整えろ! 一分で出発だ!」
『『おう!』』
冒険者達が準備を始める。万里と恵里も同じように装備を整えていた。
「香織達は、ここの守りを頼む。こっちにモンスターが来ないとも限らない」
「うん。分かってるよ」
香織の返事に、玲二は頷くと、やって来た男の案内でスタンピードが起こっている現場に向かった。その後に冒険者達が続いて行く。
「「行ってきます!」」
万里と恵里が声を揃えて、香織達にそう言った。香織達は、二人に手を振りながら、
「行ってらっしゃい」
と言って見送った。
「どのくらいの規模なんだろう?」
「こっちの戦力も必要となると、かなり大規模なんじゃないかしら」
「それだと、はぐれた群れが、こっちに来る可能性も捨てきれないかな」
「そうね」
そう言いながら、香織は咲の肩から膝に頭を移していた。
「私達も行かないで良いんでしょうか?」
「うん、暇」
香織達の近くに、焔と星空がやって来た。
「私達は待機だよ。こっちに流れてくるかもしれないモンスターを倒すの」
「それまでは、二人もゆっくりしていていいわ」
「分かりました」
「うん」
焔と星空は、香織が出したもう一脚のベンチに座り、空を眺めていた。
玲二達がスタンピード発生現場に向かってから、一時間経ったその時、香織と咲が、一斉に同じ方向を見た。
「焔、星空、準備をして」
香織の短い言葉に、すぐに反応した焔と星空は、武器を手に取った。
「本当に来るとはね」
「かなりの大規模な可能性があるわね。私と焔で突っ込むわ。香織と星空で援護をお願い」
「オッケー」
香織達がそう話していると、暗闇の中から、大量のモンスターが現れた。香織達の元に現れたモンスターは、獣型が多かった。
「行くわよ」
「はい!」
咲と焔がモンスターの群れに突っ込む。黒百合、紅桜の一振りで、先頭にいたモンスター五匹が両断される。数は多いが、強さはそうでもないみたいだ。
「星空、なるべく後ろの方を狙って撃って」
「うん」
星空は、弓を斜め上に向けて矢を放った。放たれた矢は、弧を描き途中で分裂、モンスター達を頭上から襲った。
「その調子でいこう。それじゃあ、私も!」
香織は、手を空に掲げる。そして、いつも通り、空から雷を降らせて、咲達から離れたモンスターを狙い撃ちしていった。
香織達は、いつも通りに戦って、モンスターを全滅させた。その二時間後に、玲二達が帰ってくる。
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