76.取り次ぎ
香織に近づいてくる人達は、全員武器を手に持っている。
(地元の人達かな。いきなり飛行機で現れたら、警戒するのは当然だよね。戦闘はしたくないし……こうするのが一番かな!)
香織は、支配下に置いたままの空港の土地をせり上げて、壁を作り出す。
「な、何だ!?」
「魔法か!?」
「詠唱は聞こえなかったぞ!」
「無詠唱か!」
壁の向こうから、そんな声がしてくる。
「こんなもん! ぶっ壊せば良いだろう!」
そんな声がした直後、物と物が激しくぶつかり合う音が響いた。
「か、硬ぇ……」
「どうなってる!? こっちはハンマーで叩いているんだぞ!?」
「ここの地面は、そんなに硬いのか!?」
壁の向こうから聞こえてくる声は、かなりの焦りを含んでいた。
「いや、刻印魔法で、強度を上げただけなんだけど……」
見当違いの考えに香織は思わず、そう呟いた。尚も壁を破壊しようとする音は響く。
(咲達がもうすぐ降りてくるはず、壁で耐えていれば大丈夫なはず……どうやって、落ち着いてもらえば良いかな?)
北海道民と揉めたくない香織は、どうすればいいかを考える。すると、香織の頭上に影が差した。
「?」
香織が上を見上げると、壁を登って飛んできた男が剣を振りかぶって叩きつけようとしていた。既に、香織が対応出来る状態ではない。今から、結界を張ることも出来なければ、地形操作も間に合わないのだ。だが、香織の眼に絶望などは無かった。それは、諦めではない。信じているからだ。
「ぐっ!」
甲高い音が響き渡った後、香織に飛びかかった男が、壁の向こうに飛ばされた。
「香織! 大丈夫!?」
香織の傍に、黒百合を手に持った咲が着地する。
「大丈夫だよ。ありがとう」
咲は、真っ先に飛行機から降りた後、香織に駆け寄ろうとして、攻撃しようとしている男を見て、一瞬鬼神化し、急接近した後、剣を受け止めて蹴りを叩き込んだのだった。
「さっきのは?」
「北海道の現地民だと思うよ」
「…………私、やらかしたかしら?」
「いや、攻撃したのはあっちだし、そうでも無いと思うけど」
壁の向こうでは、ざわめきが広がっている。
「どうしようか?」
「取りあえず、話し合いだな」
香織達の元に玲二、焔、星空がやって来た。他の冒険者は、飛行機の防衛をしている。
「香織、壁を戻せるか?」
「いいけど……焔、星空、警戒しておいて」
「はい」
「うん」
香織の指示で、焔と星空が武器に手を掛ける。それを見てから、香織は、壁を元に戻した。いきなり壁がなくなった事に驚いたのか、現地の人達は、固まっていた。
「俺達は、敵じゃない! 関東から来たんだ!」
玲二は開口一番にそう言った。飛行機がある事から、それが本当である事が分かる。だが、それでも警戒はされている。
「一応、関東にあるギルドの代表をしている坂本玲二だ! 北海道と関東までを繋ぐために来た! ここの代表に会わせて欲しい!」
玲二がそう言うと、現地の人達は顔を寄せ合って話し合い始めた。取りあえず、先程までの一触即発の雰囲気を回避することは出来た。話し合いでは無く、一方的に話した形だが、うまくいったといえるだろう。
「大丈夫だと思う?」
「伝えるべき事は伝えた。後は、野となれ山となれだ」
焔と星空の警戒は解かせていない。未だにあちらがどう行動するか分からないからだ。現地の方の話し合いが終わったのか、一人の男が近づいてくる。
「代表に会わせてやる。ただし、一対一だ」
「……良いだろう。場所はどこだ?」
「明日、ここに連れてくる。それまで、ここで待っていろ」
「分かった」
現地の人達は、それだけ言うと、空港から去って行った。
「……別に敵じゃないのに、警戒しすぎじゃない?」
「俺達は、いきなり現れたんだ仕方ないだろ」
「坂本さんの言う通りよ。取りあえず、あの香織を襲った男だけは、許さないわ」
珍しく、咲の苛つきが収まらないみたいだ。
「咲は落ち着いて、私は大丈夫だったからいいでしょ? それよりも、どうするの? ここで一泊することが決まったけど」
「まぁ、ここにいるしかないだろう。多少の周辺調査は必要だな。香織達も周辺を見てきても良いぞ」
「分かった。じゃあ、簡単に探索してくるね」
香織は、咲、焔、星空を連れて空港周辺の探索をしに向かった。
────────────────────────
「向こうに水辺があるみたいだよ」
「水辺だと何かあるの?」
「さぁ? ただ、本州と違う素材があるかもだから、色々と見て回りたいんだよ」
香織達は、空を駆ける事無く、敢えて地上を歩いていく。
「錬金術師は、素材が命だからね。焔と星空も何か見つけたら、呼んでね?」
「はい」
「分かった」
焔と星空は、香織に言われて、周りをキョロキョロとしていた。
「今のところどうなの?」
「…………変わらない」
咲の確認に、香織はげんなりとしながら答えた。ここまで歩いてきた中で、見つける草花は、どれも本州で見られるものだった。新しい素材を求めている香織は、見て分かる程に落ち込んでいる。
「ん? あそこにモンスターがいるね」
「戦う意思がないから、放っておいても良いと思うわよ」
「向かってきたら対応する事にしようか。焔と星空もそのつもりでね」
「分かりました」
「うん、分かった」
モンスターの気配を感じた香織達だったが、そのモンスターは、香織達に向かってこず、そのまま同じ場所に居座っている。
「ここまで、同じ素材しか無いとなると、ダンジョンの中の方がいいのかしらね」
「う~ん、どうなんだろう? 同じ国内だからって事もあるんじゃない?」
「別の国なら、素材が変わる可能性があるということですか?」
「多分ね。今の素材だけだと、どうしても先の薬とかが作れないんだよね。だから、どこかしらに違う素材が絶対にあるはずなんだ」
「じゃあ、ここのダンジョンに行くの?」
「う~ん、暇があればかな。今のところ、そんな事してたら危なそうだし」
香織達が自由気ままに散策していれば、現地の人達を警戒させる事に繋がりかねない。そのため、空港から遠く離れた場所に行くことは、まだ出来ないのだ。
香織達がしばらく歩いていると、地図に書いてある水辺に辿りついた。
「沼みたいね」
「う~ん、この周辺もあまり変わらないかな。もっと特別に違う場所だったら、ワンチャンあり得るかもだけど」
「北海道で特別感がある場所っていうと、青い池とかかしら?」
「それってどこにあるの?」
「…………」
香織に問いかけられて、咲は空を仰いで思い出そうとする。
「美瑛……だったかしら」
「それってどこら辺? 近く?」
「うろ覚えだけど、富良野と旭川の間ら辺だった気がするわ。ここからは遠いわね」
「じゃあ、今はダメそうだね。取りあえず、分かり合ってからだね」
「うまくいくと良いわね」
香織達がそんな事を話していると、焔と星空に呼び掛けられた。
「マスター!!」
「こっち! こっち!」
香織と咲は首を傾げながらも、焔と星空の元に向かう。
「どうしたの?」
「これを見て下さい」
「ん?」
香織は、焔が指を指したものを見る。そこには、青い花が一輪咲いていた。
「見た事ない花です」
「そうだね。ええと……」
焔の言うとおり、本州では見た事がない花だった。香織は、すぐに鑑定をする。
「う~ん、ただの花みたいだね。効能は何も無いみたい。染料に使えるかな」
「そうですか……」
あまり意味のないものだと知り、焔と星空がしょんぼりとする。香織は、そんな二人の頭を優しく撫でる。
「教えてくれてありがとう。見た事がない素材があるって分かったし」
「はい!」
「うん」
香織に頭を撫でられて嬉しかったのか、さっきまでのしょんぼりが嘘のように笑顔になった。
「じゃあ、帰ろうか」
「そうね」
香織達が空港に戻ると、他の冒険者達も同じように帰ってきていた。その日は、テントを建てて眠ることになった。
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