75.北海道へ
一週間の準備期間を経て、香織達は、羽田空港に集まっていた。
「あれから、何度か試運転をしたが、問題は起きなかった。安全面は大丈夫と言えるだろう」
「長距離移動でどうなるかってところだね。そういえば、ここで飛行機を飛ばしていたけど、襲撃とかなかった?」
香織と玲二は、出発前に話し合いをしていた。そんな中で、香織は、空港に襲撃がなかったかどうかを訊く。
「モンスターによる襲撃があったが、結界のおかげで防げたな。後は、奪還者どもが来た事もあった。そっちは、結界をすり抜けてきたからな。空港内で少し戦闘が起きた」
「そうなんだよね。人の出入りを制限すると、色々と不都合なことが起こるから難しいんだ」
「どういうことだ?」
玲二は、首を傾げる。
「例えば、飛行機に悪意を持った人が乗っていたとして、それが結界内に入ろうとしたらどうなると思う?」
「悪意を持った人だけ、弾かれるんじゃないか?」
「そう。でも、飛行機の中で弾かれ続けたら?」
「……最悪、飛行機に穴が開くことになりかねないということか?」
「そういうこと。その人が潰れるだけならいいんだけどね」
「中々に酷いことを言うな……」
玲二は思わず苦笑いをしてしまう。
「警備員は必要になりそうだね」
「そうだな。一応、ギルドの方で警備してはいるけどな」
「色々と大変だね」
「まぁな。問題は山積みだ。関西方面への通路も繋がないといけないからな」
「進んでるの?」
「少しずつだけどな。定期的に報告し合ってはいるから、互いに進んでいる事は分かっている」
横浜と京都を繋ぐための通路を作るために、互いに地面の舗装をしていっている。
「ただ、山賊と奪還者の妨害があってな。その対応の方に四苦八苦している」
「う~ん、ここまで来たら、協力するとか考えないのかな?」
「どうなんだろうな。何度か説得を試みてはいるらしいんだが、問答無用らしい」
「殲滅する?」
「いや、無駄に血が流れるだけだ。それよりも労働力にしたいところだな」
香織と玲二の話し合いが物騒な方向に行きそうになった時、後ろから咲が歩み寄ってきた。
「香織、出発の時間よ」
「分かった」
「後、向こうの方で、冒険者の方が坂本さんを探していましたよ」
「そうか、分かった」
玲二は、冒険者の方に向かい、香織と咲は、飛行機の方に向かった。
「一時間半くらいだっけ?」
「大体ね。それでも二年前までだから、今はどのくらい掛かるかは分からないわよ」
「それもそうだね。焔達は?」
「万里と恵里と先に飛行機に乗ってるわ。まさか、二人も一緒に行くとは思わなかったわね」
「そうだね。一応、冒険者の中じゃ、強い方らしいし、こういう開拓? に行くのはあってるかもね」
香織達は話ながら、飛行機の中に入っていく。中は、二年前までの飛行機と然程変わらない。違うところといえば、席と席の前後の空間が広い点だ。
「ゆったりと出来るのは良いよね」
「長い間乗ることになるかもしれないものね」
「私、窓側でいい?」
「いいわよ」
香織は窓側に座る。その横に咲が座った。少し離れた所に焔と星空、万里と恵里が座っている。その他にも、多数の冒険者達が乗っている。
「よし、出発するぞ。全員シートベルトを着用してくれ」
最後に乗り込んだ玲二が指示を飛ばす。皆がシートベルトを付けた。
『出発します。揺れますので、しっかりと捕まって下さい』
そのアナウンスと共に、飛行機が進み始めた。香織達の身体に正面から圧が掛かってくる。香織は思わず、咲の手を握った。咲は何も言わずに握り返す。
そして、香織達は空へと旅だった。
────────────────────────
「わぁ、見て、咲! 雲の上だよ!」
「そうね」
香織は、興奮して咲を呼ぶ。咲は、子供のようにはしゃぐ香織を温かい目で見守りつつ返事をする。少し離れた場所では、焔と星空が香織と同じように目を輝かせている。
(子供が一人増えたわね。いや、焔と星空の方は外に夢中になっているだけマシね。香織は……)
「咲! 咲!」
香織は、咲の服を引っ張って窓に近づける。咲は、逆らうことなく香織に被さる形で近づいていく。
「どうしたの?」
「あれ見て。でかいモンスターがいる」
「え?」
咲が、香織の指さす方を見ると、巨大な亀形モンスターが地面に伏せていた。その甲羅は一つの山になっている。
「すごいわね。ん? あれ、よく見たら、山の上に家がないかしら?」
「家? 本当だ。じゃあ、野生のモンスターじゃないのかな?」
「誰かが使役して上に暮らしているって事? あり得るわね」
咲が見つけた家は、小さなログハウスになっていた。ベランダと思わしき場所に白いものが揺らいでいる事から、誰かが住んでいる可能性が大きい。
「ああいうスキルもあるのかな?」
「そうね。召喚士や調教師みたいなスキルや職業を持っている人がいても不思議ではないと思うわよ」
「こっちに害がなければ、倒す必要はないよね?」
「そうね。放っておけば良いと思うわよ」
そんな事を話している内にそのモンスターが見えなくなった。
「そういえば、領空権の調子はどう?」
「契約を交わしたから、危険なものっていう反応はないわ。でも、どこを飛んでいるかは分かるわね」
あの試運転の日、咲は玲二達と契約を交わしていた。そのおかげで、咲に問答無用で叩き落とされるようなことはなくなっている。
「やろうと思えば、落とせるみたいね。やらないけど」
「権利って、本当にデタラメな力だよね」
「そうね。使い方は考えないといけないものだわ」
飛行機での移動は、順調に進んでいった。
「香織、今どこら辺か分かるか?」
「ちょっと待って」
玲二に尋ねられたので、香織は、地図を取り出して確認する。
「もうすぐ、北海道だよ。今は、津軽海峡の東側ら辺」
「そうか。着陸予定は、新千歳空港にしているんだが、案内は頼めるか?」
「いいよ。ちょっと待ってね」
香織はコンパスを取り出して方向を確認する。
「一応、このまま真っ直ぐで平気そう。私も運転席にいった方がいい?」
「ああ、頼む」
香織は、パイロットがいる機首の方に向かう。
「失礼します」
「すみません。向こうの管制塔は機能していないので、場所の認識が難しいんです」
「大丈夫ですよ。えっと、今のところ、そのまま進んで大丈夫です。方向はあっています」
香織は、コックピットに備え付けられている椅子に座って、方向を指示していく。地図とコンパスで、位置と方向は分かるので、意外とスムーズに移動出来ている。
「もうすぐ新千歳空港だと思います。ここから先に、森でも住宅街でもない開けた空間があるので」
「なるほど。こちらでも目視出来ました」
そう言われたので、香織が窓に寄っていく。
「う~ん、結構荒れてそう……」
香織は単眼鏡を取り出して、先を覗く。そこには、羽田と同じように滑走路が備わった空港があった。しかし、羽田空港と同じように、荒れ果てている。
「まずいですね。荒れ方によっては、着陸が不可能かもしれません」
「それは、やばいですね。どのくらいなら、耐えられますか?」
「ひび割れ程度なら、この機体であれば大丈夫だと思います」
「…………完全に隆起してますね。う~ん、上で一度ぐるっと回ってくる事って出来ます?」
「ここを一周ですか? それなら、出来ますが……」
「じゃあ、それで」
そう言って、香織はコックピットを出る。
「咲、お願い」
乗客席に顔を出して咲にそう伝えてから、出入口を開けて飛び降りた。誰も止める暇もなかった。出入口が開いたことによって、辺りの空気が外に流れていく。
「焔! 星空! しっかりと捕まってなさい!」
咲は、流れに逆らわず、出入口に向かっていく。そして、手早く出入口を閉めた。
「全く、何しに行ったのかしら?」
咲、焔、星空以外の冒険者達は、青い顔のまま椅子にぐったりとしていた。
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飛行機から飛び降りた香織は、真っ直ぐ新千歳空港を目指していた。
(いつも空を駆けてるからか、あまり怖いとかはないなぁ。まぁ、いつもと高さは段違いなんだけどね)
ある程度の高さになったところで、靴に魔力を注いで空中に足場を作り出す。
「よっと……」
足場を順次作り出していくことで、階段のように地上に降りていった。
「う~ん、空から見るよりも酷いかな。まぁ、羽田もこんな感じだったけど」
香織は、歩いて滑走路の中心に向かっていく。
「よし!」
足下から魔法陣を展開していき、滑走路全体に広げる。そして、隆起した地面やひび割れた地面が直っていく。
「これで大丈夫かな。……どうやって知らせよう」
地上に降りた香織は、どうやって安全になったかを知らせれば良いのかを悩んだ。
「う~ん、まぁ、大丈夫かな」
香織は滑走路の端に移動する。三十分掛かって飛行機が着陸してきた。
「ん?」
香織は、飛行機の着陸と共に何かの気配を感じた。そちらに視線を向けると、多くの人々が、武器を持って香織に近づいて来ていた。
「あははは……何かヤバいかも……」
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