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71.組み立て作業

 魔導発電機の部品を全て作る事が出来た香織は、続いてモンスターの対策を考え始めた。


「う~ん、前に考えたオブジェで囲う方法は……やっぱ、数が多くなるから難しいかも……ただでさえ、魔鉱石を沢山使ったんだもんね……」


 香織はいつかと同じように、寝っ転がりながら考えていた。もちろん、布団は敷いてある。


「いや……この方法なら、もしかしたら……」


 香織の頭の中に、ある方法が過ぎる。


「残ってる魔鉱石でも足りるかな。後は、設置場所を考えないと……」


 香織は、地図を広げて羽田空港周辺を見ていく。


「こことここ……こことここ……で、いいかな。よし、羽田に行こう!」


 香織は、部品をアイテムボックスに詰め込んで、工房から出る。すると、ちょうどリビングから出てくる咲と鉢合わせた。


「香織? どこか行くの?」

「発電機の部品が出来たし、モンスターの対策も思いついたから、早速、羽田に向かおうって思ってね」

「じゃあ、私も行くわ。魔鉱石はもう必要ないんでしょ?」

「今のところね。じゃあ、行こうか」


 香織と咲は、二人で空を駆けていき、羽田を目指していく。焔と星空は、留守番だ。連日のダンジョン探索で疲れているだろうと判断した香織が、休むように言ったのだった。


「それで、モンスター対策は、どうするの?」

「ひ・み・つ」


 香織は、口元に人差し指をあてながらそう言った。そして、イラッとした咲による頬つまみ攻撃を受けるのだった。


 ────────────────────────


 香織と咲が羽田に着くと、そこには誰もいなかった。


「坂本さん達は、まだみたいだね」

「香織の設計図で飛行機を組み立てるんでしょ? それに、全部魔鉱石で造るっていうじゃない。人数の利があっても、時間は掛かるわよ」

「それもそうだね。じゃあ、早速、モンスター対策をやっていくよ!」


 香織が胸を張りながら言う。咲は、何をするか分からないので、取りあえず見守ることにしていた。


「まずはここに……」


 香織は、羽田空港の敷地ギリギリのある場所に魔鉱石を落としていく。そして、その魔鉱石の下に魔法陣を展開し、魔鉱石を錬成していく。魔鉱石がその姿を失っていき、一つの魔法陣を描き出していく。その大きさは、半径五メートルほどだ。


「大きな魔法陣ね。これで、モンスターの侵入を防げるの?」

「これだけじゃ、ダメだよ。後、三箇所に魔法陣を作り出すんだ」

「そうなの? なら、速く回りましょう。モンスターの侵入を防げるなら、早いにこしたことは無いわ」

「そうだね。じゃあ、次の場所に行こう」


 香織と咲は、空を駆けながら次の場所へと向かっていく。そうして、二箇所を周り、後、一箇所となったところで、咲がある事に気が付いた。


「一つ一つの魔法陣が、少し違うのね」

「気が付いた? そこがミソなんだ。それぞれの魔法陣が各々違う役割を果たすの」

「じゃあ、四つの魔法陣を繋げて結界を張るという事ね」

「そういうこと。家の絶縁結界と似た感じだけど、あっちは全部が同じ魔法陣だから少し違うんだ」


 香織と咲は、最後の魔法陣を描き出す。


「これで完成! じゃあ、やるよ」


 香織は、最後の魔法陣に魔力を込めていく。すると、魔法陣から二本の筋が伸びていく。その方向には、香織が設置した魔法陣がある。そして、筋が伸びた二つの魔法陣から一本ずつ筋が伸びっていった。それは、最後の魔法陣に伸びている。


 そうして出来上がった四角形は、綺麗に羽田空港を囲っていた。そして、透明な壁が空高くまで伸びていった。


「どこまで伸びているの?」

「どこまでもって言いたいところだけど、地球の圏内までかな」

「どういう仕組みなの? ある程度魔法式が読めるけど、香織の作り出した魔法陣は、全く分からないわ」

「ふっふふふ、良いよ。説明してあげよう!」


 香織は、腰に手を当てて上体を軽く反らし、胸を張る。咲は、温かい眼差しで見守る。今の香織は、どう考えても、新しいおもちゃを説明したい子供だからだ。


「まず、最初に設置した魔法陣は、魔力を吸収する効果に特化した魔法陣だよ。これが、この結界の心臓になるんだ。ここから、それぞれの魔法陣に魔力が送られていくの。

 次に、二番目と三番目に設置した魔法陣が結界の生成を司ってるんだ。魔力の通り道、さっき伸びていった筋に沿って、二方向に結界が生成されるんだ。

 そして、最後の魔法陣は、結界に不壊を付加する効果と魔力循環を促す効果があるんだ。これで、魔力を結界内に循環させて、結界を維持し続けて、不壊の能力を付加してるの。これが、結界の仕組みだよ」

「結構、簡単な感じなのね。もう少し複雑かと思ったわ」

「複雑に出来なくもないけど、簡単にできるなら、それにこしたことは無いでしょ?」


 香織が簡単に出来るものにしたのは、複雑にすると面倒くさいということもあったが、一番の理由は、消費魔力を少なくするためだ。改造した簡単な魔法陣四つを経由するだけなので、消費する魔力はかなり少ない。


「そういうものなのね。それじゃあ、後は、ゆっくりと組み立てられるわけね」

「うん。これは、かなり複雑だし、刻印しつつ組み立てるから、私にしか出来ないんだよね」

「最初から刻印したものを作り出せば良かったんじゃない?」

「ちょっとのずれが、不調の原因になるから、微調整をしないといけないんだよ。完成品をポンッと出せるなら楽だったんだけどね」


 錬金釜無しでも錬成を行えるようになった香織だったが、本格的な錬成には、錬金釜が必要不可欠だった。なので、一軒家程の高さになる魔導発電機を作るには、部品単位で用意する事になった。赤龍戦で使ったレールガンなどは、大まかに作れれば良かったので、錬金釜無しでも平気だったのだ。


「じゃあ、作り始めるね。咲は、どうするの?」

「見守っているわ。力仕事が必要だったら、呼んで」

「うん」


 咲は、香織を見守れる位置にレジャーシートを敷いて座る。


「さてと、まずはここの土地を整えて」


 香織は、地面に手を付いて地面を綺麗にならしていく。そして、綺麗になった地面に最初の土台となる部品を置いていった。


「ここを組み合わせて、刻印魔法で強度を最大限に強化。錬成で、継ぎ目を完全に消す」


 四角形の土台が出来上がる。その次に、三方を囲むように壁を配置。これも土台と同じ処理をしていく。


「ここから、集中してやっていかないと……」


 香織は、靴を脱いで土台に上がり、奥まで歩いていく。そして、アイテムボックスから、魔導発電機の部品とそれを接着させるための道具を取り出す。そして、一つ一つ丁寧に配置して固定する。一応、頭の中に設計図があるため、部品は正確に作られているが、実際に組み立てると、若干のずれが生じる事がある。その都度、香織は錬成で微調整をしていく。


 部品毎に役割が存在するので、設置が完了した部品には、刻印魔法で魔法式を刻印していく。細かい作業な上、組み立てないといけないものが多いので、一日で終わる作業ではなかった。


 日が沈むまで作業をして、全体の十分の一も進めることが出来なかった。


「香織、そろそろ帰るわよ」

「うん、分かった」


 香織は、上から大きな布を被せて魔導発電機を覆う。


 それから、香織は、三日間作業を続けていった。その作業日数で、全体の五分の一が終わった。そして、今日から、玲二達が飛行機の組み立てを始める。場所は、この前いた格納庫に決まったらしい。


「咲様」


 名前を呼ばれた咲がそちらを振り返ると、焔と星空、万里、恵里が歩いてきていた。


「皆揃ってどうしたの?」

「万里と恵里に誘われて来ました」

「お店は休業の札を掛けておきましたので、ご心配なく」

「いい子ね」


 咲が焔の頭を撫でる。すると、無言で星空が頭を寄せる。焔だけずるいという意思表示だろう。咲は、優しく微笑みながら、星空のことも撫でる。


「咲さん、久しぶり!」

「お久しぶりです」


 万里と恵里が咲に近寄っていく。


「香織さんは、作業中?」

「そうよ。しばらくは、集中しているから、話は出来ないと思うわ」

「すごいですね。こんな大きな魔道具初めて見ました」

「これ自体は、私達の家にある魔導発電機の巨大化版だけどね。向こうで、坂本さん達が、飛行機を組み立ててるわよ。そっちも見てきたら?」

「後で、見に行きます。今日は咲さん達に話があってきました」


 咲は、何事かと首を傾げる。恵里は、隣にいる万里と目配せをしてから、咲と向き合う。


「実は、私達、もう一度、冒険者ギルドに入ろうと思うんです」

「そう、頑張って」


 咲の返しの言葉は、それだけだった。言葉だけだと冷たく感じるが、咲の眼差しは優しかった。


「えっ!? それだけ!?」


 万里は、咲の薄い反応に驚く。


「昔程、嫌な組織じゃなくなっているから、問題ないと思うわよ。何かあっても坂本さんがいることだし」

「私は今のギルドしか知りませんが、そんなにヤバい組織だったのですか?」


 昔のギルドを何も知らない焔が咲に訊く。星空も興味津々みたいだ。


「昔のギルドは、一番上に座っていた人がクズだったのよ。こんな世界になっても金儲けしか考えない奴でね。ギルドを創設したのも、この世界で金を集めるのに丁度いいと思ったかららしいわよ。そんな奴だからこそ、私達の、というよりも香織の魔導発電機に目を付けてね。何度も何度も嫌がらせのように、うちに来て喚いていたわ。段々と営業妨害までしてくるようになったから、絶縁結界を使って、進入そのものを拒んだのよ。

 そういう人だから、冒険者の管理も雑でね。数や規模が増えて、目が行き届かなくなったのよ。そのせいで、万里と恵里が被ったような事件が起きるようになってね。坂本さんも大変だったと思うわよ。まぁ、今の方が何倍も大変だろうけどね」


 咲は、ちらっと格納庫の方を見る。そこには、飛行機の組み立てを見守りつつ、手伝えることを手伝っている玲二の姿があった。


「赤龍戦で、ギルド上層部が全て消し飛んだ後、坂本さんが後を継いで、ギルドの在り方は、大きく変わったわ。昔いたクズ共が少なくなっているもの」


 焔と星空に説明をし終えた咲は、そう言って笑った。言葉の所々に棘があるのは、それだけ嫌いだったということの現れだ。


「だから、咲様は反対なさらないのですね」

「そうよ。でも、私達がギルドに入る事はないでしょうね」


 咲がそう言うと、焔や星空だけでなく、万里と恵里も首を傾げた。しかし、咲は優しく微笑むだけで、理由をいうことはなかった。


 焔、星空、万里、恵里が見学に来ている間も香織や冒険者達は、作業を続ける。


 結果、香織の魔導発電機よりも複数人で組み立てている飛行機の方が速く出来上がった。魔導発電機の組み立ては、遅れること二日。組み立て始めた日からは、八日掛かった。

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