69.地道に一歩一歩
京都から自分達の家に戻った香織達は、すぐに布団に入って眠りについた。
その次の日、香織達の家に万里と恵里の両親が訪ねてきた。
「この度は、約束を守って頂きありがとうございます」
二人の父親は、開口一番そう言って頭を下げた。それに母親も続く。
「頭を上げてください! 私達は何もしていません。全て、万里ちゃんと恵里ちゃんの力です!」
香織は慌ててそう言った。実際に、香織達は、万里と恵里を守ってはいない。自分達の戦いに手一杯だったからだ。
「それでも、無事に帰ってきたことは確かです。二人にも色々と話を聞きました。お二人と娘さん達がいなければ、自分達は死んでいたはずだと言っていました」
「いや、それはそうかもしれませんが……」
「私達は、私達の役割を果たしただけですし、お礼を言われるようなことはしていません」
万里と恵里が言っていることは当然だ。香織、咲、焔、星空がいなければ、四天王を倒した後に酒呑童子達と戦う羽目になっていたのだから。
その後、香織達は、万里と恵里の両親と一言二言話してから見送った。
「う~ん、何だか、少し悪い気もするなぁ」
「そうね。私達というより坂本さん達が守ったっていう方が正しいものね」
「まぁ、終わったことだしいっか。私、工房に籠もるね。何かあったら呼んで」
「分かりました、マスター」
「私も少し出かけてくるわ」
「行ってらっしゃいませ、咲様」
焔に見送られて、香織は工房へ、咲は外へと向かった。
もぐもぐ、もぐもぐ。
一方その頃、星空はリビングで朝ご飯を食べていた。
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工房に籠もった香織は、釜の中をかき回し続けていた。
「取りあえず、魔導発電機を作る事にしたけど、建造物の大きさから部品単位で作らないといけないのが厄介だなぁ」
香織がかき回しているのは、魔鉱石と鉄を大量に入れたものだ。釜で合金にしつつ、形を整えているのだ。
「う~ん、さすがに魔鉱石が足りないなぁ。大きさが大きさだから仕方ないけど……」
魔導発電機は、香織達の家の電力を賄う大きさでも、かなりの量の魔鉱石を使う。そして、魔鉱石自体、魔道具の基本素材として使われることが多いので、消費量がえぐいのだ。
「束縛の鎖を作りすぎたのが痛いかな。それに、魔導発電機を作っても、モンスターに壊されたら意味ないし、それの対策も考えなきゃ……」
部品をいくつか作ったところで休憩をとった香織は、工房の机に突っ伏す。
「結界……絶縁結界・不壊なら、モンスターの進入を完全に防げるけど……魔鉱石がないよ~~!!」
香織は、頭がパンクしそうになっていた。
「…………そもそも絶縁結界をそんな大きさで展開したら、色々迷惑が掛かるというか、入港制限が自然と出来上がる気がする……それは、それでありか」
香織は、思考を口に出して、考えを整えていく。
「そもそも、そんな巨大な結界をどうやって構築すればいいのさ……いや、京都でやった錬成と同じ要領でやれば……私の魔力がなくなるか……」
机に突っ伏していた香織は、とうとう床に寝そべりだした。
「モンスターの侵入を防ぐだけなら、近寄らない君があればいいのかな……効力が保たないか……固形化……いっそ、何かしらのオブジェを近寄らない君みたいにする? でも、効果範囲があるから、結構沢山必要になるかも……いや、そこは別に気にしないくてもいいのかな……だったら、これが一番いいのかも!」
「……床に寝ながら何をしてるの?」
香織が声のした方向を見ると、入り口に咲が立っていた。すごく呆れた眼をしている。
「考え事」
「取りあえず、床から起きて考えなさい」
「でも、こうしてると意外なアイデアが出てくるんだよ」
「なら、せめて布団でも敷きなさい」
「面倒くさいじゃん」
香織が頬を膨らましてそう言うと、咲の額に青筋が浮かぶ。
「そう? じゃあ、せっかく採ってきた魔鉱石は、その辺に捨ててくるわね」
「えっ!? 採ってきてくれたの!?」
「ええ、でも、香織がちゃんとしてくれないから、没収ね」
「ごめんなさい! 布団敷くから!」
香織は、慌てて布団を敷いて寝っ転がる。
「はぁ……まぁ、良いわよ。どこに置けば良い?」
「そっちの素材棚の前に置いておいて」
「あら、本当に素材が無いわね」
「東京、黒龍、京都って沢山道具が必要になったからね。特に、黒龍と京都で」
咲は、工房の素材棚の前に、アイテムボックスから魔鉱石を取り出して置いていく。
「いつの間に、ダンジョンまで行ってたの?」
「香織が工房に籠もるって言った後によ。空を駆けて、中を疾走すれば、かなりの早さで降りられたわ。まぁ、中の構造を知っている前提だけどね」
咲は、近くにあるダンジョンを持ち前のスピードで疾走して、一気に魔鉱石がある下層まで向かい、採掘をしていた。香織と一緒に行動していたから、どういう場所に多く存在するかは知っているので、そう難しいことでは無い。道中のモンスターも無視あるいは走りながら斬り伏せるので、障害物にすらならない。
「わざわざ、ありがとう。全く足りなくなっちゃって困ってたんだ」
「何を作っているの?」
「空港に置く魔導発電機だよ。でかいからパーツ単位で作ってるんだ」
「そういえば、家に置いてある発電機は、そのまま出てきてたわね」
「パーツ作りもかなり掛かるけど、組み立ても大変だよ……」
香織は、天井を向いて遠い目をしていた。
「それについて考えていたの?」
「ううん。考えてたのは、モンスターの侵入を防ぐ方法」
「絶縁結界は……大きすぎるのね」
「そういうこと。ちょっと良いアイデアが出てきたんだけど、もう少し改良したいなぁってなってる」
「そうなのね。まあ、今は取りあえず、起き上がりなさい」
咲にそう言われて、香織が立ち上がる。
「何かあったっけ?」
「二人の好物を作ってあげるんでしょ? 早く準備をしちゃいましょ。あの子達の店番が終わったら、あの子達が作っちゃうわよ」
「そうだった。早く作らなきゃ」
香織と咲は台所まで行き、焔と星空のために夜ご飯を作る。焔達が生まれてからは、二人に料理を任せていたので、久しぶりの料理だ。今日作るのは、焔の好物である炒飯と星空の好物である唐揚げだ。
二人で手分けしてスムーズに料理を進めていく。その結果、二人の店番が終わるタイミングぴったりに料理が出揃った。
「あれ? ご飯が出来てる」
「本当だ。お手を煩わせてしまいすみません」
ぽかんとしている星空に対して、焔は、わざわざ作って貰ったということに罪悪感を抱いていた。
「二人とも忘れてるでしょ。今日は、私達が二人に好物を作るって言ってあったでしょ?」
香織がそう言うと、焔と星空は、それを思い出したようであっ! という顔になる。
「まぁ、香織自身も忘れていたけどね」
「ちょっと、咲! それは言わない約束でしょ!?」
「そんな約束してないわよ」
「なんだとぉ!」
香織は、咲の頬を引っ張る。それに対して咲のアイアンクローが香織の頭を襲った。
「うぐっ!」
「ほら、馬鹿やってないでご飯を食べましょう」
アイアンクローをしたまま、香織を席に座らせて自分も席に座る。焔と星空も同じように席に座った。そして、四人揃ってご飯を食べ始める。二人の好物ということもあって、焔と星空は終始笑顔でいた。
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それから一週間後、香織達の元に綾子がやって来た。玲二は、他の業務に掛かりきりで、来られなかったらしい。
「本日は、先日調査をお願いされたパイロットについての報告をさせてもらいに来ました」
綾子達は、あれから調査を続けていたらしい。
「結論から申し上げますと、パイロットは見付かりました。それも、旅客機を操縦したことのあるパイロットです」
「本当ですか!?」
綾子の報告に香織は、思わず立ち上がった。
「はい。ギルドの方の職員として働いています。一応、香織さん達の事を話したら、是非協力させて欲しいとおっしゃっていました」
「よかった。これで、パイロットについても大丈夫そうだね」
「そうね。本格的に、アメリカに近づいて来たわね」
香織と咲は、着実に進んできているアメリカ旅行に喜びを隠せない。
「ですが、二年間も操縦をしていないから、日本国内で練習をさせて欲しいとも言っています」
「それくらいなら、いいですよ。坂本さんが目指している動線の確保も兼ねて北海道とかに行ってみれば良いと思います。もちろん、私達も付いていきますし」
「それはありがたいことです。しかし、問題がありまして……」
綾子はそこで言葉に詰まる。
「飛行機がないということですか?」
「はい。まさにその通りです。皆さんが京都に行っている間に、羽田空港の旅客機を調べていたのですが、そのほとんどが使い物にならないとのことでした」
「やっぱりそうですよね。う~ん、一から作った方が早いのかな?」
「どうかしらね。私達は、飛行機造りのノウハウを持っているわけでは無いわ。今ある飛行機を直す方が簡単かもしれないわよ」
「一応、私達ギルド側でも直せないか確認をしています。追加の報告が在り次第、また来させて頂きます」
「分かりました。私達の方でも羽田に行って確認してみます」
綾子との話し合いを終え、香織達は、リビングでお茶を飲んでいた。
「う~ん、発電機もそうだけど、モンスター対策、さらには、飛行機直しかぁ……」
「まだまだ課題は一杯だけど、道は確実に出来てきているわね」
「今から、羽田まで行ってくる。咲は、魔鉱石を取りに行ってくれる?」
「分かったわ。気を付けてね」
「咲もね」
香織と咲は、それぞれ準備を整えて、出発した。焔と星空は、店番なので留守番だ。
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