66.咲 対 酒呑童子
咲の黒百合と炎月による連撃が、酒呑童子を襲う。酒呑童子は、両腕を巧みに動かして、その連撃をいなしていた。そして、連撃の隙間、ほんの一瞬しかないその隙間に、ジャブを打つ。咲は、そのジャブに対して、身体を傾けることでギリギリ避ける。そして、咲の一撃と酒呑童子の一撃がぶつかりあった反動で互いに距離を開ける。
「ふぅ……」
咲は、距離が開いた瞬間、溜めていた息を吐き出した。そんな咲の頬に赤い液体が伝う。咲は、自分の頬を手の甲で拭う。すると、そこに刻まれていた傷が消え去っていた。
それを笑いながら見ていた酒呑童子の拳に一筋の傷が刻まれていた。通常であれば、傷を刻まれれば、怒りに震えるところだが、酒呑童子はより一層笑みを深くした。自分に傷を付けられる咲が、面白くて仕方がないようだった。
咲と酒呑童子は、互いに一切言葉を発しなくなった。そんな事をしている暇があれば、互いにぶつかり合っているからだ。咲は、空を駆けて、縦横無尽に移動して攻撃をしている。酒呑童子は、その悉くに反応して対処していた。時折、咲の攻撃がクリーンヒットして、酒呑童子を吹き飛ばしたり、酒呑童子の攻撃に耐えきれず、咲が吹き飛んだりするので、戦場が移り変わり続ける。
咲が黒百合を振い、酒呑童子の攻撃を弾き、生まれた隙に炎月を叩き込む。酒呑童子は、開いている方の手で、炎月の攻撃を防ぐ。防がれた反動を利用して、横にスライドし、空中を踏みしめて再び斬り込む。
咲が攻撃し、酒呑童子が防ぐ。酒呑童子が攻撃し、咲が防ぐ。時折、互いの攻撃がぶつかり合い、距離が開く。それを繰り返していた。互いに決定打を欠いた攻防は、どんどん続いて行っていた。
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スタンピードを止めた香織は、空を駆けて咲の元に向かおうとしていた。しかし、咲と酒呑童子の戦闘を見ると、すぐに目的地を変更した。
「坂本さん!」
香織は、玲二達がいる京都御所に降り立った。
「香織か!? 何故、ここにいるんだ!?」
「私は、スタンピードに対処してたの。今、あそこで戦ってるのは、咲一人だよ」
「そうか……香織は、参戦しないのか?」
玲二の言葉に香織は少し苦い顔をした。
「無理。私は、咲達の高速戦闘についていくことは出来ないから。ここで、見ることしか出来ないよ」
「そうなのか……」
「うん、せめて、間接的にでも助けられれば……」
香織は、やるせない顔で咲が戦っている音がする方向を睨む。そんな香織を見て、玲二達は、本格的に自分達の出来る事が無い事を実感した。玲二達もその場で歯がみするしかない。
「……そうだ!! この街を支配すれば良いんだ!!」
香織が急にそう叫んだ。
「何を言っているんだ、香織!?」
「そのままだよ。私が、この街を支配するの。こうやって!!」
香織が、地面に手をつく。すると、香織を中心として、魔法陣が展開する。その魔法陣はどんどん大きくなっていき、街を覆う規模になっていった。
「すぅ~~はぁ~~」
香織は、深呼吸をして息を整える。香織の額には、大粒の汗が浮かんでいる。魔力消費量が多く、かなり消耗しているのだ。
「よし! 全域に広がった!」
玲二達は、香織が言っていること。その真意を理解出来ずに、混乱していた。玲二達は、香織が何をするのかを見ていた。
すると、香織の下の地面がいきなり隆起して、真っ直ぐ上に伸びていった。いきなりの地形変動に玲二達は開いた口が塞がらなかった。
香織は、下にいる玲二達が驚いていることを知らずに、咲が戦闘をしている場所を見る。
「うまく、咲に合わせないと……」
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咲と酒呑童子が戦っていると、足下に大きな魔法陣が広がっていった。
(これは……香織?)
咲は、その魔法陣が香織によるものだといち早く気が付いた。だからこそ、すぐに攻撃を再開する。
『ぐっ……』
判断が遅れた酒呑童子は、咲の一撃に対処することが出来なかった。酒呑童子の身体に一文字の傷がつく。
「はああああああああああ!!!!」
咲の連撃が酒呑童子を襲う。
『舐めるなぁアアアアアアアアアア!!!!』
咲の攻撃をものともせずに、酒呑童子は、拳を振り下ろす。その拳は真っ直ぐに咲に向かっていたが、途中で軌道を変え、地面に向かっていく。
『何!?』
酒呑童子が足下を見ると、右脚の地面が陥没していた。そのせいで、拳の軌道が変わったのだ。
「はあっ!!」
『ぐあっ!』
再び、咲の攻撃が酒呑童子に傷を刻む。酒呑童子は、左腕で咲を薙ぎ払う。さすがの咲も、すぐに後方に下がる事は出来ないので、黒百合と炎月を盾にしようとする。しかし、攻撃が咲に届く直前に、地面が変形し、酒呑童子の腕に絡みつく。その隙を突き、咲が後ろに退く。
『あの嬢ちゃんか……面白い事をしてくれる!!』
酒呑童子は、怒るどころか、笑みを深くする。酒呑童子は、地面に向かって拳を振り下ろす。地面を破壊することで、香織の出来る事を減らそうという魂胆だろう。酒呑童子の思惑は、すぐに外れてしまった。香織が、地面の素材を衝撃吸収材にしたからだ。
『ふっはははははははは!! やはり、面白い!! これほど滾るのもいつぶりだ!!?』
「いつまで叫んでるの?」
一瞬で詰めてきた咲が、酒呑童子に向けて黒百合を振う。その攻撃に合わせて、酒呑童子の拳が振われる。拳と黒百合のぶつかり合いで、互いに後退する。咲は、地面を足に向けるのではなく水平方向に向けた。そこに、香織が壁を作り出す。壁を蹴って、勢いよく酒呑童子に詰める。
香織は、逆に酒呑童子の足下を少し崩してから固める。足首まで埋まった酒呑童子は、足を動かすことが出来ないので、踏み込んで攻撃することが出来ない。
「はあああああああああ!!」
『うおおおおおおおおお!!』
咲の振う炎月と酒呑童子の拳がぶつかり合う。その直前、酒呑童子の拳に赤いオーラが纏わり付く。
「!?」
『はっ!!』
酒呑童子の拳によって炎月が咲の手の中から飛ばされる。その結果、咲に明確な隙が生まれる。
『おらああああああああああ!!』
「……!!」
咲の腹に向かって飛んでくる拳。その前に香織が作り出した壁が割って入る。香織によって衝撃吸収材に変化した壁に、酒呑童子の拳がめり込む。先程までなら、この壁でも止められるはずだったが、オーラを纏った拳では勢いを弱めることしか出来ない。
咲は、黒百合を盾にして拳を受ける。勢いが落ちている一撃は、咲でもぎりぎり受け止める事が出来た。咲は、地面を削りながら勢いを殺す。そして、すぐに走り出した。香織もそれをサポートする。
香織が作り出した立体的な道を咲が走り、道の途中で酒呑童子に斬りかかる。黒百合に紫色のオーラが纏わり付く。酒呑童子も赤いオーラを纏った拳で受ける。刀と拳のぶつかり合いではなく、オーラとオーラがぶつかり合う。大量の火花が散る。咲は、そのまま酒呑童子の横を抜けて、背後にある道に着地して再び走る。
そして、道の途中でまた酒呑童子に斬りかかる。また、脇を抜けて道を走る。これを繰り返し、三百六十度あらゆる角度から、酒呑童子に斬りかかっていた。さらに、咲は、攻撃の速度、走る速度、あらゆる速さをどんどん上げていく。
咲と酒呑童子とのぶつかり合いの音が京都中に響き渡る。それは、玲二達にも焔達にも聞こえている。自分達にはどうにも出来ない。こうして、見守ることしか出来ない。そんなやるせなさからか、香織を除いた皆が手を組んで祈っていた。祈るのは、咲の勝利を願ってではない。
(咲、無事に帰れよ……)
(咲さん、絶対に帰ってきて……)
(お願いします。咲さんを守ってください……)
(咲様、どうかご無事で……)
(死なないで……)
全員が全員、咲の無事を祈っていた。勝敗なんてどうでも良い。だから、絶対に帰ってきて欲しいと。
「やばい……魔力が……」
京都全域を操り、咲をサポートしていた香織の魔力が尽きてしまった。魔力回復薬でも、魔力消費に全く追いつかない。香織は、意識を手放す事になった。
(地形の変化がなくなった!? 香織に何かあったの!?)
咲は、地形が変化しなくなったことから、香織の身に何かがあったことを悟った。それを、酒呑童子も感じ取ったのか、口角を上げる。
『おらああああああああ!!』
酒呑童子が地面を殴る。それだけで、香織が変化させた道が崩れていった。
「香織……」
咲は、黒百合を鞘に仕舞う。そして、身体を前傾させた。紫色のオーラが、黒百合に集中していく。それを見た酒呑童子も同じく、右拳に赤いオーラを集中させていった。互いに、自分の得物にオーラを集中させる。
先に動き出したのは、酒呑童子の方だった。一足、二足と進んでいき、咲の目の前に辿り着くと、拳を振り下ろす。走ってきた勢いも乗った一撃は相当の威力だろう。咲は、拳が振り下ろされる直前に黒百合を抜き放ち、拳を撃退する。オーラを全て使った咲は、竜人化が解除される。
そこで、酒呑童子がにやっと笑った。酒呑童子は、もう片方の拳、左拳を咲に向けて振う。同時に、酒呑童子は、ようやく気が付いた。咲の額に角が生えていることに。
「はあああああああああああああ!!」
鬼神化した咲は、赤黒いオーラを黒百合に纏わせて、酒呑童子の心臓に向けて突き出していた。鬼神化による身体強化で、神速の突きとなった咲の一撃は、吸い込まれる様に、酒呑童子の心臓を穿った。酒呑童子の拳は、咲の右側に振われ、空振りに終わる。
『……まさか、人間に再び負ける事になるとはな』
「人間を舐めすぎよ」
『そうだな……ふっ、お前達が、生き残るのを楽しみにしているぞ……』
酒呑童子は、意味深い事を言い残して、絶命した。
波乱の京都解放戦は、こうして幕を閉じた。
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