64.封印の解放
酒呑童子と高速戦闘をしていた咲は、打ち合った反動を使って酒呑童子から大きく離れて、香織の元まで後退した。
「準備は?」
「大丈夫だよ。効果があるか分からないけどね」
香織達と酒呑童子との間には、香織によって大量の罠が仕掛けられている。
『はっははははははは!!!!』
酒呑童子は、大笑いしながら無造作に一歩足を踏み出す。すると、地面の中から二本の束縛の鎖が飛び出して、酒呑童子の腕に巻き付く。
『んだぁ、これは?』
酒呑童子は、鎖を引き千切ろうと腕を思いっきり振り回す。鎖はあっさり引き抜かれた。
『はっ! 所詮は……』
酒呑童子の言葉は最後まで紡がれなかった。鎖を引き抜いた瞬間に、大きな爆発が酒呑童子の足下で連鎖したからだ。
「もういっちょ!!」
香織は、魔法で作った火の球を酒呑童子の右側の地面に着弾させる。火の球が着弾した衝撃で、その周辺にあった罠が誘発される。大量の束縛の鎖が浮き上がり、酒呑童子を雁字搦めに縛っていく。
今、酒呑童子を縛った束縛の鎖はただの束縛の鎖ではなかった。縛り上げた直後から、鎖が赤熱していく。縛り上げた瞬間から、相手を熱する『束縛の鎖・赤熱』だ。
「そのまんまの名前ね」
「まぁ、わかりやすいからいいじゃん」
そんな会話をしつつも、二人は酒呑童子から目線を外さない。こんなもので、倒せると思っていないのだ。
『くっくっくっ……』
爆発の砂煙の中から、酒呑童子の笑い声が聞こえてくる。
『はっははははははは!! この前来た奴らとは比べものにならねぇな!!』
酒呑童子は、身体中に力を入れると、鎖を引き千切った。そして、罠がある事を承知の上で……いや、完全に無視して、駆け出した。
「やっぱり、効かないか……」
酒呑童子が、進む度に罠が発動していくのだが、一切効果がない。そんな酒呑童子に対して、香織はポーチの中から、色とりどりの結晶を空に向かって投げる。
『また、爆発かぁ!? 芸がねぇな!!』
「そんな事一言も言ってないけど?」
香織は、そう言うと同時に、太陽のような熱を持った光を結晶に向けて放つ。光は、結晶に当たると次々に反射していって予測不可能な経路で様々な場所に当たっていく。さらに、結晶を通った光は、その結晶の属性が宿り、光が照射された場所を、燃やし、凍らせ、斬り刻み、隆起させ、感電させていく。
『ぐっ! ふふふ、はっはははははははは!!!! やっぱり、おもしれぇ!!』
香織の無差別攻撃に酒呑童子も多少のダメージを負っているのだが、酒呑童子は怯むどころか、笑いながら進んできた。
「ドMか!」
香織は思わずそうツッコむ。だが、酒呑童子は、ドMの意味を知らないので、全く気にしていなかった。
「なら、これでも食らえ!!」
香織は、上空に積乱雲を発生させて、大量の雷を酒呑童子に一極集中させて落とす。眩い稲光と轟音、衝撃が辺りに伝播する。
『はっははははははははは!!』
雷が落ちた衝撃で舞い上がった砂煙から、酒呑童子の笑い声が響き渡る。砂煙から歩み出た酒呑童子の姿は、決して無傷では無い。所々を黒焦げにしながら、歩いている。
『面白い! 面白いぞぉ!! ここまでの傷を負ったのは、あの時以来だ!!』
酒呑童子は楽しそうに笑っている。香織と咲には、戸惑いしかない。
『二対一では、分が悪いな』
何を思ったのか、酒呑童子は急にそう呟いた。香織と咲の攻撃が効かない現状、どう考えても酒呑童子の方が有利なのだが。
「何を言ってるの?」
「分からないわ。もしかしたら、私達が思っている以上に、ダメージを与えられているのかもしれないわね」
香織達も酒呑童子が何を言っているのか、あまり理解出来なかった。そして、酒呑童子がやろうとしている事も予想しきれなかった。
『妖怪ども!! お楽しみの時だ!!』
酒呑童子が空に向かって声を飛ばす。その声は、京都中に轟いていった。近くにいた香織達は、あまりの音量に耳を塞いでいた。
「何が起きたの……?」
香織は周りを見回したが、周囲に大きな変化は見られなかった。
「分からないわね。でも、すごく嫌な予感がするわ」
咲も同様に周りを見ていたが、何も変化がない。ただの虚仮威しかと香織達が思っていると、周囲から地響きが聞こえ始める。
「何、この音!?」
この段階になって、香織達は異変に気が付いた。
『妖怪どもをけしかけてやった。今、妖怪達は、人間の集落に向けて進軍しているぞ』
酒呑童子は、悪い笑みをしながらそう言った。
「それって、意図的にスタンピードを起こしたって事……?」
香織は、酒呑童子が起こしたことを当てた。そう、酒呑童子の掛け声一つで、この京都内にいる妖怪達が、一斉に動き出したのだ。香織が、絶句していると、咲が一歩前に踏み出した。
「香織、ここは私に任せて、スタンピードを対処しに行って」
「でも!」
香織が、スタンピードの対処をしに行けば、酒呑童子と戦うのは、咲一人だけになる。二人でも、酒呑童子に軽傷しか与えられていないのだ。咲一人で戦うのは無謀だというものだろう。
「香織は、対集団か大きな相手が得意でしょ? 逆に酒呑童子みたいな敵は苦手だったはず。それなら、香織はあっちを対処した方がいいはずよ」
「それでも、咲一人残していくなんて!」
「いいから行きなさい! ここは、私だけでも大丈夫よ。いいから、信じて……」
咲は、香織にそう言った。
「……分かった。絶対に勝ってね! いいね!?」
香織は、咲の眼をじっと見てからそう言って、地響きがする方に向かって走って行った。
「……勝つわよ。絶対に」
咲は、少し笑いながらそう言った。
『良いのかぁ? お前が俺に勝てるとでも思ってるのかぁ!?』
酒呑童子は、ニヤニヤしながら咲を見る。
「ええ、勝てるわ。約束したから」
『はっはははははは!!!! 面白い!! やってみろぉ!!』
咲と酒呑童子がぶつかり合う。
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酒呑童子によるスタンピード誘発とは別の轟音が起きていた。その音は、八坂神社から伏見稲荷大社までの間で何回も起こっていた。
「ぐっ……!!」
茨木童子の一撃を受け止めた焔は、その膂力に耐えきれず、吹き飛んでしまった。
「焔! この!」
星空は、威力を高めた矢を茨木童子に向かって放つ。しかし、茨木童子は、刀を振って斬り落とした。そのタイミングで、吹き飛ばされた焔が、斬りかかった。
「はあああああ!!!」
茨木童子は、矢を斬り払った直後で、動きが固まっている。しかし、茨木童子は、開いている方の腕で受け止めた。そこには、籠手が付いており、茨木童子の鬼としての耐久力も相まって、簡単に受け止められる。
『死ネ!』
斬りかかった焔に、茨木童子が刀を突き刺そうとする。そこに、星空の矢が放たれる。そちらに茨木童子が対応している隙に、焔は茨木童子から離れる。こうした攻防が何度も続いており、八坂神社から伏見稲荷大社まで移動していた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「大丈夫、焔?」
「大丈夫……でも……」
「うん、勝機がないね」
茨木童子が、鬼へと変貌を遂げてから、焔と星空の攻撃がまともに通った事が無かった。
『シブトイ奴等ダ』
茨木童子は、体勢を沈めて突撃の姿勢をとる。星空は、弓を地面に向けて矢を放つ。矢が地面に命中すると、煙幕が発生した。視界が奪われた中、茨木童子は、星空と焔がいた場所で刀を振う。そこには、既に焔と星空はいなかった。
『チッ、マタ目眩マシカ』
焔と星空は、近くの木々に隠れていた。
「どうする?」
「……何も出来ないわけではないけど」
「何を?」
「本気で戦うということだよ……」
焔は、少し俯きながらそう言った。
「核の封印を解くの?」
「うん」
焔同様、星空も核に封印をしている。核からの影響を受ける可能性があったからだ。
「マスターの約束を破ることになるけど……」
「必要な時だから、仕方ないよ」
焔と星空は、互いに互いを見て頷く。そして、同時に核の封印を解く。焔が赤い炎に、星空が黒い炎に包まれる。
「行くよ、星空!」
「うん!」
全能力を解放した焔と星空が、茨木童子に向かっていく。黒い炎を纏った矢が茨木童子に向かって放たれる。
『ツマラナイ、先程カラ焼キ増シノ攻撃バカリダナ』
茨木童子は、さっきと同じように、矢を斬り払おうとする。
『!?』
しかし、茨木童子は、矢を斬り払うことが出来ず、刀で受け止める事しか出来ない。
『何ダ!?』
そこに、赤い炎を纏った焔が、刀で薙ぎ払う。焔の攻撃は、茨木童子の胴に命中した。しかし、そのまま両断する事は出来なかった。だが、その攻撃で茨木童子は、大きく吹き飛ぶ。
『グ……』
茨木童子は、うめきながら立ち上がる。その瞬間、身体を覆っていた甲冑が砕け散る。
『貴様等……!!』
茨木童子の眼が怒りに染まる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ふぅ……はぁ……」
今のままだと、焔、星空の方に勝機があるのだが、その焔と星空は、茨木童子以上に消耗していた。額には、大粒の汗が浮かんでいる。核の封印を解放し、全力の戦闘をたったの一分だけしただけで、この消耗だった。
焔、星空と茨木童子の攻防は終わりに近づいている。
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