63.それぞれの戦い
香織達が、関西ギルドで貰った資料には、星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子の四体についての記述があったが、酒呑童子と茨木童子に関しての記述はほとんど無かった。
四天王に関しては、関西ギルドの方でも倒す事が出来たので、情報が豊富にあるのだが、酒呑童子と茨木童子関しては、戦った者は一人として生きていないので、情報そのものが少ない。
だからこそ、香織達は、酒呑童子達が喋ったことに驚いた。そして、その結果、動きが一瞬だけ遅れてしまった。
酒呑童子の拳が、香織の目と鼻の先まできていた。
「!!」
香織は大きく身体を仰け反らせて、ギリギリのところで避ける。その際に、ポーチから、結晶を二つ地面に落とす。結晶の一つは眩い光を、もう一つは突風を生み出した。
『ぐっ……』
いきなりの光と突風に、酒呑童子は一瞬だけ怯む。その一瞬のうちに、突風に乗った香織は、その場から離れた。
「香織!!」
「大丈夫! それより、油断しないで! この人達、マジで強い!!」
まだ、一度攻撃をされただけだが、香織には、酒呑童子達の強さが異常である事に気が付いた。油断せずに、火臨を取り出す。
『はっはっはっはっ!!』
火臨を構えた香織に、酒呑童子は大笑いをする。そこに、一瞬で移動してきた咲が黒百合を突き出す。
「っ!?」
酒呑童子は、その攻撃を余裕を持って避ける。
「香織の言う通りね。かなり、強いわ」
咲は香織の傍に来ると、黒百合を構えた。自分に対して、臆せずに構える香織達を、酒呑童子は面白そうに見ていた。その酒呑童子の隣に向かおうしている茨木童子を、重い矢の一撃が襲った。
『……』
茨木童子は、刀を抜刀して矢を斬り払った。そこに焔が無言で斬りかかる。矢を斬り払った瞬間に茨木童子の懐に潜り込んでいたので、茨木童子からは死角から攻撃になる。そんな焔の攻撃を、茨木童子は返す刀で受け止める。焔と鍔迫り合いになっている茨木童子に星空が急接近して、焔の肩越しに猛烈な一撃を叩き込んだ。
『……ちっ!!』
防ぐ手段のない茨木童子は、星空の一撃をまともに受け、二条城から離れた所に吹き飛んでいく。それを、焔と星空が追い掛けていった。
『分断か……まぁ、俺達には関係ないな!』
酒呑童子は口を弧に開いて、香織達に突っ込んでくる。それに対して、咲も同じように突っ込む。黒百合は鞘に仕舞われており、その柄と鞘に手が添えられている。二人が接触する直前、あるいは直後、咲の刀が高速で抜かれる。
咲に迫っていた拳を、抜刀した黒百合で受け流し、そのままの勢いで身体を斬る。
「……浅いわね」
二人は互いに背後に抜ける。そして、構えたまま振り返り、再び拳と刀を交える。
「高速戦闘……咲の十八番ではあるけど……」
どうやら、酒呑童子も高速での戦闘を得意としているらしい。もはや、残像でしか見えない程に加速した二人を、香織はただただ見ているしか出来ない。香織の魔法では、二人のスピードについていけないからだ。
「なら!」
香織は、アイテムボックスから結晶や鎖を取り出した。
「私は、私達が有利になるエリアを作り上げる!!」
香織は、アイテムボックスから次々にアイテムを取り出し、地面に設置していった。
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茨木童子を吹き飛ばした焔達は、八坂神社まで移動していた。
『……』
星空の攻撃で吹き飛ばされた茨木童子は、無機質な眼で二人を見ていた。
「星空、サポートを」
「うん」
二人は各々の得物を構える。それを見た茨木童子も刀を抜き放つ。
『参る』
茨木童子は、たったの一歩で大きく間合いを詰めてきた。同時に焔も飛び出すので、相対的に距離が縮まっていく。そんな茨木童子の前に空から矢が降ってくる。星空の曲射だ。
『……!!』
茨木童子は、急な攻撃に急停止した。勢いを殺される茨木童子に対して、焔は、そのままの勢いを利用して上段から紅桜を振り下ろす。茨木童子は、その攻撃を易々と受け止めた。
「やああああああああああ!!!!」
焔の連撃が茨木童子を襲う。茨木童子は、その攻撃を正確に弾いていった。その間に、星空は射線を確保するために、回り込む。
「ふっ……!!」
射線が通るや否や、星空は矢を放った。その狙いは、茨木童子の足。太腿だ。茨木童子は、その矢を見ずに足を動かして避けた。
「なら、物量」
星空が続けて放った矢は、一本から十本に分離して茨木童子に迫る。茨木童子が避けようとすると、焔は上から力を掛けていった。
「……!?」
このままでは、焔も星空の攻撃に当たる事になる。茨木童子は、攻撃が当たる直前で、焔が避けるだろうと思っていたのだろう。だが、焔は星空の矢が自分に迫ってきていても、一切動じないどころか、意にも介していない。
『捨て身か』
「誰が?」
『何?』
星空の放った矢が、軌道を変えて全て茨木童子に刺さった。
『ぐ……』
これには、茨木童子も多少ダメージを受けた。そう、ダメージは多少だった。
『ふん!』
茨木童子は、力任せに焔を吹き飛ばした。そして、攻撃の標的を星空に切り替えてきた。星空に向けて、一気に間合いを詰める。
『まずは、貴様からだ』
「余所見」
星空がそう言ったと同時に、真横から焔が斬りかかってきた。それは、茨木童子にとって予想だにしなかったことのようで、反応が少し遅れてしまった。それでも、焔の攻撃をギリギリ刀で受け止めた。だが、焔の膂力が先程よりもずっと強く、そのまま星空とは反対の方向に飛ばされた。
『ちっ! 何だ、その力は?』
茨木童子は、さっきまでの比べものにならない力に少なからず動揺した。焔の周りには、火の粉が舞っている。
「あなたと倒す!」
「絶対に!」
星空の身体の周りにも黒い炎が纏わり付いている。その炎は、黒影にも伝播していた。先に攻撃をしかけたのは、星空からだった。黒い炎が矢を形成し、星空によって茨木童子に放たれる。今までよりも数段速い星空の一撃を、茨木童子は刀で受け止める。攻撃の直撃自体は防ぐ事が出来たが、その勢いまでは殺し切れず、轍を作りながら押されていった。
そこに、火の粉を纏った焔が追撃を仕掛ける。一気に間合いを詰めた焔は、同じく火の粉を纏った刀を斬り上げる。その一撃は、茨木童子の兜を破壊した。
「避けられた……!」
「まだ!」
焔の斬り上げと同時に、放たれた星空の第二射が茨木童子の身体に命中する。今までで、一番の一撃を茨木童子に加えることが出来た。茨木童子は、そのまま地面を転がっていく。
「浅い!!」
その言葉を受けた焔は、立ち上がろうとする茨木童子に、再び斬りかかる。
『……!!』
茨木童子は、その一撃を自分の腕で受け止めた。
「な……!」
焔の一撃は、茨木童子の腕を斬り裂く事が出来なかった。それどころか、薄皮一枚斬り裂くことも出来ない
『貴様等を、殺ス!!』
茨木童子の顔は、人の姿をしていなかった。歯は牙に変わり、額からは角が生えてくる。そして、その目は赤く輝いていた。
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一方その頃、玲二達は、四天王との戦いを有利に進めていた。
「避けろ!」
金童子の一撃が、地面を叩き割る。玲二達近接部隊は、その場から大きく飛び退いた。
「魔法部隊! 一斉掃射!」
玲二の合図で金童子に多種多様の魔法が殺到する。それは、攻撃魔法では無く、相手を拘束させる魔法だった。
「金童子は無理だ! 別の敵から、倒すぞ!」
厄介さでいえば、金童子が一番なのだが、今までの攻防から、金童子を先に倒すことが難しいと玲二は判断したのだった。そのため、金童子を倒すのではなく、拘束する事にしたのだ。さらに、里中が鞄から鎖を取り出して、金童子に投げつけた。
「束縛の鎖だ! 香織の程、強力では無いがな」
この束縛の鎖は、香織が作ったものでは無く、里中達生産職が試行錯誤の末に、作り出したものだった。香織の束縛の鎖は、かなり強化されているので、性能的には比べものにならない。しかし、魔法で先に拘束されている金童子であれば、多少の効果はある。
「よし! 他を叩くぞ!」
玲二達は、星熊童子、熊童子、虎熊童子に向かう。
「おらあああああああああああ!!!!」
星熊童子が振り下ろしてきた斧を、里中の斧が迎え撃つ。そこで生まれる一瞬の隙に、万里と玲二が飛び込み、足の腱を狙って、鋭い一撃を振う。
ガア!?
足の腱を斬り裂かれた星熊童子は、その場に膝を付く。そこにトドメを刺すべく冒険者達が、詰め寄ろうとするが、熊童子と虎熊童子の鉈と大太刀が間に割り込んできた。
「再生には時間が掛かるはずだ! 魔法部隊!」
玲二は、トドメを魔法部隊に任せて、他の二体に対応する。
「俺達は二班に分かれる! 重吉、そっちの指揮は任せた!」
「分かった」
玲二は、事前に決めておいた二班に分かれて、それぞれの敵と対峙する。
玲二が、状況に合わせた指示を飛ばすおかげで、四天王相手にもひけを取らない。万里や恵里もそれぞれの分野で活躍していた。
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