62.京都解放作戦開始
京都のフィールドダンジョン。その入り口に立った香織達は、少し唖然としてた。
「すごっ!」
香織は想わず、そう声に出した。いかに京都が趣のある建物が多いといっても、現代的な建物も結構存在していたはずだった。それが、どういうことだろうか。現代的な建物は一切存在せず、昔ながらの長屋などが乱立していた。
「ダンジョン化して変わったのね」
「こっちはこっちでヤバいな」
事情を聞いてはいた玲二も、実際にこれを見ると少し気圧されていた。
香織達の服装は、既に戦闘用の服装になっている。あれから、香織はきちんと自分用に服を作っていた。香織が自分専用に作ったのは、裾が広がった白衣のようなものだった。いや、白衣と言うより黒衣と言った方が正しい。見た目が白衣のようなだけで、色は真っ黒だからだ。これを見た時の咲の一言が、
「何で白くないのよ」
だった。そして、香織の服には大きなポケットと鞭などの色々なものが提げられるベルトが巻かれている。
「私達の目的地って、どこだっけ?」
「香織達は、二条城だな。俺達は、京都御所に向かう。四天王は普段そっちにいるみたいだからな」
「そっちが戦闘を始めたのを確認してから二条城に攻め込めばいいんだよね?」
「ああ、そっちが先に突っ込むと、四天王が反応するらしいからな」
途中までは、全員で一緒に中に入り、二条城の前で、香織、咲、焔、星空が別れて、その他は京都御所に向かう。
「それじゃあ、行こうか」
香織達は、京都へと足を踏み入れた。
「東京と同じで、いきなり襲われるみたいなことはないんだね」
「そうね。今のところ、周りにそれらしい気配もないし」
香織と咲がそう言った直後、二人は一斉に上を見る。
「敵! 上!」
香織が全体に聞こえるように、声を発する。それに反応した冒険者達が、上を見る。そこには、白い布きれが何枚も飛んでいた。そして、その布きれの上には、何かが乗っていた。香織達のいる場所からでは、それが何かまでは見ることが出来なかった。
「魔法部隊! 魔法で撃ち落とせ!」
玲二の指示で魔法を使える冒険者が、魔法を放っていく。魔法の掃射による弾幕で白い布きれ……一反木綿は、身体に無数の穴を開けて、上に乗っていたものと一緒に落ちてくる。
「全員油断するな!」
玲二の声が響き渡る。ダンジョン内の敵については、関西のギルドで最新の情報を仕入れている。その内容から分かったことは、ここに生息するモンスターは妖怪だということだ。
「奴らは、厄介な特性を持っている事が多い。気を付けろよ!」
空から降ってきたのは、小柄な老人と白い装束を着た綺麗な女性だった。
「子泣き爺と雪女だ! どちらも近づけるな!」
玲二は、昨日読み込んだ敵の詳細から、今、相対している敵を言い当て、さらに正確な指示まで出した。子泣き爺には、近寄られて身体にしがみつかれると、どんどん身体が重くなっていき、最終的に押し潰されてしまう。雪女の方は身体から、常に冷気を発しており、近づきすぎれば身体が凍り付き始めてしまう。さらに、氷の息吹を吐くので、遠距離でも少し危ない。ただ、この息吹に関しては、離れれば離れる程効果が薄れるので、距離を取れば、まだ大丈夫だ。
つまり、どちらのモンスターも近づかれれば、殺される可能性が高くなる。相対したときには、遠距離攻撃を心がけなければならない。
『壕炎よ・敵を燃やし尽くせ』
『大地よ・彼の者を・抱き止めよ』
恵里が激しく燃えさかる炎の球を雪女に向けて放った。それに続いて、魔法部隊の一人が、子泣き爺を土の腕で縛り付ける。
キャアアアアアアアアアアアアアア!!!!
雪女が悲鳴を上げて燃やされる。そして、子泣き爺は近接部隊に首を撥ねられた。
「厄介な特性を持っている奴らばっかだ。不用意に近づくな!」
玲二がそう言うと同時に、そこら中からモンスターが湧き出てきた。すぐに香織達は妖怪の集団に囲まれた。
「中央突破をするぞ! 報告書によれば、二条城と京都御所の近くまでは来ないらしい!」
酒呑童子、茨木童子、星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子の近くまで、他の妖怪は近づけないらしい。
「数を減らす!!」
香織は、野球ボール大の爆弾を敵集団の中に投げていき、爆破していく。
「香織が穴を開けた! こじ開けろおおおおおおお!!!!」
『おおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
冒険者達は、香織の爆弾によって包囲が薄くなった正面に殺到して妖怪を次々に倒していく。敵の種類を見て、玲二が的確に指示を飛ばしていくので、そこまでの被害は出ていない。
「左右を盾持ちで固めろ! 魔法部隊は走りながら詠唱して左右から来る敵を倒せ! 近接部隊は正面に集中! 近寄ってはいけない敵は、星空が対応する!」
香織と星空は魔法部隊に、咲と焔は近接部隊に手を貸して敵を屠っている。その中でも、星空は正面から来る子泣き爺や雪女のような、近づかれるとまずい敵を的確に射貫いていた。
冒険者の奮闘と星空の頑張りもあって正面の敵を倒しきり、二条城、京都御所までの道が開けた。
「駆け抜けろ!!」
冒険者達が全力疾走で走って行く。それを妨害するように、妖怪が追い掛けてくる。
「ほい」
香織は、ベルトについているポーチから、いくつかの結晶をばらまく。
「これで足止めだよ!」
結晶が割れると、そこに妖怪達が引き寄せられていった。香織が作ったのは、『吸引結晶』。割れるとそこにものを引き寄せるというものだ。かなり無差別に吸い込むので、辺りにある長屋も壊れて吸い込まれる。
そうして、最初の乱闘を終え、香織達は二条城の前まで着いた。ここで、香織、咲、焔、星空の四人は玲二達と別れる。
「万里ちゃんと恵里ちゃんはそっちだね。坂本さん、二人をお願いします」
「ああ、任せろ。こっちは、俺達が絶対になんとかする。お前達はそっちを頼んだぞ」
「頑張ってみるよ」
玲二達は、香織達と別れて京都御所に向かった。
「後は、合図を待つだけね」
「うん。焔、星空、今の内に休んでおいて」
「はい」
「うん」
香織達は、玲二達の合図を待つ間に体力の回復をする。
────────────────────────
香織達と別れた玲二達は、真っ直ぐに京都御所に向かった。
「万里、恵里、準備はいいか? ここからは死闘になる。お前達への援護も遅れる可能性がある」
「もちろん! そんなの覚悟の上だよ!」
「いつも香織さん達に頼ってたんです。このくらい頑張らないとです!!」
「その意気だ。お前ら! これから戦闘に移る! 俺達がやることは四天王の討伐だ! ある程度戦って、こっちに気を引きつけたら香織達に合図を出す!」
玲二は冒険者達に作戦を説明する。
「最後に! これだけは言っておく。死ぬな」
冒険者達の眼に覚悟の炎が灯る。
「行くぞ!!」
玲二達が京都御所に入ると、そこには、斧を持った肌色の鬼 星熊童子、大鉈を持った青鬼 熊童子、大きな太刀を持ったの白鬼 虎熊童子、素手の赤鬼 金童子が待ち構えていた。
「魔法部隊! 先制攻撃だ! 近接部隊は距離を詰めるぞ!」
恵里を含んだ魔法部隊が多種多様の魔法を詠唱し始める。同時に、四天王が動き出す。
まず、動いたのは星熊童子だった。斧を構えて玲二達に向かって駆け出した。
「盾持ちは正面に固まれ!」
星熊童子が振り下ろした斧が、冒険者達が持つ盾とぶつかり弾かれる。その間に左右に回り込んだ冒険者達が斬りかかった。そこに、熊童子と虎熊童子が割り込んだ。大鉈と大太刀による薙ぎ払いを冒険者達は武器を盾にして防ぐ。
このタイミングで魔法部隊の魔法が三体の鬼に向かって飛んでいった。鬼達は、腕をクロスさせて魔法を受ける。
「たたみ掛けろ!!」
玲二、万里、里中も加わった近接部隊が三体の鬼に斬りかかる。しかし、その目の前に最後の鬼、金童子が降り立った。最初にいた場所からジャンプして来たのだろう。そのまま地面を叩き、衝撃波を発生させて玲二達を押し返す。
「情報通りだな。一番厄介なのは、金童子だ! 奴を先に倒すぞ!!」
『おう!!』
魔法の準備が整うまでは、玲二達が四天王を引きつけるしかない。
「次の攻撃が来る! 盾持ちは準備しろ!!」
金童子横から突進してきた虎熊童子が大太刀を振り下ろす。
「おらあああああああああああ!!!!」
それを盾持ちではなく、里中が斧を振り上げて弾く。里中の背中を踏み台にして飛び上がった万里が、虎熊童子の腕を斬りつける。その万里に、金童子の拳が飛んでくるが、金童子に魔法が殺到し、万里は事なきを得る。
「万里! 無理に突っ込むな! 足並みを揃えて確実に撃破するんだ!」
「ごめん!」
万里は、すぐさま、その場から飛び退く。
「だが、これで確信出来たな」
「何がだ?」
「万里の攻撃が通じたということは、俺達でも勝てる可能性があるということだ」
里中は、実際に戦うまで、自分達が四天王に勝てるからどうか疑っていた。しかし、たった今、万里が虎熊童子の腕に傷を付けた。ということは、自分達の攻撃が四天王に通じることを表している。
「そうだな。俺達で倒すぞ」
四天王の連携はかなり密だった。しかし、玲二達の連携も負けていない。盾持ちが四天王の攻撃を防いでいき、生まれた隙に近接部隊と魔法部隊が攻撃を加えていく。この時、得に金童子に向かって攻撃を集中させていた。
金童子の衝撃波攻撃や素手での殴り、掴みは、かなり凶悪だった。殴りは、何とか盾で防ぐ事が出来ていたが、掴みは全力で避けるしかなかった。
「おらぁああ!!!!」
そんな中、里中の斧による一撃が金童子の腕に深手を負わせる事に成功する。
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
金童子の眼に怒りの感情が浮かんでくる。
「今だ! 合図を送れ!」
魔法部隊の一人が上空に花火のような魔法を打ち上げる。
────────────────────────
「香織、合図よ」
「うん。行こうか」
合図を見た香織達は、二条城に入っていく。それと同時に、二条城の入り口が吹き飛び、二体の鬼が現れた。片方は人のような姿をした鬼で甲冑を着て、刀を腰に提げている。もう片方は瓢箪の中身を飲みながら歩いてくる。その見た目は、片方の鬼より二回り大きく、酒を飲んでいるからなのか皮膚が赤くなっている。しかし、その顔は人のように見える。
『何だぁ? めんこいガキ四人じゃねぇか』
『あいつらは、まだ戦闘中のようだな。こいつらで俺達を倒すつもりなのか』
「!?」
香織達は、驚きを隠せなかった。モンスターが流暢に喋りだしたからだ。
『ん? 何で、固まってんだぁ? この前来た奴らも固まってたよなぁ』
『俺達が喋っているからだろ。普通の妖怪はあまり喋らない』
『そういうことかぁ。まぁ、んなこと、どうでも良いなぁ。さぁ、嬢ちゃん達、やり合おうぜぇ!!』
読んで頂きありがとうございます
面白い
続きが気になる
と感じましたら、評価や感想をお願いします
評価や感想を頂けると励みになりますので何卒よろしくお願いします




