61.京都に到着
箱根から京都までの道のりは、かなり順調だった。得にこれといったトラブルも無く、関西冒険者ギルドとの合流地点に辿り着いた。
「お待ちしておりました。冒険者ギルドの本部長坂本玲二さんですね?」
「ああ、関西冒険者ギルドの遣いの人か?」
「はい。ギルドまでご案内します」
「分かった。ありがとう」
玲二は、遣いの者にお礼を言ってから香織達の方に来た。
「香織達はどうする? ギルドの中には入らないだろ?」
「そうだね。そこら辺ぶらついてようかな。ここら辺に来るの初めてだし」
「こっちのことは気にせずに、話し合いをしていて下さい」
「ああ、分かった。迷子になるなよ」
「りょ~うかい!」
香織は、玲二達を別れて、京都の周辺を探索することにした。それには、万里と恵里もついていった。
「香織さん達は行かなくても良かったんですか?」
香織と咲はこの作戦の主軸になる人物のはずなので、恵里は不思議そうに香織達を見る。
「うん。こっちのギルドにどんな人がいるか分からないし。そもそも、私達冒険者じゃないしね。下手すれば、面倒ごとになるから、こうしてた方が楽なんだよ」
香織達が危惧しているのは、ギルドの勧誘や技術提供などだ。神奈川を拠点にしている香織達が、こっちで活動することはほとんど無い。だからこそ、こういう機会に引き抜こうと考える者が出てくる可能性がある。
「引き抜きは断っても何も問題ないんだけど。技術提供とかを断ると、ものすごく食い下がってくる人が多いんだよ」
「それが、嫌で絶縁結界を作ったんだものね」
「そう。そういうことを考えていない人しか入れないように、結界の内側に悪意やら敵意を持つ人を入れなくしたってわけ」
香織と咲で、話し合いに参加しない理由を万里と恵里に説明する。
「それでも、時折、レシピを教えて欲しいという人は現れますね」
「マスターから全部断るように指示貰ってるから、にべもなく断るけど」
実際に店番をしているときに、出会ったのだろう。少し嫌な顔をしながら、焔と星空がそう言った。
「香織さん達は大変だね」
「そうだね。私達は、運良く力を手に入れたからね。得たものは大きいけど、その分面倒ごとも多くなるんだよ」
香織達は、大きな力を得た。しかし、その代わり、権力者から言い寄られることになった。それを不快に感じた香織は、どこにも所属しないことを決めた。
「そういえば、香織さん達はどこで坂本さんと知り合ったんですか?」
恵里が、ふと思った疑問を香織に投げかけた。
「坂本さんと? えっと、最初はダンジョンの中でだったかな。その後、スタンピードとか、色々大規模戦闘に参加したときに顔を合わせるようになって自然と話してたかな。その間でまともな人だって分かったし」
「じゃあ、坂本さんは時間を掛けて香織さんの信用を勝ち取ったって事?」
「そういうことだね」
その後も香織達は色々な事を喋りながら、京都周りの散策を続けた。結局のところ、周りには何も無かったのだが……
「何もないじゃん!!」
「そうね。森や山が連なっているだけね。所々に廃屋があるくらいだし、その廃屋も中には入れないくらいに壊れているし」
「面白い野菜とかはありましたよ」
「あんなに丸いナス初めて見た」
焔と星空が言っているのは、散策の途中で見つけた賀茂ナスの事だ。何故そこに生えていたのかは分からないが、香織達の散策ルートには、時折京野菜のようなものが実っていた。
「第一、香織は何を期待して歩き回っていたのよ?」
「新しいダンジョンとか、珍しい素材とか」
「京野菜は?」
「素材じゃなくて食材!」
香織が探していたのは、関西ならではの素材だった。実際にそういうものがあるかは分からないが。
「錬金術師にとって、土地ならではの素材ってすごく魅力的なんだよ。普段使いの素材とは違う反応するかもだし。とにかく! 私は、新しい素材が欲しい!!」
「「おお~~」」
何故か焔と星空から拍手が送られている。
「はぁ……、何か見つけたら言うわ」
「ありがとう! 咲!」
香織は咲に抱きついてお礼を言う。咲は苦しそうにしながらも、満更でもないようだった。
「マスター! 私も探します!」
「私も、私も」
抱かれている咲を羨ましく思ったのか、焔と星空が手を上げて主張する。
「二人もありがとー!」
香織は二人をまとめて抱きしめる。二人とも顔を綻ばせて喜んでいた。それを微笑ましそうに咲が見守る。
「親子だね」
「うん。親子だね。お母さん二人の親子だね」
少し離れた所で万里と恵里が、その光景を見ていた。
しばらく散策を続けるが、香織の言う珍しい素材は一個も見付からなかった。そのため、香織はズンッと沈んでいた。
「おう、ここにいたか……って、香織は何で沈んでるんだ?」
話し合いを終えた玲二が、香織達の元に来ていた。玲二は、沈んでいる香織を見て、首を傾げている。
「えっと、斯く斯く然々で」
咲は、香織が沈んでいる理由を簡潔に説明した。
「俺も何回か関西に来てはいるが、別の素材が取れるなんて話を聞いた事はないな」
「嘘!」
玲二が、思い出しながら語ると香織は顔を上げて驚いた。
「でも、育つ環境が違うから、少しくらい変化があってもいいんじゃ……」
「ここと神奈川じゃ、ほとんど変わらないだろ。それこそ、環境が大きく変わる南か北に行くのがいいんじゃないか?」
「南か北……沖縄と北海道?」
香織は、南と北で思いついたと地名を言う。
「そうだな。後は海外に行くしかないだろう」
「……」
玲二の話で香織は、少し考え込み始めた。
「香織? お~い、色々決まったから話をしておきたいんだが」
「坂本さんダメですよ。こうなった香織は、普通の方法じゃ気が付きません」
「どうするんだ?」
咲は、香織の目の前に立つ。
「こうするんです」
そして、香織の頬を掴むとグイッと上に向かせる。
「!!??」
香織は何が起きたのか分からず、目を白黒させていた。
「坂本さんが呼んでいるわよ。話し合いが終わったって」
「へ? ああ、そうだった! ごめん、坂本さん」
「いや、構わない。それで、話は聞いて貰えるんだよな?」
「うん。大丈夫だよ」
話を聞く状態になったのを確認したので、玲二は話し合いの場で貰った紙を香織に手渡す。
「一応の作戦と、敵の戦力についてだ。俺達が来るまでに少し状況が動いたらしい。詳しいところは紙面に書いてある」
香織達は身体を寄せ合って紙を確認する。
「まず、嫌な知らせだが、四天王の復活を確認したらしい。倒す事は出来たみたいだが、時間で復活するみたいだな」
「じゃあ、敵は全部で六体って事?」
「ああ、それで作戦なんだが、四天王は俺達が相手取る。ここには、万里と恵里も含まれる」
ここで、玲二は万里と恵里に目線を送る。それに気が付いた二人は頷いて同意する。
「次に、茨木童子を焔と星空で頼めるか?」
「大丈夫です」
「問題ない」
焔と星空は自信満々に頷いた。
「じゃあ、私と咲で酒呑童子って事だね」
「ああ、四天王を俺達が抑えている間に、主力であるお前達四人に、敵大将を倒して貰うという作戦だ」
「一番の重要なのは坂本さん達って事だね」
「ああ、俺達が四天王を倒せるか否かが鍵になる」
四天王を相手取る玲二達は、敗北が許されない。玲二達が敗北すれば、主力と戦う香織達に負担を掛けることになるからだ。
「香織達には俺達を信じて貰う事になる」
「大丈夫だよ。坂本さん達が本気になれば、倒せない相手じゃないっぽいし」
「私達は坂本さん達を信じますから、坂本さん達も私達を信じて下さい」
「……おう! 頼りにしてるぜ」
互いに互いを信頼する。言葉では簡単だが、実際にするとなれば、かなり難しい。人は、不安になればどうしても相手を疑ってしまうものだからだ。だが、だからこそ、口にする。信じているということを、相手に実感して貰うために。
「決行は明日だ。今日のところは、運良く残っていた近くにある宿に泊まる」
「分かった」
香織達は玲二の案内で宿に向かった。宿は歴史を感じさせるようなものだったが、意外と中は広く、部屋割りも細かく出来た。その宿でゆっくりと休んだ香織達は、酒呑童子が支配する京の都へと向かった。
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