60.温泉は気持ちいい
ほのぼの回です
香織と咲、焔、星空は、万里と恵里を追って温泉に向かった。
「本当に区切られてるね」
「当たり前でしょ。まぁ、区切られていると言うよりも離されている感じだけどね」
そこには、木の壁で区切られた温泉があった。女子風呂と男子風呂で、十メートル以上離れていた。
「ここって多分源泉だよね?」
「水魔法で調整しているんだと思うわよ?」
香織と咲は、併設されている更衣室に入る。焔と星空も後に続く。二人の表情は心なしかキラキラしている。
「それにしても、まさか更衣室まできちんと作ってるとは思わないよね」
「生産職の人達の性ね。細かいところまでこだわる」
「私はそんなでも無いのにね」
「それ本気で言ってるのかしら?」
「え!?」
そんな風にいつも通りの会話をしながら、服を脱いでいく。焔と星空も同様だ。
「温泉ってどれくらい入ってないかな?」
「絶対に二年は入っていないわね」
「でも、旅行なんてそうそうしないし、前もそんなもんだった気がする」
「修学旅行に行ったときに入ったから、三年前には入ったんじゃないかしら?」
「あっ! そういえばそうだ!」
香織達は、温泉に繋がる戸を開く。少し濃いめの湯煙の中、万里と恵里の声が聞こえてきた。
「ふぅ~~温泉なんて久しぶりに入ったよ」
「そうだね~~。気持ちいい~~」
「二人とも元気いっぱいになったみたいだね」
「香織さん! 温泉パワーで元気百倍!!」
万里と恵里は、さっきもでのグロッキーが嘘のように元気になっていた。
「焔、星空、入る前に身体を洗うわよ。こっちにいらっしゃい」
「はい」
「うん」
咲に呼ばれて焔と星空が、そちらに行く。香織も同じところに来る。
「はい、シャンプーとボディソープ」
「ありがとう、香織。焔、目を瞑ってなさい」
「星空はこっちにおいで。洗ってあげるから」
「分かった」
香織と咲は並んで焔と星空を洗っていく。
「焔もそうだけど、星空も髪がさらさらだよね」
「マスターのイメージとかじゃないの?」
「ううん。外見に関してはあまり弄ってないから、私のイメージが反映されているわけじゃないよ」
「ふ~ん」
香織に洗われている星空は気持ちよさそうに眼を細めている。
「よしオッケー! もう入ってもいいよ」
「うん」
「縁の方にいてね。私も早く洗っちゃうから」
「わかった」
星空は足早に温泉に向かっていく。
「ゆっくり歩いてね!」
香織が一応の注意を飛ばしている。
「よし! 焔もいいわよ。あまり真ん中に行かないようにね」
「はい。分かりました」
焔はゆっくり歩いて温泉に向かっていく。
「ねぇ、香織?」
「何? 咲」
「さっきも生産職の性の話をしたんだけど、改めてすごいわよね」
「え? 何が?」
香織は咲が何を言っているのか分からず首を傾げる。
「何気なく使ってるけど、即席の温泉小屋にシャワーなんて付ける?」
「…………確かに」
香織達は、今備え付けられたシャワーを使って身体を洗っている。築数時間の小屋の中で……
「便利で嬉しいけど、ここを利用する人ってどのくらいいるんだろう?」
「……人の流れが出来たら結構利用される気はするけど。どうなのかしら?」
「まぁ、私達が使うからいいのかな」
「そうね。多分だけど帰りも使う事になるわね」
香織達は話ながら身体を洗い終えると温泉に浸かりに向かった。焔と星空は、万里と恵里と一緒に喋りながら温泉に浸かっていた。
「焔は、表情がよく変わるようになったよね」
「そうね。万里と恵里が友達になって、表情に変化が生まれて、星空がうちに来た事が最大のきっかけになったわね」
「やっぱり、同年代の友達が出来ると違うね。まぁ、星空は一応妹だけど」
「それでも、笑ってくれているというのは嬉しいことね」
香織と咲は完全に親目線で焔達を見ていた。焔達を作ったという意味では、香織は親と言えなくもないが。
「それにしても、久しぶりの温泉だからかすごく気持ちいいわね」
「今までの疲れが解消されている感じだよね」
香織は温泉の中で身体を伸ばす。
「香織はどう思う?」
「何が?」
「酒呑童子よ。どのくらい強いと思う?」
「う~ん、黒龍やリヴァイアサンよりは弱いんじゃないかな。悪魔もそのくらいの強さだったし。まぁ、リヴァイアサンについては、戦場の有利もあるから確実なことは言えないけどね」
香織の考えでは権利所有モンスターは、他よりもずば抜けて強くなっているはずなので、フィールドダンジョンのボスである酒呑童子はそれより強くはないだろうという事だった。
「まぁ、一つだけ懸念がなくもないんだけどね」
「何かしら?」
「酒呑童子の大きさだよ。報告によると、私達とほぼ同じ大きさらしいじゃん? だから、今までのボス戦とは少し違う感じになるんじゃないかなって」
「確かに、今まで戦ったボスは軒並み巨大だったものね。戦い方が変わる可能性は大いにあるわ」
香織の分析に咲はすんなりと同意する。
「もしかしたら、四天王の星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子が復活している可能性もあるもん」
「そこまでは考えすぎじゃないかしら。というか、よく四天王の名前を覚えているわね」
「そうかな? まぁ、そんな事はいいじゃん。今はゆっくり休もう」
「そうね」
温泉の効果は香織達の予想以上に高く、香織達の疲れを一気に吹き飛ばしていった。その気持ちよさから、香織達は長風呂になるのであった。
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約一時間程温泉に浸かっていた香織達は、温泉から上がって何故か小屋の横に設置されているベンチでゆっくりとしていた。
「四人とも、水分補給を忘れずにね」
「「「「は~い!!」」」」
焔、星空、万里、恵里は、水筒から冷たい水を飲んでいた。
「今、出たのか? 長風呂だったな」
そこに温泉から出たばかりの玲二と里中がやって来た。
「湯冷めをしないようにな」
「分かってるよ」
ただその一言だけ言うと、そのまま自分のテントの方に向かっていった。
「あれ? 何か話があったとかじゃないのかな?」
「気を遣ったんじゃないのかしら? 今の私達薄着だし」
咲の言うとおり、温泉から出たばかりの香織達は、いつもよりも薄着になっていた。
「そんなの気にしなくてもいいのに」
「そうね。じゃあ、私達もテントを建てましょう」
香織達は、自分達のテントを建てに野営地に向かった。もちろん、いつも通りに服を整えてだ。テントを建て終わる頃に、玲二がやって来た。
「香織、咲、少しいいか?」
「いいよ」
「明日からの予定なんだが、基本的に変更無しだ。今日と同じように、先行部隊がモンスターの排除と野営地の整えを行う」
「私達は、また最後尾ですか?」
「ああ。それと、京都に行く途中で油田に寄ることも出来るが、どうする?」
玲二の提案に香織と咲は顔を見合わせた。
「ううん、それはまた今度で良いよ」
「それで行程が遅れても困りますから。全てを終えた後でいいですよ」
「そうか。じゃあ、帰りに寄るって形でいいな。じゃあ、明日も今日と同じ時間に出発だからな」
「分かった」
話を終えると玲二は、他のテントの方に向かった。
「私達も戦えるんだけどね」
「消耗を避ける事が必要みたいだから仕方ないわね」
「後は、必要以上に借りを作らないようにしているって感じかな?」
「そうね。このままだと全て私達に頼り切りになるからじゃないかしら」
「まぁ、確かにそれはダメだよね。私達がいなくなったら、何も出来なくなるし」
香織と咲の言うことはドンピシャで当たりだった。香織達に頼り切りにならず、自分達で解決出来るようになろうとしていた。
「さて、私達もご飯を食べて寝よう。明日も早いし」
「そうね。四人ともお腹空かしているだろうしね」
香織達は、自分達のテントに向かった。腹ぺこ四姉妹のためのご飯を用意するために。
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番外編 温泉──万里 恵里 焔 星空──
「はぁ~、気持ちいい~」
「ふぅ~~」
「初めて入ったけど、お風呂と違うね」
「温かい……」
万里は、すいすいと温泉で泳いでいた。
「二人とも、まーちゃんみたいに泳いじゃダメだよ」
「どうして?」
「マナーだからでしょ。ダメだからね、星空」
泳いでいる万里を見て、星空も泳ぎたそうにうずうずしていたが、焔に事前に釘を刺された。
「焔ちゃん達は温泉に来た事ないんだね」
「私達は生後一ヶ月かそこらだからね」
「私は二週間だよ」
「そりゃ、温泉なんて来た事ないよね」
万里は泳ぎ終わって焔達の方に来た。
「二人は来た事あるの?」
「小さい頃とかにね」
「あまり何回も行ってたわけじゃないけどね。箱根の温泉は初めてだけど」
「温泉って何カ所もあるんだ?」
「日本にも色々なところにあるよ」
万里の説明に焔と星空はへぇ~と頷く。
「行ってみたいかも」
「私も」
「色々終わったら、温泉巡りしても良いかもね」
恵里の提案に、焔と星空の目が輝く。二人とも温泉が気に入ったようだ。
「温泉と言えば、牛乳だよね」
「私、コーヒー牛乳派」
恵里と万里が、そう話していると、焔と星空は首を傾げる。
「どうして牛乳なの?」
「不思議」
焔と星空に問われると、万里と恵里は少し困った顔をした。
「それを言われると、私達にも分からないかも」
「言われてみれば考えもしなかったよ。何でだろう?」
四人の疑問は、結局解決することはなかった。その後は、他愛のない話で盛り上がった。
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