5.疲れた
改稿しました(2021年7月29日)
香織は、学校を襲撃してきたモンスターの群れを全滅させた。香織が戦った場所である学校の校門周辺は、血の海と死体の山が連なっている。
「はぁ……はぁ……疲れた……」
ミノタウロスに殴られた傷は、再生により完治している。しかし、一撃で終わったスライム戦を除けば、初めてまともに戦ったので、香織は、疲労困憊になっていた。
「ふぅ……」
香織は、その場で倒れ込む。足に力が入らなくなっていたのだ。
「やっぱり、スライムって弱かったんだなぁ」
どのモンスターも一撃で倒すことが出来たので、攻撃をまともに受けるようなことはなかった。香織が受けた最初の攻撃であるミノタウロスのあの一撃は、本当に強かった。魔力操作で、顔に魔力を集中させて強化していなければ、本当に危なかった。
「香織!!」
校舎の方から、香織を呼ぶ声がした。香織が、身体を起こして、声がした方を見ると、昇降口から咲が、香織の方へ走って来ていた。
咲は走ってきた勢いのまま香織に抱きつく。香織は、咲を難なく受け止める。
「大丈夫!? 香織!?」
「……平気だよ。……かなり疲れたけど」
よく見ると咲は涙目になっていた。香織も咲を抱きしめる。咲の体温を感じた。香織は、自分が生きているということを実感する。今更になって、自分が危ないことをしたということ認識したのだ。
「心配かけてごめんね」
「本当よ! 飛び降りたときは、肝が冷えたわ! あそこ、三階よ!」
香織達の教室は、校舎の三階に位置する。咲からすれば、ただ、香織が三階から飛び降りたようにしか見えなかった。
「大丈夫だよ。魔力操作で強化していたから。怪我したのも、もう治ったし」
「怪我!?」
「あっ、やばっ……」
香織は急いで自分の手で口を塞ぐ。しかし、咲はその手を無理矢理どかし、香織の顔をジッと見つめる。
「怪我ってどういうこと?」
「えっと……、ミノタウロスに顔を殴られて……」
香織が、目線を逸らしながらそう言うと、咲は香織の顔をくまなく観察し始めた。
「本当に怪我は無いようね。全く、無理したんでしょ」
「いや、ちょっと、チャレンジをしてみただけだよ。少しギリギリになったけど……」
「それが、無理って言うんでしょ!そんな事しなくても勝てたんじゃ無いの?」
「う~ん、勝てたかもだけど。苦戦していた気がするかな」
あのまま鞭で戦っていれば近寄られたときに、そのままやられていたかもしれない。そう考えれば、あの時の決断は間違いでは無かっただろう。
「そうなの? でも、お願いだから心配させないで……」
咲は、涙をこぼし始めた。いきなり飛び降りて魔物と戦ったと思ったら、校門前で倒れ込んでいたのだ。心配しない方がおかしい。
「ごめん、心配かけちゃって」
香織は、しばらくの間、咲の頭を撫でる。
「そういえば、先生や他の皆は?」
香織が少し気になっていたことを聞く。
「逃げたわ。特に先生達は、生徒を置いて全速力で逃げていったわよ」
「そう、まぁどうでもいいや。今の内にここから離れよう」
まだ、危険が去ったわけではないので、香織は周りを確認しつつ、咲を促した。
学校から離れて、咲の家に向かう。
「ごめん、送ってもらって」
「いいよ、私は戦えるから、咲はまだ戦う力がないでしょ?」
「そうね、でも、香織はどうしてそんな力を?」
「えっ? 家にあった宝箱からかな?」
香織は、自分が能力を得た原因をちゃんとは知らないので、最も疑わしい物を伝える。すると、咲はポカンとした顔になった。
「家にある宝箱って、うちにそんな物なかったわよ?」
咲はそう言った。
「そうなの? なんでうちにはあったんだろう……?」
「分からないけど、香織は運が良かったのね」
「そうかな?」
香織は、昨日見た自分のステータスを思い出す。
「確かに、LCKの値が高かったし、そうなのかも」
香織と咲が話しているうちに、咲の家に辿り着いた。
「香織、ありがとう。じゃあ、またね」
「うん、咲。気をつけてね」
香織は咲と別れ、自分の家に向かった。
「はぁ、やっぱり、疲れたなぁ。戦い方も、もっと考えなきゃ。家でレシピの確認してみよ」
香織の職業は、錬金術師なのだから、色々なアイテムを駆使して戦うのが、一番だと判断していた。
「魔法も結構上手く使えたから、そっちを中心にしてもいいと思うけど……」
今回の戦いで、一番敵を倒したのは、魔法の掃射だった。大量の魔法を同時に出しても耐えられる魔力量があるから、出来た事だった。
香織は、自分の戦い方について考えながら家へと向かっていった。普通はそんな事考えなくても良いのだが、こんな世界になった以上、これも必要なことだった。
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