4.学校襲撃
改稿しました。(2021年8月2日)
次の日、香織は、いつも通りの朝のルーティンをこなして、朝ご飯を用意しつつ、テレビを点けた。
『――大きな変化が起りました! 世界にモンスターが生まれたのです。現在は、数こそ少ないですが、人に対して攻撃を加えることがわかっております。皆さん、気を付けて行動して下さい。
そして、もう一つ変化が起こりました。魔法の発見です。皆様の中にも、魔法を使える人がいると思います。ですが、使用の際は、他人への被害をお考えの上、ご使用下さい――」
テレビでは、偉い人がそう話していた。昨日の記者会見の映像らしい。昨日の内に魔法の存在まで知れ渡っているようだ。
「魔法を使った犯罪とかが、増えそうだなぁ」
香織はそんな事を呟きながら、トーストを齧った。
今日は学校があるらしい(昨日メールがあった)ので、登校の準備をする。
一応、昨日作った回復薬は、アイテムボックスに入れておく。鞄なども入れておきたいところだが、変に目立ちそうなので、手に持って登校することにした。
「よし、学校に行こう」
家の鍵を閉めて、学校へ急ぐ。香織の高校は香織の家から徒歩で行ける距離にある。
香織は、学校に着くまでにモンスターに襲われる事を危惧していたが、結局杞憂に終わった。香織が、登校してきて教室に入ると、中にいる生徒は、普段の半分ほどの人数しかいなかった。
香織の友人は、学校に来ていたので、そちらへ向かう。
「おはよう、咲」
友達の名前は高山咲だ。咲は、黒く長い髪をしている。香織は肩口までのミディアムヘアだ。二人とも髪を縛らずにそのままにしている。
香織と咲は、小学校高学年からの付き合いだ。知り合ってすぐに仲良くなった。ついこの前も、一緒に服などの買い物をしに行ったくらいだ。
「おはよう、香織。はぁ、この世界どうなっちゃったのかしら? というか、なんでモンスターが出てるのに学校に来ないといけないの?」
咲は至極真っ当な事を言う。
「なんでだろう、全くわからないや。この付近のモンスターが、少ないからかな?」
「確かに、この周辺で、モンスターの被害にあったって話は聞かないわね」
そんな事を言っていると先生がやって来た。
「さぁ、席に座れ! なんだ、ほとんど来てないじゃないか」
と言った。なんだかイライラしているように見える。
「先生、モンスターが蔓延っている現状で、何で学校がやっているのでしょう?」
香織は先生に対して質問してみた。
「テレビのまやかしだ! そんなフィクションの生物いるわけがないだろう!! 実際、外にそんな化け物いないだろうが!! それに、この決定は校長によるものだ。外の状況を鑑みても、妥当な判断妥当!」
と言ってきた。先生は、モンスターがいる事を認めていないらしい。
「私は、昨日モンスターを見ましたよ」
「嘘をつくな!」
「嘘ではないんですが…」
先生は鼻息を荒くし、怒鳴る。
「それなら証拠を見せてみろ!」
と言われた。なので、アイテムボックスから、昨日倒して瓶詰めしたスライムらしきものを取り出す。
「何だそれは」
「昨日倒したスライムっぽいものです」
そう言うと教室中がざわめいた。
「嘘をつくな!! 自分で作ってきたんだろう!? 今時、誰でもスライムくらい作れるぞ!!」
また、怒鳴った。何を言っても無駄だろうと思い、それ以上は何も言わなかった。
「全く、そんな見え透いた嘘をいいおって後で反省文を出せ!」
そう言って先生は教室を出た。HRは終わりらしい。
「ちょっと、香織それモンスターって本当なの?」
「あ、うん。昨日出てきたんだ」
「倒したの?」
「うん、倒せたよ」
そう話していると、一時間目が始まる時間になった。皆が教科書の準備などをしていると、不意に地響きがしてきた。
「なに? 地震?」
「いや、違う……あっちを見ろ!」
クラスメイトがそう言った。
香織達が、クラスメイトが指さす窓の外を見る。そこでは沢山のモンスターが行進していた。
「モンスターだ……本当にいたんだ」
「ここにいて、大丈夫なのか!?」
クラスの皆が騒ぎ出す。私は、携帯を出し、ニュース欄を見た。すると、そこには気になる記事があった。
『ダンジョン発生か!? モンスターが出てくる穴を発見! 現在、そこから大量のモンスターが外に出て来ている―ー』
嘘か真かダンジョンが出来たらしい。
「見て、咲。ダンジョンができてそこからモンスターが出てきているって。あの大量のモンスターも、もしかしたら…」
「そんな、じゃあ、そのダンジョンが無くなるまで、あのモンスター達は出続けるの!?」
咲だけでなく周りのみんなも騒ぎ出す。
「わからないけど、ダンジョンが無くてもモンスターは出てくるから、そうとは限らないんじゃないかな」
そんな事を言っていると、
「お、おい!こっちにくるぞ!」
大量のモンスターの群れの一部が学校へ来る道に入ってきた。真っ直ぐこちらへ向かってくる。
「に、逃げなきゃ…」
誰かがそう言った瞬間、皆が慌てて動き出した。
「裏口からなら逃げられるんじゃないのか!」
「こんな時に先生は何をやっているんだ!」
そんな事を言いながら教室の外に出て行っている。
そんな中、廊下に出たところにある窓から先生達が裏口から逃げているのが見えたらしい。
「な、何で先生はもう逃げているんだ!」
「ふざけんな! 生徒置いて普通逃げるか!?」
香織は、教室からモンスターの群れを見た。すると、もう少しで校門というところまで来ていた。このままでは、生徒のみんなが避難するまえにモンスターが校舎までくるだろう。
「私が食い止めるから、今のうちに逃げて」
香織がそういうと、
「えっ?」
咲は、一瞬呆けた顔をして、
「ちょっ、何を言って……」
と何か言おうとしたが、その前に香織は窓から飛び降りていた。魔力を足に集中して、強化することで、安全に着地する。
「香織!!」
「咲!! 早く逃げて!!」
香織は、アイテムボックスから鞭を取り出す。
「よし! やろう!!」
香織は、無詠唱で水の矢を百本生成した。自分の魔力の量が多いことに気が付いた香織は、そのくらいなら出来るだろうと思っていた。言ってしまえば、ぶっつけ本番での行動だ。
香織に気づいたモンスターが校舎に向かって走り出す。その先頭にいるモンスターに対して矢を斉射する。
オークの身体が吹き飛び、リザードマンの頭が飛び散り、トレントが砕け散り、狼に風穴が開く。
先頭を走っていたモンスター達は、無残に散っていった。そして、その死体の周りは水浸しになっていた。
その死体を踏み越えて、後続のモンスターが香織めがけて向かってくる。
「これでも、くらえ!!」
香織はモンスター達の足元に向かって、雷を這わせた。直接当たったモンスター即死し、地面を伝った雷で感電したモンスターは黒焦げになった。
大量にいたモンスターは、香織の範囲攻撃で少数になったが、それでもまだ向かってくる。
香織が、校舎の方をちらっと見ると、咲達は校舎にいなかった。どうやら、避難を終えたようだ。しかし、まだ近くにいるかもしれない。
「時間を稼ぐより、全滅させた方が安全だよね」
香織は、皆が避難するまでの時間を稼ぐつもりでいたが、全員が必ずしも遠くに避難出来るわけでもないと判断し、全滅させる方向に変えた。
モンスター達が、近くに来始めたので、距離を取りながら鞭を振るう。先端に当たれば一撃で倒せたが、そうでないものは、痛がるだけだった。
「この距離だと難しいな。なら!」
香織は、鞭を棒に取り替え、敵を叩く。棒術のスキルもあり、敵を翻弄していく。だが、所詮は棒なので決めてにかける。
「鞭よりも威力が無い。でも、取り回しは利くね」
棒で翻弄しつつ戦っていた香織は、突拍子もないことを考えた。
「出来るかな? いや、やるしかないか!」
香織は、棒に対して刻印魔法を使う。刻印魔法は、普通指先に魔力を溜め、その魔力を使って刻印する。
しかし、香織の考えた方法は全く違う方法だった。それは、棒そのものに魔力を通し、その魔力を魔力操作で操作して、刻印するという突拍子もないことだった。理論上出来るのかどうかすら怪しい。しかし、香織は出来ると信じて行動を起こした。
その利点は、いちいち指を使わずに念じるだけで刻めること。さらに、全体的に刻印を進めることが出来る事だ。欠点は、指先よりも繊細に刻印できないことだ。少しの集中の乱れも許されない。
そこで、香織は超集中を使って、正確に刻印していく。これは、超集中を持つ香織だから出来ることだった。超集中を持たない者が、戦闘中に使えば確実に失敗するだろう。
刻印するのは『強度強化』『衝撃伝播』『威力強化』だ。
刻印する香織の目の前にミノタウロスがやって来た。香織に向かって、拳を振り下ろそうとしている。しかし、まだ、刻印は終わらない。
拳が目の前まで迫ってきた。そこになってようやく刻印が終わる。だが、こちらの攻撃は間に合わない。
(防げない!)
香織は顔に魔力を集中させ、顔の防御力を上げる。ミノタウロスの拳が、香織の顔に直撃する。香織は、そのまま吹っ飛んだ。
吹っ飛んでいる最中に、身体全体に魔力を分散させ全体の強化をする。香織は、身体全体を使って、勢いを殺しつつ着地した。
顔を上げミノタウロスを見る。そんな香織の鼻からタラーッと血が出てきた。
「…………」
香織は、無言で拭き取り棒を構えて突っ込む。香織の突撃に合わせて、ミノタウロスが拳を振り下ろす。香織は、ミノタウロスの拳を避ける。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
大きく振りかぶった棒を、ミノタウロスの頭に叩きつけた。
そもそもの威力が上がった棒を叩きつけ、衝撃伝播によって、その衝撃は、ミノタウロスの身体の中をめちゃくちゃにする。
ヴモモォォォォォォ!
ミノタウロスは、血を吐きながら絶命した。
香織は、そこで身体を止めずに、次々とモンスターを倒し続けた。香織が、棒を振う度に、何体ものモンスターが絶命していった。
そして、戦闘開始から十分せずにモンスターは全滅した。
モンスター達の死体中心に、血まみれの棒を持った香織が、荒い呼吸をしながら、立っていた。
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