43.核の封印
香織と咲が眠ってから、丸々一日が経過した。咲は、半日で眼を覚ましたのだが、香織の方は、未だに眠ったままの状態だった。
「香織さん大丈夫でしょうか?」
恵里が香織の寝ているテントを見てそう言った。
「大丈夫よ。さすがに寝ないで戦い続けていたから、疲れが溜まっているのよ」
咲は、恵里を安心させるようにそう言った。咲にも少しの不安はある。しかし、今その不安を面に出して、恵里達も不安にさせるのは得策ではないと考えたのだ。
「後二日間は、休んでいられるんだよね」
「そうですね。玲二様からの知らせではそうなります」
万里が出した質問を焔が答える。
「それまでには起きるかな?」
「さすがに、明日の朝には起こすわ。寝過ぎも良くないから」
咲達は、そのまま他愛のない話を続けた。
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「んっ……!」
香織は、目を覚ますとテントの中をキョロキョロと見回した。
「あれ……? えっと……何でテントにいるんだろう……?」
まだ寝ぼけている香織は、記憶の整理が追いついていないようだった。
「そうだ。悪魔を倒して、咲と焔とここまで来て、ようやく寝たんだった……。意外と長い間寝てたのかな。身体がバキバキだぁ……」
香織は、上体を起こして身体をほぐしていく。
「隣に咲がいないって事は、もう起きているのかな?」
ある程度ほぐしたところで立ち上がり、テントの中から外に出た。空が白んできている事から、夜明けの時間だと分かる。
「この時間は、ほとんどの人が起きてないね。朝早いから仕方が無いか」
香織は、テントの前にある焚き火の火を熾しなおす。
「軽く何か食べよ。転移してからまともに食べてないし」
香織が朝ご飯の支度をしていると、少し遠くの方から玲二が歩いてきた。
「よう、香織。もう大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。ようやく寝れたから、結構すっきりした」
香織がそう言うと、玲二は安心したように微笑んだ。
「そうか。明日一日は休みだ。ここの見張りは俺達がやるから、お前達は休んでいてくれ」
「いいの?」
「ああ、お前達には働かせすぎた。今は休んでいて欲しい。明後日は、千代田区の攻略に移る。あの悪魔がボスだって保証はないからな」
玲二の懸念に、香織はハッとする。
「確かに、その通りだね。ちゃんと休ませてもらうよ」
「ああ、頼む。それと、香織が回った区について聞かせてくれないか?」
「うん、いいよ」
香織と玲二は朝ご飯を食べながら、これまでの東京攻略について話す。話した内容は、区の状況と出たモンスターの種類についてだった。玲二達よりも香織の方が、多くの区を渡り歩いたので、話した内容は多かった。
全てを話し終える頃には、太陽が完全に姿を現していた。
「……なるほどな。魔法制限エリア、かなり厄介だな」
「うん。魔法職の人は苦労すると思う。これからのダンジョンには、このエリアが出てくる可能性が出てくるね」
「情報は出しておかないとな。そういえば、ゾンビの方は見知った相手はいたか?」
玲二が真剣な顔をして香織に訊く。
「どうだったかな。いなかった気がするけど」
「そうか。人の死体がゾンビになっている可能性を考えたんだが……」
「なるほど、確かにその可能性もあるね。確か、防具みたいなのも付けていなかったし、一般人みたいだったけど」
「ふむふむ。そこら辺は要検証……は、無理だな。色々問題にもなるし」
玲二は、香織から聞いた情報をメモ帳に記していた。
「よし、これくらいか。ありがとうな、香織」
「ううん。助けてもらったし、このくらい全然いいよ」
「そんじゃあ、俺は行くな」
玲二はそう言うと、立ち上がってその場を離れていった。
「さて……、明後日まで暇になっちゃったし、どうしよう……」
「錬金術で何か作ってみたら?」
「う~ん、何を作れば良いかな? ん? 咲?」
「そうよ。ようやく起きたのね。ご飯は食べた?」
「うん」
いつの間にか近くに来ていた咲が、香織の隣に座る。
「何か作れるものはあるの?」
「今は、回復薬とかかな。新しい物は作れないし、結構使っちゃったから補充しなきゃ」
香織は、少し大きめの鍋を焚き火の上に乗せ、回復薬作りを始めた。
「さっき、坂本さんが来てたけど、何を話していたの?」
咲は咲で、朝ご飯を食べながら尋ねた。
「私が渡り歩いた区の状況とモンスターについてだよ」
「あぁ、なるほど」
香織の答えに咲は納得する。
「そういえば、街並みについては訊いていなかったわね。建物は残ってたの?」
「崩れているところもあったし、そのまま残っているところもあったよ。形だけだけど」
「東京に住むには、一度全部取り壊した方が良いかもしれないわね」
「うん。そこは私も同感」
香織は、東京の様子を簡単に咲に説明した。今まで行った事のある場所は、神奈川県寄りの場所だけだったので、香織が渡り歩いた場所は行った事の無い場所ばかりだった。
「でも、ここや千代田区はそこまで劣化してないわよね」
「モンスターの数かな? 私がいたところは結構いた気がする」
「確かにそれで建物が壊されている可能性はあるわね」
香織と咲がそんな事を話していると、近くのテントが開き中から人が出てきた。
「……マスター!!」
出てきたのは、焔だった。焔は、香織を見つけると、急いで駆け寄った。
「焔、身体は大丈夫?」
「はい。今のところ何の異常もありません」
「それはよかった。どうせだから、身体の検査をしちゃおうか」
「わかりました」
香織は、自分の傍に焔を座らせる。
「始めるね」
香織は、焔の背中に手を当てる。そして、手のひらから魔力を流して、焔の身体の中を探っていく。
焔は、人造人間。人間に酷似した身体を持つが、根本的に人間とは違う。心臓となる場所には、龍の核が入っており、そこから湧き出る魔力が身体を流れる事で意志を持ち、身体を動かす事が出来るようになる。そのため、人間の医者に身体を見せても診断を下す事が出来ない。香織のように人造人間を作った者、あるいは、人造人間について詳しい者でないと、身体の異常を見つける事は出来ない。
「う~ん、手足は大丈夫。頭も問題なし。少しおかしいのは核かな。これは……、赤龍の意志みたいなものなのかな」
香織は、焔の背中から手を離して、『教本生成』で生み出した人造人間についての教本を取り出す。
「えっと、核の影響を抑えるには、核に封印を施す必要があるんだ。とりあえず、やっておこうか」
「はい。お願いします」
香織は、焔の背中に手を当てて核に魔力を通していく。
「うっ……」
「痛い?」
「いえ……少し……変な感じが……」
焔は、少し身体を捩る。心なしか顔が上気しているように見える。
「う~ん、核を触ってるからかな? 教本には特に書いてないから、わからないな。苦しかったら言ってね」
「は、はい……」
香織は、焔の核に封印を施していく。香織の魔力が焔の核に触れる度に、焔は身体を捩っていた。呼吸も少し乱れる。
「……香織、本当に大丈夫なのかしら? 焔が苦しそうだけど……」
「う~ん、問題はないはずなんだけど。焔、大丈夫?」
「はい……! だい……じょう……ぶ……です……!」
「早めに終わらせるから、少し我慢してね」
香織の言葉に焔は頷いて答える。香織は、丁寧かつ素早く、焔の核に封印を施していく。焔は、顔を上気させ、呼吸を乱し、少し声が漏れてしまう。咲は心配そうに、それを見守っていた。
「よし! これで終わり! 焔、何か違和感とか変化はない?」
「……はい。……大丈夫……です」
焔は肩で息をしながら答える。時間にして、大体五分程度だったのだが、焔はかなり消耗していた。
「これで、焔は暴走する事がなくなるのよね?」
「う~ん、そこまでの力は無いかな。暴走しにくくなるくらいの効果だよ。焔が自分で解放しなければ大丈夫かな」
「香織が施した封印なのに焔が破る事が出来るのね」
「そういう封印だからね。本当に危ない時か、必要な時しか解放しちゃだめだよ」
「わかりました」
焔はようやく呼吸が整った。
「なんであんなになったんだろう? 教本に書いてないって事はかなりレアな現象なのかな?」
「そもそも人造人間って、現状、焔だけなんでしょう?」
「私以外が生み出してなければね。そもそも龍を倒す事自体、かなり高難度の事だし、焔だけの可能性が高いけどね」
「じゃあ、比較対象がいないじゃない」
「うん、だから、これから調べなきゃいけない事の一つだね」
焔の核に封印を施す事に成功した香織は、咲や焔、万里、恵里と一緒にゆっくりと過ごした。万里と恵里は、野営地の警備に行く事もあったので、主に咲と焔といた。時折、冒険者の人がお礼を言いに来ることがあった。その中には、里中の姿もあった。里中も玲二同様、香織、咲、焔の身体の調子を心配していた。三人が健康体である事を知ると、表情と態度には出ないが、安堵したようだった。
そのまま時間が流れていき、とうとう千代田区に向かう日がやって来た。
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