40.奪還者を倒せ
気を失った香織に迫ろうとしていた奪還者達の前に、咲が立ちふさがる。
「な、なんだ……? こいつ、人間か?」
奪還者達は、突然現れた咲に驚き戸惑っている。それは、咲の見た目が鬼神化によって、普通の人とは全く異なっているためだ。それも相まって奪還者達は、戸惑いつつも警戒を強めている。
(香織が気絶した。傷の治りも遅い。恐らくまともに休めていないから、回復力にも限界が来ているのね。早く終わらせて、ゆっくり休ませてあげないと)
咲は、香織の作ってくれた刀だけでなく、炎月も抜き二刀流となる。
(坂本さん達が来るまで、早くても後十分は掛かる。それまでに終わらせることが出来れば、幸いだけど……)
奪還者の数は、香織がある程度倒したとはいえ、まだ百人単位でいる。そして咲は、香織を守るために香織の前から動くことが出来ない。
(近づいてくる奴は、全員……殺す!!)
「奴も仲間だ! やっちまえ!」
奪還者達が咲に襲い掛かる。襲い掛かった奪還者達が見たのは、咲の残した赤い残像だけだった。
「へ?」
後に続こうとしていた奪還者が見たのは、斬り刻まれ、原型を無くした仲間達だった。その中央には返り血で身体を赤く染めた咲が立っている。
「ば、化け物……」
奪還者が何とか振り絞って出した言葉がそれだった。そして、それが最後の言葉となった。
香織を中心として半径三十メートルに入ってきた奪還者は、全員咲に斬られていく。我に返った奪還者の指示者が、急いで指示を飛ばす。
「魔法隊! 弓兵隊! 一斉攻撃!」
遠距離からの魔法と矢の攻撃を、咲は、全て斬り裂いていく。
「んな!?」
香織がやった事とほとんど同じ事だが、魔法が剣で斬り裂かれる様は、奪還者達の度肝を抜くには十分だった。だが、これで奪還者の指示者には分かったことがあった。
「あいつは、あそこから動けない! 遠距離攻撃で攻めろ!」
「ちっ!」
その指示に咲も苦い顔をする。香織の周りから離れられない咲からすれば、この指示はかなり痛い。ただただ、防戦一方となってしまうからだ。
「数を減らせないのは厳しいわね」
咲は、そこから香織を守るために防戦一方となっていた。それから五分間、魔法と矢による攻撃が続いた。
「な!? どんだけ耐えるんだ!?」
その五分間の間、奪還者達の攻撃は全て咲によって斬り裂かれていた。その結果、咲と香織は奪還者の攻撃で傷一つ負っていなかった。
「後五分……耐えられるかしら……」
咲の心配は、鬼神化がいつ解けてしまうかだった。鬼神化が解ければ、咲は反動で動けなくなってしまう可能性が高い。そうなれば、奪還者達の攻撃を防げなくなってしまう。
「いつまでも保つわけがない! 攻撃を続けろ!」
前衛は、咲に殺されない距離で囲み、魔法部隊と弓兵部隊は咲に対しての攻撃を続ける。
「ちっ! うざいわね……」
そう言いながらも咲は耐えるしかない。そう考え、鬼神化の出力を下げようとした、その時……
「ぐあっ!」
「なんだ!?」
奪還者の後衛部隊の背後から声が聞こえる。さらに、咲の眼からは、火の粉が舞っているのも見えた。
「あれは……」
奪還者の後衛部隊が次々に倒されていく。
「なんだ!? あのガキ!」
「異常に強いぞ!」
奪還者の後衛部隊が誰かに釘付けになっている内に、咲も動き出す。正面にいる奪還者を斬り捨てて行く。両端からの強襲に奪還者達は、混乱の一途を辿っていく。
そして、乱戦が始まった。
咲は、なるべく香織の傍にいるように立ち回っていく。敵の後方では、赤い火の粉が舞い続けている。
「な、何なんだ!? こいつらの異常な強さは!?」
奪還者の数は減っているのだが、まだまだ大勢いる。
「はぁ、どこから沸いてきているのかしら。キリが無いわ」
咲は、そう言いながら自分の背後を見る。そこには、まだ眠っている香織の姿がある。少しずつだが、傷が癒え始めている。再生の力は弱くなっていても、ちゃんと発動している証拠だ。
「くそが!!」
奪還者の一人が大きな剣を振りかぶって、咲に叩きつけようとする。余所見をしていた咲の不意を突いたつもりの一撃なのだが、咲の二刀によって、剣と一緒に両断された。
「数が多すぎる……」
奪還者は咲に対して四人、五人で挑んでくる。咲は、それらを一斉に相手取って、かすり傷一つ負わない。
「物量で行け!」
指示に従った奪還者が何人も咲に襲い掛かる。
「本当に邪魔ね!」
咲は、一度の攻撃で何人も葬っていくが、攻撃と攻撃の小さな隙に攻撃を食らってしまう。さすがに、十人以上の攻撃を捌いて反撃するのは厳しかった。
それでも、咲は次々敵を倒していく。自分が怪我をしても、炎月を所有することによって得た超再生ですぐに回復させる。
そんな戦いを五分以上続けている。それでも、咲が倒れることはない。多少の傷は回復出来る。体力は尽きるまで、まだまだある。咲が膝を突くことはないだろう。だが、じり貧であることは変わらない。
「このままだと……」
モンスターと人では、戦い方が違う。本能に基づいた動きをするモンスターは、咲に取っては扱いやすいのだ。人が相手では武器の有無やその人独自の動きなど、注意する点が増えていく。
「くそ! ちょこまかと!」
周りの仲間が死んでいく様を見ている奪還者は、咲に対しての敵愾心を燃やしている。だからこそ、奪還者達は気付くことが出来なかった。
「ぎゃああああああ!」
咲と向き合っている奪還者達の真横から何種類もの魔法が放たれてきたのだ。
「全員! 突撃! 咲と香織を囲め!」
『おう!』
それは、玲二率いる冒険者達だった。冒険者達は、奪還者達に魔法による攻撃をすると、前衛達が突っ込んでいった。その中には、万里と重吉の姿もある。魔法部隊には恵里の姿もあった。
「うおおおおおお!」
重吉が、斧で奪還者達を薙ぎ払う。そこで空いた穴に万里が飛び込んで、少しずつ進んで行き、万里が維持した穴を再び重吉が開けていく。
恵里もいる魔法部隊は、奪還者の後衛部隊を攻撃している。その奪還者の後衛部隊から一人の女の子が抜け出してくる。それは、火の粉を纏った焔だった。
焔は、香織と咲まで直線で走って行く。すれ違う奪還者は全て息の根を止めていく。
「咲様! マスター!」
その結果、焔は、重吉達よりも早く咲達の元に辿り着いた。
「焔、香織を連れて離れられる?」
「ここまで囲まれていれば難しいかと思います」
「じゃあ、倒しきるしかないわね」
そう言い合いながらも、咲と焔は奪還者達を葬っている。
「後何人ほどいるのでしょう?」
「見た感じはまだまだだな」
そこに合流した玲二がそう言う。咲と焔の前には、重吉の背中がある。そして、香織を囲む形で、前衛が陣取る。
「咲、香織の容態は?」
「まだ、無理だと思います。回復の進みが遅いので」
「回復魔法が使える奴は、香織に掛けろ!」
玲二の指示に従って、魔法が使える中から二人が香織の元に向かう。
「敵の魔法部隊は?」
「ほとんど倒すことが出来ましたが、弓の方は、まだ多く残っています」
焔は、玲二達に先行して、この場に辿り着き後衛部隊を魔法部隊を中心に食い散らかしていたのだった。
「咲、後どのくらい戦える?」
玲二が訊いているのは、鬼神化のタイムリミットだ。
「感覚的には、まだ戦えます」
「すまないが、力を貸してくれ」
「言われなくても戦いますよ」
咲は、一度香織の方を振り向いてから、正面を向く。
「香織を頼みます。焔、行くわよ」
「はい」
咲と焔が、奪還者達に突っ込んでいく。いきなり攻勢に出た咲と焔に対して、奪還者達はうまく対応出来ない。防御をしようにも最大限まで速度を速めた咲に対して、何の反応も出来ないのだ。さらに、焔も敵の隙を的確に突き、次々に斬り裂いていく。
「敵後衛部隊に魔法を放て! 前衛部隊は、ここの防衛ラインを維持しろ! 香織に近づけさせるな!」
『おう!』
防衛ラインには、万里の姿もある。咲に鍛えられた万里は、この場でも十分に通用する力を持っていた。恵里も魔法部隊を攻撃している。
「焔は右回り、私は左回りに敵を倒すわよ!」
「分かりました!」
咲と焔は、途中で分かれて奪還者達を攻撃する。咲の通った後には、大量の血飛沫が上がっていた。焔が通った後には、焼死体が増えていった。
「な、なんだ!? こいつらは!?」
「止まらない……こいつら、止まらないぞ!」
「やばい! 撤退しろ!」
奪還者達が、この場から逃げようと行動を開始する。しかし、
「逃がすわけ無いでしょう? あなた達は全員、ここで死んでもらうわ」
指示を飛ばしていた奪還者の元に、血濡れた状態の咲が辿り着いていた。
「な!? さっきまで、もっと遠くにいたは……」
「走ってきただけよ」
奪還者達に指示を与えていた者は、首を切断された。奪還者達は、そのことに狼狽えてしまった。
「今だ! 殲滅しろ!」
『おう!』
玲二の指示で、冒険者達が前線を上げていく。奪還者達は、指示する人間がいなくなっただけで瓦解していった。全滅させるまでに、十分で事足りたのだった。
奪還者を全滅させた後、咲と焔は香織の元に向かう。
「坂本さん、香織は?」
「まだ寝ている。一応傷は全部塞がっているがな」
「……取りあえず、港区に戻った方が良いかと」
「そうだな。ここにいては、ボスに襲われる可能性があるからな」
咲の進言の理由が分かった玲二も頷く。
「全員、港区に戻るぞ! そこで二日休憩後、改めて千代田区を攻略する!」
玲二の指示にすぐに動き出す冒険者達。それを見て、咲も動き出す。すぐに香織の元に向かう。その途中で、鬼神化を解く。
「咲、大丈夫か?」
重吉が後ろから声を掛ける。前に咲が鬼神化を解いた時には気絶してしまったため、心配して声を掛けたのだった。
「はい、大丈夫そうです。ありがとうございます」
咲も重吉が何に対して言っているのかを理解して、そう返事をする。実際、咲は鬼神化を解いても倦怠感が増しただけだった。
「疲れは増しましたけど、気絶はしなさそうです」
「そうか、それは良かった。だが、無理はするなよ」
「はい。ありがとうございます」
重吉と話している間に、香織の元まで着いた。重吉は空気を読んでその場から離れる。
「香織? 聞こえる?」
咲が香織に、声を掛ける。しかし、香織は規則的な寝息しているだけだった。
「はぁ、せっかく会えたのに……」
咲は、香織の頬に手を添えて香織の体温を感じる。
「眼を覚まして……」
咲のその声は、香織には届かない。
「香織、一緒に行くわよ」
咲は、そう言って香織を背負う。
「よし! 戻るぞ!」
冒険者達は、港区に戻るべく進み出す。しかし、すぐに脚を止める事になった。
ガアァァァァァァ!!
「なんだ!?」
全員が周りを見回す。そして、見つけてしまった。目の前のビルの壁面に掴まっている異形の存在を……。
「あ……く……ま……?」
咲は震える声でそう言った。その異形は、咲の言うとおり、悪魔としか形容出来なかった。
東京攻略で最大の死闘が始まる……
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