39.予想外の敵
改稿しました(2021年11月4日)
次の日、咲と焔は、朝早く同時に眼を覚ました。
「おはよう、焔」
「おはようございます、咲様」
二人はテントから出ると、移動に備えて、テントを先に畳んでおくことにした。テントを畳んでいる最中、咲と焔は少し話していた。
「このテント、本当に便利ですね」
「そうね。香織が『組み立てるのめんどい! 簡単に組み立てられるのを私が作ってやる!』って言って、全力で作り始めてたわ」
「マスターらしいといえば、マスターらしいですね」
「香織の創作意欲はいつだって、突拍子もない事から来てるからかしらね」
「早く会いたいですね」
「そうね」
香織のテントのおかげで、片付けも早く済ませることが出来た。
「では、私はご飯を作っておきます」
「私は、周りを見てくるわね」
咲は、そう言って空を駆けていく。一応、冒険者達が見張りをしているが、何が起こるか分からないので、自分でも見て回ろうと考えたのだ。
「このスキル、本当に便利ね」
咲は、空を駆けながら周りを見ていく。時折発見出来るモンスターは、片っ端から叩き斬っていく。これからの進行の邪魔になるからだ。
「香織は、ここにはいないみたいね」
咲が、周りの見回りに行った真の理由は、香織の捜索だ。香織がどこにいるか分からない以上、少しでも捜索をしておきたかったのだ。咲は、刀を振って、付いた血糊を飛ばす。
「周りのモンスターは、これで全部だろうし戻ろうかしら」
咲は、道を戻って焔の元に帰る。そこには、焔の他にも万里と恵里の姿があった。
「咲さん! おはよう!」
「おはようございます!」
「おはよう、二人とも」
その場に降り立った咲に焔が、タオルを渡す。咲は、微笑んでからタオルを受け取って、返り血を拭っていく。
「いかがでしたか?」
「いいえ、いないわ」
主語を抜いた会話だったが、互いに何について話しているかは理解している。
「どうぞ」
「ありがとう」
血を拭い終わった咲に、焔がご飯を渡す。皆でご飯を食べていると、他の冒険者達も起きてきて、ご飯を食べ始める。そんな中、咲達の所に玲二と重吉がやって来た。
「今日で、千代田区に入ると思う。まだ、壁がなくなったか分からないから、予定でしかないけどな」
「あそこには、東京駅があるからな。そこに核があると予想されている」
「でも、皇居もありますよ」
咲は、重吉にそう伝える。すると、重吉と玲二は目を見合わせてから少し考え込んだ。
「皇居の可能性は抜けていたな」
「ああ、東京イコール東京駅というイメージが強かったな。皇居の他にも国会議事堂もある」
「東京駅、皇居、議事堂の順番で行くか」
「そうですね」
今回の探索順序が決まった。しかし、咲には少し不安要素があった。
「もしかしたら、入ってきた時点でボスが襲い掛かる可能性もあります」
「そうか。確かに、毎回の様に向こうから襲い掛かってきてるからな」
「警戒は強めるか」
話し合いが進み、全員の準備が整った。咲達を先頭に、千代田区に進んで行く。そして、千代田区に入る直前、正面の奥の方に大量の雷が落ちていった。
玲二達は、驚いて立ち止まってしまった。しかし、咲だけは別の理由で立ち止まる。
「香織……?」
────────────────────────
幽鬼のように歩いていた香織は、千代田区に足を踏み入れた。その瞬間、今までと違う感覚を得た。
「ん? 魔法が使える……まぁ、今更関係ないかな」
二日二晩一睡もせずに戦闘続きのため、かなり荒んでいる。
「ここは千代田区か。じゃあ、あのゾンビの群れにボスがいたってことかな」
香織は、自分の周りを観察して自分の現在地を確認する。
「えっと、何があったけ? 東京駅と……皇居もここだっけ? 議事堂も近くにあった気がするんだよね」
香織が、これから向かう先を、考えていると足下に矢が刺さった。
「?」
香織は、矢が飛んできたであろう方向を見る。そこには、何百人もの人が香織に対して武器を向けていた。
「奪還者……」
東京攻略前に玲二も言っていたが、東京を取り戻そうとしているのは、冒険者だけではない。東京を手中に収めようと奪還者達も向かってきていたのだ。ここまで、出会わなかったということは、香織達とは違う道から来たと考えられる。
「お前も、東京を攻略しに来たのか。それも一人で……だが、ここは渡すわけにはいかねぇんだよ!」
奪還者の男がそう言って、炎の弾を香織に放ってくる。香織は、その炎の弾を魔力を纏った腕で弾き飛ばす。
「んな!?」
奪還者達は、香織の所業に目を剥く。魔法を素手で弾くような者は、普通はいない。香織だって、普段はそんな事はしない。ただ、今の香織は……
「ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ、うるいさいな! そっちの事情なんて知った事じゃない!」
とても苛ついていた。香織は、手のひらを空へと向ける。すると、空に黒い積乱雲が発生し、幾条もの雷が地面に降り注いでいった。
「ぎゃああああああああああああああ!!」
「危ねえ!!」
「避けろ!!」
奪還者達の様々な声が飛び交っていた。幾条もの雷は、奪還者達を貫いていたが、不眠不休の進行のせいか普段の香織ほど精度が良くはなく、生き延びる人が多かった。
「くそが! 弓兵隊! 撃て!」
香織に対して何本もの矢が飛んでくる。香織は、自分の周りに竜巻を発生させ、矢を弾いた。
「魔法隊! 火魔法! 放て!」
何発もの炎の弾が香織を襲う。竜巻を纏っていた香織は、それを解除するタイミングを逃し、竜巻が火の竜巻に早変わりした。
「暑い……」
香織は、すぐに竜巻を消す。そのタイミングを見計らっていたのか、多くの奪還者が突撃してきていた。香織を魔法使いと判断し、接近戦に変更したのだろう。
それに対して、香織は鞭を取り出す。そして、鞭を幾度も振る。鞭が一閃する度に、奪還者達の武器が弾かれていった。時折、武器を握っている手ごと飛んでいくこともあった。
「なんだ、あいつ!? 魔法使いじゃないのか!?」
指示を飛ばしていた奪還者が、驚愕している。
「くそ! 魔法隊! 前衛に当てないように散発的に魔法を放て! この際、魔法の種類は問わない! 弓兵隊もだ!」
香織に対して多種多様の攻撃が飛んでくる。香織は、前衛にばかり気を配り続けることが出来なくなったので、鞭を仕舞い、火臨を取り出した。
「棒ごときで何が出来るってんだ!」
奪還者の一人が、そう言いながら香織目掛けて突っ込んでくる。しかし、その行動は完全間違いだった。
「うるさい」
「ごふぶぐぐ……!」
香織の一振りで、奪還者はよく分からない言葉を残して、空高く舞い上がっていった。そして、身体が燃え上がった。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
燃え上がり叫びながら転げ回っていき、少しして動かなくなった。その結果、香織を警戒して奪還者は、近づかなくなった。それでも魔法や矢は途切れないので、香織は、火臨を使って防いでいる。このままでは、一方的に香織がやられるだけなので、今度は、香織の方から攻めることにした。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
香織は、魔法と矢が一瞬途切れた瞬間に、前衛達に突っ込んでいく。
「くそが!」
こうなると奪還者達は、嫌でも対応せざるをえない。香織が火臨を振り下ろし、奪還者の一人が受け止める。通常の武器であれば、ここで安心出来る。しかし、香織の持っている火臨には、火属性の効果が付与されているため、相手に熱気が伝わっていき、武器が少しずつ溶けていっている。武器で防いだため、これで済んでいるが、直撃すれば炎上は避けられない。
「熱っ!」
伝わってくる熱気で火傷を負った奪還者の力が緩む。そこを見逃さずに香織が、火臨で薙ぎ払う。
「ぐはっ!」
直撃を受けてしまった奪還者は。やはり燃え上がった。
「奴に、接近するな! 武器による攻撃で身体が燃え上がるぞ! 魔法隊! 弾幕を途切れさせるな!」
先程の倍以上の密度で魔法が飛んでくる。香織は、魔法の対応に追われるため、その場から退いていく。
「先にあっちを倒さなきゃ」
香織は、魔法を防御する傍らで、稲妻を放って一人ずつ魔法を放っている奪還者を倒していく。
「くそ! 弓兵隊! 常に攻撃を続けろ! 魔法隊は大規模魔法の準備だ! 前衛は、攻撃に当たらないようにしながら、途切れなく攻撃を続けろ!」
一時的に魔法の攻撃が止んだが、それ以外の攻撃が勢いを増した。香織に対して、四人同時に攻撃を仕掛ける。香織は、全員を一気に相手にするのではなく、常に、一人と戦うように心がけることにした。
「うおおおおおおお!!」
四人同時に来ている奪還者に対して、香織が突っ込む。奪還者の一人に火臨で突きを入れる。
「ぐふっ!」
急に縮まった距離に対応出来ずに、直撃を食らって炎上する。一人を倒すことが出来たが、すぐに別の奪還者が埋め合わせに入る。そうして、常に四人が香織を囲んで攻撃を続ける。香織に魔法を使うタイミングを作らせないために、途切れることのない連携をしているのだ。
「邪魔!」
香織が火臨で薙ぎ払うと、奪還者の一人が受け止め、別の一人が攻撃を仕掛ける。その攻撃を香織は、身体を捻ることで避ける。そこに、別の奪還者が槍で突いてくる。それを火臨で弾き、槍を持った奪還者に掌底をぶち込む。その奪還者はビクンビクンと痙攣して倒れる。
「何だと!?」
奪還者達が警戒する。香織がしたのは、掌底に雷魔法を纏わせた一撃だった。ちょうど心臓に当てられ、心停止したのだ。
「おい! 気を付けろ! あいつの攻撃は直接受けちゃいけねぇ!」
奪還者達は、香織の攻撃を警戒する。しかし、攻撃を止ませるわけにはいかないので、攻撃を続けていた。
(さっきまでよりも攻撃の密度が減った。これなら……)
香織は、自分の足下に大きな魔法陣を出現させる。
「なんだ!?」
奪還者達の動きが止まる。その瞬間を見逃さずに、香織は、魔法陣を起動する。地面の形状が変化し、針の山が勢いよく出てくる。
「避けろ!」
一瞬早く反応した奪還者の指示によって、香織の攻撃を全員避けることが出来た。しかし、それは香織に自由を与えることに他ならない。香織は、靴の魔法陣を起動して、空を駆けようとした。その時、
「全員離れろ!」
奪還者の指示者が、そう言った直後、巨大な炎の弾が香織に迫ってきた。今から空を駆けても逃げられない。そう判断した香織は、アイテムボックスから結晶を取り出し、地面に叩きつける。香織の目の前に結界が現れる。その結界にぶつかった火の弾は、大規模な爆発を起こした。一面にしか張れていない結界では、爆発の衝撃を防ぐ事が出来ず、香織も吹き飛ばされてしまった。地面を何度もバウンドして、壁に激突した。
「げほっ」
香織は、衝撃によって咽せた。香織は動こうとするが、骨の一部を折ってしまったようで、身動きが出来なかった。
「回復薬……」
何とか動く右手で、回復薬を取り出し飲んでいく。ある程度回復できたが、まだ動き出すことが出来ない。
「ふん! 手こずらせてくれたな! だが、これで終わりだ!」
近づいてきた奪還者が倒れている香織の首に目掛けて、剣を振り下ろす。香織は何もする事が出来ない。いつもの香織であれば、この状況でも魔法による攻撃が出来るが、二日二晩戦い通しで、心身ともに疲れ切ってしまった今の状態では、それも行うことが出来なかった。
為す術もなく香織は、剣を見ている。
(これで、終わりかな? いや、不老不死があるから、死ぬことはないか……いや、首を刎ねられるから、死ぬ可能性の方が高いかな)
香織は、一度死ぬことを覚悟して剣の行方を見続ける。ためらいもなく振われた剣は、香織に届く直前で不自然に止まる。
「なんだ!? てめぇは!?」
「?」
香織は、若干ぼやけた視界で何が起きたのか見る。奪還者の剣を止めているのは、一本の刀だった。その持ち主は……
「私の香織に、何してるのよ!!」
香織の視界が歪んでいく。そして、顔に水が流れる。そこにいたのは、赤黒いオーラを纏い、額に角を生やした咲だった。
「さ……き……」
香織の意識は、そこで途切れてしまった。
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