36.行動をおこす二人
改稿しました(2021年10月28日)
香織は、大きな電波塔を目指して真っ直ぐに空を駆けていたのだが……
「痛っ!」
その途中で、透明な壁に思いっきり頭をぶつける羽目になった。
「透明な壁って事は、ボスを倒せていないって事? やっぱり、あれはボスじゃなかったって感じかな? 他に考えられるのは、行けるエリアが限られているということだけど……取りあえず、この壁に沿って移動しよう」
香織は、壁に右手をつきながら移動を始める。
「この先の区は、中野区かな? あの看板を見る限りはそんな感じがするけど」
香織が、壁に手をつきながら走っていると、不意にその壁が途切れた。
「わわわわっと……って、ええええええええええ!」
香織の悲鳴が響き渡る。香織が悲鳴を上げた理由、それは……
「何で、靴の魔道具が発動しないのぉぉぉぉぉぉぉ!?」
香織は地面に吸い込まれるように墜落していく。
「どうする!? どうする!? えっと……」
落ちながら香織は、色々と考え続ける。
「あっ!」
香織は、アイテムボックスから一つの爆弾を取り出し、地面に向かって投げつける。爆弾は地面に当たった瞬間、上に向かって大きな風を巻き起こす。その風によって香織の身体は地面に直撃する前にある程度、勢いを殺すことに成功した。
「ぐっ!」
それでも、かなりの勢いがあったため、着地の際に受け身を取っていても、かなりの衝撃が香織を襲った。
「痛っ……!」
香織は地面で大の字に倒れていた。
「回復薬……」
香織は、アイテムボックスから回復薬を取り出して中身を飲んでいく。
「はぁ、これで大丈夫……なはず。身体の骨に異常は感じないし、よし!」
香織は、身体を起こして二本の脚でしっかり立つ。屈伸などをして、身体に異常が無いかどうかを確認していき、問題ないことを再確認しておいた。
「うん、大丈夫……さてと、何で魔道具が使えないのかを考えないと。まぁ、ある程度の察しは付いているけど」
香織は、適当に雷の魔法を放とうとする。しかし、何も起きない。
「やっぱり、ダメだ。このエリアは魔法制限エリアって感じかな。体内の魔力を動かすことは平気だけど、外に出た魔力は使えない感じか。爆弾が平気なところを見るに、体内から直接出てきた魔力を分解するっぽい?」
香織は今自分が置かれている状況を分析していた。まず、大前提、魔法が使えない。だが、錬金術で作った爆弾は使える。そして、体内の魔力だけなら動かせる。分かった事はこれだけだ。
「靴の魔道具は、体内から出た魔力を吸収させて使用している。だから、魔力を使って起動させようとしても、その前に分解されてしまうって感じか……。はぁ、じゃあ、地上を走るしかないなぁ」
香織は、覚悟を決め、今の自分の装備と使えるものを確かめる。。現在使えるのは、アイテムボックスと爆弾、火臨、鞭、剣だ。後は、香織が溜めている錬金術の素材くらいのものだ。
「取りあえず歩こう。こんな夜更けだと全然見えないんだよね。そこら辺の木で松明でも作ろうかな」
香織は、そこら辺に落ちている木というよりも木材と呼んだ方がいいものを手に取る。そして、アイテムボックスの中から布と油を取り出す。布に油を少し染みこませて、木材に括り付け、火臨を軽く振り下ろす。すると、松明に火が灯った。
「よし! 進もう! その前に、ここはどこなんだろう?」
松明を片手に香織は先を進む。そして、辺りにある看板などからここが板橋区だと判明した。
「板橋区って確か、東京の上の方だったっけ? 千代田区に行くには、このまま回り道するしかないかな。それにしても、ここもかなり崩れてるなぁ。寝泊まり出来る場所が欲しいところなんだけど……」
香織の独り言が途切れる。理由は、軽い何かが転がる音が聞こえたからだ。香織は一気に警戒度を跳ね上げる。すぐに辺りを見回す。すると、正面で影が揺れた。
「何!?」
そこにいたのは、大きめの狼だった。
「迷子……なわけないよね……」
香織は火臨を構える。
グルルルルル……
狼は、唸りながらにじり寄ってくる。だが、いつまで経っても襲い掛かってこない。
「火を恐れている? 魔物でも火が怖いの?」
そう言った瞬間、狼が飛びかかってくる。飛びかかってきたおかげでようやく狼の姿が完全に分かった。その姿は、『狂骨の砦』で見たシャドウウルフと同じだった。だが、名前が違う。それは、ダークウルフと言う。
「『闇魔法』だけしかスキルが無いんだ。ここじゃあ、何も出来ないスキルだね」
香織は、殊更冷静に対応する。その動きから、どういう攻撃をするかを判断し、その攻撃の延長線上からズレる。香織に避けられて、後ろに着地するダークウルフ。そのまま、反転して再び飛びかかってくる。
しかし、空中に飛んだダークウルフに対して、香織が火臨で薙ぎ払う。ダークウルフの脇腹に辺り命中する。ダークウルフは、火に包まれながら吹っ飛んでいった。火に包まれたダークウルフは間もなく死に至った。
「一匹だけ、文字通り一匹狼だね。よし、早く休める場所を探そう」
香織は、夜中の街を歩き続ける。その間、何度もモンスターに襲われるが、そのことごとくを蹴散らしていく。
「いつも魔法メインの戦い方だけど、きちんと近距離戦も出来るんだよ!」
狼の山を築きながら香織が憤る。決して、ダークウルフ達が魔法が使えない香織を侮っていたわけではないのだが、ダークウルフ達の予想以上に香織の強さは上だった。
「はぁ、夜が明けちゃったじゃん!! 早く安全なエリアを探さないと」
香織は、松明をアイテムボックスに仕舞って走り出す。朝日が出てくれば、もう松明の必要が無いし、地面の様子もきちんと見えるからゆっくり進む必要も無い。
「早くボスを見つけな……っ!」
香織がボスを探そうとすると、いきなり横から何かが攻撃を仕掛けてきた。香織は、火臨で弾き、その場を飛び退いていく。
「あれは……!?」
香織を襲ったのは、大きな狼だった。ダークネスウルフ。
「何か、ダサい名前だね」
香織の言葉が分かったわけではないだろうが、ダークネスウルフが唸り始める。
グルルルルルルル……
香織は、警戒しつつ火臨を構える。魔法が使えない現状では、香織本来の戦い方が出来ない。だが、香織はいつも通りの攻めの姿勢を見せる。
香織は、ダークネスウルフよりも先に動き出した。火臨を構えつつ懐に飛び込む。そして、勢いよく火臨を叩きつける。しかし、香織が振り下ろしたところで、ダークネスウルフの姿がかき消えた。
「消えた!? 予想以上に早い!」
ダークネスウルフは、香織の周りを走り続ける。香織の速さでは、ダークネスウルフに追いつけない。
万事休す。この場面を見た人、全てがそう思うことだろう。しかし、香織の眼に諦めは無い。ダークネスウルフが、周りを回るのをやめ、香織に飛びかかる。香織は、タイミングを合わせて火臨を叩きつけようとするが、ダークネスウルフは、身体を捻って避けていった。
「めんどい!!」
香織は、アイテムボックスから鞭を取り出す。そして、自分の周りを滅多打ちにする。ダークネスウルフは、少し距離を取って、範囲外を回り始めた。
ダークネスウルフの顔には、嘲りしかなかった。香織がやけくそになったと思っているのだろう。香織が、鞭で打ったところはコンクリートなのに亀裂が深々と走っていたが、ダークネスウルフのところまでは伸びていないのだ。
ダークネスウルフが、鞭を振うのをやめた香織に飛びかかる。爪で香織を引き裂く気でいるようだった。しかし、その爪が香織にとどくような事は無かった。地面から、瓦礫などが打ち上がってきたからだ。
何故、この様なことが起こったのかというと、香織がその地面の手前で衝撃重視の鞭の一撃を放ったからだ。先程香織が地面を叩きつけ続けることで、生まれた大量の瓦礫は、その衝撃で勢いよく宙に舞う。それが、飛びかかってきたダークネスウルフの身体を次々に襲ったのだ。
キャウン!!
香織に飛びかかれず地面に落ちたダークネスウルフに対して、香織はその着地点に向けて、あらかじめ鞭を振っておいた。その結果、ダークネスウルフの脚に鞭が絡まりつく。その鞭を香織は思いっきり引っ張った。
グギャウン!!
着地しようとしていたダークネスウルフは、それによって再び宙を舞っていく。そして、香織は、鞭に付いたダークネスウルフを振り回していく。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そして、最後に勢いの乗ったダークネスウルフを地面に叩きつけた。頑丈だったダークネスウルフは、振り回しだけなら耐えていたが、それらの勢いが乗ったこの一撃だけには耐えきれず身体がひしゃげる。
ガフッ!
ダークネスウルフが血を吐き出す。内蔵もだめになっていそうだが、骨も粉々になっているだろう。だが、それでも、ピクピクと動いている。
「これで終わり!」
香織は、トドメとして、火臨で頭を潰す。恐らくこのエリアのボスであろうダークネスウルフを倒すことに成功した。
「はぁ……魔法が使えないと本当に不便だよ。咲ならもっと早く頭を斬り落とすんだろうなぁ」
香織は、身体の調子を確認しつつ、一人でため息をこぼす。そして、自分の頬に両手を叩きつける。
「ダメダメ、弱気になってた。きちんと、前を見続けなきゃ。取りあえず、ボスを倒したと仮定して、また境界線を探そう。このまま、真っ直ぐ進んでいけば、いいかな。咲に再会するために、頑張るぞ!!」
香織はまた走り出す。区の境界線を探すために……
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咲が目を覚ますと、テントの外は明るくなっていた。横を確認すると、香織の姿は無い。少し落ち込みかける咲だったが、頬に両手を叩きつけて雑念を払う。
「おはよう、焔」
咲は、テントを出てすぐの所で、焚き火の火を起こしていた焔に挨拶をした。
「おはようございます、咲様。良くお眠りでしたね」
「ええ、目的が定まったからかしらね。焔の方はどうかしら? よく眠れた?」
「はい、おかげさまで。食事になさいますか?」
「ええ、お願いするわ」
咲と焔が、食事を取っていると、段々人が出てきた。テントから出てきて、焚き火の火を起こし、食事を温めている。
「おはよう! 咲さん! 焔ちゃん!」
「おはようございます! 咲さん! 焔ちゃん!」
同じタイミングで喋り始めたのに、喋る量の違いで結局、はもりがずれていた。
「万里、恵里、おはよう」
「おはようございます、こちらをどうぞ」
咲は普通に挨拶をし、焔は、ご飯をよそって二人に渡す。
「ありがとう! 焔ちゃん!」
「ありがとう!」
万里と恵里は、焔に笑顔でお礼を言う。そこに、玲二と重吉も姿を現した。
「おはよう。咲、もう大丈夫か?」
「はい、ご心配おかけしました。里中さん」
重吉が、咲の状態を訊き、咲は問題ないと答える。咲のその返答に、本当に大丈夫だと重吉は判断した。
「皆、聞いて欲しい。今朝方、というよりもさっきと言った方がいいか。五班のメンバーが目を覚ました。怪我などは無く体調も完全に戻っている。そして、五班の決断だが、すぐにでも移動を開始して、香織の捜索をするべきと言っていた。だから、俺達はすぐに移動を開始する。準備を進めておいてくれ」
『はい!』
全員からいい返事を聞いて、玲二は満足し、次の班の元に向かった。
「香織、待っててね」
香織同様、咲達も行動を開始する。
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