32.行方不明者の捜索
改稿しました(2021年10月22日)
大田区のエリアボスである大蜘蛛は、その赤い眼を香織達に向けている。香織は、避けられてしまった電撃から炎に変えて魔法を放つ。その魔法も大蜘蛛は素早く避ける。いや、さっきの雷撃よりも急いで逃げたようにも見えた。
「速いね。走って逃げつつ、行方不明の班を探そう」
「ええ、蜘蛛ということは、巣に貼り付けて置いている可能性があるわね」
「私も魔法で攻撃しますか?」
「うん、散発的に撃って。多分苦手な属性だと思うから、火魔法を使って」
「はい」
焔は香織の言葉に頷いた。作戦を決めたところで、香織達は大蜘蛛に背を向けて走り出した。
「香織、あの大蜘蛛は、どのくらいの強さ?」
「赤龍よりも弱いかな。でも。素早さが異常だね。それだけなら赤龍やエキドナよりも高いよ」
「ですが、この狭い屋内では、素早さを活かせないのでは?」
焔は、炎の弾を何発も放ちながら言う。焔の言うとおり、狭い屋内では大蜘蛛の速度を活かせないように見える。だが、香織の考えは違う。
「そうでもないかな。もしそうだとしたら、何のために、ここにいるのか全く分からないから。私達を襲う機会なら外でもあったはずだしね」
「なら、ここで戦うメリットがあるという事よね」
「……なら、巣を焼き払いますか?」
「それも一つの手だけど、巣に捕まっている可能性があるから、五班の人達を救出してからかな。私達の魔法で焼き殺しちゃダメだし」
「かしこまりました」
走り続ける香織達、それを追い掛ける大蜘蛛。大蜘蛛は、壁や天井を飛び続けている。まさに縦横無尽だ。それに対して、香織と焔が火魔法で攻撃している。交代交代で魔法を放つことによって、隙を生じさせること無く攻撃することが出来ている。
「見付からないわ」
その間に咲は、五班のメンバーを探し続けている。今のまま咲一人に周りを捜索して貰う
「……咲、焔、二人で探しに行って。あれは、私が抑えるから」
「何を言ってるの、香織?」
「このまま襲われ続けながら探しても、細かいところまでは見られない。だから、誰かが、あれを抑える必要があるの。咲は、大蜘蛛との相性が悪いし、焔の魔力総量も凄く多いわけじゃ無い。あいつと相性が良いのは、私だけだから」
香織の言っていることは正しい。しかし、正しいからと言って何でも受け入れられるわけでは無い。咲は、少し葛藤する。
「……分かったわ」
「救出したら、合図を送って。ここら一帯を焼き払うから」
「了解よ。焔、行くわよ」
「はい、咲様。マスター、ご武運を」
咲と焔は、香織を置いて先行する。そして、香織は大蜘蛛の方を振り向く。
「私が相手だよ!」
香織は、周りに大量の炎を生み出す。
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咲と焔は、香織から離れた場所で行方不明の五班を探していた。
「こちらにはいないようですね」
「何か、手掛かりがあればいいんだけど。そんなものもないわね」
施設内の店の跡を捜索するが、人の影も形もない。
「手掛かりですか。そうなると、戦闘の跡でしょうか?」
「その可能性もあるわ。でも、もっと他に何かあれば……」
咲は、周囲を観察し始める。あるのは廃墟となった店くらいのものだ。
「店……あそこは、洋服店かしら。まだ服……が……」
咲が見ている店には、白い布のようなものがあった。だが、その布は何処にもほつれなどが無いように見える。服なら当然といえるが、ここは二年も放置された場所だ。そんな綺麗な布があるわけが無い。
「焔、気を付けて」
「はい」
咲と焔は、警戒をしながら、その店の方に向かっていく。すると、その店から人と同じ大きさの蜘蛛が飛びかかってきた。
「ふっ!」
咲は、組み付かれる前に叩き斬る。しかし、その後ろから、もう一匹の蜘蛛が飛びかかる。どう考えても咲は避けることが出来ない。だが、咲が蜘蛛にやられることは無かった。
「ご無事ですか?」
その蜘蛛を焔が斬っていたからだ。
「ええ、ありがとう」
「いえ、差し出がましい真似をしました。咲様なら心配いりませんでしたね」
「そんな事無いわ。守ってくれて、嬉しかったわ」
咲は、焔の頭を撫でてあげる。焔はくすぐったそうにするが、されるがままだった。
「それにしても、子供までいるとは……」
「このくらいの大きさなら簡単に斬れるわね。でも、油断はしちゃいけないわ」
「この白いのは蜘蛛の巣ですね」
咲が見つけた白い布のようなものは、蜘蛛の糸が合わさって出来たものだったのだ。それらは、どこか別の場所に続いている。
「辿っていきましょう。さっき香織も言っていたけど、巣に捕まっている可能性もあるから」
咲達は、蜘蛛の糸を辿って歩き出す。注意して見れば、いろんな所に蜘蛛の糸がついている。進んで行くと、外に出ることとなった。
「外ですか」
「他のターミナルか……後は、格納庫かしら?」
咲達は、外に出る前に安全確認をする。さっきのように、蜘蛛の子供が待ち構えている可能性があるからだ。
「モンスターはいないわね」
外にモンスターはいない。そして中からも、咲達を追ってくるようなモンスターはいなかった。
「行きますか?」
「そうしましょうか。ここからは、蜘蛛の糸はないから手探りに逆戻りね」
辿った先には、外に続く出口があるだけで、蜘蛛の糸は途切れていた。
「格納庫に向かいましょう。何も無ければ、別のターミナルを捜索。それでいい?」
「はい」
咲と焔は、外に出るとすぐに走り出す。格納庫のある方へ向かうと、その先から、大量の蜘蛛の大群が押し寄せてきた。
「子だくさんですね」
「そうね。厄介だけど、こっちで正しいって事が分かったわ」
咲と焔は、刀を抜き駆けていく。
まず最初に、焔が火魔法で炎の弾を作り出して放つ。炎の弾は蜘蛛の大群の一角を焼き尽くしたが、すぐにその穴を埋めるように蜘蛛が集まってくる。
「気持ち悪いです」
「同感よ。でも、ここを切り抜けるしか無いわ」
咲は、刀に風を纏わせながらそう言う。
「焔、大丈夫?」
「任せてください」
咲達と蜘蛛の大群がぶつかる。
まず、咲が風を纏わせた一撃を放つ。すると、手前の方にいた蜘蛛が軒並み消え去った。
「……私いりますかね」
焔は、目の前まで来ていた蜘蛛の一部がごっそり消えたのを見てそう呟いた。しかし、まだまだ蜘蛛の大群は消え去らない。
「まだまだ来るのね。焔、全滅させるわよ」
「かしこまりました」
咲に続いて、焔も突っ込んでいく。咲は、先程と同じように蜘蛛を蹴散らしていく。その傍ら、焔も蜘蛛を倒していく。焔の身体からは、火の粉が舞っていた。焔が斬りつける度に、炎が蜘蛛を這っていく。
焔の核となったのは、赤龍。再生力や巨大化などが目立つが、炎を操る龍という側面もある。焔は、赤龍の炎を操る面を強く受け継いでいた。だからこそ、焔は火魔法を使うことが多く、その威力も常人より高い。そして、今の焔の状態は、身体に火の粉を纏うことで、通常の攻撃に火の追撃を追加する。そのため、斬る、殴る、蹴るなどをするだけで、敵を燃やすことが出来るのだ。
やり過ぎれば、全てを燃やし尽くすことになるが……
「やるわね、焔。そっち側は、任せたわ!」
「はい!」
焔は、咲に頼られたことが嬉しく、笑顔で答える。そして、五分もしないうちに万近くいた蜘蛛の子供は、全滅することになった。咲が担当した左側は細切れの死体が、焔が担当した右側は地面まで黒焦げになっていた。
「ご苦労様。格納庫を探しましょう」
「お疲れ様です。分かりました」
咲達は、まず最初に、一番近くの格納庫に向かう。扉を開けて中に入ると、ボロボロになった飛行機があった。
「飛行機がボロボロになっているわね。ということは、使い物になる飛行機は無いという事かしら?」
「咲様、考察を結構ですが、まずは行方不明者の捜索を」
「そうね。ここには、いなさそうね。めぼしいモノもないし、次に行きましょう」
咲達は、二つの格納庫を調べたが、中には誰もいなかった。
「これで、最後かしら」
最後の格納庫の中に入ると、そこには蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
「咲様! あちらに!」
焔が指した方向には、多くの人がぶら下がっていた。
「……関係の無い人も混じっているわね。いや、五班以外の人は皆、死体だわ」
「ですが、腐敗してませんね。死んでから、あまり経っていない気がします」
咲と焔は、五班のメンバーを巣から切り離す。
「……どう運びますか?」
「う~ん、あそこのあれを使いましょうか」
咲が指しているのは、格納庫の隅に何故か置いてあった荷台だった。
咲達は、五班のメンバーを荷台に載せて駆け出す。
「焔、合図を出して」
「分かりました」
焔は、空に向かって炎の弾を放つ。その炎の弾は、空中で爆発を起こす。この音が合図だ。
「私達も急いでここを離れるわよ! 香織が本気で戦ったら、私達も巻き込まれてしまうわ」
「はい! 護衛はお任せください!」
咲が荷台を引き、焔が周辺を警戒する。周りからは、蜘蛛の子供が、大量に出てくる。あちらからしたら、餌を盗んでいく泥棒に見えているのだろう。
しかし、その蜘蛛達は、咲達に近づくことすらできない。焔が、護衛としての役割をまっとうしているためだ。
「焔、無理はしないで」
「大丈夫です。まだやれます」
焔は、火魔法を操り、火の壁を生成している。そうして、追ってこようとしている蜘蛛を遠ざけているのだ。
咲と焔は、常人では考えられない速度で、その場を後にした。
こうして、咲達が逃げている間に、ターミナルの方で激しい音が聞こえてくる。そして、咲達が空港から少し離れた段階で、空港のターミナルが崩壊しだした。
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