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31.最初のボス

改稿しました(2021年10月20日)

 翌朝、香織達が目覚め、朝食をとった後、全員が一箇所に集まった。皆の前に玲二が立つ。


「今日から、本格的な東京攻略が始まる! 今までの甘い気持ちは捨てろ! ここからは、地獄のような戦いが何度もあるはずだ! ここにいる何人かは、死んでしまうかもしれない! だが、この攻略をやめることは出来ない!!

 今までと違い、今回は香織と咲がいる! だが、だからといって、この二人に頼り切ってはいけない! 二人に負担を集中させてもいけない! 俺達は、ギルドで待っている仲間やここにいる仲間、そして、香織と咲に恥じない戦いをするんだ! お前達の意地を見せろ! この攻略で完全にクリアする必要は無い! 行けるところまで行くぞ!」

『うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』


 玲二の気合いの入る、しかし、どこか気の抜ける言葉に冒険者の皆が雄叫びを上げる。


「凄い気合いだね」

「それだけ、今回の攻略に力を入れているって事でしょ。東京攻略には、それだけの価値があるもの」

「私達も叫びますか? マスター?」

「恥ずかしいし、やめておこ」


 香織達は少し離れた所で静観していたが、万里と恵里は冒険者達と同じく雄叫びを上げていた。


「あの二人は元気だね」

「あの元気はいつまで保つかしらね」

「いつまでも保たせたいけどね」

「そうね」


 香織達がそんな事を話している内に、玲二が冒険者の皆に指示を飛ばす。


「第一班から順次突入。まず、ダンジョンのエリアの区分けがどこまでかを探るぞ。今、確認出来ている情報では、フィールドダンジョンはエリア毎のボスを倒さないと、次のエリアに進めなくなる。本当は、エリア毎に複数人で攻略するのが効率がいいが、ダンジョンの難易度が高すぎるため諦めた。一つ一つのエリアを全員で攻略していく。ダンジョンを出ることは自由に出来るから、逃げることは出来るはずだ。攻略不能と判断された瞬間、ダンジョンから撤退する。分かったな!? 第一班、出撃!」


 一班ずつ順番に入っていき、自分達に振り分けられた地区の探索を行う。振り分けられた地区と行っても全部大田区の中だ。


「香織、咲、万里、恵里、焔、重吉。行くぞ」

「うん」


 香織達も自分達に振り分けられた地区に向かう。香織達が東京に入ると、見える景色は変わらないのにあたりの空気ががらりと変わった。


「うっ……」


 恵里が少し怯えてしまう。


「大丈夫よ、恵里。今はまだ普通のダンジョンと変わりないわ。落ち着いて、深呼吸しなさい」

「すぅ~~、はぁ~~」


 咲のおかげで、恵里も落ち着いてきた。


「俺達の担当は向こうだな」


 玲二が地図を見て確認していると、香織がおもむろにコンパスを取り出した。


「マスター、使えそうですか?」

「う~ん、無理だね。針が安定しない。いろんな方向を指し続けてる。この全てが私達の探しているボスなんだとすると、複数いることになっちゃうからね」

「では、当初の作戦通りしらみつぶしになるということですね」

「うん、そういうこと」


『導きのコンパス』は使い物にならないことが分かった。香織達は、しらみつぶしにエリアボスを探す。


「モンスター!」

「戦闘準備!」


 しかし、ここはダンジョン内、今までの比較にならないほどモンスターが現れてくる。そのほとんどは香織と恵里の魔法で殲滅することが出来た。さらに、咲、万里、焔、玲二、重吉という優れた前衛のおかげで、香織と恵里に近づいてくるモンスターはいなかった。そのおかげで、香織と恵里は安全に冷静に攻撃出来た。


「数が多いわね」

「さすがは、ダンジョンという所か。だが、これだけ歩いてもボスが出てこないとはな」

「大規模な戦闘音もしないしな」


 東京突入から約三十分経過したが、ボスの影もなければ、大規模戦闘の音もしない。エリアボスの強さにもよるが、戦闘音はそうとう大きなものとなるはずだった。


「どういうこと? 大田区以外の所にボスがいるって事?」


 万里が、これまでの話からそう推測した。


「その可能性はあるな」


 重吉は、万里の意見を肯定する。しかし、


「だが、他にも考えられる」


 それだけでは終わらなかった。


「例えば、ボスが時間限定で出てくる可能性。あるいは、地下、空にいる可能性もある」

「うぅ、可能性が多すぎるよぉ」


 万里が頭を抱える。


「香織、何か感じる?」

「ううん、気配を察するスキルはないし、なんで?」

「香織の勘は、当たるからよ」


 そう言われた香織は、少し考え込む。


「大田区以外の場所、地下、空……空?」

「空がどうかしたのか?」


 玲二は、空を見上げながら訊く。


「空港には誰が行ってるの?」

「確か、五班だったか。それがどうかしたのか?」

「もしかしたら、空港にいるかも?」

「何で疑問形なんだ?」


 香織は、そう訊かれも返事をしなかった。無視をしたわけではなく、単純に聞こえていなかったのだ。


「空のモンスター。だから、皆、見つけることが出来ない? あっちから仕掛けてくることもない。でも、他に考えられる場所が無い……」

「香織!」

「!!」


 咲の声に、ようやく香織が反応を示した。


「何?」

「何じゃないわよ。急に考え込んで戻ってこないから呼びかけたのよ」

「ああ、ごめん。多分、羽田にいると思う。この区の中で代表的な施設の一つで、十分な広さがあるから」

「だが、向こうの方で音なんてしないぞ。魔法の軌跡も見えない」


 重吉の言うとおり、香織の考えは十分な証拠が無い。


「はい。だから、可能性の一つにしか過ぎないです」

「……玲二。この地区を調べ終え次第、羽田に行こう」


 重吉は,少し考えてからそう言った。


「そうだな。集合場所に行き、点呼をとり次第全員で羽田に向かうぞ」

「いいの?」

「何も指針がないんだ。香織の勘を信じてみるのもいいだろう」


 玲二も重吉の意見に異論無いようだ。香織達は、あらかじめ決めてあった集合場所に向かい他の班を待つ。

 その間も、香織は色々な事を考え続ける。


「空港にいない。空に常にいるモンスター……いや、海? 海の中を回遊しているから、見付からない? でも、大田区の海にしかいられないっていうのはどうなんだろう……じゃあ、施設内?」

「香織、大丈夫?」

「うん、考えられる事は、色々あるんだけど。見付からないっていうのが引っかかるんだよね」


 香織が考えている間に、続々と探索をしていた班が帰ってきた。だが、空港に向かった五班だけが、いつまで経っても帰ってこない。


「五班が帰ってこないということは、香織の勘が当たっていたということか!」

「今から行くの?」


 香織は、空を見上げながら玲二に訊く。大分日が高くなっている。ここで、空港の捜索をすれば、日が沈む可能性があるのだ。


「ああ、なるべくなら誰も死んで欲しくない」

「……分かった。私と咲、焔が先行してみる。万里ちゃんと恵里ちゃんの事を頼むね」

「……」


 玲二は眉間にしわを寄せている。自分の中でいろんな意見がせめぎ合っているのだろう。


「わかった。ただし、目的はボスの討伐では無く、仲間の救出だ。分かったな?」

「うん、分かった。咲、焔行くよ」

「ええ」

「はい、マスター」


 香織と咲、焔は、羽田空港に向かって走り出す。


「気を付けろよ……」


 玲二は、三人の背中にそう呟いた。

 万里、恵里は、心配そうに三人の方を見ていた。その背中が、見えなくなるまで……


 香織達は、羽田空港までの道を走り続ける。途中、襲おうとしてくるモンスターは、香織の爆弾で吹き飛ばしていく。


「容赦ないわね」

「急いでるからね。それに、潜伏しているわけじゃないから、どこにいるか分かるしね」

「数は平気なの?」

「十分な量を作ったから大丈夫だよ。それに、時間があれば作れるし」

「マスター、正面に集団です。今までの威力ですと倒しきれないかと」


 焔の報告通り、正面に大規模のモンスターの集団がこちらに向かってきていた。香織は、今まで使っていた爆弾と少し違った爆弾を二種類取り出した。


 そして、先に小さめの爆弾を投げつける。モンスターの頭上に達した爆弾は、その場で爆発する。爆炎はたいしたものではないものの、爆風がモンスター達を襲った。そして、さっきの爆弾より大きめの爆弾がモンスターの集団の中心で爆発する。


「咲、焔、ルート変更。あっち!」


 香織は、モンスターの集団とは違う方を指し、咲と焔を誘導する。香織達はモンスターの最後を見ずに先を進んで行く。

 爆発した後に残っていたのは、焦げた道路だけだった。


「香織、さっきの爆弾はなんなの? 見た事無いけど」

「最初に投げたのは、爆風の威力を高めた爆弾だよ。モンスターを地面に留めるために使ったの。次に使ったのは、ナパーム爆弾の威力を高めすぎたものだよ。異常に高くした結果、瞬時に焼き尽くす爆弾になっちゃったんだ。つまり、失敗作だね!」

「使いどころがあって良かったわね……」


 香織の作ったものが、必要以上に危険なもので、咲の顔は思わず引きつってしまった。


「はぁ、まぁいいわ。それより、後もう少しで羽田空港よ」

「本当だ。施設も残ってるみたい」

「音がしませんね。戦闘が起こった跡もないです」

「気を付けて行こう。まず、施設内から調べるよ。警戒を最大限に」


 香織の指示に、咲と焔は無言で頷く。香織達は、羽田空港に到着すると、ターミナルに入っていく。


「中は意外と綺麗だね。なんでだろう?」

「整備している人はいないはず。ここがダンジョンになっていたっていうのも聞かないし……」

「取りあえず、進みますか?」

「うん、行こう」


 香織達は、前に進むことにした。電気は通っていないらしく照明は点いていない。カラン……という乾いた音が聞こえた。香織達は、音がした方に素早く向いた。


「風?」

「ううん、違う。多分……」


 香織の声は、その先を紡ぐことは無かった。後ろで何かが着地した音がしたからだ。香織は、振り向きざまに電撃を走らせる。そこにいた何かは、それを避けきった。


「あれは、ここのボスね」

「どうしますか?」

「対応しつつ、五班の人を探そう」


 香織達は、油断なく構える。そして、大田区のエリアボスと対面することになった。脚が八本あり、お尻から粘着性のある糸を出している。その姿は、蜘蛛そのものだった。しかし、ただの蜘蛛じゃない。その全長は五メートルを越している。


「油断しないで!」

「ええ」

「分かりました」


 東京攻略、最初のボス戦が始まる。

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