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変わってしまった現代で錬金術師になった  作者: 月輪林檎
第一章 変化と解放

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30.平穏な時間

改稿しました(2021年10月19日)

 香織達は、東京攻略に必要なものを揃えてギルド本部に向かった。


「どのくらい掛かると思う?」


 咲が香織に訊く。主語が無いが、長い付き合いである香織には、何を訊いているのか直ぐに分かった。


「う~ん、一ヶ月……、いや、二ヶ月くらいかな。でも、最初だから攻略するまで潜りっぱなしじゃないかもしれないよ」


 咲が訊いてきたのは、フィールドダンジョンとなった東京を攻略するまでの期間だ。


「そもそもフィールドダンジョンって、どこに核があるのかしらね」

「確かに、青木ヶ原樹海に行ったときは、どこにも無くて諦めたもんね。あの時はコンパスも無かったし」


 香織の持つ導きのコンパスは、この青木ヶ原樹海や平原型ダンジョンを潜った経験から作ったものだ。持ち主が欲しているものを、ちゃんと指し示さない事もあるが、本当に何の指針も無い場では、重宝する。


「ただ、一つだけ懸念があるんだけどね」

「コンパスが働かないというの?」

「分からないけど、もしかしたらってだけだよ。そういう予感がするってくらいだから」

「はぁ、香織の予感は当たることが多いのよね」

「マスター、咲様。万里様と恵里様がお着きになりました」


 別の方向を見ていた焔が、香織と咲に向かってそう報告した。焔の腰には、一本の刀が下がっている。さらに、前までの香織のお下がりのワンピースではなく、動きやすいズボンとブラウスに上から黒いコートを羽織っている。可愛いからかっこ可愛いに変身していた。


「万里ちゃん、恵里ちゃん、おはよう」

「万里、恵里、おはよう」

「おはよう!」

「おはようございます」


 皆で挨拶を交わすと、万里と恵里の興味は焔に移った。


「焔ちゃん、かっこいいね! 香織さんの服なの?」

「いえ、お下がりでは無く、作って頂きました。なので、凄く頑丈な作りです」

「錬金術って服も作れるんですね。肌触りもいいですし」


 そう言って、恵里は焔の服を触っている。焔は少し困り顔だったが、引き剥がすようなことはせずされるがままとなっていた。


「いつの間にか、仲良くなってるよね。あの三人」

「成熟具合が同じなのかもしれないわね。まぁ、理由はさておき、仲が良いのは良いことね」


 香織と咲は、三人の微笑ましい姿を温かく見守る。こうしてみると、焔が人造人間ホムンクルスだということが全く分からない。この攻略中にばれることは無いだろう。バレたからといってどうということはないが、それが原因で絡まれる可能性もゼロではない。焔が嫌な思いをしないで欲しいと思う香織達は、自分から言わないようにしようと考えていた。


「香織、咲、ここにいたのか」


 そう言って現れたのは、重吉だ。重吉は、いつもと違い背中に大きな斧を背負っている。香織達は、重くないのかといつも思っているらしい。


「里中さん、おはようございます」

「おはようございます」

「ああ、おはよう。玲二は、まだか?」

「本部で話をしてから来るんだと思いますよ」

「そうか。そこにいるのが、人造人間ホムンクルスの焔か?」


 重吉が、目線で焔を指しながら訊く。焔の事は玲二から聞いていたのだろう。この攻略では、一緒に行動する予定なので、事情を知っておいた方が良いと考えたのだろう。


「はい。そうですよ」

「戦闘は出来るのか?」

「赤龍と同等の強さです」

「俺よりも強いということか。なら、大丈夫そうだな。今回の攻略では、世話になる。よろしく頼む」

「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 香織達は互いに軽く頭を下げる。何度か一緒に戦ったことはあるが、今回みたいな本格的な共闘は、初めてなのだ。


「香織達の荷物は、香織が全部持っているのか?」

「はい、アイテムボックスがありますから。一応、咲もマジックバッグを持っていますけどね。里中さんのも預かりましょうか?」

「いや、はぐれた場合も考えて自分で持っておこう。万里と恵里は……」

「自分達で持つそうです。これからも私達が傍にいるわけではないので、経験を積みたいそうですよ」


 万里と恵里について咲が返事をする。今の香織達の装備は、武器と小さめのポーチというどうみても大規模の攻略に向かう装備では無い。逆に、万里と恵里は中くらいのバッグ、重吉は、少し大きめのバッグを背負っている。


「もしかして、私達が注目を浴びてるのって、荷物が少ないから?」


 香織達はあまり気にしていなかったが、さっきから香織達の方を見る視線が多くなっていた。


「それもあるだろうが、赤龍の討伐者というのが理由としては合っている気がするな」


 ここに集まっている人のほとんどは冒険者だ。そのため、香織達の戦いを間近で見ていた人達が多い。重吉の意見は、的を射ているだろう。


「まぁ、じろじろ見られるのは慣れているけど、あまり見られたくは無いよね」

「嫌な慣れね」


 そんな風に香織達が話していると、ギルド本部の扉が開いた。そこから玲二が出て来る。


「待たせた! 皆、準備はいいか!?」

『おおおおおおおおおお!!』


 冒険者達の雄叫びが響き渡る。


「第一班から進んで行ってくれ! 目標は、大田区だ!」


 玲二のかけ声に応じて、人が動き出した。香織達は、玲二を待つので最後の方になる。


「すまん、待たせた」


 玲二は、少し大きめのバッグを背負い、腰に剣を下げている。


「何してたの?」

「ああ、俺がいない間のギルドの運営方針とかの最終調整をしていたんだ。さぁ、行くぞ」


 玲二が先頭に立って歩き出す。香織達も後を追う。本格的に動き出したことで、万里と恵里が緊張し始めた。


「大丈夫ですよ。何かあってもマスターや咲様、私もいますから」


 香織が何か言おうかと思っていると、焔が二人の手を取ってそう励ました。万里と恵里は、少し驚いていたが、すぐに笑顔になり、


「ありがとう」

「ありがとうございます」


 と言った。緊張も和らいでいるようだ。


「焔がお姉さんしてるよ!」

「生まれて一週間だから、妹の筈なんじゃ……」


 香織と咲がこそこそと話す。良くも悪くも緊張感のないパーティーだった。


「はぁ、これでも大丈夫だと思えるから不思議だよな」

「ああ、だが、俺達がその安心感を生み出していない時点で、本当はだめなんだがな」

「そうだな。大人として、しっかりと安心感を持たせたいんだがな」


 玲二と重吉は、自分達でそう言って落ち込む。


 大田区までの行程は約六時間に及んだ。その移動の間もモンスターに襲われたが、香織達がいなくともほとんど瞬殺だった。冒険者の数が多いので当たり前といえば、当たり前だが。


 現在は、大田区の目の前で、突入前の野営をしている。


「この人数だと楽でいいね」

「私達が楽をしていいのかは疑問だけどね」


 香織は何も気にしていないが、咲の方は、自分達が先頭で戦うべきだったのではと考えていた。


「気にするな。二人の消耗を抑えることは、俺達の作戦の一つだ。何かあったとき、一番に頼るのは二人だからな」


 玲二はそう言って、咲の考えを否定した。これも玲二の本音だが、本当は二人に頼らずにいられるのが一番なのだ。


「そういえば、前から気になっていたんだが、なんで二人はそんなに強いんだ?」


 重吉がそう言った。このことは、他の面々も気になっていたのか、万里、恵里、玲二も注目する。


「えっと、全く分からないんです。私は、最初からスキルレベルが最大でしたけど、咲は違いましたし」

「私達の共通点は、宝箱を開けたことでしょうか」

「宝箱って言うと、ダンジョンのか?」


 玲二はそう訊いた。宝箱と言えば、ダンジョン内で生成されるものというのが、今の世界の常識だ。


「ううん、私の家にいきなり現れたの。万里ちゃんと恵里ちゃんも見たことあるでしょ? 討伐報酬が来たときに」

「ああ! そういえばそうだったかも!」

「あの時は本当にびっくりしました!」


 万里と恵里は、香織の言葉でその時のことを思い出した。


「俺は、家に現れたことは無いな。重吉は?」

「俺も記憶にない」


 玲二と重吉も、家に宝箱が現れたことが無いらしい。


「じゃあ、なんで私の家だけ宝箱が出たんだろう?」

「全く分からないが、それが強さの理由と見ていいと思う。咲も香織の家で宝箱を開けたのか」

「はい、そうです」

「なら、香織の家にも秘密があるとかがあり得るが、俺達が話し合っても答えは出ないだろうな」


 玲二がそう言うと、皆が同意の意味で頷いた。


「それじゃあ、後は寝るだけだな。攻略の本番は明日だ。英気を養ってくれ」

「分かった。あっちが女子エリアだよね?」

「ああ、出来れば結界でも張ってくれると助かる」

「え? もしかして、この状況に乗じて襲ってくる人がいるかもしれないの?」

「可能性はある。出来るか?」

「条件型の結界かぁ。陣を張れば出来るかな」

「頼んだ」


 香織と咲達、女子組は言われた場所まで向かった。区切られたエリアに入ると、女性冒険者と出会う。


「こんにちわ」

「こんにちわ。あなたは香織ちゃん?」


 挨拶をした女性が、香織の名前を言った。


「はい、そうですけど。どうして名前を?」

「本部長の話にあったから。皆の場所はあっちよ」


 そう言って、テントの張っていない場所を指さす。


「ありがとうございます。咲、テント張っておいて」

「ええ、分かったわ。万里、恵里行くわよ」

「うん!」

「はい!」

「焔は私と来て」

「かしこまりました、マスター」


 香織と焔は結界を張りに、咲、万里、恵里はテントを張りに向かった。


「マスター、結界はどうやって張るのですか?」

「魔法陣を複数設置して魔力で繋ぐの。大きな魔法陣を使うよりも魔力量が少なくて済むし、持続性も高いんだ」

「そうなのですか? 私の知識にはありませんね」

「あれ? そういえば、魔法についての知識はあまり優先してなかったかぁ。少しずつ教えていくね」

「ありがとうございます」


 そんな事を話しながら、魔法陣を五つ設置する。そこに、魔力を流し全ての魔法陣を連結させると、女子エリアに結界が張られる。


「出来上がり。焔、咲達の所に戻るよ」

「はい」


 香織と焔は、咲達がいる所まで戻った。そこには二つのテントが張られており、咲達が大きめの焚き火を作っているところだった。


「ただいま」

「おかえり、香織、焔。焚き火が出来たわよ。もう、ごはんにするのかしら?」

「うん、早めに食べておこうか」


 今回の食事も『狂骨の砦』で食べた時と同じ、焼き肉だ。皆で食べていると、周りに人が集まってきた。


「香織ちゃん、そのお肉どうしたの?」

「持ってきただけですよ。食べますか?」

「いいの!?」

「ええ、皆さんの分もありますから」

「皆! 香織ちゃんがお肉分けてくれるって!」

「え!? 本当!」


 東京攻略に来ていた冒険者の女性全員が集まってきた。


「ちょ、香織ちゃん! これ、焼き肉のタレじゃん!」

「嘘! 手作り!?」

「こんなの分けて貰っていいの!?」

「本当に美味しい!」

「香織ちゃん、凄すぎ!」


 女子エリアは、わいわいとし始めた。皆で集まってお肉を食べている。


「香織ちゃん、ありがとう。こんなに分けて貰って」

「全然いいですよ。えっと……」

「加奈子。朝日加奈子だよ。よろしくね」

「はい、加奈子さん」


 そんな風に盛り上がっている香織達を、玲二達男組は結界の外から見ていた。


「楽しそうだな……」

「ああ、あんな華やかな場にいけたらな」

「でも、結界が張られていて入れないもんな」

「くそっ! なんで俺は女に生まれなかったんだ!」

「そこか? 問題は?」

「今からでも、女になれないのか!?」

「無理だろう。大事なものと引き換えだぞ」

「くっ、究極の選択か……」

「お前のその覚悟が凄いわ……」


 男達は男達で賑わっていた。その中であまり盛り上がっていない二人がいた。


「あいつら、あんなことになっているぞ」

「ああ、俺も予想外だな。まぁ、香織達が楽しそうでよかった」

「玲二が結界を張るように指示したのは、男達が襲うのを警戒しただけでは無いのだろう?」

「ああ、かなり小さな可能性だけどな。香織達を疎んでいる奴もいるかもしれない」

「だが、それは女達も同じじゃないか?」

「そこら辺は大丈夫だろ」

「なにかあるのか?」

「いや,分からないが、あの二人なら大丈夫な気がする。テントにも細工をしてそうだ」

「確かにな」


 玲二と重吉は、そう言って笑い合った。


 楽しい夜ご飯が終わり、皆が就寝し始めた。香織達もテントに入って寝ることにする。その際、焔は香織達と寝る筈だったのだが、


「焔ちゃん、一緒に寝よ!」

「ほら、こっち!」

「え? ちょっと待ってください! 引っ張らないで!」


 と言って、万里と恵里に連れて行かれた。焔は、香織達に助けを求めようとしたが、二人は手を振るだけで助けてくれなかった。


「むぅ。マスターと寝たかったです」

「私達は焔ちゃんと寝たかったんだ!」

「間に入って!」


 焔は、万里と恵里に左右を挟まれて寄り添われてた。


「少し暑いのですが……、まぁ、いいです」


 焔は満更でも無いようだった。三人は仲良く川の字で眠った。くっつき過ぎて、川には見えなかったが。


 香織達も自分達のテントで横になる。


「今日までね。こんなに騒げるのは」

「うん、明日からは、こんなものじゃ済まないよ。常に最大限の警戒。襲ってくるのはいつもと違うモンスター達。対応の仕方が分からないのもいるかもしれない。食事もまともにとれるか分からない。戦闘で命を失うかもしれない。色々考えられるね」

「はぁ、せめて、万里と恵里だけでも守らなきゃね」

「うん……」


 香織の返事に少し元気がなくなる。そこに気付いた咲は、心配そうに香織を見る。


「怖い?」

「……うん。少し怖いかも」

「香織、こっちに来て」


 香織は、咲に促されるがまま咲の布団に入り込む。そして、咲は、入り込んだ香織を抱きしめる。


「どうしたの?」

「少しは怖いのが和らぐんじゃない?」

「……うん。ありがと」


 一応、二人別々の布団を用意したが、結局いつも通り二人同じ布団で寄り添いながら眠りについた。


 平和な時間は、ここまでだった。

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