29.最悪の事態(1)
改稿しました(2021年8月13日)
「昨日、黒龍は西に向かったと言ったのは覚えいるか?」
「うん、咲の能力で追えた限りだと、それで間違いないはずだけど」
「ああ、そうか。咲の能力で追えるのか」
「途中までだけどね」
「途中?」
玲二は、香織の言葉に首を傾げた。
「はい、私の領空権では、西に向かったところで反応が消えました。大体、静岡手前ぐらいですね。地上に降りた感じではないので、あちらの統治権の能力で反応を消したんだと思います」
「統治権の方が上だからってことか。じゃあ、黒龍が統治権を持っていることは確実だな」
玲二は、あまり驚かずに聞いていた。そして、咲の話を合わせて、本題に入る。
「咲の言うとおり、静岡の方面に向かっていった黒龍は、その後、富士山に降り立ったらしい」
香織と咲の顔に緊張が走った。
「富士山の何処に?」
「頂上、火口付近だ」
香織達が予想していた最悪の状況だった。下手をすれば、富士山の地殻を刺激して、噴火などもあり得るかもしれない。
「坂本さんは、どうするつもりなの?」
香織が、真剣な顔で訊く。焔を抱きしめる力も少し強くなってしまう。焔は心配そうに香織を見上げる。それに気付いた香織が、焔の頭を撫でて安心させる。
「最終的には、討伐する。多くの犠牲が出るかもしれないが、仕方がない」
玲二は、黒龍は討伐すべき言う。
「今のままでは、全滅するだけですよ」
咲が、冷たくそう言う。しかし、香織もそう考えていたので何もフォローしない。
「分かっている。だが、やらなければいけないだろう。そのための修行もするつもりだ。だが、実はもう一つ、香織達に言わないといけないことがあるんだ」
「何?」
何の心当たりもないので、香織は首を傾げる。
「東京が、ダンジョン化した」
香織と咲は、また顔が強張る。だが、万里と恵里は、状況をうまく理解出来ずに不思議そうにしている。
「東京にもダンジョンは、あるんじゃないの?」
万里がそう言う。
「そうだね。東京には、多くのダンジョンがあるけど、坂本さんが言っているのは、それらの事じゃないと思うよ」
「ああ、香織の言うとおりだ。東京は、フィールドダンジョンになった」
「フィールドダンジョン?」
聞き慣れない言葉に、万里と恵里が首を傾げる。
「今まで、万里ちゃん達が潜っていたのは、洞窟型みたいな地下に生成されるダンジョンだったでしょ?」
「はい」
「フィールドダンジョンは、外にある空間がダンジョン化したものなんだ。私達が、確認したのは、青木ヶ原樹海かな。攻略したことはないけど、難易度は、そこらのダンジョンより遙かに高いよ。それこそ、東京にあるダンジョンよりもね」
香織の説明に、万里と恵里の顔が青ざめる。
「東京がダンジョン化したって言ったけど、坂本さん達はどうするの? 近くにダンジョン見つけて、これから攻略するって噂で聞いたけど」
「ああ、まさに、攻略前の最後の偵察でこのことが発覚したんだ。昨日の夜中に報告が来たから、大体、一昨日くらいに変化した可能性が高いな」
一昨日という言葉で、香織と咲に思い当たる事があった。正確には、万里と恵里も思い当たるものがあるはずなのだが、二人は気付いていない。
「恐らくですが、多くのダンジョンも変化している可能性があるかと」
咲がそう切り出す。
「何!?」
「私達が潜ってた『狂骨の砦』も大きく変化してたよ。途中の階層に平原が出来てた」
「あそこは、廊下と洞窟だけだと思っていたんだがな。今度調査するか……」
「あっ、もう壊しちゃったから、無理だよ」
「何でだ?」
「ボスのレベルが跳ね上がってたし、あそこでスタンピードが起こったら、かなりやばいって判断したから」
仮に、変化した『狂骨の砦』でスタンピードが起きて、スケルトン達や狼が大量に出てくる事になれば、かなり面倒くさい。さらに、スタンピードは、下手をすれば、そのダンジョンのボスが出てくることもある。エキドナが出てくれば一大事だ。
「そうか、助かる。俺達じゃ、攻略出来るダンジョンも限られているからな」
「東京のダンジョン化は、どの程度の規模なんですか?」
フィールドダンジョンにも規模がある。大きくなればなるほど、攻略の難易度と時間が跳ね上がることになる。
「東京都全域の可能性がある。今は調査中だ」
「なるほど。しばらく、東京には近づかない方が良さそうですね」
「そこで、二人に頼みたいことがあるんだが」
玲二は、情報を伝えに来たと言っていたが、それだけではなかったようだ。香織達は、玲二が何を頼もうとしているか、大体察しがついた。
「東京の攻略を手伝って欲しいって事?」
「ああ、出来れば、俺達冒険者と行動して欲しいんだ。香織達の足手まといになるが、二人で行くよりはいいだろう?」
香織と咲は少し考え込む。正直冒険者にはいい思い出がない。その人達と足並みを揃えられるか。向こうにその意志があるのか。それらが重要になるかもしれない。
「それと、万里と恵里にも手伝ってもらいたい。人手が圧倒的に足りなくてな」
玲二は、万里と恵里にも助力を頼んだ。
「頼む」
そう言って、頭を下げる。
香織は、リスクの面を考える。
(万里ちゃんと恵里ちゃんには、残ってもらった方がいいかもしれない。フィールドダンジョンの危険性は、通常のダンジョンと比較にならない。でも、坂本さんの言うとおり、人手不足だというのは事実だし、猫の手も借りたいというのは分かる。それに、東京を放置しておくことも出来ない。だけど、一番の問題は……)
「奪還者達よりも、早く取り戻したいということですね」
咲が、香織の考えを玲二に向かって言う。
奪還者、土地などをモンスターや山賊の手から取り戻す事を目的とした人達だ。ただ、取り戻したものは自分達のものにするので、香織達にとっては、ありがた迷惑である。
「ああ、東京を全て持っていかれるのは避けたい。だからこそ、早期に攻略する必要がある。協力して欲しい」
香織達は、顔を見合ってから答えを出す。
「分かりました。私達も困ることになりそうなので引き受けます」
咲が、そう返事をすると、玲二は安堵したように息を吐いた。
「ただ、私達は、私達だけでパーティーを組みます。それと、私と香織が逃げろと言ったら、絶対に逃げてください。これらが、条件です」
玲二は、咲の出した条件を、少しばかり考えてから答えを出す。
「一つだけ、俺と重吉をパーティーに入れてくれ」
玲二が、一つの条件に加えてきたのは、自分と重吉のパーティー加入だった。
「何故?」
「お前達だけで行動させるのもいいんだが、お前達は無茶をするだろう。監督するついでに、お前達の戦い方を間近で見させてもらおうかと思ってな」
少しの間、咲が悩む。だが、香織の方が、すぐに答えを出した。
「いいんじゃない。二人なら信用出来るし。私、咲、万里ちゃん、恵里ちゃん、坂本さん、里中さんのパーティーでいいと思うよ」
「香織がいいならいいけど、万里と恵里は、大丈夫?」
「うん! 大丈夫!」
「はい! 頑張ります!」
香織の判断を信じ、咲も了承する。万里と恵里の意志も確認したので、これで、正式に東京攻略のパーティーが結成するだろう。
ここで異議を唱える者がいた。
「あのマスター、私も連れて行ってもらえませんか?」
焔が、香織を見上げてそう言った。誰も予想していなかったことなので、全員目を丸くしている。
「でも、焔には、店番を頼もうと思っていたんだけど……」
「ダメでしょうか?」
焔は、香織を見上げ続ける。香織は、少し考えてから
「う~ん、いいよ。一緒に行こ」
と、焔が一緒に行くことを許可した。焔は、その答えに微笑み、
「ありがとうございます」
とお礼を言った。咲達は、香織が許可を出したことに驚く。
「香織、焔は戦えるの?」
咲が、皆を代表して、香織に質問する。
「うん、焔は、店番を任せようと思っていたから、変な客が来たときのために戦闘技術はかなり高めにしたよ」
「どのくらい強いの?」
「えっと、核にした赤龍とほぼ同じくらいかな」
香織と焔以外の全員が驚愕する。
「そんなにおかしい事じゃないよ。戦闘技術はともかく、単純な強さは、核にした龍の強さになるからね」
「人造人間の特徴って事?」
「うん。だから、黒龍の核を使えば、黒龍の強さになるって事だよ」
人造人間は、龍の核を材料に作られる。この核の持ち主の強さがそのまま人造人間の強さになる。ただ、人造人間も成長をするので、生まれてから時間が経った人造人間は、生まれた当初よりも強くなる。
つまり、核の強さは初期の強さに影響するのだ。
「じゃあ、焔がついてきても問題ないって事ね」
「そういうこと。坂本さん、東京攻略は、いつ頃になる?」
「一週間後だ。それまでに、準備を整える。香織達は、一週間後の朝八時に、ギルド本部に来てくれ」
「分かった」
「一週間の間に、新しい情報があれば、綾子に持っていってもらうから。じゃあ、俺は、これで失礼する。万里と恵里も鍛錬を欠かさないようにな」
「「はい!」」
玲二が立ち上がって、家を出て行く。
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