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変わってしまった現代で錬金術師になった  作者: 月輪林檎
第一章 変化と解放

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27.新しい命

改稿しました(2021年8月28日)

 香織達が家に着くと、もう既に夕暮れになっていた。


「お風呂湧かしながら、夕食の準備をしましょうか」

「うん。畑に行って、野菜持ってくるね」


 咲は、玄関から家に入り、お風呂の準備をして、冷蔵庫の中身を確認する。

 香織は、家の裏に回って、畑の野菜の中で熟しているものを選んで収穫する。


「こういうとき、鑑定眼って便利だなぁ」


 自分の能力を利用して、収穫を短時間で終わらせていく。


「咲、野菜置いておくね。私は工房の方にいるから」

「もう錬成するの?」


 咲が訊いているのは、人造人間ホムンクルスの事だ。

 今回のダンジョン探索で、欲しかった材料は全部揃っていた。香織の性格も考えると、今すぐに、作り始めてもおかしくなかった。


「ううん。まずは、素材を加工しなきゃだから、今日は錬成はしないよ」

「そうなの? ご飯出来たらすぐに来てよ?」

「わかった!」


 そう言って、香織は、奥の工房に引っ込んでいった。


「……心配だわ」


 咲は、ちゃんと食事時に来るかどうかを心配していた。


 香織は、工房に着くや否や、ダンジョンで取った素材を作業台に載せていく。


「えっと、まずは、ミスリルの加工からかな」


 香織は、錬金釜にミスリルを入れて、火に掛ける。そこに、魔力油を注いでいく。

 魔力油は、魔力を含んだ油だ。簡単に言うと、魔力水の油バージョンということだ。


 香織は、素材を入れ終わった錬金釜を魔力を注ぎながら棒でかき混ぜていく。

 中の油が無くなったところで完成だ。釜に残ったのは、髪の毛ほどの太さをしたミスリルの紐だった。


「うん、出来た! この加工は本当に手間だからね」


 香織のいっている手間とは、掻き混ぜている際のことだ。この時に、ずっと紐状になることをイメージしなければならない。さらに言えば、このイメージは、作る太さの紐をイメージしなければいけない。

 つまり、香織は、このミスリルの紐が出来るまで、ずっと髪の太さの紐をイメージし続けていたのだ。

 このイメージが途中で途切れてしまうと、その途端、太さがガタガタの粗悪品になってしまう。


「よし、これを、十束だ!」


 香織は、次々にミスリルを入れて加工をしていく。一つの所要時間は、大体五分程なので、香織は五十分かけて十束のミスリルの紐を作った。


「香織! ご飯よ!」

「はーい!!」


 タイミング良く、作業が終わった時に呼び掛けが来た。香織は、ミスリルの紐をアイテムボックスにしまって、リビングに向かう。


 今日のご飯は、鶏肉のトマト煮だった。


 二人で他愛のない話をしながら、夕食を食べる。香織は、夕食を食べ終わった後、後片付けを咲にお願いして、工房に向かう。


「咲には悪いけど、早めに終わらせたいからね」


 香織は、次の素材の加工をする。次は、魔水晶と赤魔水晶の混合だ。ただ、全部の魔水晶と赤魔水晶を混合するわけではなく、一部を混合する。


「これも意外と面倒くさいんだよね……」


 魔水晶と赤魔水晶を、小鍋型の錬金釜に入れて火に掛ける。


 魔水晶と赤魔水晶は、本来混じり合うことのない水晶同士だ。それを、無理矢理混合していく。これは、錬金釜の異常反応でも、混合させることは出来ない。


 なので、一工夫を加えて加工するのだ。


「えっと、妖精の鱗粉は、この引き出しだったかな」


 香織は、作業台の上に置いてある小棚の引き出しから、小瓶を取り出す。その中には、金色に輝く粉が詰まっていた。


 妖精の鱗粉。いたずらをする事で知られている妖精の羽に付着している粉だ。妖精を捕まえるのは容易ではないので、かなり貴重な素材で知られている。

 しかし、香織は魔法を連発して逃げ場を奪うことで、簡単に捕まえて採取している。むちゃくちゃな魔法の使い方が出来る香織ならではの方法だ。


 その妖精の鱗粉を、ひとつまみ小鍋に入れる。すると、分離してしまっていた、魔水晶と赤魔水晶が、段々混ざっていった。


「この反応もよく分からないよね。鱗粉に妖精のいたずら成分が含まれているっていうけど、それってどうなんだろう?」


 鱗粉が、このような反応をする理由は、妖精のいたずらが関係しているらしい。妖精は、相手の嫌なこと、やって欲しくないことなどを喜んでやる。だからこそ、混ざり合いたくない物質同士を、勝手に混ぜてしまうのだ。


「うん、ここまで反応したら、大丈夫かな」


 香織は、小鍋を火から下ろして、丸い型に二等分して入れていく。


「後は、冷えるまで待つだけっと。次は、鉄と赤魔水晶を混ぜ合わせて、液状に固定して保存だね」


 大型の錬金釜に赤魔水晶を十、鉄を一、魔力水を三の割合で混ぜ合わせていく。

 まず、赤魔水晶が水に溶ける。その後に、鉄が溶けていく。二つが混ざり合い、釜に赤い液体が出来上がる。

 それを、大きめの瓶に入れていく。


「これで、よし。次は、魔法式を確認しなきゃ」


 香織は、下準備が終わったところで、人造人間ホムンクルスに使う魔法式を確認する。この魔法式は、人造人間ホムンクルスの知能に関係するものだ。ここを失敗すると、ちゃんとした人造人間ホムンクルスを錬成することが出来なくなってしまう。


「この式なら、大丈夫そうかな」


 式の確認も終えたところで、香織は工房を出て行く。ずっと集中して作業していたせいか、身体が固まってしまっていた。

 香織は、身体を伸ばしながら、リビングに向かう。


「あれ? 意外と時間が掛かっちゃってたんだ」


 リビングにある時計は、既に夜中の十二時を指していた。リビングに、咲の姿が無い事から、もう寝てしまっていると考えられる。


「私も、お風呂に入って寝よう」


 香織は、お風呂に入り、部屋に向かう。やはり、咲はベットで寝ていた。

 香織は、咲を起こさないように、ベットに忍び込んで眠りにつく。


「……ん?」


 香織が眠ったタイミングで、咲が気が付く。咲は、目線だけで壁掛けの時計を見て、時間を確認する。


「徹夜はしなかったのね」


 咲は、香織を起こさないように頭を撫でてから、軽く抱きしめてから、再び眠りにつく。



 次の日、香織が眼を覚ますと、咲に抱きしめられていた。


「あれ? 何で、抱きしめられてるんだろう? ……まぁ、いいか。落ち着くし」


 そして、香織は二度寝に入った。それから、三時間後、香織は、咲に怒鳴られながら眼を覚ますことになった。その理由は、咲が起こしても一向に目覚めなかったからだった。



 二人は、朝ご飯を食べてながら話す。


「むぅ。私は、一回ちゃんと目覚めたのに……」

「二度寝したんでしょ? 私が起きてから、三十分毎に起こしていたのに、後三十分、後三十分って、五回も繰り返して」

「ぐぬっ……」


 香織は痛いところを突かれて、何も言えなくなる。


「今日は、店を開けないとは言え、朝はきちんと起きるようにって、毎日あれほど言っているわよね」

「起きたじゃん」

「ん?」

「うっ!? ごめんなさい……」


 香織は、分が悪いと悟り、素直に謝った。その後に、小声で付け加える。


「そもそも、咲が私を抱きしめているのが悪いんだよ……」

「何か言った?」

「何でも無いよ。さて、お昼には、万里ちゃんと恵里ちゃんが来るから、その前に錬成しちゃおうか」

「もう出来るの?」

「昨日、準備したからね」


 香織は、食べ終わった食器の後片付けをして、工房に向かう。今回は、咲も一緒について行く。


「よし、始めよう」


 昨日加工しておいた素材を用意する。


 香織は、まず、大型の錬金釜に満タン近くまで魔力水を入れていく。その中に、昨日仕込んでおいた材料を全部入れていく。ミスリルの紐、魔水晶と赤魔水晶が混ざった球体、赤魔水晶と鉄が混ざった液体、魔水晶、魔鉱石、龍の肉、そして、赤龍の核。

 これらが、釜の中に入っていく度に、釜の水の色が変わっていく。今は、鮮やかな緑色をしている。


「香織……その色で、大丈夫なの?」

「うん、今の色は、あまり関係ないからね。最後に、組み立てた魔法式を釜に流し込んでいくんだ」

「魔法式を流し込む?」

「うん。一見、意味が分からないと思うけど、簡単に言えば、釜の中に魔力を流す過程で、魔法式を一緒に流すって感じかな?」

「うん、全く分からないわ」


 咲は、香織の説明を受けても完全に理解することは出来なかった。


 魔法式は、魔法を発動するために必要なもので、それ単体で扱うことはほとんど無い。ましてや、魔法式を流し込むなどと言われれば、混乱してしまうのも当然だ。


 香織の説明を、本当に簡単に表すと、釜の中で魔法を行使するということになる。ただし、その魔法は現象としては現れない。


 釜の中に、香織が昨日確認をした魔法式が入り込んでいく。その光景をみても、咲には何が起こっているのか理解出来ない。


 香織は、普通は行わないような魔法の行使に、悪戦苦闘しつつも作業を進めていく。香織が流し込む魔法式は、かなりの量なので、時間が掛かる。


 香織が、魔法式を流し始めてから三十分ほどで、その工程が終わった。


「ふぅ、疲れた」

「お疲れ様。全く何をしているのか分からなかったけど、とても大変なことだというのは分かったわ」

「うん、後は、このまま煮立たせていくだけだよ」

「そうなの? それにしても、あんなに鮮やかな緑色だったのに、今は、鮮血のような赤になったわね」

「うん。これが成功の印だよ。ここで、色が変わらなかったり、変な色になったら、失敗だったんだ。はぁ、成功して良かった……」


 香織は、安堵のため息をこぼした。


「この後は、どのくらい煮るの?」

「一、二時間かな。多分、万里ちゃんと恵里ちゃんが来る時間くらいに生まれるかな」

「それまでは、何もしないのね」

「うん、このまま置いておくだけだよ」


 香織達は、釜の様子を見つつも話をする。


 二人とも、少しそわそわしながら、その時を待ち続けた。

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