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24.変異

改稿しました(2021年8月8日)

 一眠りした香織達は、テントから出て、出発の準備を始める。


「さて、二人とも、今日で、狂骨の砦を攻略するよ」

「えっ!?  でも、まだ七階層目ですよ!?」

「残り十一階層を一気に行くんですか?」


 万里と恵里は、また緊張してしまう。万里と恵里の攻略していたダンジョンは、比較的浅い所だったが、それでも一層降りるのに、一日使う時もある。基本的に、二人での攻略なので、遅くなってしまうのだ。

 今回の狂骨の砦の攻略は、香織と咲がいるので、異常なまでに早く進んでいるのだ。


「一気に行くと言っても、そんなに大変じゃないわよ。このダンジョンは、ここから尻すぼみになっていくから。まぁ、モンスターの強さは、上がっていくけど」


 咲が、補足を付け加えて、二人を安心させるつもりだったのだろうが、二人の緊張はあまり変わらなかった。


「モンスターが強く……」

「大丈夫かな……?」

「大丈夫だよ。今まで同様に、ピンチになったら私達もいるから、安心して戦って」

「でも、油断しないようにね」

「「はい!」」


 香織達は、寝泊まりした部屋から出て、下り階段のある方に向かった。


「そういえば、ここまでに宝箱を見かけてないですけど、ここには出てこないんですか?」


 歩きながら、恵里が香織に訊く。香織は、顎に手をやり少し考え込んだ。


「いや、出てくるはずだよ。ただ、十階層から下にだけだね」


 香織が考え込んでいたのは、前回攻略に来たときの情報を思い出していたからだった。


「へぇ~、珍しいダンジョンだね」


 万里が、今までに入ったいくつかのダンジョンを思い出して、そう言った。万里の言う通り、他のダンジョンでは、一階層から宝箱がある。


「そうね。私達が知る中でも、一階層から無いのは、このダンジョンだけね」

「東京のダンジョンでも、一階層からあったもんね」


 そんな話をしながら歩いて行くと、下り階段に着いた。意外な事に、ここまで、襲撃を受けるという事は無かった。


「ねぇ、香織、さすがにモンスターが少なくないかしら?」

「うん、この階層なら二、三度戦闘になるはずだけど」


 香織と咲は、一層警戒を強くした。万里と恵里も、香織達同様、警戒を強める。

 そして、異変は、次の階層に降りてから起きていた。


「これは……」


 香織達が見た光景は、異常なものだった。今までのような、板張りの床が消え失せ、全てが土となっている。そして、通路の大きさが倍以上になっていた。


「ダンジョンの進化かしら?」

「でも、ここまで元とかけ離れた進化は見た事が無いよ」


 ダンジョンは、進化する。だが、その進化も階層が増えるか、通路が増えるなど、元のダンジョンに+αするようになっている。

 ここまで、大きくかけ離れた進化は、香織と咲も初めて見る。


「どうする?  帰る?」

「いや、進もう。万里ちゃんと恵里ちゃんには悪いけど、修行はここまでね。ここからは、私と咲がメインで行くから」

「うん、分かった」

「はい、分かりました」


 万里と恵里を二人で帰す訳にもいかないので、香織達は、二人についてきてもらう事にした。二人も、危険を承知でついていく。


「咲、先頭に行って。二人には、これを渡しておくね」


 香織は、アイテムボックスから取り出した小さな宝石とボールを渡す。


「簡易結界と聖水ボール。いざって時用に持っていて」

「分かった」

「分かりました」


 二人に防衛用の道具を渡し、先に進む。そうしてしばらく進むと、スケルトンの軍勢が真正面から来た。


「数が多い……」

「大丈夫よ。私達に任せて」


 咲が安心させるように言ったと思ったら、次の瞬間、咲の姿が無くなった。


 大気を揺らすような激しい音が聞こえ、そちらを見ると、咲がスケルトンの頭を軒並み刎ねていた。しかし、それでは、スケルトンは倒せない。

 万里は、咲にそう教えられていた。だから、咲が何故意味の無い首刎ねをやっているのかが、分からなかった。


「咲さん! それじゃあ……!」

「大丈夫だよ。咲の剣技は、ただ斬るだけじゃ無いから」

「?」


 万里は、香織が何を言っているのか分からなかった。しかし、次の瞬間、信じられない事が起こった。

 刎ねられたスケルトンの頭が、砂のように細かくなって消え失せる。


「嘘……、何で?」

「咲の攻撃には、風魔法で細かい風の刃が纏わり付いているの。だから、一撃に見えて、その実何百回もの斬撃を与えているんだよ」


 咲のこの技は、赤龍に対しても使った技だ。あの巨体に使えば、無数の傷を負わせる一撃だが、人とほとんど変わらない大きさのスケルトンに使えば、この通り、一部を粉々に消し去る事が出来る。


「あんな風に、剣でもきちんと粉々に出来れば、スケルトンを簡単に倒す事が出来るよ。万里ちゃんも、頭を斬れるように頑張んなきゃね」

「うぅ、自信が無いよぉ」


 そのまま、咲が刀を一振りする度に、スケルトンの首が十単位で刎ねられていく。香織も咲だけに任せず、自分も魔法を放っていく。恵里が放っていた石の槍よりも細かい槍を、咲に当たらないように、放っていく。

 二人の攻撃で、百以上いたスケルトンがたったの五分で全滅した。


「うわぁ。これが二人の本気?」

「いいえ、軽い運動にもならないわ」


 万里の問いに、息ひとつ乱していない咲が答える。万里が、あんな戦い方をすれば、息も絶え絶えの状態になってしまうだろう。


「じゃあ、早く下に行こう。場合によっては、ダンジョンを壊さなきゃだし」

「そうね」


 四人は、その後もダンジョンを進んで行き、十階層まで来た。その間もスケルトンの襲撃が何回かあった。そのどれもが、今までよりも、格段に多い数で来た。


「魔物の数が増えすぎてる。もしかして、スタンピードの前触れ?」

「可能性はあるわね。でも、ダンジョンの形状まで変わるのかしら?」


 香織達は、何度か、スタンピードが起きたダンジョンの中に潜った事がある。だが、そのどれもここまで変化しているものは無かった。多少、壁が崩れている程度のものだ。


「ここまでの変化は、初めて見るわ。はぁ、嫌な予感がするわね」

「それにしても、十階層は、また打って変わったね」


 さっきまで、土の壁や地面に覆われていたのに対して、ここは、だだっ広い平原になっていた。


「こんなダンジョン初めてです」

「平原なんて見た事無い」


 恵里と万里も呆然としている。


「平原のダンジョンなら千葉らへんにあったよ。ただ、これがすごく厄介でね。広すぎて階段を見つけるのが、難しいんだ」


 香織は、ものすごく嫌そうな顔をする。万里達が咲の方を見ると、咲も顔をしかめている。二人とも本当に嫌そうだ。


「香織、あれは?」

「あるよ。使おうか」

「「?」」


 万里と恵里は、香織達が何を言っているか分からない。

 そして、香織が、アイテムボックスから取り出したのは、コンパスだった。


「方位を調べるんですか?」


 恵里が、コンパスを見て最初に思った事を訊いてみた。


「ううん、下り階段の場所だよ」

「「??」」


 コンパス本来の使い方ではないので、万里と恵里は混乱してしまった。


「これは、持ち主の欲しているものを探すための道具だよ。ただ、確率で別のものを指し示すんだけどね」

「本当に、そこさえ無ければ、ものすごく優秀な道具なのよね」


 香織の作ったコンパスは、『導きのコンパス』と言う道具で、持ち主の探しているものを指し示してくれる。しかし、一定の確率で、全く別のものを指し示すため、過信は厳禁なのだ。


「こういう所だと無いよりはマシだからね。あっちだ」


 香織が、先頭に立ち平原を歩いて行く。しばらく、平原を歩いていると、いつの間にか、周りを囲まれていた。


「全く気配が無かったわね」

「そうだね。万里ちゃん、恵里ちゃん、私達の間にいて」


 万里と恵里を挟むようにして陣取り、香織は火臨を、咲は香織の作った刀を構える。囲んでいたのは、黒い狼だった。


「あんな黒いのに、今まで気付かなかったって事は、気配遮断でも持っているのかしら」

「まぁ、もう見えてるし、倒しちゃえば関係ないよ」


 囲んでいる狼は、シャドウウルフと言う名前らしい。持っているスキルは、『気配遮断』『影操作』の二つだった。今は、気配を感じるので、気配遮断は気にしなくてもいい。問題は……


「影を操るらしいから気をつけて。来るよ!」


 シャドウウルフが、飛びかかってくる。それに対して、火臨を叩きつける。一撃で首がへし折れ、毛皮が燃えていく。


「火属性ってそういうことなの。素材が取れないじゃん」

「今は気にしてる場合じゃあ無いでしょ」


 咲も飛びかかってくる狼の首を叩き斬る。その様子を見た香織は、


「咲の方から取れば良いんだ!」


 と言うと、積極的にシャドウウルフを倒していく。


「はぁ……まぁ、良いけど」


 咲も、飛びかかってくるシャドウウルフを斬っていく。


「単調だから意外と楽ね」


 と咲が言った瞬間、黒い鋭利な固まりが香織達を襲った。香織と咲は、自分達の得物で弾く。


「咲がそんな事言うから、工夫しだしたじゃん!」

「私のせい?」


 そう言いながら、いとも簡単に捌く香織達に、シャドウウルフは戸惑っていた。

 そして、万里と恵里も戸惑っていた。


「あの影の攻撃、ものすごく速いと思うんだけど」

「うん、まーちゃんと私は、対応出来ないよね」


 実は、香織達がいとも簡単に捌いた影による攻撃は、万里や恵里などの普通の人からは、掠れて見えるほど速い。

 しかし、香織達の持つ五感強化によって、そのくらいの速度なら簡単に対応出来るのだった。


 シャドウウルフ達は、いとも簡単に対応されていても、攻撃を止めずに続ける。傍から見れば何の策もなしに、がむしゃらに攻撃している様に見えるだろう。

 だが、シャドウウルフ達は、きちんと作戦を考えていた。そう、香織達の体力を削ることだ。疲れさせてしまえば攻撃の対応も遅れる。そう考えたのだ。


 しかし、香織達の体力を削るには、数十匹のシャドウウルフじゃ足りなかった。香織達は、攻撃の隙間隙間に、魔法を放つ事で、一匹ずつ倒していった。そうして十分経つ頃には、シャドウウルフ達は全滅した。


「ふぅ、終わった。影の攻撃はやっぱり厄介だね。あれが無かったら、もっと早く終わってたのに」

「そうね。捌くのは簡単だけど、慣れない魔法を使わないといけないのは、面倒くさかったわね」


 咲は、サポートとしてしか魔法を使わないので、攻撃魔法としてうまく使う事が出来ず、何発か外してしまった。


「はぁ、練習した方が良いのかしらね」

「そうだね。その前に、ここら一帯焼くね」

「「へ?」」


 香織の発言に、万里と恵里が目を剥く。

 香織が手のひらを前に向ける。そして、手のひらを向けた先に、何条もの稲妻が走っていった。


 ガァ!

 グァ!

 ギャウンッ!!

 ガァァ!


 稲妻が走った先で、獣の断末魔が聞こえてくる。


「これで、ある程度倒したかな。じゃあ、行こうか」

「はぁ……やり過ぎよ、香織。これじゃあ、素材も取れないわよ」

「私もそう思って、広範囲殲滅魔法は使わなかったんだけど、万里ちゃんと恵里ちゃんの安全を考えたら、使うしか無いなって思って」

「なるほど、確かに、さっきのようなモンスターが出たら、危ないものね」

「そういうこと」


 香織は、万里達の安全を考えて行動していた。その結果が、あの魔法だったのだ。おかげで、万里達は、驚きすぎて固まってしまったが…


 香織達は、そんな調子で、変異したダンジョンを進んで行く。

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