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23.攻略開始!!

改稿しました(2021年8月7日)

 香織達は、ダンジョン『狂骨の砦』を進んで行った。


 余程の事が無い限り、戦闘は万里と恵里に任せる事にしていた、二人に、経験を積んでもらうためだ。

 万里と恵里の連携は、かなり良かった。二人は、目配せや足運びだけで相手のしたい事を理解し、そのサポートをする。

 基本的に恵里がトドメを担当し、万里が敵の攻撃を引き受ける。時々、万里が一撃で仕留める事もあったが、それは極希だった。このダンジョンのモンスターが死霊系のため、これは仕方のないことだった。


 そうして、香織達は、『狂骨の砦』の三階層まで進んだ。


「香織さん、このダンジョンは何階層まであるんですか?」

「えっと、十八階層までだね」


 香織は、前回潜った時の事を思い出して答えた。


「目的は何階層なの?」

「十五階層から十八階層までね」


 万里の質問に咲が答える。その答えを聞いて、万里と恵里の顔が引きつる。


「えっと、それって、ダンジョン踏破をするって事?」

「うん、そうだよ。それが、今回の修行内容だからね」

「「………」」


 二人は驚いて言葉も出ない。


「私達、まだダンジョン踏破なんてした事無いですよ」

「じゃあ、今回が初めてのダンジョン踏破になるわね」


 咲が微笑みながら言うと、二人は、緊張して身体が強張ってしまった。


「そこまで緊張しなくても、私達も一緒だから、問題はないよ」


 香織の言葉に少し安心したのか、多少、緊張がほぐれたようだった。


「ほら、またお客さんだよ」


 カラ、カシャ、カラ


 スケルトンが、二体歩いてこちらに来た。万里と恵里はすぐに武器を構える。その表情は真剣そのものだ。


(戦闘への切り替えは、バッチリね)


 咲は、二人がさっきまでの緊張状態のまま戦闘するのでは無いかと心配だったのだが、杞憂に終わって安堵した。

 万里と恵里は、危なげなくスケルトンを倒した。トドメは、やはり恵里の石の槍だった。


「石の槍も生成が早くなったね。本当は、ダンジョンの壁は操りにくいから普通は、床から生成するんだけどね」

「そういえば、そうだった気がします」


 恵里は、自分でも気付かないまま、壁から生成していたらしい。ここの壁は、漆喰の様なものが塗られているが、その下には石壁が存在するので、そこから生成する事が出来る。


「うん、漆喰が薄いとはいえ、そこから安定して生成出来るって事は、スキルレベルも高くなっているのかもね」


 香織は、自分の事のように喜ぶ。恵里も香織に褒められて、照れている。

 しかし、万里は気が気ではなかった。なぜなら、咲が、ニコニコと香織を見ていたからだ。それだけ、言われれば別に怖くないと、皆が口を揃えて言うだろう。

 だが、咲はニコニコしながらも黒いオーラを立ち上らせていた。万里は敏感にそれを察知したのだ。


(どうしよう…。何か咲さんを元に戻す方法はないのかな? どうすれば、いいの!? えっちゃん! お願いだから気が付いて!!)


 そんな万里の願いが届いたのか、恵里は一瞬ビクッっとした後に、万里の方に足早に向かう。


「さっ! まーちゃん、行こう!」

「うん! そうだね、えっちゃん!」


 二人は、並んでダンジョンを歩いて行く。


「どうしたんだろ?」

「さぁ? 早く攻略したくなったのかもしれないわね」


 突然、恵里が万里と一緒に先に行ってしまった事に疑問を持つ香織だった。そして、さりげなく、香織の隣に咲が来る。


「そうかな? だったら、やる気が出たって事だよね」

「そうね。喜ばしい事だわ」


 二人で微笑みながら、万里達の後を追っていく。前の二人は、咲から黒いオーラが出なくなった事にホッとし、前を向いて歩く。

 そこから、七階層まで、誰も怪我をせずに安全に降りる事が出来た。七階層に来たと同時に、香織が懐中時計を取り出し時間を確認する。


「うん、そろそろ野営の準備をしようか」

「は、はい。でも、安全地帯が何処にあるか分かるんですか?」


 ダンジョンには、安全地達と呼ばれるモンスターが近寄らないエリアが、ほぼ必ず存在する。万里と恵里がダンジョン探索中に休むときは、安全地帯を見つけてから行う事にしている。


「ん? 大丈夫だよ。作るから」

「「へ?」」


 香織は、近くにあった小部屋の中に入り、出入り口がひとつしかない事を確認すると、アイテムボックスから瓶をひとつ取り出した。


「聖水ですか?」


 恵里は、瓶に入っている液体を見て、先程スケルトンに使った聖水を取り出したのかと思ったのだった。


「違うよ。それだと、死霊系のモンスターにしか効果がないからね。これは、全てのモンスターが近寄らなくなる水。名付けて『近寄らない君』だよ」

「……」


 香織は自信満々に瓶の水の名前を言った。万里と恵里は目を点にしている。咲は、片手で顔を覆っている。


「あれ? どうしたの?」


 香織は、皆の様子がおかしい事には気付いたが、その原因が自分のネーミングセンスだとは全く気付かなかった。


 ちなみに、この近寄らない君は、聖水を元に作られたモンスター除けの水だ。作り方は、聖水に対魔草をすりつぶしたものを混ぜて作る。その割合は、聖水が一に対して、対魔草が九という組み合わせだ。

 最後に、混ぜたものを濾せば出来上がりだ。この近寄らない君は、光に特に弱いので、褐色の瓶に入っている。


 今の香織の姿は、傍から見れば酒瓶を持ってふんぞり返っているようにしか見えない。

 そんな事を気にせずに、香織は、小部屋の入り口に撒き、そのまま小部屋の四辺に撒いていく。


「これで、大丈夫だよ。後は、テントを建てようか」


 香織は、アイテムボックスからテントを取り出す。万里達も自分のマジックバッグからテントを取り出し、二人で建てている。


 香織は、取り出したテントの部品に魔力を通して瞬時に設営する。


 万里と恵里はこの日、何度目か分からない驚愕に襲われた。


「ん? どうしたの、二人とも。そんな驚いた顔して」

「そりゃ驚くでしょ。自分達が一から組み立ててる横で、一瞬にして、テントが出来上がったんだもの」

「あ~」


 香織は、咲の言った事で納得する。確かに、初めて見れば驚くのも無理は無いだろう。


「初めて見たの?」

「はい。皆、自分達で組み立てていました」

「私も見た事ないよ」


 万里と恵里は、ダンジョンに何回も潜っているが、香織のように建てている人はいないと言う。


「他の生産者の人達は、作り方を知らないって事かな?」

「香織は、レシピ本があるから知ってるって事でしょうね」


 スキル『教本生成』によって、沢山のレシピ本を閲覧できる香織は、他の生産者と比べ物にならない程、様々なものを作れる。

 そのため、香織の作る物は、他者から見れば、見たことのないすごい物という風に映る。

 ただ、本当に凄いのは、レシピを参考にせずにオリジナルを作り出す香織の創造力だという事を、咲以外の人は知らない。


「今度売ってあげようか? 一応、お店に出してるけど」

「い、いくらですか?」


 万里と恵里は、香織の作るものが便利だが、高価な物だという事を痛いほど知っている。

 自分達が使っているマジックバッグも香織のお手製で、現在その借金の返済中なのだから。


「え~っと、二人用で四万円くらいだよ。それより大きい四人用になると十五万になるかな」

「うぅ、少し厳しいかも……」

「そうだね。二人用だと、本当に二人が寝る場所しか無いからね。三人用で作ってもいいけど、それでも十万近くするよ」


 香織が、頭の中で相場などを計算し、今の値段を伝えると、万里と恵里はガックリとしてしまった。

 稼げるようになってきたとはいえ、十万はかなりの出費になるからだ。


「お金貯めてからで……」

「了解。じゃあ、製作だけはしておくね。さぁ、私達も手伝うから、さっさと組み立てちゃお」


 香織と咲も手伝い、万里と恵里だけの時よりも格段に早く組み立て終わる。


「出来た! この後は、どうするの?」


 テントを建て終わった万里は、やる事がないか訊いてみた。


「ご飯食べて寝るだけだよ」

「そうなんだ。香織さん達でも私達と変わらないんだね」

「どういう事?」


 万里の言っている事がよく分からないので、香織は聞き返した。


「何か特別な事をするかと思ったから」

「流石に、特別な事なんてしないよ。いつもと変わらないもの。ねっ、咲」

「……ええ、そうね。香織の中では普通だものね」

「何、その意味深な言葉。私の何がおかしいのさ?」

「いつも通りにやっていれば分かるわ」


 香織は、咲の言葉に首を傾げる。しかし、詳しくは教えてくれないので、いつも通りにご飯を作り始める。


「よいしょっと」


 香織は、アイテムボックスから、大きな木の板を取り出した。この時点で、万里と恵里の目は点になる。


 そして、少し大きい包丁と、人と同じくらいの大きさがある肉の塊を取り出した。


「咲、焚き火の準備しておいて」

「分かったわ」


 咲は、外で作る焚き火よりも、大きな焚き火を作る。ほとんどキャンプファイアーと変わりない。


「どっこいしょっと」


 その横に、香織が室外機のようなものを置いた。そこに魔力を流して、起動させる。すると、焚き火の煙が吸い込まれ、浄化されて排出される。


「洞窟内での火の運用は、換気体制を整えてからやってね」


 香織が、万里達に向かって言う。万里達は煙を焚かないようにするため、干し肉やおにぎりを持ってダンジョンに向かっている。香織のように、肉を焼いて食べようなどと考えた事はなかった。


「じゃあ、私が捌くから咲が焼いてね」

「ええ、分かったわ」


 香織が、大きな肉を一口大に切って、咲に渡していく。咲は、もらった肉を、焚き火の上に置いた網に載せていく。焼けた肉を、これまた香織が用意した皿に載せていく。


「万里ちゃんと恵里ちゃんは、タレ使う?」

「!?」


 香織が取り出した焼き肉のタレに、万里と恵里は驚きを禁じ得ない。


「どうやって手に入れたんですか?」


 今の日本では、そういった調味料は作られていない。自分達で製作して使うのが主流だ。万里と恵里の家では、焼き肉のタレは作っていない。そもそも、作り方すら知らないのだ。


「レシピ本に書かれてたんだ」

「あの時はびっくりしたわ。急に、タレを作るって大声で言うんだもの」

「でも、欲しかったでしょ?」

「そうね。塩や醤油は飽き始めてたもの」


 万里と恵里は、香織達が本当に規格外の人なんだと、改めて実感した。二人は、遠慮せずに、香織特製の焼き肉のタレを使う。


「美味しい!」

「すごい! 市販のものとほとんど変わりないです!」


 万里と恵里は、香織のタレを絶賛する。香織がどんどん捌き、咲が焼いていく。万里と恵里がお腹一杯になったところで、香織と咲も食べ始める。


「すごく美味しかったです」

「ほんと、ダンジョンでお腹一杯まで食べれるとは思わなかった」


 二人は、お腹一杯まで食べた事で、その場で横になっている。


「ふふ、喜んでくれたんなら良かったよ」

「ええ、これで、香織の普通がおかしい事が判明したわね」

「へ?」


 咲の言葉に、香織は一瞬呆けた顔になる。そして、万里達が言っていた事を思い出した。


「嘘。こんな食事していたのって本当に私達だけだったの!?」

「当たり前でしょ。私だって、香織がいなかったら、レーションで食事を済ませていたでしょ?」

「うぅ……確かに……さすがに、そんな事ないと思ってたのにな……」


 香織は、こんな世界になってからあまり他人と接してはいないので、こういった常識に疎いのだった。


「まぁ、気にしても仕方ないし。それよりも、早く寝ちゃおう」

「そうね。万里、恵里。風邪引くからテントで寝なさい」

「はい」

「分かった。えっちゃん、行こ」


 そのまま寝そうになっていた二人を、テントに促してから、咲と香織もテントに入る。テントの中に布団を敷いて、二人で入る。


「久しぶりにダンジョンでの宿泊だね」

「そうね。複数人では久しぶりね」

「そうか、咲は一人でダンジョンに潜って素材を取ってきたりするもんね」


 咲がダンジョンに潜る理由の多くは、香織に頼まれたものの採取だ。その間、香織は、店で錬金などを行っている。


「今回は香織もいるし、寂しくなくて良いわ」

「ふうん、いつも一人で寂しかったの?」

「ふふ、当たり前じゃない。香織がいないと、いつも寂しいわ」

「へへ、私も咲がいないと寂しい」


 そう言いながら、香織は、咲に抱きつく。


「きゃ、どうしたの?」

「ふふん、咲が寂しいって言うから」

「なら、私もお返しよ」


 咲も香織を抱きしめる。二人で抱き合いながら、互いに微笑む。


 そうして、二人は仲良く就寝した。

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