22.狂骨の砦(2)
ーー『狂骨の砦』ーー
櫓の下にある階段を下ると、そこはどこかの日本屋敷にある廊下のようになっていた。
「このダンジョンは、洞窟じゃないんだね」
「そうだよ。ダンジョンの中には、ここみたいに特色があるダンジョンがあるんだ。そういうのは、入り口から違うからわかりやすいけどね」
「特色があるって言っても、普通のダンジョンと気をつけるところは変わらないわ」
「モンスターの不意打ちとダンジョンの罠ですよね?」
「ええ、そうよ。常に警戒を解いてはダメ。いつどこからモンスターが現れるかなんて分からないし、罠に関しては、よく見れば分かるものが多いから」
咲の言葉に、万里と恵里が頷く。万里と恵里を先頭にして、ダンジョンを進んで行く。
五分程歩いたところで、香織達を行く道をモンスターが塞いだ。
カタカタ、カタカタ
モンスターが歩く度にそんな音がする。万里と恵里の顔が強張っていく。
現れたのは、骨の怪物スケルトンだ。全身もれなく白骨化しており、何故か革の鎧を着ている者が多い。さらに、そのほとんどが、剣を持ち歩いている。
「一体だけだから、ちょうどいいわね。万里、気をつけて対応するのよ。相手の動きをきちんと見て、先読みする事。最初だから失敗してもいいわ。死ななければ、香織が治してくれるし、私も割り込むから」
「うん!」
万里は、強張りながらも、気を引き締める。
「恵里ちゃんは、万里ちゃんの様子とモンスターの様子を常に確認しながら、いつでも魔法を撃てるように準備していてね。どのタイミングで、どの魔法が必要かの分析もしなきゃダメだよ」
「は、はい!」
恵里は、恐怖よりも緊張が勝ってしまった。
(言いすぎたかも……)
香織が心の中で焦っていると、戦闘が始まってしまった。
(………頑張れ、恵里ちゃん)
スケルトンが万里に向かって走り出す。コンッ、コンッと、骨と地面が当たる音が響いてくる。万里まで、あと一歩という所で、万里も突っ込む。
スケルトンとの距離が一気に縮む。スケルトンは、一気に縮んだ距離に対応出来ず、変なタイミングで剣を振う。
「はぁぁぁぁぁ!」
万里は、スケルトンの攻撃を難なく避けて、剣で薙ぎ払う。
万里の攻撃は、スケルトンの鎧に阻まれたが、体勢を崩す事に成功した。
よろけたスケルトンに対して、石の槍が飛んでくる。スケルトンは避けきれずに、頭を砕かれた。
頭を失ったスケルトンは、それっきり動く事は無かった。
「ふぅ……」
問題なく敵を倒せた万里と恵里は、安堵のため息をつく。そこに、香織と咲の拍手が響く。
「やったわね。万里はきちんと教えたとおりに動けてたわ。ああいった、人型は、突然距離を縮められると、攻撃のタイミングを外してしまう事が多い。でも、必ずそうなるわけじゃないから、攻撃への対応を忘れないように気をつけてね」
「うん!」
「後は、万里の一撃で決められるようになるといいわ。今回はスケルトンの鎧に当たったけど、鎧の隙間を正確に斬り裂くってことも出来ると、戦闘の幅が広がるわよ。でも、今はそれを気にしないでいいわ。意識しすぎて、動きを鈍らせてしまうから。それが、死因にもなるから、無理に新しい技を使わないようにすること。いいわね」
「うん、わかった!」
万里は、自分が苦手意識を持っていたスケルトンを相手にしていたことなど、忘れてしまっているようだ。きちんと、教えられたことを実行出来たことが嬉しいらしい。
「恵里ちゃん! すごいよ! きちんと、万里ちゃんに当たらないタイミングと角度で魔法を当てられたね!」
「はい! まーちゃんとは双子なので、大体の考えてる事と、やりたい事はわかるんです!」
「双子ならではだね。後もう一つ。スケルトンに対して、石の槍を使ったのも良かったよ。スケルトンは、切断系の魔法が効きにくいんだ。関節を外せるからね。スケルトンを倒すなら,頭を砕くしかないんだ。恵里ちゃんは、ちゃんとそれを実行出来たね!」
スケルトンは、頭が弱点なのだが、ただ剣で斬るだけだと死ぬことはなく、身体を動かして頭を回収しようとする。頭が完全に破壊されないと、スケルトンはずっと動き続けてしまうのだ。
そのため、スケルトンを相手にするときは、ハンマーなどで戦うのが一般的だ。
「そんな、偶々です。石の槍を選んだのも、なんとなくでしたから」
「なんとなくっていう感覚は、時にすごく重要になってくるんだよ。私もなんとなくで錬金術をやるときがあるし」
「それは、大丈夫なんですか?」
恵里は、香織の発言に心配になるところがあり、苦笑いになってしまう。
「まぁ、とりあえず、スケルトンとの戦いは大丈夫そうだね。この調子で進んで行こうか」
香織が、そう言ったと同時に、奥の方からスケルトンの大群が押し寄せてきた。
「そこまでの戦闘音はしてないはずなのだけど」
「仲間の死を感じ取ったとかかな」
「死霊系のモンスターだし、あり得るかもしれないわね」
「呑気に話してる場合!?」
香織と咲が、話していると、万里が慌てて咲の服を掴んだ。恵里も顔を青ざめさながら、香織の服を掴んでいる。
「心配ないわ。ちょうどいいから、錬金術師の戦い方を見てみましょう?」
「任せて!」
香織は、恵里の手をそっとほどいて、咲の方に促す。恵里は、咲の方に行き、万里と一緒に咲にくっつく。
「きちんと見てなさい。あれが、異常に強い錬金術師の戦いよ」
「一言余計!」
香織は、咲の言葉に反応して頬を膨らませるが、本気で怒っているわけではないのは、万里達にも分かった。
「ちゃんと見ててね」
香織はアイテムボックスから、野球ボールのような物を取り出す。野球ボールと違う点は、ボールがほぼ透明という部分だ。
「よいしょっ!」
香織が、乙女らしからぬ掛け声と共に、ボールをスケルトン目掛けて投げた。
「もうちょっと可愛いかけ声をすればいいのに……」
咲が小声で言う。万里と恵里には聞こえたが、香織には届いていなかった。万里と恵里は、一瞬バッと眼を合わせてから、すぐにスケルトンの方を見た。
『どういう意味だと思う!?』
『わからないよ。でも、そういう感じがしたよ』
『香織さんは、咲さんの想いに気付いてないのかな』
『両片思いなのかも』
『何それ!? 応援したい!』
『見守るだけだよ! 私達が介入していい領域じゃないんだから!』
二人の目だけでの会話はこんな感じだった。双子だから出来たことかもしれない。いや、普通は双子でも出来ないだろう……。万里と恵里ならではの、会話だった。
そんな事をしている内に、ボールがスケルトンの頭上にいった。
「外した?」
「いいえ、あれでいいのよ」
咲がそう言った瞬間、ボールが破裂して、スケルトン達に掛かった。
スケルトン達は、苦しみはじめた。声帯がないので叫べないが、あれば、絶叫が響いていたことだろう。
一分ほど苦しんだ後、崩れて一つ一つの骨になった。
「あれ? 砕いてないのに、スケルトンが死んじゃったよ?」
万里が疑問に思うのも当然だった。先程の話では、スケルトンの頭を砕かないと死なないと言うことだったが、香織が倒したスケルトンは、全員頭を残している。
「ふふふ、あれは、聖水だよ!」
「聖水?」
万里と恵里が首を傾げる。香織は得意げに説明をはじめた。ダンジョンのど真ん中で…。
「聖水は、魔力水に聖属性を付与したものだよ。死霊系のモンスターに大ダメージを与えるんだ。これなら、頭を砕かなくてもスケルトンを倒せるって訳。
ちなみに、使ったのは、私特製の聖水ボールだよ。聖水を、少し柔らかめの膜で覆ったんだ。その膜に、時間差で破裂するように刻印魔法を刻んだんだ」
「へぇ~」
「すごい……」
万里と恵里はすごく感心していた。これが、錬金術師の戦い方なんだと感じているのだ。
「説明するのはいいけど、ここがダンジョンって事忘れちゃダメでしょ」
咲が呆れながら通路の奥からやってくる。その後ろでは、さっきよりも、スケルトンの死体の数が増えていた。
「あれ、また来てたの?」
「長々と説明してたからね。何体か来たわ」
香織が、万里と恵里に説明している間、スケルトンの襲撃を咲が止めていた。
「ありがとう、咲さん。でも、どうやって倒したの?」
咲は、万里と同じく打撃型の武器を持っていない。刀だけでどうやって倒したのか、万里は気になったのだ。
「簡単よ。思いっきり加速して、素手で殴ったのよ」
「………?」
万里は、唖然としている。咲の言っていることは分かるのだが、理解が追いつかない。
「素手で破壊出来るんですか?」
固まってしまった万里の代わりに、恵里が問いかける。
「私は出来たけど、恵里達はやらない方がいいわね。意外と固かったわ」
「そうですよね」
恵里は、少し苦笑いをした。
「咲も人外の領域にいるよね」
香織が、笑顔でそう言った。普段、おかしいと言われることが多いので、咲も自分と同じだと思い嬉しく感じているのだ。
「そうね。いつの間にか、そうなってしまったわね」
咲も満更でもない感じに言う。
万里と恵里は、そんな二人を見てこう思った。
(やっぱり、私達ってすごい人達に弟子入りしたんだなぁ)
四人のダンジョン探索は、まだ始まったばかりだ。
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