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22.狂骨の砦(1)

改稿しました(2021年8月6日)

 次の日、朝ご飯を食べていると、玄関の呼び鈴が鳴った。


「万里ちゃんと恵里ちゃんかな?」


 香織は、すぐに玄関まで行き、扉を開ける。玄関の前にいるのは、案の定、万里と恵里だった。


「おはよう! 香織さん!」

「おはようございます、香織さん」

「おはよう。二人とも、早いね。さぁ、上がって」

「「お邪魔します!」」


 香織は、二人を連れてリビングに戻る。


「あら、やっぱり二人だったのね。万里と恵里は、ご飯食べてきたのかしら?」

「うん!」


 万里が元気よく返事をする。


「じゃあ、少し待ってて、私達も食べちゃうから」


 香織も席に着いて食べ始める。


「すみません。こんな朝早く来てしまって……」

「いいわよ。それだけ強くなりたいという事でしょ? 今更、遠慮なんていらないわ」


 咲の言葉に嬉しそうな顔をする二人。

 香織達は、急いで朝食を食べ終わると、洗い物などを済ませて、遠出の準備をする。


「二人とも準備は大丈夫?」


 香織が、万里と恵里に問いかける。


「大丈夫!」

「ダンジョンに行くくらいの準備はしてきました」

「そう、ちょうど良かったわ。修行はダンジョンで行うから、そのつもりでいてね」


 咲の発言で、二人に緊張が走る。普段からダンジョンでお金を稼いでいる二人だったが、それは、二人でも対応出来るダンジョンのレベルでの話。

 香織達が出入りするようなダンジョンで、生き残れるのか心配になっているのだ。

 万里と恵里の様子から、考えている事を見通した咲が苦笑いする。


「そんなに身構えなくても、難度の高いダンジョンには行かないわよ。二人がギリギリ対応出来るレベルくらいの所にはなるけど」

「そ、そうなんですか? はぁ……良かったです」


 万里と恵里は、安堵のため息をこぼした。


「さすがに、私達が潜っていた場所は、二人を守りながら進める場所じゃないしね」


 香織は、一年前に潜っていたダンジョンを思い出して、苦笑いする。そこは、今ほどじゃないが、かなり強かった二人でも、攻略に三ヶ月以上掛かったほどの難易度だった。ちなみに、普通のダンジョンだと香織達は、初日で攻略を完了する事がほとんどだ。


「そんなダンジョン、何処にあるんですか?」


 恵里が、興味本位で香織に訊いた。


「東京だよ」


 香織は、何でもない風にそう言った。万里と恵里は唖然としている。今現在、東京のダンジョン攻略のために、冒険者が動き出している最中だった。そもそも、冒険者が東京にダンジョンを見つけたのは、つい一ヶ月前の事だ。

 それを、すでに潜っていたと言う香織達は、今の冒険者よりも先にいる事を示している。


「香織さんと咲さんってやっぱり、強かったんだね」

「私達、すごい人達に弟子入りしたんだね」


 万里と恵里は、呆然と呟く。


「今日、これから行くダンジョンは、鎌倉の方にあるダンジョンだよ。冒険者からは『狂骨の砦』って呼ばれている所だったかな」

「「えっ…?」」


 万里と恵里は、顔を青ざめている。香織は、不思議そうに首を傾げる。


「どうしたの? 二人とも、早く行くよ」


 準備を終えた香織と咲は、玄関に向かっていった。万里と恵里は、慌てて二人を追い掛ける。

 香織は、戸締まりをしっかりして、店の入り口には『閉店中』の札を掛ける。


「よし、出発!」


 ────────────────────────


 香織達は、鎌倉に向かって南下していった。約三時間の行程を進み、香織達は、『狂骨の砦』付近まで来た。道中の魔物は、基本的に万里と恵里に任せて倒していった。その一回一回の後に、香織と咲は、二人に戦い方の指導をした。


 戦い方については、簡単に説明する程度だった。万里は、敵の攻撃の受け止め方、恵里は、万里を巻き込まない魔法の使い方について指導された。そして、二人に共通したものとして、連携の仕方について指導した。


 香織も咲も指導役は慣れていなかったので、何とかわかりやすく伝えられるように試行錯誤していた。


「う~ん、なんか二人の理解力に助けられている気がしてならない」

「まぁ、伝わっているなら、いいんじゃない?」

「それもそうだけど……」


 二人がそう話していると、万里と恵里がこちらに駆けてきた。


「香織さん! 咲さん! 魔物倒し終わったよ!」

「きちんと素材の確保も出来てると思います」


 二人の後ろには鹿の魔物が横たえていた。その頭と心臓の部分にそれぞれ刃物と魔法の刺し傷がある。


「うん、ちゃんと一撃で急所に当ててるね。ただ、一つ助言するなら、鹿の魔物の心臓は、薬にも使えるから、頭の方だけでも良かったかな」

「そうなんだ。ごめんなさい」


 心臓の方に攻撃したのは万里だった。万里は香織の言葉にすぐに謝った。こういった素材は、高く売れる事もあるので、無傷で手に入れられれば、それに越した事はないのだ。


「そんなに、しょんぼりしないでいいよ。こういうのは、少しずつ覚えていけばいいから」


 そう言って、香織は、万里の頭を撫でる。万里は、くすぐったそうに眼を細める。その傍らで、香織は鹿の魔物をアイテムボックスに収納する。


「……香織さんのアイテムボックスって便利ですよね」

「そうね。容量が一杯になったっていうのは聞かないわね。ほぼ何でも入れられるというのも魅力の一つだわ。でも、その習得方法については全く分からないのよね」

「そうなんですか……確かに、分かっていれば咲さんが真っ先に覚えていますもんね」

「それもそうね。でも、私達には、香織特製のマジックバッグがあるでしょ。これも、香織には負けるけど、相当の収納能力を兼ね備えているわよ」

「はい、いつも助かってます!」


 恵里が、両手を強く握りしめながら言う。その姿が可愛かったので、咲は、恵里の頭を撫でる。


 そんな風な事を話しながら歩いていると、『狂骨の砦』の目の前まで来た。


「さぁ、着いたよ。ここが、『狂骨の砦』だよ!」


 香織が、指さしたのは、ボロボロの櫓だった。『狂骨の砦』は、この櫓の下に広がる大きなダンジョンだ。


「やっぱり、ここなんですね……」


 恵里の顔色が悪くなる。


「恵里ちゃん、大丈夫?」

「は、はい! 大丈夫です!」


 元気に返事をする恵里だが、香織からは、空元気のように見える。

 香織は、恵里の元気がなくなった理由を考えた。そして、一つの答えにたどり着いた。


「もしかして、怖いの?」


 香織の言葉に、恵里はビクッとなっていた。その影で万里もビクッとしていた。


「二人とも、死霊系のモンスターが苦手なの?」

「その、少しだけ……」

「私も……」


 万里と恵里が白状する。ここの名前が出たときに青ざめたのも、これが理由だろう。


「全く、こういうのは慣れとかないと。いざって時に困るよ。私だって、虫が苦手だけど、モンスター相手なら慣れたからね!」

「そうね。芋虫や蜘蛛が出てきたとき、香織は泣き叫んでたものね」

「ちょっ! 咲! それは、秘密でしょ!?」


 香織が、慌てて咲に詰め寄る。


「香織が、得意げに言うから、ついね」


 咲は、笑いながら香織を押しとどめる。


「香織も本当に苦手だったけど、今は克服しているから、万里達もすぐに慣れるわ」

「そうだといいんですけど」

「早速行ってみよう!」


 香織のかけ声で、ダンジョンに入る。

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