21.弟子入り!?
改稿しました(2021年8月6日)
ギルドを出た香織達は、そのまま万里と恵里の家に向かった。
「お母さん達、心配してるんじゃない?」
香織が、万里と恵里に訊く。
「そうですね。もう三日ほど帰ってないですし」
「でも、ダンジョンとか潜ってたら、そのくらい当たり前だから大丈夫じゃない?」
「まーちゃんは、そう言うけど、帰ってきたとき、いつも心配そうな顔してるよ」
万里と恵里の両親は、生産ギルドの受付で働いている。赤龍が襲撃した冒険者ギルドの本部とは離れたところにあるので、被害には遭っていないと思われる。
「どんなに成長しても、親は子供を心配するものよ。私も、香織が勝手にどこかに行ったときは心配するもの」
「なっ! 私は子供じゃないよ!」
香織は、むっとした顔をする。
「子供みたいなものよ。好奇心の赴くままに行動するじゃない」
「それって、一年前まででしょ! 最近は、きちんと咲に許可取ってから行動してるでしょ!」
何故か、香織と咲が言い争いをする。その光景を見ていた万里と恵里の心の中はある言葉で一致していた。
(子供だ………)
(子供です………)
万里と恵里だけでなく、誰が見ても同じ事を思うだろう。咲が親で、香織が子供。会話を聞いていたら尚更である。
そんな風に、他愛のない話をしていると、万里と恵里の家の前まで着いた。幸い、ここまでで襲撃を受けるということは無かった。
「着いたね。今回は襲撃を受けなかったけど、これからは、どうなるか分からないから、気をつけてね」
「はい。送っていただいてありがとうございました」
恵里が香織と咲にお礼を言う。
「?」
いつもなら、恵里に続いて、すぐに何かを言う万里が静かになっているので、恵里がどうしたのかと少し不安そうに見る。
万里は、そんな視線に気付かずに何かを考えていた。
「まーちゃん?」
恵里が声をかけると、万里は恵里、香織、咲を順に見てから口を開いた。
「香織さん! 咲さん! 私とえっちゃんに戦い方を教えてください!」
万里は頭を勢いよく下げる。
まさかのお願いに、恵里は驚いた。しかし、これからのことを考えれば、香織と咲に弟子入りすることは有用だと言えるだろう。すぐに、恵里も万里に続く。
「わ、私からもお願いします!」
万里と恵里は、本気のようだ。香織と咲は互いに眼を合わせる。咲は微笑みながら香織に頷く。
「いいよ。私達が教えてあげる」
万里と恵里は、ぱぁっと輝いた笑顔を見せる。
「でも、万里ちゃんはともかく、恵里ちゃんには、うまく教えられないかもだけど」
「そうなんですか?」
恵里は、笑顔から一転、不安そうな顔になる。
「うん。恵里ちゃんは、魔法使いでしょ?でも、私は錬金術師……じゃなかった、マスターアルケミストだから、魔法使いとは違うんだよね」
そう、香織の職業は、錬金術師から進化したマスターアルケミスト。魔法を使うが、魔法使いとは厳密には違う。そのため、ちゃんとした魔法使いの戦い方を教えられるかが分からないのだ。
「大丈夫よ。香織は、魔法もよく使うし、魔法使いが武器を使わないわけでもないしね。香織の戦い方から、恵里自身の戦い方を模索するといいわ」
咲が、安心させるように言う。咲の言葉を受けて恵里は再び笑顔になった。
「それでいいなら、私の戦い方を教えてあげるね。参考になるかは分からないけど」
「はい! よろしくお願いします!」
「じゃあ、明日から修行を開始にしようか。今日はゆっくり休んでね」
「「はい!」」
万里達は、そのまま家に帰っていった。万里の元気な「ただいま!」の声が扉越しにも聞こえてくる。
「元気ね」
「そうだね。さぁ、私達も帰ろ」
香織は、そう言って手を差し出す。
「そうね」
咲は、差し出された手に自分の手を重ねる。
「帰りましょう」
香織も咲もどちらからともなく微笑む。二人は手を繋ぎ、並んで帰路についた。
その姿を、家の二階から見てしまった万里と恵里は、互いに互いの口を塞いでいた。
「あの二人、付き合ってないって言ってたよね」
「言ってた。お友達でも、あんなに仲良く手を繋ぐものなの?」
「わからない。えっちゃんとは繋ぐけど、私達は姉妹だし……」
「家族並みの仲ってことかな?」
「そうかも! 一緒の家に住んでるし、実は親戚とか!」
万里と恵里は、二人で納得のいく答えを導き出して、ホッと息をつく。
「まぁ、二人が付き合っていても、あまり関係ないか」
「そうだね。私達にとっては、頼りになるお姉さん達だもんね」
導き出した答えを速攻でゴミ箱に捨てて、新しい答えを出した。二人にとっては、香織と咲は、優しく厳しいお姉さんだった。その関係さえ崩れなければ、香織達が付き合っていようと構わないのだ。
万里は長女なのでお姉さんに憧れていたので、特に香織達に懐いている。だからといって、恵里が二人に懐いていないわけではない。恵里も万里に負けないくらい香織達のことが好きだ。
「明日からは、修行だね!」
「うん、頑張って強くなろう、まーちゃん!」
二人の意気込みは、前日から十分にあった。
「万里! 恵里! ご飯よ!」
「「はーい!」」
母から呼ばれて、一階まで駆け下りる。久しぶりの実家なので、二人のテンションはうなぎ登りだった。
香織達も、自宅へと帰ってきた。
「魔物が減っているのかしら?」
「赤龍が来て、逃げたのかもしれないね」
赤龍が来たのが大きいのか、魔物に襲われることが全く無かった。原因は判明していないが、魔物が近くから減っているのは間違いない。
自宅に帰ってきて、まず最初にしたことは入浴だ。二人で一緒に入る。ついこの間、お風呂場をリフォームしたので、二人でも余裕で入ることが出来る。シャワーも二つ作ったので、二人同時に身体を洗うことも出来る。
少し前までは、洗いっこなどをしていたので、香織は少し、寂しげだった。咲は、さすがに恥ずかしいので、控えるようにと言っていったのだが、香織に上目遣いにお願いされてしまえば、すげなく断ることは出来なかった。洗い終わると、二人で湯船に浸かる。せっかく広くなったが、二人は、前の癖なのか寄り添って入っている。
「そういえば、全く疑問に思ってなかったけど、何故、赤龍が襲ってきたのかしら?」
「えっ? ……確かに、ギルド本部が領空権に関わったから、襲ってきたって考えなきゃおかしいもんね。ということは……」
「空に至る何かを使おうとしていたということね」
赤龍が襲うのは、空を飛ぼうとしているものに対してだけだった。それも、一定以上の高さに至ろうとするもののみだ。実際、香織が、空中を走ったときは襲ってくることはなかった。これは、香織自身が、あまり高くまで行かないようにしていたからだと考えられる。
つまり、領空権を侵害しようという意志が、赤龍に感知されていたということだ。
「でも、今のこの世界で、空を飛ぶものって何かあった?」
「飛行機は一応あるらしいけど、飛ばせる場所ではないし、後は、ヘリコプターかしら?」
「何処に、あったんだろう?」
「東京への遠征で見つけたんじゃない?」
現在東京は、魔物の巣窟となっている。冒険者達は、定期的に東京に向かう。どうにかして、東京を元に戻せないかと考えていたからだ。
東京には、今の神奈川などに無い資源がある。誰も手を付けられない環境故だ。東京から避難してきた人達もさすがに全てを持ってくるなんて事は出来なかった。
何度か行った結果、最初は何の成果も上げられなかったが、次からは少しずつ持ち帰ることが出来た。その中には、重機などの乗り物も含まれている。
そのため、ヘリコプターを持ち帰ってきていても不思議では無い。
「燃料はどうしたんだろう?」
今のこの世界には燃料が少ない。手に入れる手段が乏しいからだ。
ようやく様々なものが作れるようになってきたので、燃料などまで手が回らないのだ。
「隠し持っていたのかしら? というよりもよく持って帰られたわよね」
「ね! ステータスのおかげで、昔以上に力が出せるとはいえ、担いで持って帰るなんてすごいよね」
そう、燃料が無いため、動かして持って帰ることは出来ない。自分達で担いで帰るしかないのだ。唯一の方法でいえば、香織のようにアイテムボックス持ちになるしかない。
自動車やヘリコプターはさすがにマジックバックに入らない。普通の人が作ればだが……
「そうだ、万里ちゃんと恵里ちゃんの修行ついでに、材料集めをしてもいい?」
「いいけど、何を作るのかしら?」
「人造人間」
「…………へ?」
香織の答えに、咲は呆けた顔になった。
二人はお風呂から上がり、二人で昼食の準備を始める。庭から野菜を取り、冷蔵庫からは肉を取り出す。
「今日のは何のお肉?」
「ミノタウロスよ」
「やったね」
二人は手分けして、調理を進めていく。出来たものは、ジューシーな肉を用いた炒飯だ。それをリビングに持っていき、対面に座ってご飯を食べ始める。
「それで、人造人間って、どういうことなの?」
咲は、お風呂場での話に出てきた、人造人間について訊く。
「そのままだよ。錬金術で造り出す人間だよ。全く同じって訳では無いんだけどね」
「何のために造るの?」
咲は、真面目な顔をして訊く。香織のやろうとしていることは、例えこの世界でも反感を買う可能性が高い。場合によっては止めなくてはならない。咲はそう考えていた。
「店番!」
「みせ…ばん?」
「うん。万里ちゃん達の修行もあるから留守にする事が多くなるだろうし、きちんと物を売っとかなきゃだから」
「確かに、いろいろ採りに行って、臨時休業にする事もあるだろうし、妥当かしらね」
香織の答えに咲は納得する。香織の店は、材料採取などで休業が多くなる。アルバイトを雇うことも出来ないので、人造人間が一番だろう。
「材料って、何が必要なの?」
「まずは魔鉱石でしょ。後、魔水晶、ミスリル、赤魔水晶、鉄、生き物の肉。そして、龍の核」
「龍の核!?」
「うん。これが無かったから造れなかったけど、運良く手に入れられたからね」
龍の核は、赤龍からきちんと回収していた。これを手に入れたからこそ、香織は人造人間を造ることを決めたのだ。
「そんな重要なの、こんなところで使っていいの?」
「大丈夫だよ。使うのは一部だけだから」
赤龍から採れた核は、意外にも大きな物だった。それこそ人造人間が十体も造れるほどだ。
「問題なのは、他の素材がたくさん必要だって事だよ。百単位で必要な物もあるんだから」
「大変ね。万里と恵里に手伝ってもらう方が早くすみそうだわ」
「うん! だから、修行はダンジョンに行こう!」
「そうね。二人のメインの狩り場はダンジョンだものね」
こうして明日行われる、万里と恵里の修行の内容が決まってきた。
香織達は、今日は休日と決め、二人でだらだらと過ごした。
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