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変わってしまった現代で錬金術師になった  作者: 月輪林檎
第一章 変化と解放

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20.これから

改稿しました(2021年8月5日)

 朝になり、香織と咲は同時に起きた。


「ふぁ~、おはよう、咲」

「おはよう、香織。早いわね」


 今は、朝の六時。いつもなら寝ているか、徹夜して今から寝るかの時間だ。


「うん。昨日たっぷり寝たからかな」

「……香織は、普段あまり寝ないものね」

「えっ!? 寝てるよ。平均四時間くらい…」

「それは、あまり寝ていないに入るのよ。普通は、平均七時間くらい寝るものよ。そもそも……」


 咲のお小言が続いていく。香織は、聞きたくないと言わんばかりに耳を手塞いで首を振っている。

 咲の額に青筋が立つ。その様子を見てしまった香織は、顔を強張らせて固まる。ここで、すぐに逃げられれば良かったのだが……


「香織!」

「ひぃ~! ごめんなさい~!」


 香織と咲の大声を聞いて、万里と恵里が部屋に飛び込んできた。


「どうしたの!?」

「大丈夫ですか!?」


 飛び込んできた二人は、香織と咲を見て驚愕する。

 そこにあったのは、香織のこめかみを拳でぐりぐりとする咲と、半泣きになって平謝りしている香織の姿だった。


「どんな状況?」

「さぁ?」


 その光景は、万里と恵里が入ってきたことに気付くまで続いた。


「ごめんなさい。変な所を見せてしまったわね。良くあることだから気にしないで」


 朝ご飯を食べながら、咲がそう言った。


「そうなの? 香織さん、いつも何やっているの?」

「えっ?」


 万里の唐突な質問に顔を引きつらせる。


「えっと、何日も徹夜したり、夜に黙って外に出て朝帰ってきたりとかかな……」


 少し目線を外して小声で答える。


「はぁ、夜の外出は減ったのだけど、徹夜だけは、何度言っても直らないのよ。健康にも、お肌にも悪いって、何度も言っているのに」

「健康はともかく、お肌の方は、私特製の化粧水があるから大丈夫だって言ってるのに」

「健康がダメなら、ダメに決まってるでしょ!」


 咲の正論に、香織はぐうの音も出ない。万里と恵里も苦笑いの状態だ。咲の説教が一段落ついたタイミングで、香織は工房に引きこもる。万里と恵里の分の道具を作るのだ。

 きっかり、一時間で二つを作り終わり、万里と恵里に渡す。


「ありがとうございます。でも、いいんですか?無料でもらってしまって」

「いいよ。そもそも、私達が原因で起こるかもしれないトラブル用だもん」

「そうよ。特に、二人は、まだ子供の女の子だもの。狙われる可能性が高くなるわ」

「人質になるって事?」

「ええ、私に対するね。可能性は低くないのよ。世の中には、そういう人が多いからね」


 咲の言葉に万里と恵里は、暗い顔をする。ギルドに所属していたとき、仲間に見捨てられたことを思い出しているのかもしれない。

 香織は、二人の頭を撫でながら微笑む。


「そのための道具だから。絶対に手放しちゃダメだよ」

「「はい」」

「後は、信用出来る人を増やさないとね。坂本さんは知ってる?」

「一応知ってはいますけど、ちゃんと会ったのは、昨日の天幕でしかないです」

「私達の教育係は、違う人だったから」


 玲二は、ギルドの幹部として新人育成を担当していた。ただ、全ての新人を一人で教育するのは不可能なので、自分の部下と共に複数人体勢で行っていた。その結果、万里と恵里は玲二ではない教育係に当たっていた。


「じゃあ、きちんと紹介しとかないとだね」

「そうね。これからのことも話しておきたいから、ギルドに行ってみましょうか」


 香織達は、出かける準備をする。咲は、元々の武器である刀と討伐報酬の刀の二つを腰に差している。香織は、咲とは打って変わり何も持っていない。アイテムボックスに入れているので、手に持って歩く必要が無いのだ。


 準備が終わり、家を出る。

 香織と咲は、警戒しつつ出たが待ち伏せなどは無く、すんなりと外に出ることが出来た。


「さすがに、いきなり襲われるということは無かったわね」

「うん。でも、警戒は解かずに行こう」


 警戒範囲を最大限に広げて、ギルド本部に向かう。結局、一度も襲われること無く本部に着くことが出来た。

 中に入ると、ギルド職員が忙しなく動いていた。ちなみに暫定本部として使われていた天幕は、すでに撤去されていた。

 香織と咲は、周りを見回して玲二を探すが、全く見つからない。


「一階にはいないようね」

「最上階かな?」


 二人が話していると、後ろから大柄な影が近づいてきた。二人は、一瞬だけ身構えたが、すぐに解いた。

 その影は、重吉だったのだ。


「目が覚めたのか」

「はい、ご心配おかけしました」

「里中さんは、ここで何をしているんですか?」


 ここは、冒険者のギルド本部だ。重吉は、生産者ギルド所属なので、普通ここには来ないはずなのだ。


「冒険者ギルドからの依頼でな。ここら一帯の舗装などを行っている。香織と咲は、どうしたんだ?」

「この二人を、坂本さんに紹介して、頼れる伝手を増やそうと思って来たんです」

「この二人はギルドに所属していないのか?」

「色々あって脱退したんです」

「……なるほど。俺も玲二に用があったんだ。一緒に行こう」

「はい」


 重吉の案内で、玲二のいる場所まで行くことが出来た。香織の予想通り、玲二は最上階の一室にいた。応接室のようにテーブルとソファが配置されている。その他に、大きめの机が置いてある。その机に玲二はいた。


「咲! 目が覚めたのか!」


 玲二は、部屋の中に入ってきた咲を見てそう言った。玲二も倒れたままの咲を心配していたのだ。


「はい、ご心配おかけしました。それで、今日は坂本さんにお話があって来たんです」

「話?」


 玲二は、机からソファの方にきた。香織達もソファに座る。


「この二人を紹介しに来たの」

「昨日も見たな。俺は、冒険者ギルド本部長の坂本玲二だ」

「中之条万里です」

「中之条恵里です。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく。ギルドに所属したいのか?」


 玲二は、万里と恵里をギルドに所属させるために来たと思っているらしい。


「違うよ。この二人は元々ギルドに所属していたから、今更戻る気は無いと思う」


 香織がそう言うと、その通りといわんばかりに万里と恵里が頷く。その様子を見て玲二が少し考え込む。


「もしかして、一年前にあった、ダンジョンで置き去りにされた被害者か?」


 玲二の言葉に香織と咲が頷く。玲二は、その事件の概要だけは聞いていた。置き去りにした犯人を裁いたのも玲二だった。詳しい状況は書面で見て知っているが、被害者の氏名は伏せられていたので、万里と恵里の名前は知らなかった。


「この二人は、私達の家によく出入りするの。だから、目をつけられやすいと思うんだ」

「咲の領空権絡みだな。確かに、重吉よりも、子供の二人を狙うだろうな」


 香織の店の常連は何人かいるが、そのほとんどが重吉のような大人の人間だ。子供は万里と恵里くらいしかいない。狙われるのは明白だ。


「だから、坂本さんにも顔を知ってもらおうと思ったんだ」

「被害に遭うかもしれないからか。分かった。こちらでも対応出来るようにしよう。今、咲達と敵対するのは得策じゃ無いからな」

「うん。それでお願い」


 香織達の話が、一段落すると里中との話が始まった。ついでなので、香織達はその話を聞いておくことにした。


「玲二、ギルドの周りの舗装が始まった。大分進んでいるんだが、所々地盤沈下が多くてな。思ったよりも時間と費用が掛かる」

「そうか、このあたりで地盤沈下はあまりなかったのにな。それだけ、赤龍との戦いが激しかったということか」


 香織達は、自分達にはあまり関係の無い話だと思っていたら、もろに関係のある話だった。赤龍との戦いは確かに激しかったが、一番地面へダメージを与えていたのは香織の爆弾だった。それに、レールガンを錬成したときに周りの土などを問答無用で使っていた。


 香織と咲の額に汗が滲んでくる。


「費用はなんとか工面しよう。時間に関しては気にしないでいい。とりあえず、この周りを元に戻すことを考えなければいけないからな」

「これが、見積もりだ」


 里中が、玲二に見積書を渡している。玲二は、少し苦い顔をしたが仕方ないという風に首を振る。

 そこで、香織が何かを思い出して口を開く。


「そうだ、坂本さんにもう一つ相談があったんだ」

「ん? 何だ?」

「権利のこと」


 香織が話そうとしているのは、権利を有しているであろうモンスターについてだ。


「権利というと領空権、領海権、統治権のことか?」

「うん、多分だけど、領海権はリヴァイアサンが、統治権をネロ・ベルニアが持っている気がするんだ」

「黒龍とリヴァイアサンか。赤龍でも歯が立たないのに、あの化け物達を相手にしないといけないのか……」


 玲二の顔には絶望が浮かんでいた。無理も無い、玲二達は、赤龍を相手取っていたが、攻撃が全く通用しなかったのだ。細かい傷は付けられたのだが、すぐに再生していた。あのまま、香織達が来なければ、玲二達は全滅していた。

 つまり、香織達以外に効果的な攻撃を加えることが出来る人が、このギルドにいないということだ。


「このことは、ここだけの秘密としよう。そもそも、あの化け物達に手を出す馬鹿は、もういないと思うけどな」

「そうなんだけどね。あのアナウンスがあったから、権利欲しさに戦うって事があり得るんだよ」

「そうだな、リヴァイアサンは、回遊しているからまだしも、黒龍の方はすぐ近くにいるからな」


 黒龍のダンジョンは、香織達の家から三時間ほど歩いた場所にある。ギルドでは立ち入り禁止にされているらしい。


「テリトリーに入るか、攻撃を仕掛けない限り、こちらに害を為すことはないのが唯一の救いだな」


 重吉も話し合いに参加する。生産者ギルドとしても流通を制限されるのは辛いのだろう。


「そうだな。だとしたら、秘密にするよりも進入禁止にするほうがいいか」

「そうですね。言っても言わなくても、独断で行動する人はいると思います」

「冒険者ギルド内には、進入禁止で通しておこう。後は、自己責任だな」

「それでいいと思う。じゃあ、私達はそろそろお暇するね」


 そう言って香織は、腰を上げた。万里達についてと黒龍達について話したので、この場にいる意味が完全に無くなったからだ。


「ああ。……なぁ、香織、咲、ギルドに入るつもりは無いのか?」


 玲二は、香織達が出て行く寸前にそんな事を言った。


「うん、信用出来ないから。坂本さんは別だけどね」


 香織はそう返して、部屋を出て行った。咲達も後に続く。部屋に残っているのは玲二と重吉だけだ。


「いい加減、香織達を勧誘するのは諦めたらどうだ」

「それは、そうなんだがな。あの二人は、日本の中で孤立している。あの強さが周りを寄せ付けないんだ」

「ギルドに入れば、解消されるわけではないだろう」

「だが、何人かは、力になってくれるかもだろう」


 玲二は、「はぁ」と短いため息をつく。


「いや、妬みが広がるだけだと思うぞ。香織達は、信用出来る人間がいないと言った。香織の発明に寄ってたかっていったのは、ギルド上層部達だ。その結果、香織は、人の闇を直視してしまったのだろう。誰もが、人のため世のために動くわけじゃない。私欲にまみれた奴らに利用されるのが嫌だと考えているように、俺には見える」

「………そうかもな。何度か聞いてもことごとく断られるのは、やっぱりそれが原因か」

「恐らくだがな。だから、無理強いするのはやめておけ。今のままでも、スタンピードなどが起こったら手伝ってくれているだろ? それすらも無くなったら、それこそ日本の終わりだぞ」


 これまで、何回か起こったスタンピードには、必ずと言ってもいいほど香織達の顔があった。毎回、突っ込んでいくわけでは無いが、遊撃として敵の排除で貢献してくれている。


「そうだな。はぁ、俺達が香織達に恩返し出来る日はかなり遠いな」

「ああ、あいつらのためにやれるだけのことはしよう」


 二人は香織達のことをきちんと考えてくれていた。大人の知り合いの中で最も信頼出来るのはこの二人だけだろう。

 香織は、二人がそんな事を考えてくれているとは知らずにギルドを出て行った。

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