17.後処理
改稿しました(2021年8月5日)
香織は、気絶してしまった咲を天幕に預けて、赤龍の素材を回収しに行った。
「やっぱりでかいなぁ。家の中での解体は出来ないね。ここでやっちゃお」
香織は、アイテムボックスから解体用のナイフを取り出す。そして、ナイフと赤龍の身体を見比べる。
「………これじゃあ、無理だ」
香織は、ナイフをしまい、自分の背丈以上ある大きな太刀を取り出す。
「重っ……これなら出来るかな」
香織は、大太刀を使って、赤龍の鱗、皮、角、肉、核など細かく解体して、アイテムボックスにしまっていく。
三時間かけて全てを解体し、アイテムボックスにしまうと、空が白んできていた。
「もう朝か。ふぁぁぁあ」
赤龍との戦いと解体で疲労した上に、徹夜をしたため、香織は、大きな欠伸をした。
「「香織さん!」」
「ふぁ?」
欠伸をしている途中で呼ばれたので、変な声が出てしまった。香織が、声が聞こえた方向を見ると、万里と恵里がこちらに走ってきていた。
「万里ちゃん、恵里ちゃん、こんな朝早くどうしたの? もしかして、寝てないの?」
万里と恵里は、危険が及ばない香織の家にいてもらっていた。外からの轟音が一切しなくなったので、外に出てきたらしい。
「うん、寝れなかった」
「私もです」
「まぁ、あれだけ暴れていたら、音がすごいもんね。あっちの天幕に、咲が寝ているから、一緒に行こうか?」
「「はい」」
香織は、二人を連れて咲が眠る天幕まで向かった。中に入るとギルドの女性職員である中根綾子とギルド本部長代理になった坂本玲二がいた。
「咲は、目覚めた?」
「いいえ、まだ寝ています」
「前に使ったときは、どのくらいで起きたんだ?」
「ええっと、半日くらいかな。でも、今回みたいに、長くは使ってないからどうなんだろう?」
前に、咲が鬼神化を使ったときも、同じように気絶してしまった。鬼神化の代償は、全身からの出血や気絶になるみたいだ。出血の方は、身体が鬼神化に耐え切れていないから起こってしまっているらしい。
「難しいな。まぁ、目が覚めるまでは、中根さんが見ていてくれるから、安心しろ」
「私も看病する!!」
「私もします!!」
綾子と万里、恵里が看病をしてくれるらしい。香織は安心して、仕事を続けることにした。
「坂本さん、ギルド本部は適当でいいの?」
「いや、設計図を引いておいたから、これの通りに頼む」
「うん、わかった。後、あの人達はどう?」
「ああ、支部の方に監禁している。後々に、裁くことになるな」
「ふうん、そう。じゃあ、建ててくるね」
そう言うと、香織は天幕を後にした。
「う~ん、もう少し反応すると思ったが、意外とドライだな」
「というより、あまり興味が無いのだと思います。やろうと思えばいつでも殺せるわけですし」
「そうだな……まだ、十八なのに相当な修羅場をくぐってきた結果があれか。はぁ、不憫だな」
「ですね」
大人二人の会話に、万里と恵里は入ることが出来なかった。
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香織がギルド本部跡地に着くと、瓦礫の山が大量に積まれていた。
「材料は、瓦礫じゃ足りないなぁ。手持ちから出して、後で請求しよう」
香織はそんな事を言いながら、設計図を見る。内容を完全に覚えたので、アイテムボックスにしまう。
「すぅーーー、はぁーーー、すぅーーー、はぁーーー」
呼吸を整えて、巨大な魔法陣を出す。その大きさは、約一キロメートル。その魔法陣が光り輝く。魔法陣の内側にある瓦礫が浮かび上がり砕かれ、新たな建材となる。
建材が積み重なり、錬成により接着される。そうして、段々新しい建物が出来上がっていく。途中、材料が足りなくなったので予定通り、自分のアイテムボックスから石材を取り出して足していく。
玲二に、渡された設計図通りの建物が出来始めた。
その光景をギルドの職員や冒険者達が遠巻きに見ていた。
「なんか、大きな積み木みたい」
「うん、そうだね。でも、普通はこんなのありえないよね」
「そんな事言ったら、この世界もあり得ないでしょ」
「俺達もあんなになれるかな?」
「無理だろ、あれは規格外だ」
「赤龍を倒した人なんだろ? つまり、あのくらい出来ないとそんな偉業を成し遂げられないんだよ」
遠巻きに見ている冒険者達は、そんな事を話していた。幸いなことに作業に集中している香織の元には届いていなかった。
十分ほどで、五階建ての巨大な建物が出来上がった。
「ふぅー……疲れたぁ。後は内装か……木材を取りに行かなきゃ」
香織は近くの森に足を向ける。先程使った大太刀を取り出し、一本一本切り倒していく。
「咲がいれば、スパスパ切ってくれるのになぁ」
独り言をしながら、ひたすらに木を切っていく。
「今度は、木を切り出したぞ」
「なんでだ?」
「てか、なんで一振りで切れるんだ?」
「あの子の技量なのか、あの太刀がすごいのかか?」
「さすがに太刀だろ?」
「でも、あの子の連れが赤龍を斬ったんだろ? あの子も出来るんじゃないか?」
「錬金術師って聞いたぞ」
「だから、建物を造れるのか」
「いや、それでもおかしいだろ」
香織の行動で再び職員と冒険者がざわめき始める。
香織自信は、色々やってはいるのだが、予想以上に世間には浸透していなかった。香織が、隠居生活みたいな事をしていたのも原因のひとつだが……
「このくらいかな。釜用意しなきゃ」
香織は、咲のいる天幕まで来る。
「坂本さん、ギルドの外見はあんな感じでいい?」
「ああ、大丈夫だ。助かった」
「内装のための家具作ってくるから、咲を引き取りにきたよ。中根さん、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそギルドの建築ありがとうございました」
香織と綾子が互いに頭を下げる。顔を上げて眼が合うと、二人でニコッと笑った。
咲の傍まできて、背中に背負う。
「よいっしょっと。う~ん、絶対に咲は、重くなったね」
「それ、本人に言うなよ……?」
「分かってるよ。万里ちゃん、恵里ちゃん、うちで咲の看病をお願いできる?」
「「はい!」」
香織は、咲を背負って、万里、恵里と家に戻った。
ベットに咲を寝かせて、後のことを万里と恵里に任せる。そして、香織は工房に移動して釜に火を点ける。
「さて、必要なのは机と椅子かな」
木材を釜に入れ、鉄鉱石を少しと魔力水を入れて魔力を注ぎながらかき混ぜる。木材も鉄鉱石も溶けて液状になったら、液を平らで大きなパッドに入れて放置する。すると、液が段々、形を作っていき椅子に変化する。
「何度か作ってるけど、なんで液体で平面だったのが立体になるんだろう?」
錬金術で作れるものは格段に増えたが、時々理解が及ばない現象が起こる。そのたびに何でか考えるのだが、完全な答えが出てくるのは希だ。
その後、何個もの椅子を作り、机も量産した。机は木材と鉄鉱石の割合が変わるだけで後は全く同じ作り方だ。
机と椅子を二百個ずつ作り、アイテムボックスにしまう。咲がまだ、寝ているので、万里、恵里に留守を任せて玲二がいる天幕まで行く。
中に入ると、いたのは綾子だけだった。
「失礼します。あれ?坂本さんはどこに?」
「本部長代理なら、香織さんが建ててくれた建物のところにいますよ」
「わかりました。ありがとうございます」
香織は、天幕を後にして玲二の元に向かった。香織の建てたギルド本部の前に玲二がいた。
「坂本さん!」
「ああ、香織か。咲は目覚めたか?」
「ううん、まだ眠ってる。とりあえず、机と椅子を持ってきたよ」
「ああ、ありがとう。早速並べるか。おーい!みんな集まってくれ!」
玲二が周りにいる冒険者達に声をかける。わやわやしながら五十人ほどが集まってきた。
「どうしたんだ?代理」
「香織が机と椅子を用意してくれたから、中に配置する」
「何個くらいあるんだ?」
「両方とも二百個くらいあるよ」
「にひゃ、二百個!?」
予想外の数に冒険者達は目を剥いた。そんな事を気にもせず香織はアイテムボックスから、机と椅子を次々に取り出していく。それを片っ端から運んで設置していく。
一時間ほどで全ての設置が完了した。冒険者の人達は全員、息も絶え絶えなほど疲れていた。
「じゃあ、受付用のものも設置するね」
香織は、受付の位置に液体を流していく。液体が音を立てながら立体になっていく。十秒ほどで細長い受付カウンターが出来上がった。その光景を見た冒険者達は、驚愕する。
「今日何度目だ?」
「わからない、驚きすぎて頭が疲れてきた」
「錬金術師ってみんなあんな感じだったか?」
「俺の知っている錬金術師じゃないな」
冒険者達がそう言っている内に、次々に受付カウンターを作り出す。全部で四つ生み出して完成だ。
「これで、終わりっと。後は、生産者ギルドに頼むんでしょ?」
「ああ、助かった。支払いは後で、香織の家に持っていく」
「うん、分かった。じゃあ、私はもう行くね」
香織は、ギルドから出て、自宅へ向かう。咲が目覚めているように願いながら……
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