16.赤龍戦(2)
手を上に掲げ魔法を発動する。雷雲を呼び出し、雷を赤龍に集中して降らせる。
ギィィァァァァァ!!!
赤龍にも雷は効くようだった。しかし、苦しんでいるのも最初だけだった。すぐに香織を敵と見なし炎を吐き出す。香織は、迫り来る炎に対してアイテムボックスから、結晶の欠片を地面に叩きつける。その地面から、半透明の半球が出てきて香織を覆う。香織が作った『簡易結界・絶』だ。絶縁結界と同じ性質を持っているが、一時的にしか張れない使い捨てのものだ。
そうして、炎をやり過ごした後、靴に魔力を通して刻印魔法を発動させる。発動するのは圧縮。それにより、空気を圧縮して踏み台とする。香織は、その踏み台を使って、空を駆け上がる。赤龍の近くまで走り、アイテムボックスから取り出したフラスコを投げつける。投げつけたのは『腐敗薬』。触れたものを腐らせる効果を持つ。赤龍は、腐敗薬の掛かったところをブレスで焼いていく。赤龍には、火耐性があるらしく、自分の炎では、傷を付けることすら出来ない。それを利用して、腐敗薬を蒸発させた。
その間に、香織は赤龍の身体を観察する。先程レールガンで貫いた傷が塞がり始めている。
「再生持ちか……やっかいだね」
香織は、アイテムボックスから大量の爆弾を取り出して投下する。赤龍や地面に当たると起爆する爆弾だ。赤龍が爆発に吞まれる。
この光景を見ていた玲二達は、呆然としている。救助は終えたとは言え、自分たちが少し前までいた場所が爆撃されているのだ。
「いや、あそこには、咲がいるはずだ。香織は分かっていないのか?」
玲二は、咲が叩きつけられたのを見ていた。そのため、今、爆撃が行われている場所が、咲が横たわる場所だと分かったのだ。助けに行こうにも爆弾が落ちてきているため、自分が吹き飛んでしまう。全員が香織に対して、叫び手を振るが気付いてもらえない。そのうち一人が助けに動いた。
しかし、それは杞憂に終った。
赤龍を包んでいた爆撃と煙が真っ二つに斬られた。
「な、何だ……!?」
その光景に玲二達は目を剥く。煙が晴れた地上には、赤黒いオーラを纏った人影があった。いや、人と言えば人だが、その影には、角が生え、眼が赤く輝いていた。
その影の正体は、咲だった。咲のスキルの一つ鬼神化だ。その効果は破壊、咲はその力を刀に込めて放ったのだ。
「よくも色々やってくれたわね。お返しよ!」
赤龍の羽が、斬り落とされる。
ガァァァァァ!!
そこに、香織が、何条もの雷を降らせる。動きの鈍った赤龍の身体を、咲が駆けていく。それを阻止しようと赤龍が暴れるが、香織が取り出した大量の鎖が雁字搦めに縛っていいき、動きを阻害する。
『束縛の鎖』は、敵を認識して自動で縛り付ける鎖だ。相手が油断していなければそうそう掛かることはないが、赤龍は先程の羽を斬られたことで注意力が散漫になっていた。
赤龍の首まで上がった咲が、鬼神としての力を乗せた刀で、首を切断する。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
咲の一撃に寄り、首が滑り落ちる。
ズゥゥン!
音を立てて地面に落ちたが、身体の方はまだ動いていた。
「まだ動くの? しつこいわね」
鬼神化を解いた咲は反動で、身体のいたるところから血が滲み出てきている。
(限界が近い……香織は?)
咲が、あたりを見回すと、香織が、空を駆けてこちらに来ていた。
「咲、大丈夫?」
香織は、回復薬を掛けながら咲に訊く。咲は、香織の頬を引っ張りながら怒りの形相を見せる。
「私がいるのに爆弾を落としたわね! 当たったらどうするの!」
香織は、咲の手からなんとか逃げる。
「当たってないじゃん。それに、当たっても咲は無傷で生還するでしょ」
「それは、爆弾が爆発する前に避けた時のことでしょ!」
赤龍の身体の上で言い争っていると、赤龍が暴れ出した。
「うわっ! なんで動いてるの!?」
「ドラゴンは、頭が弱点じゃないのかしらね?」
「じゃあ、狙うべきは心臓だね。咲、まだいける?」
「ギリギリね。一撃だけが限界よ」
「十分」
香織と咲は、赤龍の身体から降りる。アイテムボックスから、今までで一番小さなピンポン球サイズの爆弾を取り出す。
「とっておきだよ!」
香織は、爆弾を赤龍目掛けて、投げる。
爆弾が赤龍の身体の傍で爆破し、周囲にあるものを吸い込む。香織の虎の子『超重力爆弾』だ。爆発後、中心地に超重力を発生させ、半径五メートルのものを無差別に吸い込む。赤龍の身体の傍で発生した超重力は、赤龍の身体をごっそりと持っていった。抉れた身体の中に、心臓があるのが見える。
「見えた!」
香織の声と、ほぼ同時に咲が動き出す。走りながら鬼神化し、頭から角を生やし、眼が赤く染まる。周りにあるものを、全て吹き飛ばすようなスピードで駆け、赤龍の懐に入り跳ぶ。そして、心臓を間合いに捉えた瞬間、抜刀……
鬼神としての力の全てを刀に込めて斬る。赤龍の心臓を違わずに斬り裂く。それに留まらずに、赤龍の身体を両断。上半身と下半身で分かれた赤龍は、もう二度と動くことは、無かった。
香織の爆発や赤龍のブレスによる火と煙で曇っていた空が晴れ渡る。咲の剣圧による現象だ。
全ての力を放った咲は、空中で気絶した。その咲を優しく受け止め、香織は、その場を全力で駆けて逃げる。
「やばい、やばい、やばい!」
咲のいた場所は赤龍の真下、赤龍は、大型旅客機の倍の大きさをしている。その身体が上から迫りつつあるのだ。香織は、咲ほど早く走れない。そして、今は咲を背負っているためいつもよりも遅くなってしまう。靴の刻印魔法を使う事で、瓦礫を気にせずに走れるが、降ってくる赤龍の方が速い。
もうだめかと思ったとき、香織達の上で爆発が起こった。
「香織! こっちだ!」
玲二が、こちらに手を振っている。そして、こちらに駆けながら爆弾を投げている重吉の姿もあった。先程の爆発は、重吉の投げた爆弾だった。そうして、上から降ってくる赤龍を少しでも遅らせようとしているのだ。重吉だけで無い。
たくさんの人達が、魔法を撃って赤龍の身体が降ってくるのを押さえている。一発や二発では無理だが、何百発の魔法などによる爆発が、赤龍を押しとどめているのだ。
「大丈夫か!?」
爆弾を投げながら走ってきていた重吉が、香織と咲を抱える。すると、先程までの香織よりも速く移動できている。香織は、自分で思っていたよりも体力を消耗しており、スピードが全く出ていなかった。重吉は、玲二の元まで来るとスピードを緩め、香織を下ろした。気絶している咲は背負ったままだ。
「香織! 咲! 無事で良かった!」
玲二は、涙を流していた。喜び、安堵、悲しみ、様々な感情が入り交じっている涙だ。
「坂本さん、泣きすぎだよ」
香織は、少しふらつきながらも立ち、赤龍の方を見た。ひどい惨状だった。ギルド本部は全壊。周りの土地は赤龍と香織の攻撃でボロボロ。復興にも時間が掛かるだろう。
「里中さん、さっきは、ありがとうございます。おかげで助かりました」
香織は、赤龍に背を向け重吉の方を見る。
「気にするな。この場を救ってくれた礼でもある。それに、知り合いを見捨てることは出来ないからな」
重吉は、少し顔をほころばせながら言う。香織もつられて笑う。香織は、この場に生きる人を救った。しかし、日本は国を運営する重鎮を全て失った。香織達が、すぐにでも駆けつけられれば何人かは助けられたはずだが、途中に邪魔が入ったため、それも叶わなかった。
全員が赤龍の討伐を実感し始めたころ、空から声が降り注いだ。
『赤龍を倒したことで領空権が委譲します。日本・アメリカの領空権がロッサ・ラギトアから高山咲に委譲。赤龍討伐の功労者である、桜野香織、高山咲に報酬として、進化の権利と武具を授与します。
支配者の討伐を確認しましたので、一部の情報を解禁します。現在のあらゆる権利は、特別なモンスターが有しています。その種類は領空権、領海権、統治権の三つです。それらは、モンスターを倒したものが手に入れます。これらの譲渡は認められません。現在開示できる情報は以上となります』
それだけ言うと、声は聞こえなくなった。玲二達冒険者は、ざわざわと騒ぎ始めた。そんな中、
「面倒くさいことになりそう……」
香織は、これからのことを考えて頭を抱えた。
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