13.二年後(2)
改稿しました(2021年8月2日)
香織の朝のルーティンは、二年前と変わりない。朝起きて、シャワーを浴び、その間に洗濯を済ましご飯を作る。リビングで食べるが、二年前のようにニュースを見ながらは出来ない。
壊された発電所をモンスターから取り返せていないのと、そもそも修復する術がないことで、電気が回ってきていないのだ。そのせいで、テレビ局も動いていない。しかし、香織の家では、電気が通っている。錬金術と刻印魔法で作った魔導発電機のお陰だ。
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魔導発電機:香織のオリジナル魔道具。大気中に存在する魔力を吸収して発電機を回す。直接魔力を付与して回すことも出来る。改良に改良を重ねた結果、変換効率が良くなっている
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鑑定すると、このような事が書かれている。
一年半前、この発電機を作ると、様々な所から作成依頼が来た。香織は材料がない事を理由に作成を断ると、盗もうとする輩まで現れた。
そのため、香織はもう一つオリジナルの魔道具を作った。絶縁結界・不壊である。
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絶縁結界・不壊:香織のオリジナル魔道具。一度発動すると、一生壊れることはない。この結界は、結界の内側に対して悪意と害意を持つ人の侵入を拒絶する。
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この結界の内側にいる人や物に対して、悪意と害意を持っていれば、拒絶される。つまり、香織の家とその備品、香織自身、同居人の咲に悪意と害意を持っていれば中には入れないのだ。さらに、この結界内で悪意や害意を持っても追い出される。
そして、不壊を付加する事により、結界を破壊する事自体ができなくなっている。つまり、結界の内側にいれば、安全というわけだ。
魔導発電機と絶縁結界には、魔鉱石を、大量に使っている。魔鉱石は、ダンジョンの奥深くに少量存在する鉱石だ。香織はダンジョンに行って、魔鉱石を取れるだけ取って来た。そして、そのほとんどを、この二つに注ぎ込んだのだった。
この結界もあって、香織に発電機の製作を依頼してくる人は減った。そう、減っただけだった。二年経った今も依頼をしてくる人はやって来る。香織は、その人達の依頼も全て断っている。
香織は、朝のルーティンを終えると、依頼されている道具の製作を行う。先程の魔導発電機や絶縁結界などではなく、爆弾や簡易結界の作成だ。その他にも店に並べる回復薬や状態異常回復薬も用意する。
爆弾は、前に作ったものの改良版で、中規模な爆発を起こすものだ。
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簡易結界:魔力を付与した宝石を置いて起動する魔道具。置いた宝石と宝石を結ぶイメージを持つ事で宝石と宝石の間に結界が生成される。あくまで、簡易なので強度はそれ程高くない。
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簡易結界は、以上のようなもので、小休憩の際などに使われる。香織の作るものは、他の人が作るものよりも若干壊れにくいので、人気が高い。その代わり、製作の際に使用する宝石は依頼者負担である。
「ふぅ、今日の依頼分と補充分は終わり!」
香織は、作り終わった回復薬や状態異常回復薬を棚に並べる。この店の部分も錬金術で、錬成して改造したものだ。錬金術=釜の概念を捨てて、錬金術の魔法陣を刻印魔法で描き、家の構造から、全てを変えていた。
最初は、少し無理矢理やったので、壊れはしないかとヒヤヒヤしていた。その後、理論を確立して、その心配も無くなった。
「香織さーん」
店の入り口から声がした。香織がそちらを向くと、中学生ほどの女の子二人組がいた。一年前に知り合った、中之条万里と中之条恵里の双子だ。この二人は、ギルドに属さないフリーの冒険者をしている。元々はギルドに属していたのだが、一緒にダンジョンに潜っていた仲間に見捨てられて、魔物の大群に囲まれてしまい、死ぬかもしれないところを香織と咲に助けられた。このことがきっかけでギルドをやめ、フリーの冒険者になったのだ。
「万里ちゃん、恵里ちゃん、いらっしゃい」
万里は、茶色の髪をポニーテイルにしている剣士、恵里は茶色い髪をボブカットにした魔法使いだ。二人の服装は万里がレザーアーマーで、恵里が丈の短いローブを着ている。二人とも、その下に、色違いのTシャツとショートパンツを着ている。
「お願いしていた、簡易結界出来ましたか?」
恵里が、首をかしげながら訊く。恵里は、礼儀正しい子だ。
「出来てるよ。はいこれ。使い方はわかる?」
「わかるよ!」
万里は、とても元気な娘でしっかり者である。皆は、元気な万里を見ると少し抜けていると判断するらしいが、状況をきちんと見て判断する思慮深さがある。ちなみに、万里の方が早く生まれたので万里が姉で恵里が妹だ。
「回復薬は、大丈夫?」
「まだ、昨日買ったものがあるので、大丈夫です」
「じゃあ、借金返済のために頑張ってくるね!」
万里と恵里の腰には、マジックバックが巻いてある。これは、香織が二人のために作ったものだ。マジックバックはかなり高価なので、二人は香織に借金をさせてもらったのだ。
「そうだ!咲さんは!?」
「今は、ちょっと遠くに行ってるよ。静岡らへんだったかな」
咲は、一人でもほとんどのモンスターに負けないくらい強くなった。この二年で戦闘術に磨きがかかったのだ。今や、世界の中で三本指に入るくらいの強さがある。二人は、咲の強さに憧れていた。
「そうなんだ、わかった。じゃあ、今度こそ行って来るね! 行こう、えっちゃん!」
「えっ? あ、香織さん! 簡易結界ありがとうございました! まーちゃん! 待ってぇ!」
万里は、ダンジョンに行くために駆けていった。恵里は、香織にお礼を言ってから万里を追いかけていった。
「二人とも元気いっぱいだなぁ」
香織はそう呟きながら、店のカウンターに座った。
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