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13.二年後(1)

改稿しました(2021年8月2日)

 錬金釜を作った翌日、香織と咲は、共に朝ご飯を食べていた。


「庭にあるあれって、錬金釜?」

「そうだよ。あれでも少し小さい方なんだけどね」

「あれで小さいって、大きいのはどうなるの?」

「最大で三メートルの大きさって書いてあったかな」

「三メートル……」

「まぁ、今は邪魔だし作らないけどね」


 いつも通りの他愛のない会話をしていると、電話が鳴り響いた。


「誰だろう?」


 香織は、電話を手に取る。


「もしもし」

『もしもし、香織? お母さんだけど』

「お母さん? どうしたの?」

『お母さんとお父さん、そっちに帰れそうにないわ。香織は、知らないかもしれないけど、海にとんでもない化物がいて、船が出ないの。飛行機も同様よ。赤いドラゴンがいて、空を飛んだらすぐに落とされるの。テレビで見てる?』


 香織の母がそう言うので、咲にテレビを点けてもらう。すると、


『――見えますでしょうか!? ご覧の映像は、今日日本時間午前一時のアメリカのニューヨーク州ケネディ国際空港の映像です。飛び立った飛行機が、落とされています。飛行機を落としたとされるのが、この映像にも映っている赤い影です。現地にいた人達の撮った写真がこちらです。ご覧ください。この赤い影は、ドラゴンだったのです。地上には、多数のモンスターが、海には巨大な化物が、そして、空には、ドラゴンが生まれています。この世界は一体どうなってしまうのでしょうか!?――』


「今、見たよ。赤いドラゴンが飛行機を落とすところ」

『私達は、頑張って帰る方法を見つけるわ。香織、一人で心細いだろうけど頑張って生きて!』

「大丈夫、私は一人じゃないよ。事情があって咲と一緒に住んでるから」

『咲ちゃんと!?……ご家族が亡くなったのね』


 香織の母は、謎の察しの良さを見せる。香織のように、親が別の場所で暮らしているわけでもない限り、こんな世界で、親元を離れるという事はないだろう。それを考えれば、咲の両親が亡くなったと思うのが自然だろう。


「うん、後、これだけ伝えておくね。私、人を殺した」

『……!! そう、それは殺さなきゃいけない事情があったのね。香織、今の世界は、狂っているわ。今までの常識や法が役に立たなくなる。

 香織は、香織の身と咲ちゃんの身を第一に考えなさい。殺されそうになったら、問答無用で殺しなさい。厳しくて怖い事を言っているようだけど、それが香織達が生きていく方法よ。いい? これが一番大切なこと、適応しなさい。香織がこの世界で生きていくために』


 香織の母は、娘が人を殺したのに責めることをしなかった。生きるために殺す。これが今の世界の真理となりつつある。香織の母も今の世界に適応しているのだ。


『香織、咲ちゃんに変わってくれる?』

「? うん」


 香織は、咲に電話を渡す。


「変わりました。咲です」

『咲ちゃん、事情はなんとなく分かってる。いつまでもうちにいていいからね。変な遠慮も無用よ。その代わりなんだけど、香織の事よろしくね。無鉄砲な所もあるし、ちょっと強引な所もあるし、好奇心で動くような子だけど』

「はい、わかりました。ありがとうございます。おばさん」

『ええ、香織も咲ちゃんがいて嬉しいと思うわ。あの子、咲ちゃんの事大好きだから。この前帰った時も、ずっと咲ちゃんの話ばっかだったのよ』

「それは、嬉しい反面恥ずかしいですね」

『じゃあ、香織の事よろしくね。私達もなんとか帰れる方法を探すわ。じゃあ、バイバイ』


 香織の母は、電話を切った。咲が、香織に電話を渡す。


「なんだって?」

「香織の事よろしくって」

「ふぅん」


 香織は電話を置いて、テーブルに着く。


「今日からどうするの?」

「うん、取り敢えず、色んなものを作るよ。そしてもっと強くなる!」

「ええ、そうね」


 その後、香織達は様々な物を作り、様々な場所に赴いた。この世界に適応して生きていくために……


 ────────────────────────


 そして、二年の月日が流れた。


 その間に、まず、電気が止まった。発電所がモンスターに壊されたのだ。その際、香織達の予想通り、大きな混乱が起こった。この結果、今までと、同じ場所に住んでいられないと、田舎に移動していく人達が多くなった。


 さらに、社会秩序が壊れた。従来の考え方や法律では自分達の身を守れなかったためだ。その後、新たな秩序が生まれた。その結果、生まれたのが冒険者、生産者、奪還者、山賊だった。それぞれギルドと呼ばれる集団を築いている。


 冒険者は、ダンジョンやモンスターの生息地に行き様々な物を持って帰る人達だ。持ち帰った物は人々の役に立てるために使われる。


 生産者は、香織のような錬金術士や鍛治士など、直接の戦闘をせずにサポートをする人達だ。作る物は、人によって良し悪しがある。生産者は職人と呼ばれ、いい物を作る人達は匠と呼ばれる。生産者は、基本的に冒険者と組んで、素材の確保を頼んだりと、協力関係にある。


 奪還者は、モンスターに奪われた土地を取り戻す人達だ。ただ、素行が悪い人達がリーダーとなっており、あまり好かれてはいない。手に入れた物は自分たちの物にしており、他者のために何かをすると言う感じではない。土地の奪還も自分達の、利益のためでしかない。


 山賊は、人から物を奪う事に特化した人達だ。この人達は、人殺しも厭わない集団となっており、たびたび、冒険者や奪還者と争っている。因みに奪還者が奪還する物の一つは山賊に奪われた物もあったりする。


 冒険者は、奪還者と山賊と敵対関係にある。度々衝突しているが、冒険者達の方が数が多いので、冒険者達の方が勝っている。


 二年の間に、色々な人達が生まれ、そして死んでいった。そんな中、どの派閥にも属さない人達もいる。その中の二人が、香織と咲だった。様々な理由があるが、一番の理由は、信用出来ないという事だった。


 香織の身体は、この二年間で、全然成長しなかった。そのため、身長などが、二年前から変化していない。しかし、髪や爪などは伸びるので、定期的に切る必要があった。


 咲の方は、二年で背が伸びた。香織と違い、その他の部分も成長している。香織は、髪の長さを二年前と変えずに、ミディアムヘアをしている。咲も二年前と変えずに、セミロングにしているが、戦闘の邪魔という事で、低い位置で括っている。



 香織はあれから、自宅を改造して、錬金術屋を開いていた。顧客は少ないが、かなりの儲けを出している。香織の調合する薬の効果が高いからだった。


「香織、ようやく狩れたわ。こいつでいいのよね?」

「うん、川に生息するカッパもどきだね。合ってるよ。ありがとう、咲!」


 咲は、マジックバッグから、カッパのような謎の生物の死体を取り出す。


「これ、どうするの?」

「これの皮とか粘液は、撥水性が高いんだ。これを布とか防具とかいろんな物に使えば、水に濡れることがあまりなくなる。特に、テントに使えば、かなりいい感じだと思うの!」


 香織は、目を輝かしてそう言った。


「そ、そう。加工頑張って……」

「うん、そうだ。マジックバックの調子はどう?」

「容量がかなり増えているわ。前よりも使いやすい」

「良かった。また、容量増やしたら渡すね」

「まだ、作るのね。それじゃあ、次の討伐に行くわね」

「うん、わかった。これ、改良型レーションね」


 香織は、咲に棒状の食料を渡す。これは、栄養などを詰め込んだ物だ。あまり凝った物を食べれない遠征などで使われる。ただ、あまり美味しくない。その改良型を咲に渡したのだ。


「うっ、これ大丈夫?」

「ちゃんと改良したよ。まだ、味に不安はあるけど、感想聞かせてね!」

「わ、わかったわ」


 咲は、そう言いながら店を後にした。


「うーん、次のもの作らなきゃ」


 香織は、新しいものの構想を練りながら、客を待つ。

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