132.権利の奪還
玲二達が戦っている間に、香織は、二体をひっつけるためのものを作り出す。今まで使っていたものでは、サイズが圧倒的に足りていないからだ。
「作るのは、束縛の鎖。接着剤も使いたいけど、それを撒く方が厳しい。束縛の鎖を大量に作って、二体をくっつける。そのために巨大な……」
香織は、いつも通りに言葉にする事で、頭の中をまとめていく。その様子を見つつ、咲は、戦況を見守る。
香織のアメリカ統治権は使えない。香織も真っ先にそれに思い至ったが、使用出来なかった。咲も、香織が何もしない時点である程度察しは付いていた。ベヒモスは、最初の咆哮で、全ての権利所有モンスターと契約を交わしていた。そして、厄介な事に、自分が倒される事も考慮した契約を交わしていたらしい。
香織達は、どうやってもこの獣達を倒さないといけないのだ。
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「攻撃が来るぞ!! 穴に入れ!」
玲二の声のすぐ後に、頭上を竜の尻尾が通り過ぎる。その副産物である暴風も穴の中にいれば、ギリギリ耐えられる。
「撃て! 撃て! 撃て!」
引き金を引いて、獣と竜に銃弾を撃ち込んでいく。相手の方がでかいので、小さな傷にしかならないが、それでもないよりもマシである。
玲二達は、銃の取扱方など知らない。ここに来るまでに解放軍の面々に軽く教えて貰った程度でしかない。なので、反動を上手く逃がす、構え方など出来ない。そのため、反動はステータスでねじ伏せている。時折、後方で放たれるロケットランチャーが、獣と竜の身体を吹き飛ばしていく。魔法が使えるものは、魔法を使って攻撃している。銃を使っているのは、近接攻撃を主流としていた者達だ。
「火力が足りないか……」
中々倒れない二体に、玲二は歯噛みする。すると、今までのロケットランチャーとは違う轟音が響き渡った。
「ようやく来たか」
玲二の視線の先には、太い砲塔から煙を出した戦車がいた。
「後どのくらいだ!?」
玲二が、近くにいる重吉に訊く。重吉は、時計を確認する。
「時間的に、もう来てもおかしくない! だが、本当に良かったのか!?」
「ここで、出し惜しみして負けるよりもマシだ! それに、何度だって作れるだろ!?」
「無茶言ってくれるな! だが、その通りだ!」
玲二達は、そうやり取りをしながら、銃を撃っていく。それに戦車やロケットランチャーも続いて行く。さらに、龍となった焔、星空、白雪のブレスが放たれる。燃やし尽くす赤い炎、破壊し尽くす黒い炎、全てを凍てつかせる白い吹雪が、獣と竜を襲う。獣と竜は、玲二達よりも焔達を強敵と認識して、優先的に攻撃していた。しかし、空を縦横無尽に飛び回る三人に、その攻撃は当たる気配がない。
「来たぞ!」
「全員! 衝撃に備えろ!!」
空から、雲を斬り裂いて、香織達が乗っていた飛行機が降ってきた。飛行機は、まっすぐに獣と竜に向かって落ちていく。その手前で、パラシュートが開くのが見えた。パイロットが飛び降りたのだ。飛行機は、獣と竜に命中すると、大爆発を起こした。獣と竜の身体が、大きく吹き飛ぶ。しかし、その怪我もすぐに再生し始める。焔達がブレスを吐くことで、若干の阻害は出来ているが、それでも再生力の方が強い。
「再生を遅らせろ!! 相手に攻撃の隙を与えるな!!」
玲二達が銃などを撃ち、傷口を攻撃していく。段々と、獣達が元の姿に戻っていく。星空が、集束させたブレスを放ち、身体の一部を焼き切る。白雪も、傷口を凍らせて、再生を阻害する。二人の力で、また時間を稼いでいった。
「弾は!?」
「あと少しで尽きる!」
「くそ! 香織はまだか!?」
玲二達の弾も尽きかけていた。段々と、獣と竜の姿が元に戻り始めてもいた。玲二達にも焦りが生まれる。
「坂本さん! 準備出来た!!」
香織が、とんでもない大きさの鎖を持ってきていた。
「よし! 総攻撃だ! 奴等をなるべく近づけろ!!」
戦車部隊などが射撃位置を変えて、二体を近づけていく。
「焔! 星空! 白雪! この鎖を持っていって!!」
香織の指示に従って、焔達が鎖を持っていく。香織が作った鎖は三つ。一本だけ他の二本と違って、長い鎖があった。その鎖は、巨大化した焔が持っていく。
「星空と白雪のは、二体の動きを拘束するもの! 焔は、二体同時に縛り上げるものだから!」
香織の声に頷いて、焔達が行動を始める。星空と白雪が、二体の上空から鎖を落とす。香織が作ったのは、束縛の鎖なので、自動で縛り上げていく。二体の身体にそれぞれ鎖が巻き付く。すると、二体の身体が引かれ合っていく。
「どうなっているんだ?」
「『束縛の鎖・磁』だよ。巻き付いた鎖と鎖を引き合わせる事が出来るの。かなり強力な磁力だから、自力で外すのは無理かな」
ここに、焔の持つ鎖を巻き付ける。もしも、鎖を外されてしまったときのためだ。焔が端を持って、もう片方の端を、星空と白雪で持つ。そして、二体を同時に括って、引っ張り合った。これで、二体は完全にくっつくことになった。これなら、咲の攻撃も二体同時に当てられる。
「行くわよ、香織!」
「うん!」
香織と咲が駆け出す。獣と竜は、身体を振り回し、鎖から逃れようとしている。しかし、香織の作った鎖と焔達の膂力によって逃れる事が出来ない。せめて、香織達を近づけないように、竜の方が火を放ってくる。
「香織達を援護しろ! 頭を撃つんだ!!」
香織達に攻撃している頭に向かって、銃弾や砲弾が頭を潰していく。火を噴かせる暇を与えないように、復活の度に吹き飛ばされていく。
「準備は良い!?」
「ええ、大丈夫よ!!」
香織は、賢者の石の最後のエネルギーを黒百合に送り込む。黒百合が赤く染まっていく。
「おっけ!」
香織の合図で、咲が速度を上げる。咲の身体に紫色のオーラと赤黒いオーラが混在し始める。さらに側頭部だけでなく、額からも角が生える。竜人化と鬼神化を平行して発動しているのだ。かなり無茶のある事なので、長続きはしない。黒百合に小さな風が集中していく。さらに、身体に纏っていた紫と赤黒いオーラが黒百合に集中する。
「はああああああああああああああ!!!!」
最後の踏み込みで加速し、目にも留まらぬ速度で二体を横切る。そして、次の瞬間、獣と竜の身体が血の霧になった。
『赤き竜を倒したことで領空権が委譲します。北極と南極の領空権が赤き竜から高山咲に委譲。赤き竜討伐の功労者である、高山咲に報酬として、進化の権利と武具を授与します』
『第一の獣を倒したことで統治権が委譲します。北極と南極の統治権が第一の獣から高山咲に委譲。第一の獣討伐の功労者である、高山咲に報酬として、進化の権利と武具を授与します』
二体を倒した証として、天から声が降り注いだ。だが、今回は、これだけではなかった。
『全ての権利の奪還を確認しました。これより、神との謁見を始めます。権利を所有している者達を神界へと呼び出します。少々お待ちください』
香織と咲、焔、星空、白雪の身体が輝き始める。
「香織!」
玲二が、香織の元に来る。
「呼ばれるみたい」
「ああ。取りあえず、俺達は、ここで待っている。無事に帰ってこい。咲や焔、星空、白雪も一緒にな」
「うん。じゃあ、行って来る」
玲二の視界から香織達の姿が消え去った。
「ここにキャンプを張るぞ! 車は何台か残してくれ。重吉、報告に向かってくれ。脅威はなくなったとな。それと、香織達についてもだ。それが終わったら、飛行機の製造に移ってくれ」
「分かった。こっちは任せた」
重吉が、生産職のほとんどを連れて、ニューヨークに戻っていった。玲二達は、香織達が消えたこの場にテントを張って、香織達の帰りを待つ。帰ってきた時に、安全に戻れるように。