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118.大事な家族

 香織達は、真夜と悟の家に移動した。二人の家は、一軒家になっていて、香織達が思っていた以上に大きかった。


「でかいね」

「本部長って肩書きにあった家に住んでくれって言われてね。本部近くにあった廃墟を改修して、家に変えたのよ。私達の家も潰れたから、丁度良かったけど」

「世界が変わったときに、運良く残った建物が多いけど、崩壊してしまった建物あったんだ。その一つのところに建てたって感じだね。中は、僕達には広すぎるくらいなんだけどね。まぁ、部屋の数は沢山あるから、皆の分の寝床もあるよ」

「あっ、ここアメリカだから、靴脱がないんだっけ?」

「そうよ。そのまま上がっちゃって。でも、泥とかは落としてね」


 玄関前にあるマットで靴底を擦ってから、中に入ると、より家の広さを実感する事が出来た。一階のリビングなどは、あまり仕切りがなく、全体的に繋がった空間を意識出来る。二階は、廊下と扉が五枚ほどあった。つまり、二階には五部屋あるという事だろう。


「あなた、香織達を部屋に案内してあげて」

「ああ、分かったよ。皆、付いてきて」


 悟に連れられて、香織達は二階に上がる。


「こことここの二部屋を使うといい。二つのベッドと三つのベッドに分かれているから、それぞれの部屋に分かれてくれるかい?」

「うん。分かった。ありがとう、お父さん」

「ああ、じゃあ、ご飯が出来たら、呼びに来るよ」

「えっ、手伝うよ?」

「真夜が、手料理を振る舞いたいみたいなんだ。久しぶりに香織に会ったからね。その気持ちを汲んでくれないかい?」

「まぁ、良いけど」


 悟は、聞き分けの良い香織に微笑みながら、頭を撫でる。そして、一階に降りていった。


「じゃあ、いつも通りに分かれて寝ようか」

「はい。分かりました」


 香織と咲、焔と星空と白雪で分かれて、部屋に入っていく。


「わぁ、中も広いね」

「そうね。その半分近くは、ベッドで埋まっているけど」

「ふかふかだ! こんなふかふかのベッドで寝るのは初めてかも!」

「せっかくだから、それぞれ別のベッドで寝る?」

「それは嫌だ。一緒に寝る」

「そう言うと思ったわ」


 香織は、靴を脱いで、ベッドの一つに飛び乗った。


「ご飯が出来るまで時間があるから、ゆっくりとしてよう」

「そうね。ついでに、明日からどうするか、話し合いましょう」


 咲は、香織と同じベッドに腰を掛ける。


「多分、坂本さん達は、探索を行うよね?」

「そうね。ここの素材について調べる事になると思うわ。ロサンゼルスでは

 、ちゃんと探索出来なかったものね」

「うん。ここの素材を確認して、日本との違いを調べないとだから。場合によっては、日本でも栽培出来るようなものもあるかもだし」

「その後に北に行って、薬霊草っていうのを探すのよね?」

「うん。色々と必要になるからね。今以上の効果を持つ回復薬を作れるかもだし!」

「今でも十分だと思うけど」


 香織の回復薬は、四肢の欠損であっても回復させるような効果を持っている。理論上はだが。それに、回復薬・聖もあるので、これ以上の回復薬が必要ではないだろう。


「それ以上の効果を持つ回復薬って、どんなものか気になるじゃん? もしかしたら、蘇生薬になるかも!」

「それは……絶対に作らない方が良いわね。悪用される可能性が高いわ」

「うん。出来ても誰にも話はしないよ」


 香織達が、しばらく話し込んでいると、悟が呼びに来た。そして、焔達も一緒に、夕食を食べる。真夜は、皆が言った食べたいものを全て作った。香織は、久しぶりの真夜の料理を本当に美味しそうに食べていった。それに、焔達も含めて、皆で楽しく談笑した。


 その後、それぞれでお風呂に入り、部屋に戻って眠りについた。


 その二時間後、香織は、何故か完全に眼を覚ましてしまった。


「う~ん……水を飲みに行こう……」


 久しぶりに両親と再会したので、まだ興奮しているのかもしれない。香織は、そう思い、水を飲んで一息つこうと考えた。リビングに向かうため、一階に降りていくと、リビングにあるソファに真夜が座って、書類と睨めっこしていた。


「あら? どうしたの、香織? 眠れなかった?」

「ううん。ちゃんと眠ってたけど、何か起きちゃった」

「そう。水でも飲む?」

「うん」


 真夜は、香織をソファに座らせて、コップに水を入れて持ってくる。


「どうぞ」

「ありがとう」


 香織は、少しずつ水を飲む。


「久しぶりに会えて、嬉しくなっちゃったのかしら?」

「う~ん、多分、そうかな?」

「そういうところは変わらないわね。昔、私達が帰ってきた時も同じように、眠れないって言って、ベッドに潜り込んできたものね」

「ええ~~、いつの話?」

「小学校……六年生くらいまで、そうだったと思うわ」

「そうだっけ? 全然覚えてないや」


 真夜が言ったことを全く覚えていない香織は、首を傾げている。


「まぁ、色々とあったから、印象が薄れているんでしょ? それで、眠れそう?」

「ううん。完全に眼が覚めちゃってる。少しゆっくりしてようかな。お母さんは、何をしているの?」

「これからの計画書と、これまでの報告書ね。昨日と今日は、事務仕事をしていなかったから、色々と溜まっているの」

「やっぱり、リーダーって大変?」


 香織は、ソファに寝転がりながら、真夜に訊く。


「そうね。やることは沢山だわ。解放軍は、私を信じて付いてきてくれている。それを裏切るわけにはいかない。彼ら彼女らを導くのが、私の仕事よ」

「じゃあ、日本に帰っては来ない?」


 香織がそう訊くと、真夜は、見ていた書類から顔を上げて香織を見た。


「そうね。やることを終えないと帰ることは出来ないわ。そして、それはアメリカを解放した後も変わらない。私が必要なくなるまでは、ここにいるわ」

「そう。分かった。じゃあ、私達は先に帰っているね」

「分かったわ。すぐに帰る事は出来ないけど、いずれ戻ってくるわ。でも、その時には、私達は別の家を建てるわ」

「へ? 何で?」


 香織は、二人が帰ってきたら、昔と同じく一緒の家で暮らすものと考えていた。だからこそ、真夜の言葉に戸惑いを覚えた。


「あの家は、もう私達の家じゃない。香織達の家よ。咲ちゃんとこれからも暮らしていくんでしょ?」

「それはそうだけど……」

「あ、でも、結婚式には呼んでね? 二人のウェディングドレス姿を見たいから」

「へ?」

「咲ちゃんとのよ。するんでしょ?」


 真夜は当たり前のように言う。香織は、面食らって呆然とする。


「この世界に法律も何もない。同性婚でも、問題ないはずよ」

「う~ん、でも、結婚するとしても、それは世界が安定してからかな。このゴタゴタの中で結婚なんてしていられないし。後は、咲の意思も聞かないといけないから」

「そう。私は、問題ないと思うけどね」

「う~ん……まぁ、頑張る。咲の事が大好きだから」


 香織が、そう言うと、真夜は優しい笑顔になった。


「香織、こっちにいらっしゃい」


 書類を全てテーブルに置いた真夜が、手を広げる。香織は、言われた通り、真夜の方に移動する。すると、真夜が香織を抱きしめた。


「大きくなったわね」

「会ったとき、ちんちくりんって言ったじゃん!?」

「そりゃ、身体の成長は全くしていないから仕方ないじゃない。私が言っているのは、生まれた時からって意味と精神的にって意味よ」


 真夜は香織の頭を撫でる。優しく慈しむように。


「色々な経験をした。嫌な経験も嬉しい経験も。そして、愛する人も見つけられた。それを表に出せるようになった。三年前からじゃ、考えられないわ。ごめんね、香織。今までも、そして、これからもあなたの成長を一番近くで見守れなくて。でも、これだけは、本当の事よ。私達は、あなたを愛している」


 真夜の言葉は、香織の心にじわりじわりと染みこんでいく。そして、不意に眼から涙があふれ出してくる。


「頑張ったわね。偉いわ。香織、あなたは、私達の自慢の娘よ」

「うん……」

「もう取り繕わなくても良いわ。大好きな人達の前だと弱気なところを見せられないものね」


 香織は、ボロボロと涙を流していく。今まで我慢していた分も全て吐き出すように。香織が泣き止んだのは、泣き疲れて眠ってしまった時だった。

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