114.解放軍本部へ
翌日、香織は、いつもよりも少し早めに目を覚ました。
「お母さん達の近くに来たからか、少し興奮しているのかな。ちょっと散歩してこよう」
香織は、咲を起こさないように支度を済ませて、テントを出て行った。
「う~ん、やっぱ、日本と空気が違う気がするなぁ。雰囲気が違うからかな」
香織は、最大限用心しながら、空港の中を歩いていく。ここの空港も、他の空港の例に漏れず、建物が崩壊していた。
「確か、三年前に、ここから飛び立った飛行機が落ちたんだよね。他の飛行機も壊されてる。赤龍が暴れたような跡があるし、何度か飛ぼうとしていたのかな」
空港に刻まれている跡は、赤龍が暴れた跡のように見える。香織は、その中を歩いていく。
「沖縄にあったものに似てる。やっぱりそうだ。それに、爆発の跡かな? 米軍と戦ったのかも。それでも赤龍には勝てなかった。銃火器で、権利所有モンスターと戦うのは無謀なのかも」
通常のモンスターであれば、銃でも倒せるのは、自衛隊などで証明されている。そして、このケネディ国際空港で、権利所有モンスターに対しては無意味だと言うことが分かった。
「まぁ、今更、こんなことがわかったところで、何の意味もないけど」
それから、香織は一時間程空港内を歩いていった。その間、モンスターと戦う事はなかった。モンスターが異常なまでに跋扈しているということはないみたいだ。
「香織? どこに行ってたの?」
香織が帰ってくると、咲が既に起きていた。
「おはよう、咲。少し早く起きちゃったから、散歩してた」
「おはよう。知らない土地なんだから、あまり遠くまで行っちゃダメよ」
「空港内だから、大丈夫だよ。ここも、かなりボロボロだった。赤龍との戦闘跡もたくさんあったよ」
「じゃあ、ここでも戦いがあったのね。三年前のあの映像の後かしら」
咲も、テレビで見た映像を覚えていた。それだけ、香織達にとっても衝撃的な映像だったのだ。
「ここら辺は、ボロボロだけど、向こうの都市の方は大丈夫かな?」
「空から見た感じは大丈夫だったでしょ? だから、大丈夫だと思うわよ」
「そうだよね」
香織達が話している内に、焔、星空、白雪も起きた。そして、朝ご飯を食べている内に、冒険者達も起きてきた。そして、ニューヨーク探索が始まる。
「取りあえず、解放軍本部に向かう。大体の位置は、エマから聞いているが、場所が変わっている可能性もあるらしい。その場合は、周辺を探索することになる。そのつもりでいてくれ」
そう言って、玲二は、探索班と待機班に分けていく。香織達は、当然探索に同行する。
「じゃあ、出発だ」
香織達は、ケネディ国際空港を出発して、ニューヨークのマンハッタンを目指して移動を開始した。
道中、何度かモンスターに襲われたが、難なく進むことが出来た。ニューヨークのモンスターも恐竜型のモンスターだったので、ロサンゼルスでの戦闘が活きたとも言える。
「ここの橋を通ろう」
香織達は、クイーンズボロ橋を渡る。
「この橋、所々で補強がされてる。今でも使ってる証拠だよね?」
「そうね。その補強がいつされたものかにもよるけど、使われていてもおかしくないわ。私達が知っている橋は、ほとんどが壊れているものだったもの」
『マスターでも補強は出来るの?』
「材料があればね。でも、これは錬金術で、補強がされてるわけじゃないよ。地道に、自分達の手で補強をしてるね」
クイーンズボロ橋は、人の手によって補強がされていた。それは、明らかに、ここ最近で行われたものだ。この橋をよく使うため、少しずつ補強が為されているのだろう。
「この先に、マスターのお母様がいらっしゃるんですね?」
「多分ね。坂本さんが言っていたとおり、もしかしたら、本部が移設している可能性もあるから」
「その前に、最初の関門があるよ」
星空がそう言って、真っ直ぐ前を指さす。そこには、複数の人が武器を手に立っていた。
「何者だ!?」
橋を守っている人が、香織達にそう問いかける。すぐに攻撃しないだけマシと考えた方が良いだろう。ここで返事をするのは、当然玲二だった。
「俺達は、日本から来た! ロサンゼルスで、解放軍支部長のエマと会い、ここの事を聞いた! 解放軍の本部長に会わせて欲しい! 俺達は、アメリカとの同盟を望んでいる!」
玲二がそう言うと、橋にいる人達が、少し話し合い始めた。玲二が言ったことが本当の事なのか怪しく感じているのだろう。
「その証拠はあるか!?」
「ここに、エマの証書がある!」
これは、玲二がエマから預かったものだ。香織が持っているものとは違い、エマが、玲二達の身元を保証する旨が書かれている。玲二が、自ら証書を持って、近づいていく。証書を渡すと、すぐに中身を確認される。
「本物のようだな。良いだろう。本部まで案内する。付いてこい」
橋を見張っていた一人が歩き始めるので、香織達も後に続いて行った。
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案内された場所は、エンパイアステートビルだった。
「ここって、有名なところだよね?」
「そうね。よく、映画にも出てきていた気がするわ。こんなところを本部にするなんて、おばさんはすごいわね」
「多分、他にも色々とやらかしている気がする」
「親子だものね」
「……何も言えない」
香織も自分がやらかしたことに自覚があるのか、咲に文句を言えない。そのままエンパイアステートビルの中に入っていった。すると、今度は、別の意味で驚く事になる。そこには、多くの解放軍メンバーが、闊歩していたからだ。冒険者ギルド本部でも、ここまでの人がいたことはないだろう。
「すごい人。それに、色々と改装してあるのかな。効率的に動けるようになってる。後、エレベーターがいくつか動いてる。魔力が動力になっているのかな? どういう仕組みなんだろう?」
「香織、目を輝かせてないで、前を見て歩きなさい。遅れるわよ」
恐らく、三年前の時と全く違う内装になっている。動きの邪魔になるものを排除して、使いやすくしているのだ。さらに、上下の動きをしやすいように、エレベーターも完備されている。香織の予想通り、魔力で動く事の出来るエレベーターだ。
「少し待ってくれ。おい、本部長はどこにいる?」
「ああ? いや、今日は見ていないから、上の執務室じゃないか?」
「いや、昨日も見ていないから、別の場所にいるんじゃないか?」
「そういや、セントラルパークの方を確認するって言っていたぞ」
「クイーンズに行っているんじゃなかったか?」
何故か、色々な情報が出てきた。
「はぁ……副本部長は?」
「副本部長なら、上で仕事をしているはずだ」
「取りあえず、副本部長と話してくれ」
香織の母である真夜が、本部にいないので、香織の父親の方に会うことになった。解放軍の案内で、副本部長の執務室に向かった。上層階も改装してあるようだった。所々の壁の色が変わっている。
「ここだ。副本部長、客人です」
「入ってくれ」
玲二達から中に入っていく。
「これは、珍しい。日本人の方々です……か……」
最後の言葉は、掠れていた。そのタイミングで、香織が中に入ってきたからだ。
「あっ、久しぶり、お父さん」
香織は、何でもないように手を振ってそう言った。
「香織……」
「そうだよ。お父さん達が遅いから、こっちから来ちゃった」
「香織!!」
父親が、香織に駆け寄って抱きしめる。その目からは、滂沱な涙が、溢れ出て止まらなかった。
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