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109.実験の失敗

 急に帰ってきた香織達に、玲二は少し驚いた。香織は、錬金術師なので、探索期間を目一杯使って、素材などを取ってくると思っていたからだ。


「どうかしたのか?」

「解決したことなんだけど、少し気になる事があったから、報告しておこうと思って、帰ってきたんだ」

「気になる事? 取りあえず、話を聞こう」


 玲二は、近くの椅子に座る。香織達も近くの椅子に座った。


「私達は、北の方を探索していたんだけど、そこで、ラスベガスから来た集団と遭遇したんだ。戦闘になって、一応撃退はしておいた」

「そうか。撃退となると、少し厄介な事になるかもしれないな」

「それは、大丈夫。契約で、私達に敵対することは出来なくしてあるから。私達に対して危害を加えようとすれば、向こうの命が奪われるっていう風にしてる。向こうのリーダーの部下は、全員対象だよ」

「エグい契約をしているな。だが、それが気になる事なのか?」


 ここまでの話では、香織の言うような気になるような事はなかった。どちらかというと、報告だけをしている感じだ。


「気になるのは、別の事だよ。実は、そのラスベガスの奴等、奴隷を捕まえに来ていたみたいなの。ラスベガスを支配しているレイモンド? って奴が、命令したみたい」

「奴隷……か。香織達が狙われたということは、女性が目的か……

「可能性は高いかと。私と星空、白雪を見つけたときに、見た目はいいとか言っていましたから」


 咲がそう言うと、玲二は顔を歪めた。


「はぁ……不快な思いをしたみたいだな。星空と白雪は大丈夫か?」


 玲二が、二人を心配して、そう訊いた。


「大丈夫」

『私も平気』


 星空と白雪には、気にしている様子が無い。


「そうか。ならいいんだが」

「それと、少し問題があってね。契約の内容に、冒険者って記述するのを忘れちゃって、私達五人だけが対象になっているんだ。ごめん」

「いや、それも気にするな。その状況で、その契約が出来ただけマシだ。だが、そうか。ラスベガスから来ているのが、そいつらだけなはずないよな」

「私もそう思う」


 奴隷集めのために出て来る人が、あの集団だけのはず無い。それでは、効率が悪すぎるからだ。普通であれば、何グループも用意して捜すはず。


「緊急で全員を呼び戻そう。信号弾を打ち上げてくれ」


 玲二が、傍にいた冒険者に指示を出す。


「他に、何か収穫はあったか?」

「色々分かったけど、坂本さんに話した方がいいのは、ベヒモスのことかな?」

「ベヒモスというと、アメリカの統治権を持っていると言われている奴か」

「うん、今まで戦ったモンスターの中で一番でかいと思う。北にある街が、完全に壊滅してた。でも、戦った結果ってわけじゃなくて、移動に巻き込まれてって感じ」


 香織は、自分が見てきたことを玲二に、そのまま話す。


「じゃあ、ベヒモスは、温厚である事は変わらないって事だな。まぁ、そもそも戦うつもりがないから、俺達には、関係ないけどな」


 玲二達も香織達と同じで、ベヒモスと戦うつもりがないらしい。


「その跡地で見つけたんだけど、魔霊草っていうものがあったよ。どうやら、高濃度の透き通った魔力で育つものみたい」

「透き通った魔力?」

「うん。正直、私にもどうやったら透き通った魔力になるのか、よく分からないんだ。だから、これは要研究って感じ」

「そうか。まぁ、香織達に収穫があって良かった。取りあえず、全員が集まるまでは、ここにいてくれ」

「分かった」


 香織達は、空港にテントを張りに向かった。その中には、香織の工房用のテントもある。


「私は、また実験するから、皆は休んでいて」

「そうね。焔、星空、白雪、テントの中で休むわよ」


 咲は、焔達を連れて、テントの一つに入っていった。香織は、工房用のテントで、実験を始める。


「さてと、この前と別の素材で、新しいものを作ろう。えっと、何が良いかな?」


 香織は、アイテムボックスから、実験してみたい素材を選ぶ。


「これにしよう」


 香織が手にしたのは、沈静草と呼ばれる草だった。


「このまま使えば、睡眠剤になるのか。何かを生きたまま捕まえる時に使えそうだけど、何か別のものも作りたいよね」


 香織は、魔力水と沈静草で、鎮静剤を作りながら、色々と考えていた。


「鎮静剤を利用して作るか……沈静草を利用するか……」


 香織は、沈静草の使い道について、じっくりと考えた。


「精油にでもしてみようかな。アロマセラピーみたいなことが出来るかもだし。えっと、確か、蒸留とかで取るんだっけ? 昔読んだ雑誌に書いてあったような……」


 香織は、昔読んだ雑誌を思い出して、蒸留器を取り出そうとする。


「いや、これ使わなくても、錬金釜で直接分離しちゃえばいいや」


 香織は、錬金釜に沈静草を入れて、火に掛ける。そのまま反応するまで待つが、一向に反応しない。


「? そのままじゃ、抽出出来ないって事かな。じゃあ、魔力水を……って、これじゃ鎮静剤になっちゃう。じゃあ、魔力油で、やってみよう」


 香織は、錬金釜に魔力油を入れる。すると、段々と反応し始めた。


「よし、このまま最後まで反応するのを待って。別の素材の実験をしてみよう」


 次に香織が取り出したのは、魔霊草だ。


「これで、魔力回復薬が進化するね」


 香織はいつも通り、魔力水にすり潰した魔霊草を入れて、魔力回復薬を作ろうとする。


「あれ? いつも通り作っているのに、魔力回復薬にならない」


 いつも通りの作り方では、魔力回復薬が出来なかった。


「材料が違う? 魔力水じゃ、釣り合わないって事かな。じゃあ、これは保留しておこう」


 現在の材料じゃ、作れないと判明したので、魔霊草の加工は保留することになった。


「あっ、抽出が終わった。うん、きちんと精油になってる。匂いは……あまりしないかな。でも、なんだか気持ちが安らぐ……」


 香織は、そのまま倒れてしまった。沈静草の効果が発揮されて、眠ってしまったのだ。精油そのままでは、効果が高すぎたということだろう。それから、三時間程経ち、夕飯の時間になったので、咲が呼びに来た。


「香織、ご飯よ。って香織!?」


 錬金釜の傍で眠っている香織を見て、咲は驚いていた。すぐに駆け寄って、香織に呼び掛ける。


「香織! 香織!!」


 肩を揺らしながら、声を掛けても香織は目を覚まさない。幸せそうに眠りについていた。


「全然目覚めないわね。状況から見て、この錬金釜の中にある液体の効果よね。取りあえず、蓋をして、香織をテントに運んだ方が良いわよね」


 咲は、香織をテントに運んで、布団に寝かせておいた。錬金釜の火は、抽出が終わったタイミングで、香織が消しおいたので、問題はない。


「全く、後で叱っておかないとダメね」

「マスターは、大丈夫なのですか?」


 焔が心配そうにそう訊いた。星空も白雪も心配そうにしている。


「大丈夫よ。実験で出来たもののせいで、眠っているだけだから。後で、叱っておくわ。先に食事にしましょう」


 咲達は、香織抜きで食事をする。そして、皆が寝静まった頃、香織の眼が覚めた。


「うう~ん……はぁ、よく寝た」

「よく寝たじゃないわよ」


 香織が起きるまで待っていた咲が、そう言った。


「あははは、ごめん、ごめん。まさか、沈静草の精油が、あそこまで効果が高いとは思わなかったんだ」

「実験するときは、十分に気を付けて行う事って、昔言ったわよね?」

「ごめんなさい」


 今回ばかりは、香織が全面的に悪いので、正直に謝った。


「全く、焔達も心配していたんだから、明日というよりも今日、謝っておきなさいよ」

「うん。そうだね」

「一応、錬金釜には蓋をしておいたわよ」

「うん、ありがとう」

「香織、何か顔が赤くない? あの精油の副作用? それとも風邪?」


 咲は、香織の頬が赤くなっている事に気が付いた。


「そう? でも、なんだか、身体が熱い感じがするかも」

「あれから、風邪なんて引いたこと無いのに……本当に風邪なのかしら?」


 香織達は、世界が変わったあの日から、風邪を引いたことは無い。そのため、風邪と言われても、本当にそうなのか疑ってしまう。


 咲は、香織の額と自分の額をくっつけて熱を測る。


「ちょっと、熱い気もするわね」

「何か火照ってきちゃった」


 香織は、そう言いながら、咲にキスをする。


「ちょ、こんな事している場合じゃないでしょ?」

「でも、身体が熱くて……」


 香織の眼が少しとろけていた。


「もしかして、本当にさっきの精油の副作用!?」

「ねぇ、お願い」

「はぁ……仕方ないわね」


 咲は、香織のうずきを抑えるために一肌脱ぐことになった。


 ────────────────────────


 香織の成果

 鎮静剤を生成

 さらに、沈静草から精油の抽出に成功。しかし、副作用があるため、そのままの使用は不可


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