108.嫌な遭遇
香織達が合流場所に着いて、十分程経っても、咲達が帰ってこなかった。
「どうしたんだろう? いつもなら、ギリギリに帰ってくる私よりも前に来ているはずなのに」
「探索に時間が掛かっているのでしょうか?」
「う~ん、咲なら中断して帰ってくるはずだけど……」
香織がそう言った瞬間、咲達が向かった方角から激しい音と高い砂煙が上がった。
「戦闘!?」
「マスター、どうしますか?」
「もちろん、行くよ。あれが咲とは限らないけど、可能性は高いからね。空を行くよ!」
「はい!」
香織は、靴に魔力を込めて、空を駆けていく。焔は、背中から羽を生やして飛び立った。移動している最中に、香織は、砂煙をじっと見る。地上と違い、空なら障害物がないので、よく見える。
「あれは……人?」
「私にもそう見えます」
香織達の視線の先には、咲達ではない人の姿が見えた。
「あっ、咲達もいる。争っているって認識で良いのかな?」
「周囲に他の敵は見えません」
「じゃあ、倒す方向でいこうか。なるべく、殺さないようにね。話を訊かないといけないから」
「分かりました」
香織達は、咲達が戦闘をしている場所に向かって、降りていく。
────────────────────────
香織達と合流する時間になる前、咲達は、崩壊している街を歩いていた。
「そろそろ時間ね。一度戻るわよ」
「分かった」
『うん』
咲達は、香織達との合流場所に戻ろうとした。しかし、その前に人が現れる。
「何だ? お前等、見ない顔だな」
現れた人は、チャラい男の集団だった。大体、二十人程いる。
「無視して行くわよ」
咲は、わざと日本語でそう言って、二人を促した。
(確実に、解放軍ではないわね。話に出てきたラスベガス所属の人かしら。面倒くさいわね)
咲達が、無視して取って返そうとすると、男達が素早く回り込んできた。
「おいおい、どこに行こうっていうんだ? てか、今の何語だ?」
「こいつら、見た目は良いな。レイモンドさんのところに連れて行こうぜ」
「おっ! そしたら、味見くらい出来るかもしれないな」
男達は、下卑た笑いをしながらそう言った。
(どこの国も同じような馬鹿はいるのね。それも、飛びっきりの)
男達は、咲達を囲うように迫ってくる。
「白雪!」
名前を呼ぶだけという咲の指示に、白雪は素早く反応して、咲達ごと氷の爆発を起こす。
「な、何だ!?」
突然の氷瀑に、男達は、一瞬怯んだ。
「行くわよ!」
男達が怯んでいる内に、咲達はその場から逃げ出す。
「行かせるか!!」
咲達の正面に土の壁が現れる。
(地上の瓦礫とかに紛れて逃げようと思ったのだけど、意外と復帰が早いわね)
咲は、黒百合を引き抜き、風を纏わせて、目の前の土壁を吹き飛ばす。男達が作った土壁は、咲の攻撃を受けるには、脆すぎた。一瞬で破壊されて、大きな砂煙が舞っていく。
「うわあああああああああああ!!」
「何なんだ!? 一体!?」
その攻撃の余波で、男達の一部も空を舞っていった。
「星空! 足を撃ちなさい!」
「うん!」
星空が、地上で踏ん張っている男達の太腿とふくらはぎを撃ち抜いた。
「ぐあっ!」
「あぐっ!」
「いてぇ!!」
ほとんどの男達の足に穴が空く。
「何人か漏らした」
「視界が悪いから、仕方ないわ。なるべく、敵を殺さないように、倒していくわよ。目的とかを吐かせないといけないから」
「分かった」
『了解』
咲がそう言うと同時に、空から赤い炎が落ちてきて地面を這っていった。
「今度は、炎だと!? 一体、どうなっているんだ!?」
男達は、突如として現れた炎に奔騰されている。
「星空! 黒い炎!」
星空は、黒い炎を纏わせた矢を瞬時に精製し、男達の足元に放つ。赤い炎で焦っている男達は、突如として現れた黒い炎に、更に混乱する。そして、男達の足元がいきなり崩れて、地面に埋まる。
「身体が……動かない……!」
男達は、自分達の身に何が起きたのか理解出来ず、ほとんどが放心状態になっていた。
「大丈夫? 咲、星空、白雪」
咲達の元に、香織が走ってきた。
「香織、ごめんね。何か捕まっちゃって」
「ううん。この人達が誰だか分かる?」
「多分、ラスベガスの方の人達よ」
「ふうん。敵のボスは?」
「あそこで埋まっている人よ」
咲は、地面に埋まっている一人の男を指さす。そのタイミングで、焔が地上に降りてきた。
「撃ち漏らしはいません。全員、生きて捕らえることが出来ているかと」
「ありがとう、焔。星空と白雪は、怪我はない?」
香織は、星空と白雪の傍に行く。
「大丈夫」
『無傷』
「良かった。よく頑張ったね。二人とも人を相手にしたのは、初めてなのに、ちゃんと戦えてみたいだね」
香織は、二人の頭を撫でる。焔は、東京の時に一度経験しているが、星空と白雪は、その経験が無い。そのため、人と戦うのに抵抗を覚える可能性があった。しかし、二人とも人と戦うことに一切の抵抗を示さなかった。普通に考えれば、危険な思想を持っていると思われなくもない。しかし、変わってしまったこの世界において、倫理観は、若干変化している。自身または大切な人を護るためなら、敵を殺すことは普通の事になっている。
「さて、じゃあ、少し話そうか」
香織は、ニコッと笑って、男達のリーダーを見た。リーダーは、顔を引きつらせていた。この状況での話し合いで、安心出来るような人はいないだろう。
「あなたは誰?」
「お前等、自分が何をしているのか、理解しているんだろうな!?」
この状況で、ここまで吼えることが出来るのは、逆にすごいことだろう。香織達に主導権を握らせないようにと足掻いているのだ。だが、そんな事が通じるような香織ではない。
「ちゃんと答えたら、殺さないであげる。でも、何も答えようとしないなら……」
香織は、肩まで埋まっている男達の地面を少し締める。
「ぐっ……がっ……」
「このまま押し潰すことになるよ」
男達は、痛みで呻いている。既に身体にぴったりと合っていた穴が、二ミリ程縮まったのだ。その分、身体が圧迫されるのだ。
「人でなしが……」
「はい、答えなかった」
香織は、更に三ミリ程締め付ける。男達が、更なる痛みに呻く。
「あなたは誰?」
「マイクだ! マイク・ファルコット!」
痛みに耐えかねて、男達のリーダー、マイクは名前を叫んだ。
「そう。どこから来たの?」
「ラスベガスだ!」
「何しにここに来たの?」
「人を調達しに来たんだ! レイモンドさんに命令されて、奴隷にするために!」
胸くそ悪い話に、香織達は顔を顰める。
「何で、そんな事をするの?」
「詳しい事は知らねぇ!! だが、レイモンドさんには、誰も逆らえねぇんだ! 俺達は、殺されないようにしながら、おこぼれをもらうのに必死なんだよ!!」
「ふぅん……」
「お前達、後悔するなよ。俺達にこんな事をして、レイモンドさんに喧嘩を売ったも同じだぞ!」
マイクは、勝ち誇ったようにそう言った。レイモンドという名前で、香織達が怯むと思っているのかもしれない。だが、香織達は、レイモンドの事を知らない。さらに言えば、今の香織達が恐れるものは、ほとんどないので、知っていても効果が無い可能性が高い。
「あなた達が戻ってこなかったら、そんな事にはならないんじゃない?」
「なっ……何を言って……」
「だって、このまま帰らせるからそうなるわけでしょ? なら、ここで殺せば良いってことじゃん?」
「狂ってるのか!? 何でそう簡単に人を殺せるんだ!?」
「それ、レイモンドって人に言ってあげれば?」
香織にそう言われ、マイクは何も言えなくなる。
「今後、私達に干渉しないって言うなら、逃がしてあげても良いよ。仮にレイモンドって人に知らせて、その刺客が私達のところに来たら、ラスベガスごと、地獄に落としてあげる」
香織は、笑顔でそう言った。マイク達は、唖然とした顔になっている。香織は、何も理不尽なことを言っているわけではない。香織達に干渉しなければ、これまで通り生きていくことが出来る。約束を守れば良いだけだ。破れば、無関係の人達もろとも死ぬだけだ。
「どうする?」
「分かった! お前達に干渉はしない! 約束だ!」
「ううん。契約にしよう」
香織は、魔力紙を取り出す。そして、魔力を通して、文字を書いていく。そして、マイクだけ身体の拘束を緩める。
「はい。署名して」
「あ、ああ……」
マイクは、すぐに名前を書く。
「じゃあ、もう良いよ」
香織は、全員の拘束を解く。そして、契約書の写しを取ってから、マイクに渡す。
「これ破ったら、あなた達全員が死ぬからね」
「はあ!?」
「それと、保存場所はラスベガスだからね。早くラスベガスに帰らないと、契約で死ぬかもね」
「くそが!!」
男達は、全力でラスベガスまで走っていった。
「よし、脅威は去ったね」
「大した脅威では無かったけど、まぁ、面倒ごとは防げたかもしれないわね。それより、契約書には、何を書いたの?」
「うん? えっとね。まず、さっき言った私達に干渉しないって事を強調させて、その契約の範囲が、ラスベガスを治めているレイモンドの部下全員に行き渡るって風に書いた。その中に奴隷は含めないようにしたよ」
つまり、マイクが署名した時点で、レイモンドとその部下全員が、契約の中に含められたという事だ。奴隷は、無理矢理されているようだったので、その契約から省いていた。これによって、レイモンドとその部下の誰かが違反した場合、その全員が死ぬことになる。
「それって、あの人は気が付いているのかしら?」
「無理じゃない? 日本語で書いたし」
「意地悪なことするわね」
「だって、なんとなくむかついたんだもん」
香織は、少しふくれっ面になる。
「全く、そういうところは、まだ子供ね」
「むぅ……そんな事は今良いでしょ? それより、一旦空港に戻ろう。このことを、坂本さんと共有した方が良いと思う」
「そうね」
香織達は、行きとは違い、空を駆けて空港に戻った。
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