9.準備
改稿しました(2021年7月31日)
翌日、朝ご飯を食べながら、二人が話していた。
「今日はどうするの? 確か、外に出るのよね?」
咲が、香織に問い掛ける。
「食料を集めようと思うんだ。もう少なくなってきてるし。ついでにモンスターを倒して、経験を積みながら素材を取ってこよう。錬金術の材料になるからね」
料理には、買い溜めを使っていたが、流石に足りなくなってきたのだった。
朝ご飯を食べ終えた二人は、外出の準備を済ませる。
「それじゃあ、行くわよ」
「あ、待って咲。その剣を強化しよ」
「強化?」
「うん、刻印魔法を使って、鋭利化を刻印する」
「鋭利化? よく分からないけど、はいこれ。よろしくね」
「うん、任せて!」
香織がやりたい事を説明すると、咲は首を傾げながらも、剣を渡した。
香織は、咲から受け取った剣を鞘から引き抜き、刻印魔法を使用する。丁寧に鋭利化を刻印すると、まだ、刻印できるスペースが残っていた。
(まだ、刻印出来る。でも、何を刻印しよう)
香織は少し考え込んだ。
(研磨、いやそれなら鞘に刻印した方がいいから……洗浄かな。血を洗い流すけど、刃が常に水浸しになるよね……じゃあ、スイッチをつければいいのかな)
研磨は、刻印した物を研磨する。しかし、研磨は刃を削って鋭くするので、剣本体に刻印すると剣の刃部分がどんどん小さくなる。
洗浄は、刻印したものを水で洗い流す。しかし、何もしないと常に洗い続けるので、周りが水でいっぱいになる。
そのため、スイッチと呼ばれるものを刻印する必要がある。スイッチは、魔力を通すことで刻印魔法をオン、オフを切り替えることが出来るようになる機構だ。錬金釜の感知式の刻印魔法と同じようなものだ。
ただ、魔力感知式の刻印魔法となると必要となるものがある。
「咲、ちょっと血ちょうだい」
「血!?」
香織のお願いに咲は目を剥く。
「そう、血」
「何で!?」
「えっ、咲の魔力で発動する刻印を作るためだけど」
「そ、そう? わかったわ」
香織の説明に納得するが、その顔は少し不安げだ。
香織は咲に針を渡す。
「これ、麻酔がついてる針だから」
この針は、香織が刻印魔法の練習に作ったものだ。刺した対象の刺した部分から、半径二ミリの痛覚を麻痺させる効果を点けている。
咲は、恐る恐る指先に針を刺す。指先に血が溜まる。
「じゃあ、剣のこの部分に押しつけて」
咲は、剣の刀身に刻印されている魔法式に指を押し付ける。
「ありがとう、もういいよ」
咲が、血をつけた魔法式は洗浄の魔法式だ。普通の刻印魔法は、大気に漂っている魔力や人などから流される魔力に反応して発動する。錬金釜の方は、火に反応して発動するという特殊なパターンで刻印している。
通常のスイッチであれば、誰でもオン、オフを切り替える事が出来る。しかし、今回香織が作ったスイッチは、登録者の血に含まれる魔力と同じ魔力にしか反応しなくなるものだった。つまり、誰かに勝手に使われるような事が無くなるということだ。
「よし、出来た!」
「ありがとう、香織。本当にすごいわね、香織の力」
「うん、だから使い方は考えなきゃいけない。この前のことで、それがよくわかった」
香織は、あの時、咲を捕まえようとした人を殺した時に、そう自覚した。
「それにしても、針を刺すときの咲、可愛かったね」
「な、何を言ってるの!?」
「えぇ、だって、すごい恐る恐る刺してたし。少し涙目になってたしね。ふふ、もしかして注射とか怖い人?」
完全に図星だった。意外な一面を見て、香織はご満悦だ。しかし、咲の方は、怖い笑みを浮かべていた。
(あっ、やり過ぎた……)
香織が後悔しても、時すでに遅しだった。
「ふふふ、香織にも恐怖を味合わせてあげましょうか?」
「ちょ、まっ…」
香織が逃げようとしたが、すぐさま咲の手が伸びてきた。咲は、香織の頭を掴んで自分の方に引っ張る。素直に引きずられる香織。
そして、香織のこめかみに咲の拳が添えられ、ぐりぐりとされる。
「痛い! 痛い! ちょっ! 本当に痛いよ!」
「痛くなくちゃ、意味がないでしょ?」
三十秒ほど続き、ようやく解放される。
「はぁ、死ぬかと思った…」
「全く、無闇に人をからかうから、そうなるのよ」
地面に座り込み頭を抑える涙目の香織と、それを腕を組みふんぞり返りながら見下す咲の姿がそこにはあった。
「あっ、そうだ、咲。これも」
香織は、立ち上がってから咲にバッグを渡す。
「これは?」
「マジックバッグ」
「!?」
「容量には、限界があるんだけどね。私は、アイテムボックスがあるけど、咲は持ってないから代わりになるものを作ったんだ」
咲に渡したマジックバッグは、中を異次元にして容量を増やしている。バッグの内側に刻印魔法で、『異次元化』と『容量増加』、『思念』を刻印してある。
異次元は、中身をバッグではない別の空間にすること。
容量増加は、入れ物の容量を増やすこと。
思念は、思った事を伝える事。普通に使えば相手に思っている事を伝えるだけだ。だが、こうしてバッグなどに付けると、中に何が入っているかがわかる。
「中身を取るときも咲が思い浮かべた物が掴めるようになってるから。後、バッグの入り口より大きい物でも一応入るから、すごい大きいものに関しては無理だけどね」
「そう。でも、こんなにもらっていいの?」
咲は、自分が貰いすぎだと思っているらしい。
「いいよ。そのかわり咲には、きちんと働いてもらうから」
「そうね、わかったわ。頑張る」
「じゃあ、これ。回復薬ね。この前お風呂で使ったやつより回復量が多いから」
香織は、回復薬を咲に大量に渡す。
「うん、ありがとう」
「じゃあ、行こうか。取り敢えず、スーパーとかに行ってみよう」
「そうね、行きましょう!」
香織と咲は家から出て、近くのスーパーへ向かう。そこで、再び大きな戦いをすることになる。
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